323条の書面と合意書面(327条)とは
さんびゃくにじゅうさんじょうのしょめんとごういしょめん
323条の書面とは、公務員が職務上証明できる事実について作成した書面(1号)、商業帳簿・航海日誌など業務の通常の過程において作成された書面(2号)、そのほか特に信用すべき情況の下に作成された書面(3号)で、作成者の証人尋問や特信情況の立証なしに証拠にできるものです。合意書面とは、検察官と被告人・弁護人が文書の内容や予想される供述の内容に合意して提出した書面で、取り調べないでも証拠にできるものです(327条)。
戸籍謄本や会社の帳簿、船の航海日誌は、人が書いたものなので形の上では伝聞証拠ですが、作成者を法廷に呼んで問いただす意味がほとんどありません。公務員が職務上証明する書面や、業務の中で機械的に積み重ねられた記録は、誰かの事件のために作られたものではなく、作り手の記憶にも頼らないからです。323条はこうした書面を無条件に証拠にできることにしました。327条の合意書面は、検察官と被告人側が中身に合意した書面を取調べなしで証拠にする仕組みで、伝聞例外とは成り立ちが違います。
323条の書面は作成者の証人尋問も特信情況の立証もなしに証拠にできます
323条は、321条から322条までに掲げる書面以外の書面のうち、1号の戸籍謄本・公正証書謄本その他公務員(外国の公務員を含む)がその職務上証明することができる事実についてその公務員の作成した書面、2号の商業帳簿・航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面、3号のそのほか特に信用すべき情況の下に作成された書面に限り、証拠にできるとします。柱書はこれ以外の要件を何も付けていません。321条3項・4項のように作成者が証人として真正作成を供述することも、321条1項3号のように供述不能や不可欠性を示すことも要りません。「刑事訴訟法第323条第2号によれば、『業務の通常の過程において作成された書面』は、その作成者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときに限り、これを証拠とすることができる。」という肢は誤りです。業務の過程で反復して機械的に記録される書面には、虚偽を書き込む動機がなく、作成者の記憶にも依存しないという高度の信用性の情況的保障があるからです。
業務書面に当たるかは書面自体だけでなく、作成者の証言など関係証拠も併せて判断できます
ある書面が「業務の通常の過程において作成された書面」に当たるかは、表題や形式から書面自体で分かることが多いですが、それだけでは明らかでない場合もあります。最高裁は、漁船団の取決めにより各漁船から発せられる操業位置などの無線通信を機械的に記録した書面について、それ自体だけからでは2号の書面であることが必ずしも明らかではないが、その作成者の証言等関係証拠をも併せて検討すると2号の書面に該当するとしました(最決昭和61年3月3日)。「その書面自体だけから判断されなければならず,その作成者の証言等関係証拠を考慮に入れて判断することは許されない。」という肢は誤りです。作成者の証言は2号該当性を認定する資料として使えるのであって、証拠能力の要件として証人尋問が必要になるわけではありません。
3号の「特に信用すべき情況の下に作成された書面」は、1号・2号と同程度に高度の信用性の情況的保障があるものに限られます
3号は包括的な文言ですが、無条件で証拠能力を認める規定である以上、広く読むと伝聞法則が骨抜きになります。下級審の裁判例は、321条1項3号を基本形として書面の性質に応じて要件が順次緩和される重層構造の頂点に323条を位置づけ、3号の書面とは作成時の情況と書面自体の性質において1号・2号の書面と同程度の高度の信用性の情況的保障を有するものをいうとして、銀行の次長が業務の資料とする目的でほぼ毎日終業後に業務の要点を記載していた日誌などについて個別に該当性を判断しました(東京地決昭和53年6月29日)。個人の日記や私的なメモは、作成者の個人的な認識や感情が入りやすく、通常は3号の書面には当たりません。
327条の合意書面は当事者が内容に合意した書面で、取調べなしに証拠にできますが証明力は争えます
327条は、検察官と被告人又は弁護人が合意の上、文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述することが予想されるその供述の内容を書面に記載して提出したときは、その文書又は供述すべき者を取り調べないでも、その書面を証拠にできるとします。証人を呼ばなくても「この証人ならこう証言するはずだ」という内容を双方が合意して書面にすれば、その書面で代えられる仕組みで、争いのない事実の立証を簡略にする当事者主義的な制度です。合意するのは「その供述の内容がこのとおりである」ことであって、供述の内容が真実であることではありません。したがって同条後段のとおり、合意書面を証拠にしても、その証明力を争うことは妨げられません。326条の同意が相手方の請求した書面に証拠能力を与えるのに対し、327条は双方が作成して提出する書面である点で違います。
323条と327条の整理
- 323条1号は公務員が職務上証明できる事実について作成した書面(戸籍謄本・公正証書謄本・登記事項証明書など。外国の公務員を含みます)で、無条件です
- 323条2号は業務の通常の過程において作成された書面(商業帳簿・航海日誌・診療録など)で、無条件です。該当性は書面自体に加えて作成者の証言など関係証拠で判断できます(最決昭和61年3月3日)
- 323条3号はそのほか特に信用すべき情況の下に作成された書面で、1号・2号と同程度の高度の信用性の情況的保障があるものに限られます
- 327条の合意書面は検察官と被告人・弁護人が内容に合意して提出した書面で、取調べなしに証拠にできますが証明力は争えます
刑事訴訟法323条
第三百二十一条から前条までに掲げる書面以外の書面は、次に掲げるものに限り、これを証拠とすることができる。
一 戸籍謄本、公正証書謄本その他公務員(外国の公務員を含む。)がその職務上証明することができる事実についてその公務員の作成した書面
二 商業帳簿、航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面
三 前二号に掲げるもののほか特に信用すべき情況の下に作成された書面
刑事訴訟法327条
裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人が合意の上、文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述することが予想されるその供述の内容を書面に記載して提出したときは、その文書又は供述すべき者を取り調べないでも、その書面を証拠とすることができる。この場合においても、その書面の証明力を争うことを妨げない。
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