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用語集 / 刑事訴訟法 / 強制採血・体液の採取

強制採血・体液の採取(令状の組合せの見解・唾液)とは

きょうせいさいけつとたいえきのさいしゅ

刑事訴訟法 捜索・差押え・検証・鑑定

強制採血とは、被疑者の意思に反して、医師に注射器で血液を採取させる処分です。血液は尿と違って老廃物ではなく、身体の構成部分なので捜索・差押えの性質を持つとはいえず、どの令状によるべきかについて、身体検査令状によるとする見解、鑑定処分許可状によるとする見解、両者を併用する見解、捜索差押許可状によるとする見解があり、実務は身体検査令状と鑑定処分許可状の併用によっています。

飲酒運転の疑いのある人が呼気検査を拒み続けたとき、血中のアルコール濃度を調べるには血液を採るしかありません。しかし血液は尿のように体の外へ出ていく老廃物ではなく、体を作っている一部で、針を刺して取り出すのは医師の仕事です。そこで、どの令状で採血できるかが問題になります。捜査機関が自分で行う身体検査の令状か、医師が鑑定のために体を調べる令状か、その両方か、尿と同じ差押えの令状かで考え方が分かれます。それぞれに弱点があり、試験ではどの見解にどの批判が向けられるかが問われます。

病院の処置室の場面。先生が警察官役(札「司法警察員」)で、白衣の男性(札「医師」)に二枚の令状を並べて見せている。一枚に「身体検査令状」、もう一枚に「鑑定処分許可状」と読める文字。椅子に座って腕をさすっている男性(札「被疑者」)。先生の吹き

採血は尿と違って身体の構成部分を取り出す処分なので、捜索・差押えの性質を持つとはいえず、令状なしに鑑定嘱託で採血させることもできません

強制採尿では、尿が体外に排出されるべき老廃物であることが、証拠物の差押えと見る根拠の一つでした(最決昭和55年10月23日)。血液は生理的機能の維持に必要な身体の構成部分で、採取は身体への損傷を伴います。したがって、血液の採取を尿と同列に捜索・差押えの性質を持つ処分と見ることはできず、被疑者が採血を拒んでいるときに医師に鑑定嘱託をするだけで採血させることもできません。鑑定嘱託そのものは任意処分ですが、拒む者の身体から血液を採る処分は強制処分で、裁判官の令状が要るからです。「裁判官による令状の発付を受けなくても,医師Yに鑑定嘱託をして,被疑者甲の採血をさせることができる」という肢は誤りです。他方、強制採血がおよそ許されないわけではなく、「被疑者に対する鑑定及び身体検査は,直接強制を許容する規定を欠くため,甲の身体に直接強制を加えて血液を採取することは許されない」という肢は誤りです。実務では、下に述べる併用によって直接強制を伴う採血を行っています。

四つの見解と、それぞれに向けられる批判を対応させます

見解Ⅰは身体検査令状によるべきだとします。身体検査令状は捜査機関自身が行う検証の令状で、捜査機関が行う身体検査は身体の外表を点検するのが限界だと考えられています。そこで見解Ⅰに対しては、捜査機関が血液を採取するわけではないという批判が向けられます。見解Ⅱは鑑定処分許可状によるべきだとします。鑑定処分としての身体検査は医師などの専門家が行うので、身体内部への侵襲を伴う採血も鑑定処分の範囲に入ると解されており、「鑑定処分としての身体検査の域を超えるから許されない」という批判は見解Ⅱには向けられません。見解Ⅱに向けられるのは、直接強制するための明文の規定が存しないという批判です。鑑定受託者の身体検査には直接強制を定める139条も、裁判官に身体検査を請求できる172条も準用されていないからです(225条4項・168条6項)。見解Ⅲは身体検査令状と鑑定処分許可状を併用すべきだとします。採血の侵襲は鑑定処分許可状で根拠付け、直接強制は身体検査令状(222条1項が準用する139条)で補う考え方で、実務はこれによっています。見解Ⅲに対しては、採血が検証としての身体検査の域を超える以上、身体検査令状を併用することに意味がないという批判が向けられます。見解Ⅳは捜索差押許可状によるべきだとします。見解Ⅳに対しては、人の老廃物である尿と身体の構成部分である血液を同列に扱うことはできないという批判が向けられます。「人の老廃物である尿と血液とを区別して考える必要はない」という批判は、捜索差押許可状以外の令状によるべきだとする見解に向けられるもので、見解Ⅳへの批判としては誤りです。この問題の肢は、どの見解にどの批判が向けられるかを問うもので、どの見解が正しいかを問うものではありません。

