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用語集 / 刑事訴訟法 / 刑事訴訟法の目的と当事者主義

刑事訴訟法の目的と当事者主義(1条・審判対象・挙証責任・起訴状一本主義のつながり)とは

けいじそしょうほうのもくてきととうじしゃしゅぎ

刑事訴訟法 刑訴の基礎と捜査総論

刑事訴訟法の目的とは、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現することです(1条)。当事者主義とは、検察官と被告人という対立する当事者が主張と立証を主導し、裁判所は中立の判断者として審理する訴訟の進め方です。

刑事裁判は、罪を犯した人を正しく罰すると同時に、罪のない人を罰しないための手続です。真相を明らかにすることと、被疑者・被告人の権利を守ることは、ときにぶつかります。刑事訴訟法1条は、この二つを両立させることを法律の目的として最初に書いています。そして現行法は、裁判所が自ら事件を調べ上げる旧法の職権主義をやめ、検察官と被告人という当事者が主張と立証を主導し、裁判所は中立の判断者にとどまる当事者主義を基本にしました。審判の対象・挙証責任・起訴状一本主義といった仕組みは、この基本から一つにつながっています。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、両手を軽く開いて左右を示している。向かって左の席に男性の検察官(札「検察官」)が起訴状一枚だけを手に立ち、右の席に男性の弁護人(札「弁護人」)と被告人(札「被告人」)が並ぶ。先生の吹き

1条は、人権の保障だけでなく、事案の真相を明らかにすることも目的に掲げています

1条は、「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現すること」を目的と定めます。公共の福祉の維持と基本的人権の保障という二つの要請の枠の中で、真相の解明と刑罰法令の適正迅速な適用実現を図るという構造です。日本国憲法が31条以下に被疑者・被告人の権利を細かく定めたことを受けて現行法が作られたのは確かですが、だからといって真実の発見を目的から外したわけではありません。「「事案の真相の解明」については明文に掲げなかった」という肢は誤りです。条文は「事案の真相を明らかにし」と明文で書いています。違法収集証拠の排除や一罪の一部起訴の可否を論じるときに「実体的真実の発見」が一方の価値として登場するのも、1条がこれを目的に掲げているからです。

起訴状一本主義を採用したことで、職権主義による審理は実際上できなくなり、当事者主義が原則になりました

旧刑事訴訟法の下では、検察官は起訴と同時に捜査記録を裁判所に送り、裁判官はそれを読み込んだうえで自ら被告人を尋問し、証人を調べて真相を解明していました。これが職権主義です。現行法は256条6項で、起訴状に「裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない」と定めました。これが起訴状一本主義です。裁判所は第1回公判期日まで事件について白紙なので、どの証拠をどの順に調べるかを自ら決めることができず、証拠の内容を知っている当事者に主導権を委ねるほかありません。その結果、証拠調べは当事者の請求によるのが原則になり(298条1項)、証人尋問は請求した側が主尋問をして相手方が反対尋問をする交互尋問の方式で行われます。「「職権主義」は実際上困難となり、当事者による証拠調べ請求や交互尋問など、「当事者主義」による訴訟追行が原則として行われることとなった」という肢は正しいです。起訴状一本主義は公平な裁判所(憲法37条1項)を実現するための仕組みですが、同時に当事者主義を支える仕組みでもあります。「起訴状一本主義は、〜「公平な裁判所」の理念が実現されるという考えに基づくものであるので、当事者主義とは無関係である」という肢は誤りです。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立ち、指し棒で板書を指している。黒板には左右二つの枠が描かれ、左の枠に「旧法:職権主義」の見出しと「起訴と同時に捜査記録を裁判所へ → 裁判官が読み込んで自ら尋問」、右の枠に「現行法:当事者

