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用語集 / 刑事訴訟法

刑事訴訟法の用語集

短答式で問われる刑事訴訟法の用語を章ごとに。全165語。定義・条文・判例と図解で、肢の正誤を判断する根拠を押さえます。

刑訴の基礎と捜査総論

9語

刑事訴訟法の目的と当事者主義(1条・審判対象・挙証責任・起訴状一本主義のつながり)

刑事訴訟法の目的とは、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現することです(1条)。当事者主義とは、検察官と被告人という対立する当事者が主張と立証を主導し、裁判所は中立の判断者として審理する訴訟の進め方です。

捜査機関の権限分担(検察官・検察事務官・司法警察員・司法巡査)

捜査機関の権限分担とは、検察官・検察事務官・司法警察員・司法巡査という捜査機関の種類ごとに、刑事訴訟法が条文の主語を書き分けて、誰がどの処分をできるかを定めていることです。司法警察職員とは、司法警察員と司法巡査を合わせた呼び名です(39条3項)。

強制処分法定主義と令状主義(197条1項但書・憲法33条・35条)

強制処分法定主義とは、強制の処分は刑事訴訟法に特別の定めのある場合でなければすることができないという原則です(197条1項但書)。令状主義とは、強制処分を行うには原則として裁判官があらかじめ発する令状によらなければならないという原則で、憲法33条・35条に根拠があります。

強制処分の意義と任意捜査の限界(意思の制圧・重要な権利利益の制約)

強制処分とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段をいいます(最決昭和51年3月16日)。任意捜査の限界とは、強制処分に至らない有形力の行使であっても、必要性・緊急性などを考慮したうえ、具体的状況の下で相当と認められる限度でしか許されないことをいいます。

写真・ビデオ撮影(容ぼうの撮影・防犯カメラとの照合)

写真・ビデオ撮影とは、捜査機関が被疑者などの容ぼう・姿態や現場の状況を、本人の承諾を得ずにカメラで記録する捜査手法です。公道など他人から容ぼうを観察されること自体は受忍せざるを得ない場所での撮影は、犯人の特定のために必要な範囲で相当な方法により行われる限り、令状なしの任意捜査として許されます。

GPS捜査(大法廷判決)

GPS捜査とは、車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付け、情報機器でその位置情報を検索し、画面表示を読み取って当該車両の所在と移動状況を把握する捜査です。最高裁大法廷は、合理的に推認される個人の意思に反して私的領域に侵入する捜査手法であり、特別の根拠規定がなければ許容されない強制処分だとしました(最大判平成29年3月15日)。

エックス線検査(宅配便荷物)

エックス線検査とは、宅配便業者の運送過程下にある荷物について、捜査機関が荷送人や荷受人の承諾を得ることなく、外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察する捜査手法です。判例は、射影によって内容物の品目等を相当程度具体的に特定できるので、検証としての性質を有する強制処分に当たり、検証許可状が要るとしました(最決平成21年9月28日)。

おとり捜査

おとり捜査とは、捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する捜査方法です。判例は、直接の被害者がいない薬物犯罪等で通常の捜査方法のみでは摘発が困難な場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象に行うおとり捜査を、任意捜査として許容しています(最決平成16年7月12日)。

秘密録音・一方当事者の同意ある録音・公務所等への照会(任意捜査の典型例)

秘密録音とは、会話の相手方に知らせずに会話を録音することで、一方当事者の同意ある録音とは、通話や会話の一方の当事者の同意を得て捜査機関がその内容を録音することです。公務所等への照会とは、捜査について公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることです(197条2項)。いずれも相手方の意思を制圧して重要な権利利益を制約するものではないので、令状を要しない任意捜査の典型例です。

捜査の端緒

8語

捜査の端緒の意義と種類

捜査の端緒とは、捜査機関が「犯罪があると思料する」(189条2項)に至った原因、つまり犯罪の嫌疑を抱くきっかけになった事実です。刑事訴訟法は現行犯逮捕・検視・告訴・告発・請求・自首を端緒として規定していますが、端緒はこれらに限られず、職務質問や被害届、新聞・雑誌の記事や投書でもかまいません。

職務質問と停止のための有形力(警職法2条)

職務質問とは、警察官が、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者などを停止させて質問することです(警察官職務執行法2条1項)。停止のための有形力とは、任意に停止しない相手方を停止させるために用いる実力のことで、強制にわたらない限り、必要性と緊急性を考慮して具体的状況の下で相当と認められる限度で許されます。

所持品検査(米子銀行強盗事件・大阪覚醒剤事件)

所持品検査とは、警察官が職務質問に付随して、相手方の携帯する所持品を調べることです。明文の規定はありませんが、口頭による質問と密接に関連し職務質問の効果を上げるうえで必要性と有効性があるので、警察官職務執行法2条1項の職務質問に付随して行うことができ、所持人の承諾を得てその限度で行うのが原則ですが、捜索に至らない程度の行為は強制にわたらない限り、具体的状況の下で相当と認められる限度で許されます。

自動車検問

自動車検問とは、警察官が走行中の自動車を停止させて運転者などに質問をする活動です。判例は、交通違反の多発する地域等の適当な場所で、通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて質問することは、相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法・態様で行われる限り適法だとしました(最決昭和55年9月22日)。

検視(229条)

検視とは、変死者又は変死の疑いのある死体について、その死亡が犯罪に起因するかどうかを判断するため、五官の作用により死体の状況を見分する処分です(229条)。検察官の権限ですが、検察事務官又は司法警察員に代行させることができ、捜査の端緒であって捜査そのものではないので令状は要りません。

告訴(告訴権者・方式・期間・取消し)

告訴とは、犯罪の被害者その他の告訴権者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示です(230条以下)。親告罪では有効な告訴が公訴提起の条件になり、告訴は書面又は口頭で検察官又は司法警察員にし、犯人を知った日から6か月以内にしなければならず、公訴の提起があるまで取り消すことができます。

告訴の効力の範囲(主観的不可分・客観的不可分)

告訴の効力の範囲とは、ある告訴が、どの犯罪事実と、どの犯人に対して効力を持つかという問題です。告訴は犯人の処罰を求める意思表示であって犯人の特定は要件でないので、犯人を誤って指定しても真犯人に有効で、一罪の一部についての告訴は全部に及び(客観的不可分)、共犯の一人に対する告訴は他の共犯にも及びます(主観的不可分、238条1項)。

告発・請求・自首(捜査の端緒としての手続)

告発とは、告訴権者と犯人以外の第三者が捜査機関に犯罪事実を申告して処罰を求める意思表示で、何人でもすることができます(239条)。請求とは、外国政府などの一定の者の意思表示を訴訟条件とする罪について、その者が処罰を求める意思表示です。自首とは、犯人が捜査機関に発覚する前に自ら犯罪事実を申告して処分を求めることで、告訴・告発の方式と送付の規定が準用されます(245条)。

逮捕・勾留

17語

通常逮捕(逮捕状の請求・発付・逮捕の必要性・緊急執行)

通常逮捕とは、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときに、裁判官があらかじめ発する逮捕状によって被疑者を逮捕することです(刑事訴訟法199条1項)。

現行犯逮捕(現行犯人の意義・現認の要否・軽微事件の特則217条)

現行犯逮捕とは、現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者(現行犯人)を、逮捕状なしに逮捕することです(刑事訴訟法212条1項・213条)。犯罪と犯人がその場で明白なので、裁判官の審査を経ずに誰でも逮捕できます。

準現行犯逮捕(212条2項)

準現行犯逮捕とは、犯人として追呼されている、贓物や凶器を所持している、身体や被服に犯罪の顕著な証跡がある、誰何されて逃走しようとする、のいずれかに当たる者が、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときに、現行犯人とみなして逮捕状なしに逮捕することです(刑事訴訟法212条2項・213条)。

私人による現行犯逮捕と引渡し(213条〜215条)

私人による現行犯逮捕とは、検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者が、現行犯人を逮捕状なしに逮捕することです(刑事訴訟法213条)。逮捕した私人は、直ちに検察官又は司法警察職員に引き渡さなければなりません(214条)。

緊急逮捕(210条:要件・合憲性・逮捕状請求)

緊急逮捕とは、死刑又は無期若しくは長期3年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由があり、急速を要して裁判官の逮捕状を求めることができないときに、理由を告げて逮捕状なしに逮捕し、逮捕後直ちに裁判官に逮捕状を求める逮捕です(刑事訴訟法210条1項)。

逮捕後の手続と時間制限(弁解録取・引致・送致48時間・24時間・72時間)

