領置と遺留物・ごみ(221条)とは
りょうちといりゅうぶつごみ
領置とは、検察官、検察事務官又は司法警察職員が、被疑者その他の者が遺留した物、又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物の占有を、令状なしに取得する押収です(刑事訴訟法221条)。遺留物とは、犯行現場に残された凶器や公道に捨てられたごみのように、占有者の意思によらずに占有を離れた物や占有が放棄された物をいいます。
公園の草むらに血の付いたナイフが落ちていたとき、警察官がそれを拾って持ち帰るのに裁判官の令状は要りません。持ち主の手を離れた物を取得しても、誰の意思も押さえつけていないからです。被害者が「これを調べてください」と差し出した手紙も同じです。これが領置で、相手の意思に反して占有を奪う差押えとは違い、占有を取得する過程に強制がないので令状なしにできます。ただし、いったん領置すると差押えと同じく押収物として留め置かれ、提出者が返してほしいと言ってもすぐに返す義務はありません。
領置できるのは遺留した物と任意に提出された物で、任意提出物に限られません
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物を領置することができます(221条)。対象は二つで、遺留物と任意提出物です。「司法警察職員が領置することができる物は,所有者,所持者又は保管者が任意に提出した物に限られる」という肢は誤りです。領置は押収の一種ですが、占有を取得する過程に相手方の意思を制圧する要素がないので、憲法35条・218条1項の令状を要する差押えには当たりません。殺人事件の犯人が公道上の犯行現場に遺留した凶器を押収するのに「差押許可状が必要である」という肢は誤りで、公園の草むらで見つけたナイフや犯行現場の草むらの金属バットを領置するのに差押許可状は要りません。覚醒剤を注射して使用した被疑者が公道上に投棄した注射器を領置するのも、裁判官の発する令状を必要としません。あらかじめ令状がなければ適法とならない処分の個数を数える問題では、領置はいつも令状不要の側です。
公道上のごみ集積所に出されたごみ袋は、占有が放棄された遺留物として領置できます
遺留物は、落とし物のように意思によらず占有を離れた物に限りません。判例は、強盗殺人事件の捜査で、被疑者とその妻が不要物として公道上のごみ集積所に排出したごみ袋を警察官が持ち帰り、中のティッシュペーパーなどからDNA型を得た事案で、被疑者らはごみ袋を不要物として排出することによりその占有を放棄していたのであり、排出されたごみについて通常はそのまま収集されて他人に内容を見られることはないという期待があるとしても、捜査の必要がある場合には221条により遺留物として領置することができるとしました(最決平成20年4月15日)。「被疑者が不要物として公道上のゴミ集積所に排出したゴミ袋を領置することは、違法ではない」という肢は正しく、被疑者に知られずにごみ袋を持ち帰る捜査は、あらかじめ令状がなくても適法と評価される余地があります。
任意に提出できるのは所有者に限られず、所持者と保管者も含みます
任意提出ができるのは所有者、所持者又は保管者です。所持者は自己のために物を占有する者、保管者は他人のために物を管理する者をいいます。「証拠物を任意に提出することができる者は,当該証拠物の所有者に限られる」という肢は誤りです。被疑者の自宅のテーブルの上にあった被疑者所有のノートを、同居する妻が司法警察員に提出した場合、妻は少なくとも夫のためにノートを保管する者に当たるので、任意提出を受けて領置したことは適法です。「任意提出を行うことができる者は,所有者又は所持者に限られるところ,所持者とは自己のために当該物件を占有する者であるから,司法警察員がAからノートを領置したことは違法である」という肢は誤りです。所有者の承諾は要りません。職務質問に伴う所持品検査で見つけた覚醒剤の任意提出を拒まれたときは領置できませんが、現行犯逮捕して逮捕の現場で差し押さえることができます(所持品検査の語)。
領置した後は差押えと同じ効力があり、提出者から還付を請求されても直ちに還付する義務はありません
領置は占有の取得に強制がないだけで、取得した後の占有の継続は提出者の意思に左右されません。領置物も押収物なので、留置の必要がないものは事件の終結を待たずに還付しなければならず、所有者、所持者、保管者又は差出人の請求により仮に還付することができます(222条1項・123条1項・2項)。還付の義務が生じるのは留置の必要がなくなったときで、提出者が翻意して請求しただけでは返す必要はありません。「任意提出物を領置した場合には,提出者から還付を請求されると直ちに還付する必要がある」という肢は誤りです。被告人段階では裁判所が領置します(101条)。
刑事訴訟法221条
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。
刑事訴訟法123条1項
押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない。
論文ではこう使う
論文では、ごみの持ち帰りや任意提出の適法性を、強制処分か任意処分かの区別から書きます。まず、占有が放棄された物や任意に提出された物の占有を取得しても相手の意思を制圧せず重要な権利利益を侵害しないので強制処分に当たらず、221条の領置として令状は要らないと述べます。そのうえで、ごみの内容を他人に見られないという期待があることを拾い、任意処分としての必要性・相当性を事案の事情(事件の重大性、他の手段の有無、取得した物の性質)で確かめます。提出者が所有者でない事案では、所持者か保管者に当たるかを認定し、同居の親族が不在の所有者のために物を管理していたという事情を使います。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。