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用語集 / 刑事訴訟法 / 逮捕に伴う令状によらない捜索・差押え

逮捕に伴う令状によらない捜索・差押え(220条:根拠2説・逮捕の現場・時間的接着・連行)とは

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刑事訴訟法 捜索・差押え・検証・鑑定

逮捕に伴う令状によらない捜索・差押えとは、検察官、検察事務官又は司法警察職員が被疑者を逮捕する場合において必要があるときに、令状なしに、人の住居等に入って被疑者を捜索し、逮捕の現場で差押え・捜索・検証をすることです(刑事訴訟法220条1項・3項)。令状主義の例外で、根拠を逮捕の現場に証拠が存在する蓋然性が高いことに求める見解と、被逮捕者による証拠隠滅を防ぐ緊急の必要性に求める見解があります。

覚醒剤所持の現行犯で部屋の中の人を逮捕したとき、ポケットや目の前の机に証拠があっても、裁判所へ令状を取りに行かなければ触れないのでは、その間に証拠は消えてしまいます。逮捕の現場には事件の証拠がある見込みが高く、逮捕された人が証拠を隠す危険も目の前にあります。そこで刑事訴訟法は、逮捕する場合に必要があるときは、令状なしに、人の住居に入って被疑者を捜し、逮捕の現場で差押え・捜索・検証をすることを認めました。令状主義の例外なので、どの逮捕で、いつからいつまで、どこまで、何をできるかが細かく問われます。

アパートの一室の場面。先生が警察官役(札「司法警察員」)で、覚醒剤の入ったポーチを手にした男性(札「被疑者」)の腕をつかんで現行犯逮捕した直後、もう一方の手で机の上の注射器を指している。先生の吹き出し「現行犯逮捕だから逮捕状は要らない。この

通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕のどれでもでき、被疑者を捜すために人の住居に入ることもできますが、私人の逮捕にはありません

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、199条により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、人の住居又は人の看守する邸宅・建造物・船舶内に入って被疑者の捜索をすること(1号)と、逮捕の現場で差押え、捜索又は検証をすること(2号)ができ、210条の緊急逮捕の場合も同様で、これらの処分に令状は要りません(220条1項・3項)。「被疑者を逮捕状により逮捕する場合には,逮捕に伴う令状によらない捜索差押えをすることはできない」という肢は誤りです。逮捕状により逮捕する場合に被疑者を捜索するため人の住居に入る必要があるときは、「住居を対象とする捜索許可状がなくても,その住居に入ることができる」という肢は正しく、被疑者の知人の住居に入って被疑者を捜索するのに裁判官の令状は要りません。現行犯人を逮捕する場合も「人の住居に入り被疑者の捜索をすることができる」という肢は正しいです。すでに住居の捜索差押えが終わった後でも、逮捕状で被疑者を逮捕するために立ち入るのに「甲又はAの了解が必要である」という肢は誤りです。主体は捜査機関に限られます。現行犯人を逮捕した私人は、逮捕の現場で令状によらずに「捜索差押えをすることができる」という肢も「差押えをすることができる」という肢も誤りで、私人は逮捕した現行犯人を直ちに引き渡すだけです。勾引状・勾留状の執行の場合にも準用があります(220条4項)。

  • できる逮捕通常逮捕(199条)・現行犯逮捕・準現行犯逮捕(213条)・緊急逮捕(210条)。勾引状・勾留状の執行にも準用(220条4項)
  • 主体検察官・検察事務官・司法警察職員。私人はできない
  • 処分人の住居等に入って被疑者を捜索すること/逮捕の現場で差押え・捜索・検証をすること。令状不要(220条3項)
  • 被疑者以外の者の住居押収すべき物の存在を認めるに足りる状況が要る(222条1項・102条2項)。急速を要するときは立会人の規定によらなくてよい(222条2項)
  • 緊急逮捕で逮捕状が出ないとき差押物は直ちに還付する(220条2項)