審判の対象は検察官が訴因として明示した犯罪事実に限られ、公訴事実の同一性の範囲まで当然に及ぶのではありません

当事者主義は、何を裁くかを決める場面にも現れます。起訴状の公訴事実は訴因を明示して記載しなければならず(256条3項)、裁判所は訴因と異なる事実を認定するには原則として訴因変更の手続を経なければなりません(312条1項)。つまり裁判所が審判できるのは、検察官が訴因として示した犯罪事実に限られます。「公訴事実の同一性」は、検察官が訴因を変更できる範囲を画するものであって、審判の対象の外側の線ではありません。「検察官が「訴因」として明示する犯罪事実に限定されることはなく、当該犯罪事実と「公訴事実の同一性」の関係が認められる事実にまで及ぶとすることにより、審判対象設定における「当事者主義」を採用した」という肢は誤りです。審判の対象が公訴事実の同一性の範囲に及ぶとするのは旧法の公訴事実対象説の考え方で、当事者主義の帰結ではありません。一罪の一部起訴を認める論拠として「刑事訴訟法は当事者主義に立ち、訴因制度を採用している」という肢が肯定説の論拠となり得るのも、審判の対象を検察官が訴因という形で切り取る以上、一罪の一部だけを取り上げることも許されるという筋だからです。

検察官が挙証責任を負うのは無罪推定の帰結であり、職権主義の下でも変わりません

審理を尽くしても犯罪事実があったかどうか分からないとき、裁判所は無罪を言い渡さなければなりません(336条)。この「疑わしきは被告人の利益に」の原則によって、犯罪事実の存否が真偽不明に終わったときの不利益を負うのは検察官です。これを検察官が挙証責任を負うといいます。挙証責任は、真偽不明のときに誰が不利益を受けるかという問題であり、誰が訴訟の進行を主導するかという当事者主義と職権主義の区別とは次元が違います。裁判所が職権で証拠を集める仕組みの下でも、調べ尽くしてなお確信に至らない事態は起こり、そのときに被告人を有罪にしてよいことにはなりません。「「職権主義」の下では、検察官が犯罪事実について「挙証責任」を負うことはない」という肢は誤りです。検察官の挙証責任は、無罪推定の原則と憲法31条の適正手続の要請から導かれるものです。

確定判決を受けた者に不利益な再審は、二重の危険の禁止に反する疑いがあるので認められていません

憲法39条後段は「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない」と定めます。いったん確定判決で手続が終わった人を、新しい証拠が見つかったからといって再び有罪の方向で裁くことは、処罰の危険に重ねてさらすことになります。そこで現行法は、再審の請求を「有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために」する場合に限りました(435条)。旧法にあった不利益再審は廃止されています。「刑事訴訟法は、確定した有罪判決の言渡しを受けた者にとって利益な方向での再審のみを認めた」という肢は正しいです。

糾問主義と弾劾主義、職権主義と当事者主義は、それぞれ別の軸の対比です

沿革の問題では、二組の対比が並びます。糾問主義と弾劾主義は、訴える者と裁く者が同じか別かという軸です。糾問主義では裁判官が自ら手続を始めて被告人を取り調べ、弾劾主義では訴追する者の訴えがあって初めて裁判が始まり、裁判官は訴追者と別の立場に立ちます。現行法は検察官の公訴提起がなければ裁判が始まらないので弾劾主義です。これに対し、職権主義と当事者主義は、弾劾主義を前提にしたうえで、審理の中で証拠の収集と取調べを主導するのが裁判所か当事者かという軸です。現行法は当事者主義を原則としつつ、裁判所の職権による証拠調べ(298条2項)や訴因変更命令(312条2項)のように、職権主義の要素を補充的に残しています。

  • 糾問主義裁判官が自ら手続を開始し、被告人を取り調べる。訴える者と裁く者が同じです
  • 弾劾主義訴追者の訴えがあって裁判が始まり、裁判官は訴追者と別の立場に立つ。現行法の立場です
  • 職権主義弾劾主義の下で、裁判所が証拠を集めて取調べを主導する。旧法の立場です
  • 当事者主義弾劾主義の下で、検察官と被告人が主張と立証を主導し、裁判所は中立の判断者にとどまる。現行法の原則です

刑事訴訟法1条

この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。

刑事訴訟法256条6項

起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。

論文ではこう使う

論文で当事者主義を正面から論じることはほとんどありませんが、審判の対象や訴因変更の要否を論じる冒頭で、「現行法は当事者主義を採用し(256条3項・298条1項・312条1項)、審判の対象は検察官が設定した訴因である」と一文で示すと、以下の規範が導きやすくなります。違法収集証拠や一罪の一部起訴の論述では、1条が掲げる事案の真相の解明と基本的人権の保障という二つの要請を対置し、どちらに重きを置くかを明示してから結論を書きます。

試験ではこう問われる

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