逮捕後の手続と時間制限とは、逮捕された被疑者について、司法巡査の引致、司法警察員による犯罪事実の要旨と弁護人選任権の告知と弁解の機会の付与、身体を拘束された時から48時間以内の検察官への送致、検察官による受取りから24時間以内かつ拘束から72時間以内の勾留請求又は公訴提起という流れとその期限のことです(刑事訴訟法202条〜206条)。

被疑者勾留の要件(60条:相当な理由・住居不定・罪証隠滅・逃亡・必要性・軽微事件の特則)

被疑者勾留の要件とは、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、定まった住居を有しない、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある、逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある、のいずれかに当たり、さらに勾留の必要性があることです(刑事訴訟法60条1項・207条1項)。

勾留質問と勾留の裁判の手続(207条・61条・弁護人選任権の告知)

勾留質問とは、勾留の請求を受けた裁判官が、勾留状を発する前に、被疑者に被疑事件を告げてこれに関する陳述を聴く手続です(刑事訴訟法207条1項・61条)。弁護人がない被疑者には、この際に弁護人選任権と国選弁護人の選任を請求できる旨を告げます(207条2項)。

勾留期間と延長(208条・208条の2:10日・起算日・通じて10日・さらに5日)

勾留期間と延長とは、被疑者の勾留が検察官の勾留を請求した日から10日で満了し、やむを得ない事由があるときに裁判官が検察官の請求により通じて10日まで延長でき、内乱・外患・国交に関する罪・騒乱の罪ではさらに通じて5日まで延長できるという定めのことです(刑事訴訟法208条・208条の2)。

逮捕前置主義

逮捕前置主義とは、被疑者の勾留は逮捕に引き続いてしなければならず、勾留の理由となる被疑事実は先行する逮捕の理由とされた被疑事実と同一でなければならないという原則です(刑事訴訟法207条1項・204条・205条)。

事件単位の原則(併せ勾留・余罪を理由とする勾留継続の禁止)

事件単位の原則とは、逮捕・勾留の効力はその理由とされた被疑事実ごとに及び、身体拘束に関する処分は令状に明示された被疑事実について行い、それ以外の事実のみに基づいて行ってはならないという原則です。

一罪一逮捕一勾留の原則と再逮捕・再勾留

一罪一逮捕一勾留の原則とは、同一の被疑事実についての逮捕・勾留は原則として1回限りで、実体法上一罪の関係にある事実を分割して逮捕・勾留を繰り返すことも許されないという原則です。再逮捕・再勾留は、新たな事情が生じ、身体拘束の不当な蒸し返しに当たらない場合に例外として認められます。

別件逮捕・勾留と余罪取調べ(本件基準説・別件基準説・実体喪失説)

別件逮捕・勾留とは、逮捕・勾留の要件が備わらないA事実(本件)の取調べに利用する目的で、要件の備わっているB事実(別件)を理由に逮捕・勾留することです。その適法性は、別件基準説・本件基準説・実体喪失説で判断の基準と時点が分かれます。

任意同行と実質的逮捕

任意同行とは、捜査機関が被疑者の任意の承諾の下に警察署などへ同行を求めることで、実質的逮捕とは、同行や同行後の留め置き・取調べの態様から、逮捕と同一視できる程度の強制力が加えられていると評価される状態をいいます。実質的逮捕はその時点から逮捕状によらない違法な逮捕として扱われます。

勾留理由開示(82条〜86条)

勾留理由開示とは、勾留されている被疑者・被告人やその弁護人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人の請求により、裁判長が公開の法廷で勾留の理由を告げ、請求者側が意見を述べる手続です(刑事訴訟法82条〜86条・207条1項)。

接見等禁止(81条)と弁護人との接見

接見等禁止とは、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときに、裁判所(被疑者勾留では裁判官)が、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被告人・被疑者と弁護人等以外の者との接見を禁じ、書類その他の物の授受を禁じ又は差し押さえる処分です(刑事訴訟法81条・207条1項)。弁護人との接見は禁止できません。

勾留の取消し・執行停止と勾留に対する準抗告(87条・95条・429条)

勾留の取消しとは、勾留の理由又は必要がなくなったときに裁判所・裁判官が請求又は職権で勾留を取り消す決定で(刑事訴訟法87条)、勾留の執行停止とは、勾留の効力を残したまま職権で執行を一時的に止める決定です(95条)。勾留に対する準抗告とは、裁判官がした勾留に関する裁判の取消し又は変更を裁判官所属の裁判所に請求する不服申立てです(429条1項2号)。

捜索・差押え・検証・鑑定

15語

捜索差押許可状(219条:請求権者・記載事項・罪名と罰条・被疑者未特定)

捜索差押許可状とは、検察官、検察事務官又は司法警察職員が犯罪の捜査をするについて必要があるときに、裁判官が発する令状であり、これにより捜索と差押えができ、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により発せられます(刑事訴訟法218条1項・5項)。

令状の呈示と執行の方法(110条・111条・112条・114条・116条:呈示前立入り・必要な処分・出入禁止・立会い・夜間執行)

令状の呈示とは、差押状又は捜索状(捜査機関の場合は捜索差押許可状)を処分を受ける者に示すことです(刑事訴訟法110条・222条1項)。執行の方法として、錠を外すなどの必要な処分(111条)、出入りの禁止(112条)、立会い(114条)、夜間執行の制限(116条)が捜査機関の捜索差押えにも準用されます。

捜索の範囲(場所の令状で捜索できる物・身体・搬入物)

捜索の範囲とは、場所を捜索すべき場所とする捜索差押許可状によって、その場所にあるどの物や人の身体まで捜索できるかの問題です。判例は、場所に対する令状の効力はその場所の管理権の及ぶ範囲内にある物に及ぶとして、居合わせた者が携帯するバッグや執行中に配達された荷物も捜索できるとしています。

差押えの対象と関連性(差し押さえるべき物の該当性・包括的差押え)

差押えの対象とは、令状に記載された差し押さえるべき物に当たる物のことで、当たるかどうかは被疑事実との関連性で判断します。関連性とは、その物が被疑事実の証拠となり得る関係にあることをいい、差押えの必要性とともに令状審査と執行の限界を画します。

電磁的記録の差押え(記録命令付差押え・リモートアクセス・差押えに代わる処分・協力要請)

電磁的記録の差押えとは、パソコンやサーバに記録されたデータを証拠として取得するために平成23年改正で整えられた処分の総称で、差し押さえるべき電子計算機に接続する記録媒体から複写して差し押さえる処分(リモートアクセス。刑事訴訟法218条2項・99条2項)、記録媒体の差押えに代わる複写・印刷・移転の処分(110条の2)、処分を受ける者への協力要請(111条の2)、通信履歴の保全要請(197条3項)からなります。出題当時の記録命令付差押え(旧99条の2)は、令和7年改正で電磁的記録提供命令(102条の2)に改められています。

領置と遺留物・ごみ(221条)

領置とは、検察官、検察事務官又は司法警察職員が、被疑者その他の者が遺留した物、又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物の占有を、令状なしに取得する押収です(刑事訴訟法221条)。遺留物とは、犯行現場に残された凶器や公道に捨てられたごみのように、占有者の意思によらずに占有を離れた物や占有が放棄された物をいいます。

逮捕に伴う令状によらない捜索・差押え(220条:根拠2説・逮捕の現場・時間的接着・連行)

逮捕に伴う令状によらない捜索・差押えとは、検察官、検察事務官又は司法警察職員が被疑者を逮捕する場合において必要があるときに、令状なしに、人の住居等に入って被疑者を捜索し、逮捕の現場で差押え・捜索・検証をすることです(刑事訴訟法220条1項・3項)。令状主義の例外で、根拠を逮捕の現場に証拠が存在する蓋然性が高いことに求める見解と、被逮捕者による証拠隠滅を防ぐ緊急の必要性に求める見解があります。

検証と実況見分(検証許可状・承諾・必要な処分)

検証とは、場所、物又は人の身体の存在や状態を、五官の作用によって認識する処分です。捜査機関が相手方の意思に反して行うには裁判官の発する検証許可状が要り(刑事訴訟法218条1項)、住居主などの承諾を得て任意処分として同じ見分を行うものを実況見分といいます。

身体検査(検証としての身体検査・身体検査令状・鑑定処分としての身体検査・女子の立会い・拘束中の指紋と写真)

身体検査とは、人の身体の状態や特徴を五官の作用によって認識する検証の一種で、捜査機関が行うには身体検査令状によらなければなりません(刑事訴訟法218条1項後段)。これとは別に、鑑定受託者が鑑定処分許可状により行う鑑定処分としての身体検査(225条・168条1項)と、捜索差押許可状による着衣の中の捜索があり、三つを区別します。

強制採尿(捜索差押許可状+医師条件・連行)