逮捕の着手前でも逮捕と時間的に接着していればよく、混乱のおそれがあれば最寄りの場所へ連行して捜索できます

「逮捕する場合において」の意味について、判例は、単なる時点ではなく幅のある逮捕する際をいい、逮捕との時間的接着は必要だが逮捕着手時の前後関係は問わないとしました。被疑者が他出して不在でも、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索差押えがされ、これと時間的に接着して逮捕がされる限り、逮捕の現場での捜索差押えに当たります(最大判昭和36年6月7日)。「逮捕に伴う令状によらない捜索差押えを行い得るのは,逮捕の着手後に限られる」という肢は誤りです。場所については、判例は、被逮捕者の身体又は所持品に対する捜索差押えは逮捕した場所で直ちに行うのが原則だとしつつ、逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに実施することが適当でないときは、速やかに被疑者を捜索差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行したうえでこれらの処分を実施することも、「逮捕の現場」における捜索差押えと同視できるとしました(最決平成8年1月29日)。「被疑者を捜索の実施に適する最寄りの場所に連行した上,逮捕に伴う令状によらない捜索差押えをすることができる」という肢は正しいです。緊急逮捕の後に逮捕状が発せられなかったときは、差押物を直ちに還付しなければなりません(220条2項)。「逮捕状が発付されなかった場合には,差押物は直ちにこれを還付しなければならない」という肢は正しいです。

大学の教室の場面。先生が教師役(札「刑事訴訟法」)で黒板の前に立つ。黒板に二列の板書。左列の見出し「見解Ⅰ 証拠の蓋然性」、その下に「逮捕の場所と同一の管理権の範囲/隣人方で逮捕→被疑者方には及ばない/第三者宅は102条2項の状況」。右列の

対象は逮捕の理由とされた被疑事実の証拠に限られ、逮捕の現場で見つけた関連する物は令状なしに差し押さえられます

無令状で差し押さえられるのは、逮捕の理由とされた被疑事実に関する証拠物に限られます。令状主義の例外を認める根拠が、その事件の証拠の蓋然性や隠滅の危険にあるからで、この点はどちらの見解でも同じです。「Ⅰの見解に立っても、Ⅱの見解に立っても、捜索差押えの対象となる証拠は、逮捕の理由とされた被疑事実と関連する物に限られる」という肢は正しいです。覚醒剤所持の現行犯逮捕をしたときは、所持していた覚醒剤を押収するのに差押許可状は要らず、入っていたポーチや血液の混じった注射器も、所持罪と自己使用罪の証拠として関連性があるので、令状の発付を受ける必要はありません。逮捕状で逮捕した際に被疑者が持っていたボストンバッグを開けて中の血の付いたシャツを差し押さえるのも、捜索差押許可状は要りません。所持品検査や捜索中の発見から現行犯逮捕に進む事例では、逮捕そのものに令状が要らず(213条)、逮捕の現場の差押えにも令状が要らないという二段で考えます。