大学の教室の場面。先生が教師役(札「刑事訴訟法」)で黒板の前に立つ。黒板に四段の表。各段の左に見解、右に批判。「Ⅰ 身体検査令状 → 捜査機関が血液を採取するわけではない」「Ⅱ 鑑定処分許可状 → 直接強制の明文がない」「Ⅲ 併用(実務)
  • 見解Ⅰ 身体検査令状批判: 捜査機関が血液を採取するわけではない(捜査機関の身体検査は外表の点検が限界)
  • 見解Ⅱ 鑑定処分許可状批判: 直接強制するための明文の規定がない(139条・172条の不準用)。採血が鑑定処分の域を超えるという批判は向けられない
  • 見解Ⅲ 併用(実務)批判: 採血が検証としての身体検査の域を超える以上、身体検査令状を併用する意味がない
  • 見解Ⅳ 捜索差押許可状批判: 老廃物である尿と身体の構成部分である血液を区別しなければならない

承諾があれば、唾液や口腔内細胞の採取に令状は要りません

令状が要るのは強制処分、すなわち個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段です(最決昭和51年3月16日)。被疑者が任意に提出することを承諾して唾液を差し出す場合は意思を制圧しておらず、強制処分には当たりません。唾液に含まれる口腔内細胞が遺伝情報を含むとしても、承諾がある以上、身体検査令状は要りません。「身体検査令状の発付を受けることなく、これを採取することはできない」という肢は誤りです。被疑者の同意に基づいて採取した口腔内細胞を試料としてDNA型を検査することも、あらかじめ令状がなくても適法と評価される余地があります。同意がないのに口腔内細胞を採取するなら、身体への侵襲を伴う処分として令状が要り、採血と同じ併用によると解されています。被疑者の同意に基づくポリグラフ検査も同じく令状は要りません。

刑事訴訟法139条

裁判所は、身体の検査を拒む者を過料に処し、又はこれに刑を科しても、その効果がないと認めるときは、そのまま、身体の検査を行うことができる。

刑事訴訟法225条1項

第二百二十三条第一項の規定による鑑定の嘱託を受けた者は、裁判官の許可を受けて、第百六十八条第一項に規定する処分をすることができる。

論文ではこう使う

論文で採血の令状を論じるときは、まず強制採尿の判例が尿を老廃物として捜索・差押えの性質を認めたことを示し、血液は身体の構成部分で損傷を伴うので同じには扱えないと区別します。次に、採血は専門家が行う侵襲なので鑑定処分としての身体検査に当たり鑑定処分許可状が要るが、鑑定受託者には直接強制の規定が準用されていない(225条4項・168条6項)ので、拒む者に対して実力を用いるには直接強制のできる身体検査令状(222条1項・139条)を併せて得る必要があると論じ、併用に対する批判にも一言触れて自説を支えます。事案で令状なしに鑑定嘱託だけで採血した場合は違法とし、違法収集証拠排除法則につなげます。

試験ではこう問われる

「強制採血・体液の採取」が短答式でどう出題されてきたか、ひっかけの型7件と関係する過去問の肢14本は、無料のアカウントでログインすると読めます。

読んだあとに、刑事訴訟法の肢別演習を

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