捜査機関の権限分担(検察官・検察事務官・司法警察員・司法巡査)とは
そうさきかんのけんげんぶんたん
捜査機関の権限分担とは、検察官・検察事務官・司法警察員・司法巡査という捜査機関の種類ごとに、刑事訴訟法が条文の主語を書き分けて、誰がどの処分をできるかを定めていることです。司法警察職員とは、司法警察員と司法巡査を合わせた呼び名です(39条3項)。
街で事件が起きると、最初に駆けつけるのは制服の巡査で、警察署で指揮を執るのは警部や警部補、そして事件を起訴するかどうかを決めるのは検察官です。刑事訴訟法は、この役割の違いに合わせて、条文ごとに「検察官」「検察事務官」「司法警察員」「司法巡査」「司法警察職員」と主語を書き分けています。人の身体や住居に踏み込む処分ほど、判断する人の責任と経験を求めるからです。短答では、ある処分の主語を別の捜査機関に入れ替えた肢が毎年出ます。条文の主語をそのまま覚えることが、この語の全部です。
捜査機関は4種類あり、条文の主語が「司法警察職員」なら司法巡査も含み、「司法警察員」なら司法巡査は含みません
捜査を担うのは、検察官、検察官の指揮を受けて捜査する検察事務官(191条2項)、そして警察官を中心とする司法警察職員(189条)です。司法警察職員は司法警察員と司法巡査に分かれ、39条3項の括弧書きが「司法警察員及び司法巡査をいう」と定義しています。警察官では、おおむね巡査部長以上が司法警察員、巡査が司法巡査に当たります。条文を読むときは、主語が「司法警察職員」であれば司法巡査にもできる処分で、「司法警察員」であれば司法巡査にはできない処分だと読みます。さらに通常逮捕状の請求は、司法警察員の中でも国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限られます(199条2項)。検察官は、必要と認めるときは自ら犯罪を捜査することができ(191条1項)、司法警察職員に対して一般的指示・一般的指揮・具体的指揮をすることができます(193条)。
- 検察官自ら捜査でき(191条1項)、公訴の提起と不起訴の判断、勾留請求、第1回公判期日前の証人尋問請求、刑の執行指揮を独占します。検視も検察官の権限ですが、検察事務官又は司法警察員に代行させることができます(229条)
- 検察事務官検察官の指揮を受けて捜査します(191条2項)。令状の請求と執行、取調べ、緊急逮捕ができますが、通常逮捕状の請求はできません
- 司法警察員司法警察職員のうち司法巡査でない者です。逮捕状の請求(指定司法警察員)、弁解録取、釈放、送致、告訴・告発・自首の受理、令状の請求ができます
- 司法巡査司法警察職員のうち司法警察員でない者です。逮捕状の執行、現行犯逮捕と緊急逮捕、現行犯人の受取り、参考人の取調べはできますが、逮捕状の請求、弁解録取、釈放、送致はできません
司法巡査にできるのは逮捕状の執行・現行犯逮捕と緊急逮捕・現行犯人の受取り・参考人の取調べまでで、逮捕状の請求・弁解録取・釈放・送致はできません
通常逮捕の主語は「検察官、検察事務官又は司法警察職員」なので、司法巡査も逮捕状により被疑者を逮捕できます(199条1項)。しかし逮捕状を請求できるのは「検察官又は司法警察員」であり、しかも警察官については指定を受けた警部以上の者に限られます(199条2項)。「司法巡査は、通常逮捕の逮捕状を請求することはできないが、逮捕状により被疑者を逮捕することはできる」という肢は正しいです。「司法巡査が、裁判官が発付した逮捕状により、被疑者を逮捕した」のは適法で、「司法巡査が、裁判官に対し被疑者の逮捕状の発付を請求した」のは違法です。現行犯逮捕は何人でもでき(213条)、緊急逮捕の主語も「検察官、検察事務官又は司法警察職員」なので(210条1項)、「司法巡査が緊急逮捕することは許されない」という肢は誤りです。緊急逮捕の後に「直ちに裁判官の逮捕状を求める手続」をするのは、通常逮捕状の請求と違って請求権者を絞る規定が無いので、緊急逮捕をした司法巡査自身もできます。