秘密録音・一方当事者の同意ある録音・公務所等への照会(任意捜査の典型例)とは
ひみつろくおんといっぽうとうじしゃのどういあるろくおんとこうむしょとうへのしょうかい
秘密録音とは、会話の相手方に知らせずに会話を録音することで、一方当事者の同意ある録音とは、通話や会話の一方の当事者の同意を得て捜査機関がその内容を録音することです。公務所等への照会とは、捜査について公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることです(197条2項)。いずれも相手方の意思を制圧して重要な権利利益を制約するものではないので、令状を要しない任意捜査の典型例です。
恐喝の被害者が警察に頼まれて、自分の電話で犯人との通話を録音したとします。犯人は録音を知りませんが、被害者に向かって話した内容を被害者がどう扱うかは、もともと被害者に委ねられています。だからこの録音に令状は要りません。同じように、銀行に被疑者の借金の状況を文書で問い合わせることも、本人の同意を得て唾液や口の中の細胞を採って検査することも、相手の意思を押さえつけて権利を奪うものではないので、令状なしでできる任意捜査です。短答では、こうした処分を並べて令状なしで適法の余地があるかを数えさせます。
通話の一方当事者の同意を得た録音は通信傍受法の傍受に当たらず、傍受令状は要りません
通信傍受法が規律する傍受は、現に行われている他人間の通信について、当事者のいずれの同意も得ないでその内容を受けることです。刑事訴訟法222条の3も、「通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分」については別に法律で定めるとしています。したがって、通話の一方の当事者が同意して捜査機関がその通話を録音する場合は、傍受ではありません。会話の内容を相手方にどう扱われるかは話した本人が相手方に委ねたものなので、相手方の同意の下で録音しても、相手方の通信の秘密を強制的に侵害することにはならないからです。「被疑者から電話において恐喝されていた被害者の同意を得て、その被害者と被疑者との間の電話による通話内容を録音する場合には、裁判官の発する傍受令状を得る必要はない」という肢は正しいです。「裁判官の発する令状を必要とするものは幾つあるか」の問題でも、「身の代金目的で誘拐された被害者の親の同意を得て、その親と被疑者との間の電話による通話内容を録音するとき」に令状は要りません。これに対し、捜査機関が会話の当事者の誰の同意も得ずに密かに録音する秘密録音は、相手方のプライバシーや人格権を侵すおそれがあるので、録音の経緯、内容、目的、必要性、侵害される法益と保護される公共の利益との権衡などを考慮して、具体的状況の下で相当と認められる限度でのみ許されると考えられています。どちらの同意も得ない通話の傍受は、通信傍受法の傍受令状によらなければなりません。
197条2項の照会は報告を求めるだけなので令状を要せず、金融機関から負債内容の報告を受けることもできます
197条2項は、捜査については「公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる」と定めます。照会を受けた側には報告する義務があると考えられていますが、これを直接に強制する手段はなく、相手方の意思を制圧して権利利益を侵害する処分ではないので、強制処分には当たらず令状は要りません。「Aに知られずに、Aと取引のある金融機関にAの負債内容の報告を求め、それを記録した書面の交付を受けた」ことは、あらかじめ令状がなくても適法と評価される余地があります。預金や負債の内容は個人の経済的な情報なので、照会は捜査上の必要性がある範囲で、対象と期間を特定して行うべきものですが、それは任意捜査としての相当性の問題であって、令状の要否の問題ではありません。
同意を得たDNA型検査・ポリグラフ検査・唾液の採取・ごみの領置も令状なしでできます
本人の同意を得て口腔内細胞を採取し、それを試料としてDNA型を検査することは、同意がある以上、身体の完全性やプライバシーを意思に反して侵すものではないので強制処分に当たらず、任意提出物の領置(221条)と鑑定の嘱託(223条1項)で処理できます。「Aの同意に基づいて採取した口腔内細胞を試料として、AのDNA型を検査した」ことも、「Aに対し、Aの同意に基づいてポリグラフ検査を実施した」ことも、あらかじめ令状がなくても適法と評価される余地があります。ポリグラフ検査は被検査者の協力なしには行えず、身体への実質的な侵襲も伴わないからです。唾液についても、「被疑者がこれを任意に提出することを承諾したとしても、唾液に含まれる口腔内細胞は遺伝情報を含むから、身体検査令状の発付を受けることなく、これを採取することはできない」という肢は誤りです。任意に提出された唾液は領置すれば足ります。これに対して、DNA型の採取という目的を秘したまま飲み物を飲ませて紙コップを回収するような方法は、同意があるとはいえず、個人識別情報であるDNA型をむやみに捜査機関に認識されない利益を侵すとして強制処分に当たるとした下級審の裁判例があります。同意の有無が分かれ目です。また、被疑者が不要物として公道上のごみ集積所に出したごみ袋を持ち帰って中身を調べることは、占有が放棄された遺留物の領置(221条)として令状なしでできます(最決平成20年4月15日)。「Aに知られずに、Aの自宅から公道上のごみ集積所に排出されたごみ袋を持ち帰った」ことも、あらかじめ令状がなくても適法と評価される余地があります。
- 一方当事者の同意を得た通話の録音傍受に当たらず、傍受令状は要りません
- 捜査機関による秘密録音(誰の同意もない録音)具体的状況の下で相当と認められる限度でのみ許されます。通話の傍受は傍受令状によります
- 公務所・公私の団体への照会(197条2項)報告を求めるだけなので令状は要りません。金融機関への負債内容の照会もできます
- 同意を得た口腔内細胞の採取とDNA型検査・唾液の任意提出強制処分ではなく、領置(221条)と鑑定嘱託(223条1項)で足ります
- 同意を得たポリグラフ検査協力なしには行えないので任意捜査です
- 公道上のごみ集積所に出されたごみ袋の持ち帰り遺留物の領置(221条)として令状は要りません(最決平成20年4月15日)
刑事訴訟法197条2項
捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
刑事訴訟法222条の3
通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分については、別に法律で定めるところによる。
論文ではこう使う
秘密録音が論文で問われたときは、まず一方当事者の同意があるかを確かめます。同意があれば傍受ではなく、相手方は会話の内容を同意した当事者に委ねているので強制処分に当たらないとしたうえで、任意捜査としての必要性と相当性を簡潔に検討します。誰の同意もない録音なら、相手方のプライバシーと人格権への侵害を認めたうえで、強制処分該当性を判例の定義で検討し、強制処分でないとしても録音の経緯・目的・必要性・態様と侵害される法益との権衡から相当な限度かを論じます。照会や同意を得た検査は、強制処分でないことを一文で示し、相当性の検討に進みます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。