電磁的記録の差押え(記録命令付差押え・リモートアクセス・差押えに代わる処分・協力要請)とは
でんじてききろくのさしおさえ
電磁的記録の差押えとは、パソコンやサーバに記録されたデータを証拠として取得するために平成23年改正で整えられた処分の総称で、差し押さえるべき電子計算機に接続する記録媒体から複写して差し押さえる処分(リモートアクセス。刑事訴訟法218条2項・99条2項)、記録媒体の差押えに代わる複写・印刷・移転の処分(110条の2)、処分を受ける者への協力要請(111条の2)、通信履歴の保全要請(197条3項)からなります。出題当時の記録命令付差押え(旧99条の2)は、令和7年改正で電磁的記録提供命令(102条の2)に改められています。
密売の顧客リストがパソコンではなくクラウド上のサーバに置かれていたら、部屋でパソコンを差し押さえても中身は手に入りません。サーバを管理する会社の機械を丸ごと持ち去るわけにもいきません。そこで平成23年の改正で、差し押さえるパソコンにつながる記録媒体のデータを複写して差し押さえる処分や、記録媒体の代わりに複写した媒体を差し押さえる処分、管理者に記録させて差し押さえる処分が設けられました。データは形がなくどこにあるか分かりにくいので、令状に複写する範囲や相手を書かせて裁判官の審査を及ぼしています。
記録命令付差押えの令状には、記録・印刷させるべき電磁的記録と、それをさせるべき者を記載します
出題当時の記録命令付差押えは、電磁的記録を保管する者その他の電磁的記録を利用する権限を有する者に命じて、必要な電磁的記録を記録媒体に記録させ、又は印刷させたうえで、その記録媒体を差し押さえる処分でした(旧99条の2・旧218条1項)。プロバイダのように協力が得られる相手に、必要なデータだけを取り出させる処分です。この令状には、記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録と、これを記録させ若しくは印刷させるべき者を記載しなければなりませんでした(旧219条1項)。「記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者の記載がなされる必要がある」という肢は正しいです。令和7年改正は、この処分を電磁的記録提供命令に改め、電磁的記録を保管する者や利用する権限を有する者に、記録媒体に記録させて提出させる方法又は電気通信回線を通じて捜査機関の記録媒体に記録させる方法で電磁的記録の提供を命じるものとしました(102条の2、218条1項)。令状には提供させるべき電磁的記録、提供させるべき者及び提供の方法を記載します(219条1項)。正当な理由なく命令に違反した者には罰則があります(222条の2)。
- リモートアクセス(218条2項・99条2項)差し押さえるべき物が電子計算機のとき、接続している記録媒体で、その電子計算機で作成・変更した電磁的記録などを保管していると認めるに足りる状況にあるものから複写して、電子計算機又は他の媒体を差し押さえる。令状に複写すべき範囲を記載する(219条2項)
- 差押えに代わる処分(110条の2)差し押さえるべき物が記録媒体のとき、執行者が複写・印刷・移転して他の媒体を差し押さえる、又は差押えを受ける者に複写・印刷・移転させて他の媒体を差し押さえる
- 協力要請(111条の2)差し押さえるべき物が記録媒体のとき、処分を受ける者に電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる
- 保全要請(197条3項・4項)通信事業者等に通信履歴の電磁的記録を30日を超えない期間を定めて消去しないよう求める。延長は通じて60日まで
- 出題当時の記録命令付差押え(旧99条の2)電磁的記録を保管する者等に記録・印刷させて媒体を差し押さえる。令和7年改正で電磁的記録提供命令(102条の2)に改められた
差し押さえるべき物が電子計算機のときは、接続する記録媒体から複写して差し押さえることができ、複写すべき範囲を令状に記載しなければなりません
差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、その電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって、その電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又はその電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録をその電子計算機又は他の記録媒体に複写したうえで、電子計算機又は他の記録媒体を差し押さえることができます(218条2項・99条2項)。これがリモートアクセスです。この場合、令状には差し押さえるべき物の記載のほかに、複写すべきものの範囲を記載しなければなりません(219条2項)。接続先のどこまで手を伸ばしてよいかを裁判官に審査させるためです。「複写すべきものの範囲の記載がなされる必要はない」という肢は誤りです。接続先のサーバが国外にある場合について、判例は、刑事訴訟法が国外のサーバへのリモートアクセスを一切許容しない趣旨とは解されないとし、サーバの所在国の同意や国際捜査共助を経ずに行った事案の適法性を事情に照らして判断しています(最決令和3年2月1日)。
記録媒体の差押えに代えて複写・印刷・移転させて他の媒体を差し押さえることができ、電子計算機の操作などの協力も求められます
差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状の執行をする者は、その差押えに代えて、記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体に複写し、印刷し、又は移転したうえで他の記録媒体を差し押さえること、又は差押えを受ける者にこれらをさせたうえで他の記録媒体を差し押さえることができます(110条の2。222条1項で捜査機関に準用)。会社のサーバを丸ごと持ち去らずに済ませるための処分で、「差押えを受ける者に差し押さえるべき記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体に複写させ,印刷させ,又は移転させた上,当該他の記録媒体を差し押さえる権限を有する」という肢は正しいです。また、差押状又は捜索状の執行をする者は、処分を受ける者に対し、電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができます(111条の2)。「処分を受ける者に対し,電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる」という肢は正しいです。協力を強制する手段はありません。差し押さえるべき物が通信履歴のときは、電気通信事業者等に対して、必要な通信履歴の電磁的記録を特定し、30日を超えない期間を定めて消去しないよう求めることができ、特に必要があれば通じて60日まで延長できます(197条3項・4項)。
被疑者や弁護人に立会権はなく、記録媒体を中身を確認せずに差し押さえられる場合は差押えの対象と関連性の語で扱います
記録命令付差押えや電磁的記録提供命令、リモートアクセスも、捜査機関が218条の令状で行う処分なので、裁判所の令状執行についての当事者の立会権(113条1項)は準用されず、被疑者又は弁護人に「その実施に立ち会う権利を有する」という肢は誤りです。捜査機関は必要があるときに被疑者を立ち会わせることができるだけです(222条6項)。パソコンや記録媒体を、記録されている蓋然性と確認していては損壊される危険があることを理由に内容を確認せずに差し押さえられること(最決平成10年5月1日)は、差押えの対象と関連性の語で扱います。GPS端末を使った位置情報の取得のように、法律に定めのない新しい手法については、強制処分法定主義の語とGPS捜査の語で扱います。
刑事訴訟法218条2項
差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。
刑事訴訟法219条2項
前条第二項の場合には、同条の令状に、前項に規定する事項のほか、差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、その電磁的記録を複写すべきものの範囲を記載しなければならない。
刑事訴訟法111条の2
差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状又は捜索状の執行をする者は、処分を受ける者に対し、電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる。公判廷で差押え又は捜索をする場合も、同様である。
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