強制採尿とは、尿を任意に提出しない被疑者の体内から、医師にカテーテルを使わせて強制的に尿を採取する処分です。判例は、捜索・差押えの性質を有する処分として、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件を記載した捜索差押許可状(強制採尿令状)により、捜査上真にやむを得ない場合に最終的手段として行うことを認めています。

強制採血・体液の採取(令状の組合せの見解・唾液)

強制採血とは、被疑者の意思に反して、医師に注射器で血液を採取させる処分です。血液は尿と違って老廃物ではなく、身体の構成部分なので捜索・差押えの性質を持つとはいえず、どの令状によるべきかについて、身体検査令状によるとする見解、鑑定処分許可状によるとする見解、両者を併用する見解、捜索差押許可状によるとする見解があり、実務は身体検査令状と鑑定処分許可状の併用によっています。

鑑定嘱託と鑑定処分許可状(鑑定人と鑑定受託者の対比・解剖・直接強制不可)

鑑定嘱託とは、検察官、検察事務官又は司法警察職員が、犯罪の捜査をするについて必要があるときに、学識経験のある者に鑑定を依頼することです(刑事訴訟法223条1項)。鑑定処分許可状とは、嘱託を受けた鑑定受託者が、人の住居への立入り、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊をするために、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により裁判官が発する許可状です(225条・168条1項)。

鑑定留置(167条・224条)

鑑定留置とは、被告人又は被疑者の心神又は身体に関する鑑定をさせるについて必要があるときに、期間を定めて病院その他の相当な場所に留置する処分です。裁判所は鑑定留置状を発して行い(刑事訴訟法167条)、捜査機関の嘱託鑑定では検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により裁判官が鑑定留置状を発します(224条)。

通信傍受(通信傍受法:対象犯罪・補充性・該当性判断のための傍受・他の犯罪・事後通知・不服申立て)

通信傍受とは、現に行われている他人間の電話などの通信について、その内容を知るため、通信の当事者のいずれの同意も得ないでこれを受けることです(犯罪捜査のための通信傍受に関する法律2条2項)。通信の秘密を侵害する強制処分なので、刑事訴訟法とは別に通信傍受法が定められ(刑事訴訟法222条の3)、限られた対象犯罪について裁判官の発する傍受令状により行います。

令状の要否の一覧(令状なくできる処分と令状の種類の対応)

令状の要否の一覧とは、捜査機関の処分を、裁判官の令状なしにできるものと、令状が要るものに分け、令状が要るものについてはどの種類の令状によるかを対応させた整理です。令状なしにできるのは、任意処分と、刑事訴訟法が令状主義の例外として認めた処分(逮捕に伴う処分・領置・拘束中の指紋と写真・検視など)です。

取調べ・被疑者の防御

11語

被疑者の取調べ(198条:出頭要求・供述録取書・署名押印・録音録画)

被疑者の取調べとは、検察官、検察事務官又は司法警察職員が、犯罪の捜査をするについて必要があるときに、被疑者の出頭を求めてその供述を聴く手続です(刑事訴訟法198条1項)。逮捕又は勾留されていない被疑者は、出頭を拒み、出頭した後もいつでも退去することができます。

取調受忍義務と黙秘権(198条1項但書・憲法38条1項・呼気検査・氏名)

取調受忍義務とは、逮捕又は勾留されている被疑者が、取調べのために取調室に出頭し、そこにとどまる義務をいいます。黙秘権とは、自己の意思に反して供述をしなくてよい権利で、憲法38条1項は刑事上責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障し、刑事訴訟法は被疑者・被告人が一切の事項について供述を拒めるものとしています(198条2項・311条1項)。

参考人取調べと第1回公判期日前の証人尋問(223条・226条・227条・228条)

参考人取調べとは、検察官、検察事務官又は司法警察職員が、犯罪の捜査をするについて必要があるときに、被疑者以外の者の出頭を求めてその供述を聴く任意の処分です(刑事訴訟法223条1項)。第1回公判期日前の証人尋問とは、参考人が出頭・供述を拒んだとき(226条)や、公判で供述を翻すおそれがあるとき(227条)に、検察官が裁判官に請求して、第1回公判期日前に裁判官の面前で供述を確保する手続です。

任意取調べの限界(高輪グリーンマンション事件・長時間取調べ)

任意取調べの限界とは、逮捕・勾留によらずに行う被疑者の取調べが、任意捜査として許される範囲のことです。判例は、強制手段に当たらない取調べであっても、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度においてのみ許容されるとしています。

弁護人選任権(選任権者・独立選任・方式・時期・審級・氏名のない選任届)

弁護人選任権とは、被告人又は被疑者が、いつでも自分の弁護人を選任できる権利です(刑事訴訟法30条1項)。法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹も、本人とは独立して弁護人を選任することができます(同条2項)。

被疑者国選弁護(37条の2〜37条の4・38条の2:要件・資力申告・私選申出前置・失効)

被疑者国選弁護とは、勾留状が発せられている被疑者(勾留を請求された被疑者を含む)が、貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときに、その請求により裁判官が弁護人を付す制度です(刑事訴訟法37条の2)。請求には資力申告書の提出が要り、資力が基準額以上の被疑者は先に弁護士会へ私選弁護人の選任の申出をしていなければなりません(37条の3)。

接見交通権(39条1項:秘密交通・物の授受・弁護人となろうとする者・鑑定留置中)

接見交通権とは、身体の拘束を受けている被告人又は被疑者が、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と、立会人なくして接見し、書類や物の授受をすることができる権利です(刑事訴訟法39条1項)。憲法34条前段の弁護人依頼権に由来する、弁護人の最も重要な固有権の一つです。

接見指定(39条3項:「捜査のため必要があるとき」・初回接見・余罪・面会接見・書面指定・準抗告)

接見指定とは、検察官、検察事務官又は司法警察職員が、捜査のため必要があるときに、公訴の提起前に限り、被疑者と弁護人等との接見又は書類・物の授受について、その日時、場所及び時間を指定する処分です(刑事訴訟法39条3項)。指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはなりません。

証拠保全請求(179条)

証拠保全請求とは、被告人、被疑者又は弁護人が、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときに、第1回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求する制度です(刑事訴訟法179条1項)。

捜査段階の準抗告(429条・430条の対象)

捜査段階の準抗告とは、裁判官がした勾留・保釈・押収・押収物の還付・鑑定留置などの裁判(刑事訴訟法429条)と、検察官・検察事務官・司法警察職員がした接見指定・押収・押収物の還付などに関する処分(430条)について、不服がある者がその取消し又は変更を裁判所に請求する手続です。

黙秘権の告知と被疑者の権利告知の一覧(198条2項・203条・291条)

黙秘権の告知とは、被疑者の取調べの前に自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げること(刑事訴訟法198条2項)と、公判の冒頭手続で裁判長が被告人に終始沈黙し又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨などを告げること(291条5項)をいいます。被疑者の権利告知には、このほか逮捕後の弁解録取の際の犯罪事実の要旨と弁護人選任権の告知(203条)があります。

公訴の提起

10語

国家訴追主義・起訴独占主義とその例外(付審判請求・検察審査会の起訴議決)

国家訴追主義とは、公訴の提起を被害者などの私人ではなく国家機関が行う建前をいい、起訴独占主義とは、その国家機関のうち検察官だけが公訴を行うという原則です(刑事訴訟法247条)。例外として、付審判請求により裁判所が事件を審判に付する決定をしたとき(262条・267条)と、検察審査会の起訴議決により指定弁護士が公訴を提起するときがあります。

起訴便宜主義と訴追裁量(248条・公訴権濫用論・不起訴の通知と理由告知)

起訴便宜主義とは、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、検察官が公訴を提起しないことができるという原則です(刑事訴訟法248条)。これに基づく検察官の判断の幅を訴追裁量といい、その逸脱が公訴提起を無効にするかが公訴権濫用論です。

一罪の一部起訴

一罪の一部起訴とは、実体法上は一罪を構成する事実のうちの一部だけを訴因として公訴を提起することです。判例は、検察官は事案の軽重や立証の難易等諸般の事情を考慮して一罪の一部を起訴することができ、裁判所は訴因の範囲で審判すべきだとしています。

検察官の事件処理と送致(全件送致主義・微罪処分・少年の家裁送致・略式・即決裁判の申立て)

検察官の事件処理とは、司法警察員から送致を受けた検察官が、公判請求、略式命令の請求、即決裁判手続の申立て、不起訴、少年事件の家庭裁判所への送致のいずれかで事件を処理することです。司法警察員は、捜査した事件を原則としてすべて検察官に送致し(全件送致主義・246条)、検察官が指定した事件だけが例外です。

公訴提起の方式と起訴状の記載事項(256条:書面・被告人の特定・訴因と罰条・予備的択一的記載)