根拠の二つの見解で、「逮捕の現場」の範囲と、連行後の捜索の可否が分かれます

見解Ⅰは、逮捕の現場には証拠の存在する蓋然性が一般的に高いので裁判官の事前審査を要しないことを根拠とします(相当説・蓋然性説)。見解Ⅰからは、「逮捕の現場」は令状が発付されたとしたら捜索が可能である範囲、すなわち逮捕の場所と同一の管理権が及ぶ範囲内の場所になります。もっとも、被疑者の隣人方で逮捕した場合に、隣人方のほか被疑者方でも捜索差押えができることにはなりません。蓋然性が類型的に認められるのは逮捕がされた場所だからで、被疑者方は逮捕の現場ではありません。また見解Ⅰに立っても、第三者の住居で逮捕した場合には、102条2項が準用される(222条1項)ので、逮捕の理由とされた被疑事実に関する証拠の存在を認めるに足りる状況がなければその住居での捜索差押えは許されません。被逮捕者の身体を捜索する場合に、現場で直ちに実施することが適当でないときに最寄りの場所まで連行して捜索することは、見解Ⅰからも捜索の対象である身体に変わりがないので許される余地があり、「連行して捜索することはできない」という記述は見解Ⅰの帰結ではありません。見解Ⅱは、逮捕の際に被逮捕者が証拠を隠滅するおそれが高いので、これを防いで証拠を保全する緊急の必要性があることを根拠とします(緊急処分説・限定説)。見解Ⅱからは、「逮捕の現場」は被逮捕者が証拠を隠滅することが可能な、手が届くなど事実的支配が及ぶ範囲内の場所になります。ただし、逮捕の瞬間に手が届く場所に固定されるわけではなく、逮捕がされた一室の全体に事実的支配が及んでいたといえる場合もあるので、「当該一室全体において実施することができるとは考えられない」という記述は見解Ⅱの帰結ではありません。見解Ⅱは逮捕に類型的に伴う隠滅の危険を根拠にするので、「被逮捕者が証拠を隠滅する具体的な危険が認められることが要求される」わけでもありません。他方、被逮捕者を住居で逮捕して警察署まで連行した後に、逮捕の現場として住居を捜索することは、隠滅の緊急の必要性がもはやないので、見解Ⅱからは許されません。判例は、時間的接着を要するが着手の前後を問わないこと(最大判昭和36年6月7日)と、最寄りの場所への連行後の捜索を逮捕の現場と同視すること(最決平成8年1月29日)を示しており、個々の肢は見解ごとの帰結として判断します。

  • 見解Ⅰ(蓋然性)の「逮捕の現場」逮捕の場所と同一の管理権が及ぶ範囲。隣人方で逮捕しても被疑者方には及ばない。第三者の住居は102条2項の状況が要る
  • 見解Ⅱ(緊急の必要性)の「逮捕の現場」被逮捕者の手が届くなど事実的支配が及ぶ範囲。一室全体に及ぶこともあり、具体的な隠滅の危険までは要らない
  • 連行後の住居の捜索見解Ⅱでは許されない(緊急の必要性がない)
  • 身体・所持品の最寄りの場所での捜索判例は逮捕の現場と同視(最決平成8年1月29日)。見解Ⅰからも許される余地がある
  • 対象どちらの見解でも逮捕の理由とされた被疑事実に関する証拠物に限る

刑事訴訟法220条1項

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。

刑事訴訟法220条2項

前項後段の場合において逮捕状が得られなかつたときは、差押物は、直ちにこれを還付しなければならない。第百二十三条第三項の規定は、この場合についてこれを準用する。

刑事訴訟法220条3項

第一項の処分をするには、令状は、これを必要としない。

論文ではこう使う

論文では、逮捕に伴う捜索差押えは最も出る論点の一つで、根拠、時間的範囲、場所的範囲、対象の順に書きます。まず220条1項・3項が令状主義(憲法35条)の例外であることを示し、根拠について、逮捕の現場には証拠の存在する蓋然性が高いので裁判官の審査を要しないとする見解と、証拠隠滅を防ぐ緊急の必要性に求める見解を挙げて自説を選びます。時間的範囲は「逮捕する場合」を逮捕と時間的に接着する範囲と解し、着手の前後を問わないとした判例の文言を使って、逮捕の態勢と前後関係を当てはめます。場所的範囲は「逮捕の現場」を自説の根拠から画し(同一管理権の範囲か、事実的支配の及ぶ範囲か)、現場で直ちに実施することが適当でない事情があれば最寄りの場所へ連行して実施できるという判例の規範を書き、名誉・抵抗による混乱・交通妨害の事情を拾います。最後に対象を逮捕の被疑事実に関する証拠物に限ることと、第三者の住居なら102条2項の要件を確かめます。

試験ではこう問われる

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