伝聞例外の体系(321〜328条の地図と署名押印)とは
でんぶんれいがいのたいけい
伝聞例外の体系とは、伝聞証拠を例外的に証拠にできる場合を定めた321条から328条までの条文の配置のことで、被告人以外の者の供述書面は321条が録取者ごとに(裁判官・検察官・その他)要件を段階づけ、被告人の供述書面は322条、公判廷の伝聞供述は324条、同意・合意・弾劾は326条から328条が受け持ちます。供述録取書には供述者の署名又は押印が要りますが、本人が作成した供述書には要りません。
伝聞証拠は原則として使えませんが、全部を締め出すと裁判が成り立ちません。そこで刑訴法は321条から328条までに例外を並べ、「誰の供述を、誰が、どんな形で書き留めたか」で要件の重さを段階的に変えました。裁判官の前での供述は軽く、検察官の前は中くらい、警察官や私人の前は重い要件にし、被告人自身の供述は別枠にしています。この地図を持っていれば、「被害者の警察調書と検察調書は要件が違うか」という問いに、条文を探さずに答えられます。
被告人以外の者の供述書面は321条が受け持ち、録取者が裁判官・検察官・その他の順に要件が重くなります
321条1項は、被告人以外の者が作成した供述書と、その者の供述を録取した書面で供述者の署名又は押印のあるものについて、三つの号に分けて要件を定めます。1号は裁判官の面前における供述を録取した書面で、供述不能か、公判での供述と異なった供述をしたことのどちらかがあれば足ります。2号は検察官の面前における供述を録取した書面で、供述不能のとき(前段)か、公判での供述と相反するか実質的に異なった供述をしたときで公判供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況があるとき(後段)に証拠にできます。3号はそれ以外の書面で、司法警察員に対する供述調書、私人宛ての手紙、捜査報告書に書き取られた参考人の供述などが入り、供述不能と、犯罪事実の存否の証明に欠くことができないことと、特に信用すべき情況の下にされたことの三つが全部必要です。2項は被告人以外の者の公判準備・公判期日の供述を録取した書面と裁判所・裁判官の検証調書で、無条件に証拠にできます。3項は検察官・検察事務官・司法警察職員の検証調書で、作成者が証人として真正に作成されたことを供述すれば足り、4項は鑑定人の鑑定書で3項と同じ扱いです。被害者の供述を司法警察員が録取した書面は3号、検察官が録取した書面は2号なので要件が違います。「司法警察員の面前における被害者の供述を録取した書面で同人の署名及び押印のあるものと,検察官の面前における被害者の供述を録取した書面で同人の署名及び押印のあるもの」は要件に差異のある組合せです。
321条から328条までの地図
- 321条1項1号 裁判官面前調書(被告人以外の者)。供述不能 又は 異なった供述。特信情況は不要です
- 321条1項2号 検察官面前調書(被告人以外の者)。前段は供述不能。後段は相反・実質的に異なった供述+相対的特信情況です
- 321条1項3号 その他の書面(員面調書・私人の供述書や手紙・捜査報告書中の供述)。供述不能+不可欠性+絶対的特信情況の三つ全部です
- 321条2項 公判準備・公判期日の供述録取書、裁判所・裁判官の検証調書。無条件です
- 321条3項 捜査機関の検証調書・実況見分調書。作成者が証人として真正作成を供述すれば足ります
- 321条4項 鑑定人の鑑定書(鑑定受託者・私人の専門家の報告書も準用)。3項と同じです
- 322条1項 被告人の供述書・供述録取書。不利益な事実の承認(任意性に疑いがないこと)又は特信情況です。録取者が誰でも同じです
- 322条2項 被告人の公判準備・公判期日の供述録取書。任意にされたと認めるときです
- 323条 戸籍謄本など公務員の証明文書、業務の通常の過程で作成された書面、特に信用すべき情況の下に作成された書面。無条件です
- 324条 伝聞供述。被告人の供述を内容とすれば322条を、被告人以外の者の供述を内容とすれば321条1項3号を準用します
- 325条 任意性の調査。326条 同意。327条 合意書面。328条 証明力を争う証拠です
被告人の供述は322条が受け持ち、誰が録取したかで要件は変わりません
被告人の供述書と供述録取書は、被告人以外の者の供述とは発想が違います。被告人は自分の供述に反対尋問をする立場にないので、不利益な事実を自分から認めた供述には類型的な信用性があるとして、322条1項は、不利益な事実の承認を内容とするとき(ただし任意にされたものでない疑いがあれば使えません)、又は特に信用すべき情況の下にされたときに証拠にできるとします。ここには録取者による区別がありません。司法警察員が録取した被告人の供述調書も、検察官が録取したものも、同じ322条1項で判断します。「司法警察員の面前における被告人の供述を録取した書面で同人の署名及び押印のあるものと,検察官の面前における被告人の供述を録取した書面で同人の署名及び押印のあるもの」は要件に差異のない組合せです。弁解録取書も同じで、検察官作成のものは322条、司法警察員作成のものは321条1項3号と分けるのは誤りです。「司法警察員作成の弁解録取書は,同法第321条第1項第3号の要件又は第326条所定の要件の下に証拠となる。」という肢は誤りで、どちらも322条又は326条の要件で証拠になります。321条1項3号は被告人以外の者の書面の規定だからです。