私人が逮捕した現行犯人を受け取ることも司法巡査にでき、受け取ったときは速やかに司法警察員に引致します(215条1項)。「司法巡査が、私人から現行犯人を受け取り、これを司法警察員に引致した」のは適法です。参考人の取調べの主語も「検察官、検察事務官又は司法警察職員」なので(223条1項)、「司法巡査は、犯罪の捜査について必要があるときは、犯罪の被害者の出頭を求め、これを取り調べることができる」という肢は正しいです。これに対し、逮捕した被疑者に犯罪事実の要旨と弁護人選任権を告げて弁解を聴き、留置の必要が無ければ釈放し、必要があれば48時間以内に検察官に送致するのは司法警察員の仕事です(203条1項)。司法巡査が逮捕したときは直ちに司法警察員に引致しなければなりません(202条)。「司法巡査が、被疑者を逮捕した後、弁解録取手続を行った」ことは適法となる余地がなく、「司法巡査が、器物損壊被疑事件の被疑者を現行犯人として逮捕した後、留置の必要がないと考え、すぐに釈放した」のは違法です。告訴・告発・自首を受けるのも「検察官又は司法警察員」なので(241条1項・245条)、司法巡査に対する口頭の告訴は有効な告訴になりません。
検察事務官は検察官の指揮を受けて捜査し、取調べも令状の請求も執行もできますが、通常逮捕状の請求だけはできません
検察事務官は「検察官の指揮を受け、捜査をしなければならない」と定められ(191条2項)、被疑者の取調べ(198条1項)、参考人の取調べ(223条1項)、逮捕状の執行(199条1項)、緊急逮捕(210条1項)、令状による捜索・差押え・検証(218条1項)の主語に入っています。「検察事務官が、検察官の指揮を受け、詐欺被疑事件の被疑者を呼び出して、その取調べを行った」ことも、「検察事務官が、裁判官が発付した捜索差押許可状により、被疑者の居宅を捜索した」ことも適法です。令状の請求も、捜索差押許可状・検証許可状・身体検査令状(218条5項)、鑑定留置(224条1項)、鑑定処分許可(225条2項)は「検察官、検察事務官又は司法警察員」が請求できます。「検察事務官が、捜索差押許可状を請求した」のは適法です。緊急逮捕後の逮捕状請求にも請求権者の限定が無いので、「検察事務官が、緊急逮捕状を請求した」のも適法です。これに対し、通常逮捕状の請求権者は「検察官又は司法警察員」であり(199条2項)、検察事務官は入っていません。検察事務官が逮捕状により被疑者を逮捕したときは、直ちに検察官に引致します(202条)。
勾留請求・第1回公判期日前の証人尋問請求・公訴の提起・刑の執行指揮は検察官だけができ、検視は検察官の権限ですが代行させることができます
被疑者の勾留を裁判官に請求できるのは検察官だけです(204条1項・205条1項)。司法警察員は留置の必要があれば被疑者を検察官に送致するところまでで、自分で勾留を請求することはできません。「被疑者の勾留を請求すること」は、検察官と司法警察員のいずれもが行使できる権限には当たりません。第1回公判期日前の証人尋問も、取調べに対して出頭や供述を拒んだ者についての226条と、公判で供述を変えるおそれのある者についての227条1項のどちらも、請求できるのは検察官だけです。「第1回公判期日前に、裁判官に対し、証人の尋問を請求すること」もいずれもが行使できる権限ではなく、「司法警察員が、第1回公判期日前に証人尋問を請求した」ことは適法となる余地がありません。公訴の提起は検察官が行い(247条)、起訴便宜主義により殺人事件であっても公訴を提起しないことができます(248条)。「殺人事件の被疑者につき、公訴を提起しないこと」は検察官の権限として認められています。検察官は公訴を提起した後も必要と認めるときは自ら捜査することができ(191条1項)、司法警察員から送致を受けた事件についても「自ら、捜索差押許可状の発付を受けて、捜索差押えを行うことができる」という肢は正しいです。在宅で送致を受けた事件について検察官が自ら逮捕状の発付を受けて被疑者を逮捕することも適法です。