起訴状の記載事項とは、検察官が公訴の提起にあたって裁判所に提出する起訴状(刑事訴訟法256条1項)に記載しなければならない事項で、被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項、公訴事実、罪名を記載します(同条2項)。公訴事実は訴因を明示して記載し、罪名は適用すべき罰条を示して記載し、数個の訴因及び罰条は予備的に又は択一的に記載することができます(同条3項から5項)。

被告人の特定(氏名冒用・身代わり・意思説/表示説/行動説/併用説)

被告人の特定とは、他人の氏名を冒用して起訴された場合や身代わりが出頭した場合のように、検察官が起訴しようとした者、起訴状に表示された者、公判で被告人として行動した者が食い違うときに、誰を被告人として扱うかを決める基準の問題です。意思説、表示説、行動説の三つの見解があり、実務は起訴状の表示を基本に検察官の意思と審理の経過も併せ考えます。

訴因の明示・特定(白山丸事件・覚醒剤使用・概括的記載・共謀と実行行為者・求釈明)

訴因の明示・特定とは、起訴状の公訴事実に、できる限り日時、場所及び方法をもって罪となるべき事実を特定して訴因を記載することです(刑事訴訟法256条3項)。判例は、他の犯罪事実と識別できる程度に特定されていればよく、日時・場所・方法の表示が概括的でも、検察官が起訴当時の証拠に基づきできる限り特定したものであれば訴因の特定に欠けないとしています。

起訴状一本主義(256条6項:前科の記載・文書の引用・添付・違反の効果・略式との関係)

起訴状一本主義とは、起訴状に、裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある書類その他の物を添付し、又はその内容を引用してはならないという原則です(刑事訴訟法256条6項)。裁判官が白紙の状態で第1回公判期日に臨むことで公平な裁判所を実現し、当事者主義の審理を支えます。

公訴の取消しと再起訴(257条・340条)

公訴の取消しとは、検察官が、第一審の判決があるまでの間に、提起した公訴を取り消すことです(刑事訴訟法257条)。公訴が取り消されると裁判所は決定で公訴を棄却し(339条1項3号)、その決定が確定した後は、公訴の取消し後に犯罪事実につき新たに重要な証拠を発見した場合に限り、同一事件について再起訴できます(340条)。

公訴提起の効果(訴訟係属・二重起訴の禁止・起訴状謄本の送達・公訴時効の停止)

公訴提起の効果とは、起訴状の提出によって事件が裁判所に係属し、同一事件を重ねて起訴できなくなり(二重起訴の禁止)、公訴時効の進行が停止し(刑事訴訟法254条)、裁判所が起訴状の謄本を被告人に送達する義務を負う(271条)ことをいいます。公訴は検察官の指定した被告人以外の者に効力を及ぼしません(249条)。

訴因と訴訟条件

13語

審判の対象(訴因対象説・公訴事実対象説)

審判の対象とは、裁判所が有罪か無罪かを審理し判決する対象のことで、現行法では検察官が起訴状に記載した訴因がこれに当たります(刑事訴訟法256条3項・312条1項)。訴因対象説は訴因そのものを審判の対象と考え、公訴事実対象説は訴因の背後にある公訴事実を審判の対象と考えます。

訴因変更の要否(審判対象の画定・被告人の防御・争点の顕在化・択一的認定)

訴因変更の要否とは、裁判所が起訴状の訴因と異なる事実を認定しようとするときに、検察官の請求による訴因変更の手続(刑事訴訟法312条1項)を経なければならないか、それとも訴因のまま認定してよいかという問題です。判例は、審判対象の画定に必要な事項が異なれば常に訴因変更を要し、それ以外でも被告人の防御にとって重要な事項を検察官が訴因に明示した以上、実質的に異なる認定には原則として訴因変更を要するとしています。

縮小認定

縮小認定とは、訴因に記載された事実より小さい事実、たとえば殺人の訴因に対する傷害致死や強盗の訴因に対する恐喝のように、訴因の事実に含まれている軽い事実を、訴因変更の手続を経ずに認定することです。縮小された事実は訴因に黙示的に含まれていて被告人の防御の対象になっているので、認定しても不意打ちにならないからです。

訴因変更の可否と公訴事実の同一性(基本的事実関係の同一性・非両立・常習一罪)

訴因変更の可否とは、検察官が請求した訴因の追加・撤回・変更を裁判所が許せるかという問題で、刑事訴訟法312条1項は公訴事実の同一性を害しない限度で許さなければならないと定めています。公訴事実の同一性とは、新旧の訴因が同じ一つの事件といえる関係のことで、判例は基本的事実関係が同一か、両訴因が両立しない関係にあるかで判断します。

訴因変更の手続と時期(312条:請求・書面・公判手続の停止・時機的限界・公判前整理手続後)

訴因変更の手続とは、検察官が書面で訴因の追加・撤回・変更を請求し、裁判所が公訴事実の同一性を害しない限度でこれを許すという刑事訴訟法312条の手続です。請求は第1回公判期日前でも公判前整理手続の中でもでき、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは、裁判所は被告人側の請求により決定で公判手続を停止しなければなりません。

訴因変更命令(形成力・命令義務)

訴因変更命令とは、裁判所が審理の経過に鑑み適当と認めるときに、検察官に対して訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることです(刑事訴訟法312条2項)。命令に形成力はなく、検察官が請求しなければ訴因は変わらず、裁判所が命令を出す義務も原則としてありませんが、重大な罪で有罪が明らかな場合には例外的に義務が認められます。

罰条の変更(312条1項・256条4項)

罰条の変更とは、起訴状に記載された適用すべき罰条(刑事訴訟法256条4項)を、検察官の請求により追加・撤回・変更する手続のことです(312条1項)。罰条の記載は訴因を一層特定して被告人の防御に遺憾のないようにするためのものなので、訴因により公訴事実が明確で防御に実質的な不利益がなければ、罰条変更の手続を経ずに起訴状にない罰条を適用でき、罰条の記載の誤りも公訴提起の効力に影響しません。

訴訟条件の意義と形式裁判の振り分け(管轄違い・公訴棄却判決・公訴棄却決定・免訴)

訴訟条件とは、裁判所が有罪か無罪かの実体裁判をするために備わっていなければならない条件のことで、裁判権・管轄・公訴提起の有効性・公訴時効の未完成・確定判決がないことなどを指します。訴訟条件を欠くときは実体裁判に入らず、管轄違いの判決(刑事訴訟法329条)、免訴の判決(337条)、公訴棄却の判決(338条)、公訴棄却の決定(339条)のいずれかの形式裁判で手続を打ち切ります。

管轄(事物管轄・土地管轄・関連事件・判断基準の見解)

管轄とは、どの裁判所がその事件を審判する権限を持つかの定めで、事件の種類による事物管轄(簡易裁判所・地方裁判所・高等裁判所の分担)と、土地による土地管轄(犯罪地・被告人の住所・居所・現在地。刑事訴訟法2条)があります。管轄のない裁判所は判決で管轄違いの言渡しをしますが(329条)、土地管轄は被告人の申立てがなければ問題にしません(331条)。

公訴棄却と免訴の事由と再起訴の可否(338条〜340条)

公訴棄却と免訴の事由とは、刑事訴訟法338条・339条が定める公訴棄却の判決・決定の事由と、337条が定める免訴の判決の事由のことです。公訴棄却は形式裁判なので確定しても原則として同一事件を再起訴でき、公訴の取消しによる公訴棄却の決定が確定したときだけ、新たに重要な証拠を発見した場合に限って再起訴できます(340条)。

訴訟条件と訴因(訴訟条件存否の判断基準・訴因変更による追完)

訴訟条件と訴因とは、告訴の有無や管轄のように訴訟条件が備わっているかを、起訴状の訴因を基準に判断するのか、裁判所が証拠から得た心証を基準に判断するのかという問題です。当事者主義のもとで審判の対象は訴因であり、訴訟条件は実体審判の前提ですから、訴訟条件の存否も訴因を基準に判断するのが通説で、裁判例もこの立場に立ちます。

公訴時効(250条〜255条:期間・起算点・停止・共犯・観念的競合・国外)

公訴時効とは、犯罪行為が終わった時から法定刑に応じた一定の期間が経過すると公訴を提起できなくなる制度です(刑事訴訟法250条〜255条)。期間は法定刑の重さで決まり、人を死亡させた罪で死刑に当たるものには時効がなく、公訴の提起や犯人が国外にいる間は進行が停止し、時効が完成した後に起訴されれば免訴の判決になります(337条4号)。

公訴時効の根拠と法改正(実体法説・訴訟法説・新訴訟法説・遡及適用)