供述録取書には供述者の署名又は押印が要りますが、本人が書いた供述書には要りません
321条1項と322条1項は、「供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの」と書いています。署名又は押印が要るのは供述録取書だけです。供述録取書は、供述者が話したことを取調官が聞き取って書くので、供述そのものの伝聞性に加えて、聞き違いや要約のずれという録取の過程の伝聞性が重なります。供述者が内容を確かめて署名又は押印することで、この二つ目の伝聞性を取り除くのが署名押印の役割です。本人が自分で書いた供述書には録取の過程がないので、署名も押印もなくてよいのです。「被告人が作成した供述書で同人の署名及び押印のあるものと,被告人が作成した供述書で同人の署名及び押印のいずれもがないもの」は要件に差異のない組合せで、「甲がVを殺害するに至った経緯を自ら書き記した書面は,甲の署名又は押印のあるものに限り」証拠に使えるという肢は誤りです。署名又は押印のない供述録取書は321条・322条の書面にならず、328条で使える書面にもなりません。
検証調書と実況見分調書は同じ3項、裁判所が命じた鑑定人と捜査機関が嘱託した鑑定受託者の鑑定書は同じ4項です
321条3項の「検証の結果を記載した書面」には、令状による検証の調書だけでなく、捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載した実況見分調書も含まれます(最判昭和35年9月8日)。「刑事訴訟法第321条第3項の「検証の結果を記載した書面」とは,裁判官の発する令状により行った検証の結果を記載した書面を意味する」として実況見分調書を外す肢は誤りで、「司法警察員が作成した検証調書と,司法警察員が作成した実況見分調書」は要件に差異のない組合せです。4項の「鑑定人の作成したもの」は文言上は裁判所が命じた鑑定人の鑑定書ですが、捜査機関の嘱託を受けた鑑定受託者の鑑定書にも4項が準用されます(最判昭和28年10月15日)。「司法警察員から鑑定の嘱託を受けた者が作成した鑑定書と,裁判所から鑑定を命じられた鑑定人が作成した鑑定書」も要件に差異のない組合せです。ただし4項の要件は作成者が証人として真正作成を供述することなので、鑑定書は鑑定人の証人尋問なしには証拠にできません。「eは,伝聞証拠ではあるが,刑事訴訟法第321条第4項の…に当たるから,鑑定人の証人尋問を経ることなく,証拠とすることができる。」という肢は誤りです。同意(326条)があれば別です。
公判廷の供述が他人の供述を内容とするときは324条が、同意・合意・弾劾は326条から328条が受け持ちます
書面ではなく、証人が法廷で「甲がこう言っていた」と述べる伝聞供述は324条で処理します。内容が被告人の供述なら322条を準用し、被告人以外の者の供述なら321条1項3号を準用します。321条から324条で証拠にできる書面・供述でも、裁判所はその供述が任意にされたかをあらかじめ調査しなければなりません(325条)。検察官と被告人が証拠とすることに同意した書面・供述は、作成・供述時の情況を考慮して相当と認めるときに証拠にできます(326条1項)。検察官と被告人・弁護人が合意して文書の内容や予想される供述の内容を書面にしたものは、取り調べないでも証拠にできます(327条)。321条から324条で証拠にできない書面・供述でも、公判廷の供述の証明力を争うためには使えます(328条)。各条の中身はそれぞれの語で扱います。
刑事訴訟法321条1項柱書
被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
刑事訴訟法322条1項
被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第三百十九条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。
論文ではこう使う
伝聞例外を論じるときは、まず証拠が「誰の供述か(被告人か被告人以外か)」「書面か公判廷の供述か」「書面なら誰が作成・録取したか」を特定し、該当する条文を一つ選んでから要件に当てはめます。被告人以外の者の供述録取書なら321条1項の号を録取者で選び、被告人の供述なら322条、公判廷の伝聞供述なら324条の準用先を選ぶという順です。供述録取書のときは署名又は押印の有無を忘れずに確認し、無ければ321条・322条の書面に当たらないことを一言書きます。実況見分調書や鑑定書の中に供述が書き取られているときは、書面全体の3項・4項とは別に、その供述部分を321条1項や322条で処理する二段構えを示します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。