有罪判決に対して控訴すること(351条1項)、刑の執行を指揮すること(472条1項)、被疑者を緊急逮捕すること(210条1項)も検察官の権限として認められています。他方、接見の日時・場所・時間の指定は「公訴の提起前に限り」できるので(39条3項)、「起訴された被告事件のみで勾留されている被告人と弁護人との接見に関し、その日時、場所及び時間を指定すること」は検察官の権限として認められていません。変死体の検視は検察官の権限ですが、検察事務官又は司法警察員に代行させることができます(229条)。「司法警察員が、変死の疑いのある死体につき、検察官から命じられて検視を行った」のは適法です。
令状の請求と執行・現行犯人の受取り・緊急逮捕後の逮捕状請求・鑑定処分許可の請求は、検察官と司法警察員のどちらもできます
「検察官と司法警察員のいずれもが行使できる権限は幾つあるか」という問題では、次のように数えます。逮捕状により被疑者を逮捕すること(199条1項)、捜索差押許可状により捜索すること(218条1項)、捜索差押許可状を請求すること(218条5項)、私人が逮捕した現行犯人の引渡しを受けること(214条)、緊急逮捕後の逮捕状を請求すること(210条1項)、鑑定処分許可を請求すること(225条2項)は、どちらもできます。被疑者の勾留を請求すること(204条・205条)と、第1回公判期日前の証人尋問を請求すること(226条・227条)は、検察官だけができます。条文の主語が「検察官、検察事務官又は司法警察員」か「検察官、検察事務官又は司法警察職員」であれば両方ができ、「検察官」だけが主語の条文は検察官の専権です。
- 逮捕状の請求(通常逮捕)検察官・指定司法警察員(警部以上)だけです。検察事務官・司法巡査はできません(199条2項)
- 逮捕状の執行・現行犯逮捕・緊急逮捕検察官・検察事務官・司法警察員・司法巡査の全員ができます(199条1項・213条・210条1項)
- 緊急逮捕後の逮捕状請求請求権者の限定が無く、緊急逮捕をした者がします(210条1項)
- 弁解録取・釈放・送致司法警察員(203条)と検察官(204条・205条)だけです。司法巡査は司法警察員に引致します(202条)
- 勾留請求検察官だけです(204条1項・205条1項)
- 捜索差押許可状・検証許可状・身体検査令状・鑑定留置・鑑定処分許可の請求検察官・検察事務官・司法警察員です(218条5項・224条1項・225条2項)。司法巡査はできません
- 令状による捜索・差押え・検証の執行検察官・検察事務官・司法警察職員の全員ができます(218条1項)
- 参考人の取調べ・鑑定嘱託検察官・検察事務官・司法警察職員の全員ができます(223条1項)
- 第1回公判期日前の証人尋問請求検察官だけです(226条・227条1項)
- 告訴・告発・自首の受理検察官・司法警察員だけです(241条1項・245条)
- 検視検察官の権限で、検察事務官・司法警察員に代行させることができます(229条)
- 公訴の提起・不起訴・上訴・刑の執行指揮検察官だけです(247条・248条・351条1項・472条1項)
刑事訴訟法39条3項
検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。
刑事訴訟法199条2項
裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。次項及び第二百一条の二第一項において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。ただし、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
刑事訴訟法202条
検察事務官又は司法巡査が逮捕状により被疑者を逮捕したときは、直ちに、検察事務官はこれを検察官に、司法巡査はこれを司法警察員に引致しなければならない。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。