公訴時効の根拠とは、なぜ時間の経過によって起訴できなくなるのかの説明で、時間の経過により犯罪の可罰性が消滅するとする実体法説、証拠が散逸して公正な審理ができなくなるとする訴訟法説、長く訴追されなかった犯人の法的地位の安定を図るとする新訴訟法説があります。判例は、処罰の必要性と法的安定性の調和を図る訴訟法規と捉え、時効が完成していない罪に改正後の長い時効期間を適用しても遡及処罰の禁止に反しないとしています。

公判手続と公判前整理手続

23語

被疑者の勾留と被告人の勾留の違い

被疑者の勾留とは、検察官の請求を受けた裁判官が、公訴の提起前の被疑者を拘束する勾留で、被告人の勾留とは、裁判所(第1回公判期日までは裁判官)が職権で、公訴の提起後の被告人を拘束する勾留です(刑事訴訟法60条・207条・280条)。要件は同じ60条1項によりますが、期間と保釈の有無が違います。

保釈の種類と権利保釈の除外事由

保釈とは、勾留されている被告人について、保証金の納付を条件に勾留の執行を解いて釈放する制度です(刑事訴訟法88条以下)。請求があれば除外事由がない限り許さなければならない権利保釈(89条)、裁判所が職権で許す裁量保釈(90条)、勾留が不当に長くなったときに許さなければならない保釈(91条)の3つがあります。

保釈の手続(請求権者・意見聴取・保証金・条件・取消し・没取)

保釈の手続とは、勾留されている被告人やその弁護人・配偶者などが請求し、裁判所が検察官の意見を聴いたうえで保証金額と条件を定めて許否を決め、保証金の納付後に釈放し、取消事由があれば取り消して保証金を没取する一連の流れです(刑事訴訟法88条〜96条)。

判決の宣告と勾留・保釈の効力(343条・345条)

判決の宣告とは、公判廷で判決を告知することです。拘禁刑以上の実刑判決の宣告があると保釈と勾留の執行停止はその効力を失い(刑事訴訟法343条)、無罪・免訴・刑の免除・刑の全部の執行猶予・公訴棄却・罰金・科料の裁判の告知があると勾留状がその効力を失います(345条)。

弁護人の選任(私選・国選・審級・独立選任権・選任届)

弁護人の選任とは、被告人・被疑者本人やその配偶者等が弁護士を弁護人に選ぶこと(私選弁護人。刑事訴訟法30条)と、貧困その他の事由で選任できない被告人・被疑者のために裁判所・裁判官が弁護人を付すること(国選弁護人。36条・37条・37条の2)です。起訴前の選任は第一審まで効力があり、起訴後の選任は審級ごとに行います(32条)。

弁護人の権限(独立代理権・包括代理権・被告人の明示の意思)

弁護人の権限とは、弁護人が被告人・被疑者のために行うことができる訴訟行為の範囲のことで、弁護人自身の権利である固有権、被告人の明示の意思に反してもできる独立代理権、被告人の意思に従ってのみ行える代理権に分かれます(刑事訴訟法41条)。保釈請求や証拠調べ請求は独立してでき、証拠の同意と上訴は被告人の明示の意思に反してできません。

必要的弁護事件と弁護人不出頭の開廷

必要的弁護事件とは、死刑又は無期若しくは長期3年を超える拘禁刑に当たる事件のように、弁護人がなければ開廷することができない事件です(刑事訴訟法289条1項)。弁護人がいないときは裁判長が職権で付さなければならず、公判前整理手続に付された事件も法定刑を問わず弁護人がなければ開廷できません(316条の29)。

被告人の出頭義務と不出頭審理・勾引

被告人の出頭義務とは、被告人が公判期日に出頭しなければ開廷することができないという定めです(刑事訴訟法286条)。50万円以下の罰金・科料の事件などの軽微事件では出頭を要せず(284条・285条)、勾留中の被告人が出頭を拒んで引致を著しく困難にしたときは不出頭のまま審理でき(286条の2)、召喚に応じないおそれがある被告人は勾引できます(58条)。

冒頭手続(人定質問・起訴状朗読・黙秘権等の告知・陳述の機会)

冒頭手続とは、第一審の公判期日のはじめに行う、人定質問、検察官による起訴状の朗読、裁判長による黙秘権等の告知、被告人及び弁護人への被告事件についての陳述の機会の付与までの手続です(刑事訴訟法291条・刑事訴訟規則196条・197条)。証拠調べはこの手続が終わった後に行います(292条)。

証拠調べ手続の流れ(冒頭陳述・請求・閲覧・意見・決定・取調べの方法)

証拠調べ手続の流れとは、冒頭手続の後に、検察官の冒頭陳述、当事者による証拠調べの請求と相手方への閲覧の機会の付与、相手方の意見の聴取、裁判所の証拠決定、朗読・展示による取調べの順で進む公判の証拠調べの段取りです(刑事訴訟法292条〜310条)。

被告人質問(311条)

被告人質問とは、被告人が任意に供述する場合に、裁判長がいつでも、また陪席の裁判官・検察官・弁護人・共同被告人・その弁護人が裁判長に告げて、必要とする事項について被告人の供述を求める手続です(刑事訴訟法311条2項・3項)。被告人は終始沈黙し、個々の質問に対して供述を拒むことができます(同条1項)。

論告・弁論と意見陳述の機会

論告とは、証拠調べが終わった後に検察官が事実及び法律の適用について陳述する意見で、求刑を含みます(刑事訴訟法293条1項)。弁論とは、これに続いて被告人及び弁護人が陳述する意見です(同条2項)。裁判所は被告人又は弁護人に最終に陳述する機会を与えなければなりません。

証拠調べに関する異議と裁判長の処分に対する異議(309条)

証拠調べに関する異議とは、検察官・被告人・弁護人が証拠調べに関する訴訟行為について裁判所に申し立てる不服で(刑事訴訟法309条1項)、裁判長の処分に対する異議とは、それ以外の裁判長の訴訟指揮や法廷警察の処分について申し立てる不服です(同条2項)。前者は法令違反と相当でないことを、後者は法令違反だけを理由にできます(刑事訴訟規則205条)。

公判前整理手続の構造(付す決定・当事者請求権・必要的弁護・被告人の出頭・期日間整理)

公判前整理手続とは、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため、裁判所が第1回公判期日前に決定で事件を付し、事件の争点及び証拠を整理する公判準備です(刑事訴訟法316条の2第1項)。第1回公判期日の後に同じ目的で付す手続が期日間整理手続です(316条の28)。

公判前整理手続の進行(証明予定事実・予定主張の明示・結果の顕出・冒頭陳述義務)

証明予定事実とは、検察官が公判期日において証拠により証明しようとする事実であり、公判前整理手続は、検察官がこれを記載した書面を裁判所に提出して被告人側に送付し、証拠調べを請求するところから始まります(刑事訴訟法316条の13)。被告人側は開示を受けた後に予定主張を明らかにし(316条の17)、裁判所は整理の結果を確認して公判期日で明らかにし、被告人側は検察官の冒頭陳述に引き続いて冒頭陳述をします(316条の24・316条の30・316条の31)。

証拠開示(検察官請求証拠・一覧表・類型証拠・主張関連証拠・弁護側の開示義務・裁定)

証拠開示とは、公判前整理手続の中で、検察官が取調べを請求した証拠と、被告人側の防御に必要な手持ち証拠を被告人側に閲覧・謄写させ、被告人側も自分の請求証拠を検察官に見せる仕組みです(刑事訴訟法316条の14〜316条の20)。検察官請求証拠の開示、類型証拠の開示、主張関連証拠の開示の三段階で進み、争いがあれば裁判所が決定で裁定します(316条の25〜316条の27)。

公判前整理手続後の証拠調べ請求の制限と職権証拠調べ(316条の32)

公判前整理手続後の証拠調べ請求の制限とは、公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件では、検察官及び被告人又は弁護人は、やむを得ない事由によって整理手続の中で請求することができなかったものを除き、手続が終わった後には証拠調べを請求することができないという失権の効果です(刑事訴訟法316条の32第1項)。裁判所が必要と認めて職権で証拠調べをすることは妨げられません(同条2項)。

主張明示義務と黙秘権・公判での主張制限

主張明示義務とは、公判前整理手続に付された事件で、被告人又は弁護人が、公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときに、裁判所及び検察官に対してこれを明らかにしなければならない義務です(刑事訴訟法316条の17第1項)。判例は、この義務が自己に不利益な供述の強要に当たらず憲法38条1項に反しないとし、整理手続で明示しなかった主張に関する被告人質問は、整理手続を行った意味を失わせる場合に限って制限し得るとしています。

共同審理・弁論の併合と分離

弁論の併合とは、別々に係属している数人の被告人や数個の犯罪事実の公判手続を一つにまとめて同時に審理することであり、弁論の分離とはその逆に一つの公判手続を分けることです(刑事訴訟法313条1項)。どちらも裁判所が適当と認めるときに請求又は職権で決定により行い、併合しても各被告人の訴訟手続は別々のまま並んで進むので、証拠も被告人ごとに判断します。

訴訟能力と被告人の特定(公判で氏名冒用・身代わりが判明した場合の処理)

訴訟能力とは、被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をすることのできる能力です。訴訟能力を欠く被告人は心神喪失の状態にあるものとして公判手続を停止し(刑事訴訟法314条1項)、回復の見込みがなければ判決で公訴を棄却します。被告人の特定は、起訴状の表示を基本に検察官の意思と現実に被告人として行動した者を併せ考えて判定し、公判の途中で氏名冒用や身代わりが判明したときは、判明した時期に応じて訂正・排除・公訴棄却で処理します。

公判の諸原則と公判手続の停止・更新

公判の諸原則とは、公判中心主義、公開主義、口頭主義、直接主義、迅速な裁判という、公判期日の審理を支える原則です。公判手続の停止とは被告人の心神喪失や訴因変更による防御の準備のために審理を一時止めること(刑事訴訟法314条・312条7項)、公判手続の更新とは開廷後に裁判官が代わったときに従前の審理を補正してやり直すことです(315条)。

法定刑の軽重で結論が変わる制度の一覧(横断)

法定刑の軽重で結論が変わる制度の一覧とは、刑事訴訟法が「死刑又は無期若しくは長期3年以上の拘禁刑に当たる罪」「30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪」のように、その事件の法定刑を基準にして可否や要件を変えている制度と、法定刑を基準にしていない制度を並べた整理です。緊急逮捕、軽微事件の現行犯逮捕と勾留、権利保釈の除外、必要的弁護、被告人の出頭義務、即決裁判と簡易公判、公訴時効は法定刑で変わり、勾留の執行停止、第1回公判期日前の証人尋問、起訴猶予、保証金の没取、公判前整理手続に付す決定、告訴権者、被害者の意見陳述は変わりません。

外国人の刑事手続(通訳・翻訳)

外国人の刑事手続とは、日本語に通じない被疑者・被告人について、通訳と翻訳をどう付け、手続の言語をどうするかの規律です。国語に通じない者に陳述をさせる場合には通訳人に通訳をさせなければならず(刑事訴訟法175条)、裁判所では日本語を用いるので手続を外国語で進めることはできず、判決の宣告にも通訳人を付さなければなりません。

証拠法総論と自白

17語

証拠の分類(直接・間接、供述・非供述、実質・補助、証拠能力と証明力)

証拠の分類とは、集まった証拠を裁判で果たす役割の違いで分けることです。直接証拠とは犯罪事実を直接に証明する証拠をいい、間接証拠(情況証拠)とは間接事実を証明しそこからの推認を介して犯罪事実を証明する証拠をいい、このほか人の供述を内容とするか(供述証拠・非供述証拠)、犯罪事実の証明に使うか他の証拠の証明力に向けるか(実質証拠・補助証拠)、法廷で使える資格があるか(証拠能力)とどれだけ信じられるか(証明力)という軸で分けます。

証拠裁判主義と厳格な証明・自由な証明

証拠裁判主義とは、事実の認定は証拠によらなければならないという原則です(317条)。厳格な証明とは、証拠能力があり、かつ公判廷で適式な証拠調べを経た証拠による証明をいい、自由な証明とは、そのような制限を受けない証拠と方法による証明をいいます。

自由心証主義とその制約

自由心証主義とは、証拠の証明力の評価を法律で縛らず、裁判官の自由な判断に委ねる原則です(318条)。その制約とは、判断が論理則・経験則に従った合理的なものでなければならないこと、補強法則のように法律が証明力の評価を制限する例外があることをいいます。

証明の程度(合理的な疑いを超える証明)

証明の程度とは、有罪の認定をするために裁判所がどこまで確信を抱かなければならないかという水準をいい、刑事裁判では合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要です。合理的な疑いを差し挟む余地がないとは、反対事実が存在する疑いを全く残さない場合をいうのではなく、抽象的な可能性としては反対事実が存在する疑いを容れる余地があっても、健全な社会常識に照らしてその疑いに合理性がないと一般的に判断される場合をいいます(最決平成19年10月16日)。

挙証責任と推定・立証の負担

挙証責任とは、証拠調べを尽くしても証明すべき事実の存否を判断できないときに、その事実が認められないことによる不利益を受ける当事者の法的地位をいいます(実質的挙証責任)。立証の負担(形式的挙証責任)とは、裁判官の心証形成の推移に応じて当事者間を移動する、現実に証拠を提出しなければならない事実上の負担をいいます。

択一的認定・概括的認定

択一的認定とは、審理を尽くしても事実がAかBかを確定できないときに、「A又はB」という形で罪となるべき事実を認定することをいいます。概括的認定とは、犯行の手段や方法などの細部を特定せず、構成要件に該当すると判定できる程度に幅を持たせて認定することをいいます。

関連性と前科・悪性格の立証

関連性とは、証拠が要証事実の証明に役立つ性質をいい、必要最小限度の証明力があるかという自然的関連性と、証明力はあっても事実認定を誤らせる不当な偏見のおそれがないかという法律的関連性に分けられます。前科・悪性格の立証とは、被告人の前科や悪い性格から犯罪事実を推認させる立証をいい、自然的関連性があるだけでは許されません。

余罪と量刑・量刑判断の方法

余罪と量刑とは、起訴されていない犯罪事実(余罪)を、起訴された事件の量刑でどこまで考慮してよいかという問題です。判例は、余罪を認定して実質上これを処罰する趣旨で量刑資料として考慮し重く処罰することは許されないが、量刑のための一情状として考慮することは必ずしも禁じられないとしています。

科学的証拠(DNA型鑑定・臭気選別・ポリグラフ)

科学的証拠とは、DNA型鑑定・警察犬による臭気選別・ポリグラフ検査のように、科学的な原理や技術を用いて得られた検査結果を内容とする証拠をいいます。その証拠能力は、科学的原理が理論的正確性を持ち、具体的な実施方法がその技術を習得した者により科学的に信頼される方法で行われたかで判断し、どれだけ信じられるかという証明力とは分けて考えます。

現場写真・録音テープ・写しの証拠能力

現場写真とは、犯行の状況等を撮影した写真をいい、判例は非供述証拠に属し、写真自体又はその他の証拠により事件との関連性を認め得る限り証拠能力があるとしています(最決昭和59年12月21日)。録音テープ・写しの証拠能力とは、現場の音声を録音したテープや原本の写しを、どの要件で証拠にできるかという問題です。

自白の意義と自白法則の根拠

自白とは、自己の犯罪事実の全部又は主要部分を認める供述をいい、犯罪事実の一部や間接事実を認めるにとどまる不利益な事実の承認(322条1項)とは区別します。自白法則とは、強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑いのある自白を証拠とすることができないという規律(憲法38条2項・319条1項)をいい、その根拠については虚偽排除説・人権擁護説・違法排除説が対立します。

自白の任意性が争われる類型と派生証拠

自白の任意性が争われる類型とは、起訴猶予の約束、偽計(切違え尋問)、手錠をかけたままの取調べ、接見の制限、黙秘権の不告知、違法な身体拘束や取調べの下での自白など、取調べの態様から任意性に疑いが生じるかが問題になる場面をいいます。派生証拠とは、不任意自白を手がかりに発見された証拠物や、不任意自白の後に繰り返された自白(反復自白)のように、不任意自白から生じた証拠をいいます。

自白の任意性の立証(325条の調査・録音録画・挙証責任)

自白の任意性の立証とは、自白調書の任意性が争われたときに、誰が、どの程度まで、どの方法で任意性を証明するかという問題です。挙証責任は検察官が負い、325条は伝聞例外の書面や供述について裁判所が供述の任意性をあらかじめ調査することを求め、平成28年改正の301条の2は一定の事件で取調べの録音・録画の記録媒体によって任意性を立証することを義務づけました。

補強法則の意義と補強を要する範囲

補強法則とは、被告人の自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には有罪とされないという規律です(憲法38条3項・319条2項)。補強を要する範囲とは、犯罪事実のうちどの部分に自白以外の証拠が要るかという問題で、判例は、補強証拠は自白にかかる犯罪組成事実の全部にわたる必要はなく、自白にかかる事実の真実性を保障し得るものであれば足りるとしています。

補強証拠の適格と証明力

補強証拠の適格とは、どのような証拠が自白を補強する証拠になれるかという問題で、補強証拠は被告人の自白から独立した証拠でなければならず、被告人の供述書や手紙のように自白の実質を持つものは補強証拠になりません。補強証拠の証明力とは、補強証拠にどの程度の証明力が要るかという問題で、自白と相まって犯罪事実を認定できれば足り、補強証拠だけで犯罪事実を立証できる程度は要りません。

共犯者の自白と共同被告人の供述

共犯者の自白とは、被告人と共に犯罪を行った旨の共犯者の供述をいい、判例は、これは憲法38条3項・319条2項の「本人の自白」に含まれず、補強証拠がなくても共犯者の自白だけで被告人を有罪にできるとしています。共同被告人の供述とは、併合審理されている共同被告人が公判廷でした供述や捜査段階の調書をいい、他の被告人との関係では被告人以外の者の供述として扱います。

自白・供述の信用性(秘密の暴露・被害者供述)

自白・供述の信用性とは、証拠能力の認められた自白や証言を、どの程度信じて事実認定の基礎にしてよいかという証明力の評価の問題です。秘密の暴露とは、捜査官が知らず自白によって初めて明らかになった事実が、後の捜査で客観的に裏付けられたことをいい、自白の信用性を強く支える事情です。

伝聞法則

13語

伝聞法則の意義と伝聞・非伝聞の区別

伝聞法則とは、公判期日外の供述を内容とする証拠(伝聞証拠)は、321条から328条までの例外に当たる場合を除いて証拠とすることができないという原則です(320条1項)。伝聞証拠か非伝聞かは、その供述の内容が真実であることを立証に使うかどうか、つまり要証事実との関係で決まります。

伝聞例外の体系(321〜328条の地図と署名押印)

伝聞例外の体系とは、伝聞証拠を例外的に証拠にできる場合を定めた321条から328条までの条文の配置のことで、被告人以外の者の供述書面は321条が録取者ごとに(裁判官・検察官・その他)要件を段階づけ、被告人の供述書面は322条、公判廷の伝聞供述は324条、同意・合意・弾劾は326条から328条が受け持ちます。供述録取書には供述者の署名又は押印が要りますが、本人が作成した供述書には要りません。

裁判官面前調書(321条1項1号)

裁判官面前調書とは、被告人以外の者が裁判官の面前でした供述を録取した書面で、供述者が供述不能であるか公判で前の供述と異なった供述をしたときに、特信情況がなくても証拠にできるものです(321条1項1号)。

検察官面前調書(321条1項2号)

検察官面前調書とは、被告人以外の者が検察官の面前でした供述を録取した書面で、供述者が供述不能のとき(前段)か、公判で前の供述と相反するか実質的に異なった供述をし、かつ公判供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況(相対的特信情況)があるとき(後段)に証拠にできるものです(321条1項2号)。

3号書面(員面調書・私人の供述書)

3号書面とは、裁判官面前調書・検察官面前調書以外の被告人以外の者の供述書・供述録取書(司法警察員に対する供述調書、私人の供述書や手紙、捜査報告書中の参考人供述など)で、供述不能と、犯罪事実の存否の証明に欠くことができないことと、特に信用すべき情況(絶対的特信情況)の三つがそろったときに限り証拠にできるものです(321条1項3号)。

検証調書・実況見分調書(321条2項・3項)

検証調書・実況見分調書とは、検察官・検察事務官・司法警察職員が検証(任意処分の実況見分を含む)の結果を記載した書面で、作成者が公判期日に証人として真正に作成されたことを供述すれば証拠にできるものです(321条3項)。裁判所・裁判官の検証調書は無条件に証拠にできます(321条2項)。

鑑定書(321条4項)

鑑定書とは、鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したもので、検証調書と同じく作成者が公判期日に証人として真正に作成されたことを供述すれば証拠にできるものです(321条4項)。捜査機関が嘱託した鑑定受託者の鑑定書や私人の専門家の実験報告書にも4項が準用されます。

被告人の供述書・供述録取書(322条)

被告人の供述書・供述録取書とは、被告人が作成した供述書と被告人の署名又は押印のある供述録取書で、不利益な事実の承認を内容とするときは任意にされたものでない疑いがなければ、それ以外の供述は特に信用すべき情況の下にされたときに限り、証拠にできるものです(322条1項)。録取者が誰かで要件は変わりません。

323条の書面と合意書面(327条)

323条の書面とは、公務員が職務上証明できる事実について作成した書面(1号)、商業帳簿・航海日誌など業務の通常の過程において作成された書面(2号)、そのほか特に信用すべき情況の下に作成された書面(3号)で、作成者の証人尋問や特信情況の立証なしに証拠にできるものです。合意書面とは、検察官と被告人・弁護人が文書の内容や予想される供述の内容に合意して提出した書面で、取り調べないでも証拠にできるものです(327条)。

伝聞供述と再伝聞(324条)

伝聞供述とは、被告人以外の者の公判準備・公判期日における供述で他の者の供述を内容とするもので、被告人の供述を内容とするときは322条を、被告人以外の者の供述を内容とするときは321条1項3号を準用して証拠能力を判断します(324条)。再伝聞とは、書面や供述の中にさらに他人の供述が含まれる二重の伝聞で、各段階の例外要件を重ねて満たせば証拠にできます。

証拠とすることの同意(326条)

証拠とすることの同意とは、検察官及び被告人が書面又は供述を証拠とすることに同意することで、裁判所が作成・供述時の情況を考慮して相当と認めるときに、伝聞例外の要件を満たさなくても証拠にできます(326条1項)。被告人が出頭しないでも証拠調べができる場合の不出頭は同意とみなされます(326条2項)。

証明力を争う証拠(328条)

証明力を争う証拠とは、伝聞例外の要件を満たさず証拠にできない書面や供述でも、公判準備・公判期日における被告人・証人その他の者の供述の証明力を争う(弾劾する)ためには証拠にできるというものです(328条)。判例は、使える証拠を同じ供述者の自己矛盾供述が供述書・要件を満たす供述録取書・供述を聞いた者の公判供述に現れている部分に限ります。

主尋問後に反対尋問を経なかった証言の証拠能力

主尋問後に反対尋問を経なかった証言の証拠能力とは、証人が主尋問に答えた後に所在不明になるなどして反対尋問が実施できなかった場合に、その証言を証拠にできるかという問題です。伝聞法則の根拠を反対尋問の保障に求めるか、宣誓・偽証罪の制裁や裁判官の供述態度の観察にも求めるかで結論が分かれます。

違法収集証拠・証人尋問・鑑定・被害者

7語

違法収集証拠排除法則の根拠と判例の基準

違法収集証拠排除法則とは、捜査機関が違法な手続で収集した証拠物について、その証拠能力を否定する法則です。判例は、証拠物の押収等の手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合に、証拠能力が否定されるとしています。

違法性の承継と派生証拠(毒樹の果実)

違法性の承継とは、証拠を直接得た手続それ自体に違法が無くても、これに先行する手続に違法があるときに、その違法を後の証拠収集手続の評価に取り込む考え方です。派生証拠(毒樹の果実)とは、違法に収集された第一次証拠を手がかりにして得られた第二次証拠のことで、第一次証拠との関連性の程度を中心に証拠能力を判断します。

証人の義務と権利(出頭・宣誓・証言・証言拒絶権・勾引・刑事免責)

証人とは、裁判所その他の機関に対して、自分が経験した事実を供述する第三者です。証人には出頭・宣誓・証言の義務があり、その裏返しとして、自己や近親者が刑事訴追を受けるおそれのある証言や業務上の秘密に関する証言を拒む証言拒絶権が認められています。

証人尋問の方法(交互尋問・誘導尋問・書面や物の提示・期日外尋問)

証人尋問の方法とは、公判で証人から供述を引き出すときの進め方の規律です。尋問を請求した側の主尋問、相手方の反対尋問の順で行う交互尋問を基本に、主尋問での誘導尋問の原則禁止と例外、書面や物を示して尋問できる場合と裁判長の許可の要否、公判期日外・裁判所外での尋問の要件が定められています。

証人等の保護(付添い・遮へい・ビデオリンク・退廷・特定事項の秘匿)

証人等の保護とは、証人が法廷で安心して供述できるようにするための措置の総称です。証人への付添い、被告人や傍聴人との間の遮へい措置、別室から映像と音声で尋問するビデオリンク方式、供述中の被告人の退廷、被害者や証人の氏名・住所を公開の法廷で明らかにしない特定事項の秘匿が定められています。

被害者参加と被害者等の意見陳述

被害者参加とは、一定の罪の被害者等が被害者参加人として公判期日に出席し、検察官への意見陳述、情状に関する証人尋問、被告人質問、事実や法律の適用についての意見陳述を行う制度です。被害者等の意見陳述とは、罪名を問わず被害者等が公判期日に被害に関する心情その他の意見を述べる制度で、犯罪事実の認定のための証拠にはできません。

鑑定(鑑定人の義務・鑑定留置・鑑定処分・鑑定受託者との比較)

鑑定とは、裁判所が学識経験のある者に命じて、特別の知識経験に基づく判断や意見を報告させる証拠調べです。裁判所が命じた者を鑑定人、捜査機関が嘱託した者を鑑定受託者といい、宣誓・勾引・虚偽鑑定罪・鑑定処分の許可・直接強制の請求の各点で扱いが異なります。

裁判・既判力・上訴

12語

裁判の種類と形式(判決・決定・命令、口頭弁論、理由、告知)

裁判の種類とは、裁判所がする判決・決定と裁判官がする命令の区別です。判決は口頭弁論に基づいて公判廷で宣告により告知し、決定と命令は口頭弁論を要しません。裁判には理由を付しますが、上訴を許さない決定や命令には要りません。

有罪判決・無罪判決の要件と理由(333〜336条)

有罪判決とは、被告事件について犯罪の証明があったときに、判決で刑を言い渡し、又は刑を免除する裁判です。無罪判決とは、被告事件が罪とならないとき、又は犯罪の証明がないときに、判決で無罪を言い渡す裁判です。有罪判決の理由には罪となるべき事実、証拠の標目、法令の適用を示します。

裁判の確定と確定力(内容的確定力・形式裁判後の再起訴)

裁判の確定とは、上訴などの通常の不服申立てができなくなり、裁判の内容を争えなくなることです。確定力には、その裁判をもう取り消せないという形式的確定力と、裁判の判断内容が後の手続を拘束する内容的確定力があり、実体判決の確定からは一事不再理効が生じます。

一事不再理効の範囲(客観的・時間的・人的)

一事不再理効とは、有罪・無罪の実体判決が確定したときに、同一の事件について再び審判することを許さない効力です。憲法39条が同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問われないと定め、刑事訴訟法337条1号が確定判決を経たときは免訴とすることで実現しています。効力は、公訴事実の同一性の範囲、前訴の第一審判決宣告時まで、被告人本人に及びます。

二重の危険と検察官上訴・不利益再審の禁止

二重の危険とは、何人も同じ犯行について二度以上罪の有無に関する裁判を受ける危険にさらされてはならないという、憲法39条の根本思想にある考え方です。検察官上訴は同一手続内の継続した一つの危険なので禁止されず、不利益再審は認められていません。

上訴総論(上訴権者・期間・放棄取下げ・上訴の利益・一部上訴)

上訴とは、確定前の裁判に対して上級の裁判所に救済を求める不服申立てで、判決に対する控訴・上告と、決定に対する抗告があります。上訴ができるのは検察官と被告人のほか、被告人のためにする法定代理人・保佐人・原審の弁護人で、控訴・上告の提起期間は14日です。

控訴審の構造と控訴理由(事後審・事実誤認の意義・事実の取調べ・破棄自判)

控訴審の構造とは、控訴審が第一審をやり直す続審ではなく、当事者の訴訟活動を基礎に形成された第一審判決を対象にその当否を事後的に審査する事後審であることをいいます。控訴理由とは、控訴申立ての理由として法が限定した事由で、絶対的控訴理由、訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り、量刑不当、事実誤認、再審事由などがあります。

控訴審の手続(申立書・趣意書・弁論は弁護人・被告人の出頭)

控訴審の手続とは、控訴申立書を第一審裁判所に差し出し、控訴趣意書を控訴裁判所に差し出して、控訴趣意書に基づく弁論と必要な事実の取調べを経て判決に至る流れです。控訴審では被告人のためにする弁論は弁護人でなければできず、被告人は公判期日に出頭することを要しません。

不利益変更の禁止(402条)

不利益変更の禁止とは、被告人が控訴をし、又は被告人のために控訴をした事件について、控訴裁判所が原判決の刑より重い刑を言い渡すことができないという原則です。重い刑をおそれて被告人が上訴をためらわないようにするための規定で、上告審と再審にも同じ原則があります。

上告(405条・411条・410条2項)

上告とは、高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対して最高裁判所に申し立てる上訴です。上告理由は憲法違反・憲法解釈の誤りと判例違反に限られ、法令違反・量刑不当・事実誤認は上告理由ではなく、著しく正義に反すると認めるときに職権で破棄できる事由にとどまります。

抗告・即時抗告・準抗告

抗告とは、裁判所の決定に対する上訴で、特別の定めがある場合に3日以内にする即時抗告と、期間の定めの無い通常抗告があります。準抗告とは、裁判官の裁判や検察官・司法警察職員の一定の処分に対して、裁判所にその取消し・変更を求める不服申立てです。

裁判の執行と訴訟費用

裁判の執行とは、確定した裁判の内容を国家が実現することで、その裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官が指揮します。訴訟費用とは、証人の旅費日当や国選弁護人の報酬など刑事手続に要した費用で、刑の言渡しをしたときは原則として被告人に負担させ、無罪が確定した被告人には国が費用を補償します。

再審・特別手続・裁判員・少年・刑事補償

10語

再審の構造(利益再審・請求権者・事由・開始決定の効果)

再審とは、有罪の言渡しをした確定判決に対して、その言渡しを受けた者の利益のために、事実認定の誤りを理由に裁判をやり直す非常救済手続です(刑事訴訟法435条)。無罪の確定判決を覆して有罪にするための再審(不利益再審)は認められていません。

証拠の明白性と新規性(435条6号)

証拠の明白性とは、再審事由を定める刑事訴訟法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たること、すなわち確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性があることです。新規性とは、同号の「あらたに発見した」に当たること、すなわちその証拠が裁判所にとって新しいことです。

非常上告

非常上告とは、判決が確定した後にその事件の審判が法令に違反したことを発見したときに、検事総長が最高裁判所に対して申し立てる非常救済手続です(刑事訴訟法454条)。事実認定の誤りを正す再審と違い、法令違反を正して法令の解釈適用を統一することを目的とし、判決の効力は原則として被告人に及びません。

略式手続

略式手続とは、簡易裁判所が、検察官の請求により、公判を開かずに書面審理で略式命令を発し、100万円以下の罰金又は科料を科す手続です(刑事訴訟法461条)。被疑者に異議がないことを書面で確かめたうえで公訴の提起と同時に請求し、不服があれば告知から14日以内に正式裁判を請求できます。

即決裁判手続

即決裁判手続とは、事案が明白で軽微な事件について、検察官が被疑者の同意を得て公訴の提起と同時に申し立て、公判を開いたうえで簡略な証拠調べにより原則として即日判決を言い渡す手続です(刑事訴訟法350条の16以下)。拘禁刑を言い渡すときは必ず全部の執行猶予を付け、判決に対する控訴は事実誤認を理由にはできません。

簡易公判手続と合意制度

簡易公判手続とは、被告人が冒頭手続で訴因について有罪である旨を陳述したときに、裁判所が決定で証拠調べの方式を簡略にして審判する手続です(刑事訴訟法291条の2)。合意制度とは、特定犯罪の被疑者・被告人が他人の刑事事件の捜査・公判に協力することと引換えに、検察官が不起訴や軽い求刑などを約束する合意をする制度です(350条の2以下)。

裁判員制度の対象事件と合議体・評決

裁判員制度の対象事件とは、死刑又は無期拘禁刑に当たる罪に係る事件と、法定合議事件のうち故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係る事件です(裁判員法2条1項)。これらは原則として裁判官3人と裁判員6人の合議体で審理し、事実の認定・法令の適用・刑の量定を裁判官と裁判員の双方の意見を含む過半数で決めます。

裁判員裁判の手続(選任・公判前整理・質問・区分審理・控訴審)

裁判員裁判の手続とは、対象事件を必ず公判前整理手続に付し、非公開の選任手続で裁判員を選び、裁判員が裁判長に告げて証人や被告人に質問しながら審理し、必要に応じて区分審理をして判決に至る、裁判員法が定める公判の進め方です。控訴は通常の事件と同じくでき、控訴審は事後審として第一審の判断を論理則・経験則に照らして審査します。

少年事件の手続

少年事件の手続とは、20歳未満の少年の被疑事件について、捜査機関が犯罪の嫌疑があればすべて家庭裁判所に送致し(全件送致主義)、家庭裁判所が保護処分か刑事処分相当として検察官に送致(逆送)するかを決め、逆送後に起訴された刑事事件には少年法の特則が適用される仕組みです。少年法で定めるもののほかは、刑事訴訟法の一般の例によります(少年法40条)。

刑事補償と費用補償

刑事補償とは、無罪の裁判を受けた者が未決の抑留・拘禁や刑の執行を受けていた場合に、国に対して金銭の補償を請求できる制度です(刑事補償法1条)。費用補償とは、無罪の判決が確定したときに、国が被告人であった者に裁判に要した費用を補償する制度です(刑事訴訟法188条の2)。

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