令状の呈示と執行の方法(110条・111条・112条・114条・116条:呈示前立入り・必要な処分・出入禁止・立会い・夜間執行)とは
れいじょうのていじとしっこうのほうほう
令状の呈示とは、差押状又は捜索状(捜査機関の場合は捜索差押許可状)を処分を受ける者に示すことです(刑事訴訟法110条・222条1項)。執行の方法として、錠を外すなどの必要な処分(111条)、出入りの禁止(112条)、立会い(114条)、夜間執行の制限(116条)が捜査機関の捜索差押えにも準用されます。
捜索差押許可状を持った警察官がホテルの客室に来たとします。ノックして名乗れば、中の人は覚醒剤を洗面所に流すかもしれません。かといって令状を見せずに入ってよいなら、令状を示す決まりは骨抜きになります。そこで刑事訴訟法は、令状を処分を受ける者に示すことを求めつつ、錠を外すなどの必要な処分、執行中の出入りの禁止、立会い、夜間執行の制限を定めました。手続の公正と処分を受ける人の権利への配慮、そして捜索差押えの実効性との釣り合いが執行の方法の決まりです。
令状は処分を受ける者に示し、着手前の呈示が原則ですが、破棄隠匿のおそれがあるときは入室の直後に示せば足ります
差押状又は捜索状は処分を受ける者に示さなければならず(110条)、この規定は捜査機関の捜索差押えにも準用されます(222条1項)。呈示の時期に明文はありませんが、判例は、呈示は手続の公正を担保し処分を受ける者の人権に配慮する趣旨なので、執行に着手する前の呈示を原則とすべきだとしました。もっとも、来意を告げれば被疑者が覚醒剤を洗面所に流すなど短時間のうちに差押対象物を破棄隠匿するおそれがあった事案で、ホテルの支配人からマスターキーを借りて施錠された客室のドアを開けて入室し、被疑者の行動を制止したうえで直ちに令状を呈示した措置を、捜索差押えの実効性を確保するために必要であり社会通念上相当な態様で行われているから222条1項・111条1項に基づく必要な処分として許容され、入室直後の呈示も実効性を確保するためにやむを得ず適法だとしました(最決平成14年10月4日)。「令状を呈示することなくその住居に入った後,直ちに令状を呈示して捜索をすることができる」という肢は正しく、合い鍵で立ち入ってから呈示することは破棄隠匿のおそれがある場合「であっても違法となる」という肢は誤りです。処分を受ける者とは、捜索場所や差し押さえるべき物を現実に管理している者です。被疑者の妻に令状を示して捜索した場合、差し押さえた物が被疑者の所有物でも、「甲に捜索差押許可状を呈示していない以上,司法警察員がこれらの物を差し押さえることは違法である」という肢は誤りです。他方、令状を所持していないときに被疑事実の要旨と令状が発せられている旨を告げて執行する緊急執行は、勾引状・勾留状と逮捕状について定められ(73条3項・201条2項)、捜索差押許可状には準用がありません。「急速を要するときは,処分を受ける者に対し,被疑事実の要旨と捜索差押許可状が発付されている旨を告げて,捜索差押えを行うことができる」という肢は誤りです。
錠を外し封を開くなどの必要な処分ができ、押収したフィルムの現像や執行状況の写真撮影も含まれます
差押状又は捜索状の執行については、錠を外し、封を開き、その他必要な処分をすることができ、押収物についても同様です(111条1項・2項、222条1項)。必要な処分とは、執行の目的を達するために必要で、社会通念上相当な処分をいいます。マスターキーや合い鍵でドアを開けて立ち入ることのほか、差し押さえた未現像の写真フィルムを警察署で現像することも、未現像のままでは証拠としての効用を発揮しないので押収物に対する必要な処分として当然にでき、別に検証許可状は要らないとした裁判例があります。「それを警察署において現像すること」は差し押さえるべき物を写真フィルムとする捜索差押許可状によって許されます。令状を立会人に示している状況や、差し押さえるべき物が発見された状況を写真撮影することも、手続の適法性と押収物の証拠価値を保全する記録なので、捜索差押えに付随する処分として許されます。「捜索差押許可状を立会人に示している状況や,捜索の現場で差し押さえるべき物が発見された状況を写真撮影することができる」という肢は正しいです。これに対し、令状に記載された差し押さえるべき物に当たらない物を撮影することはそれ自体として検証の性質を持ち、押収に関する処分ではないのでネガと写真の廃棄や引渡しを求める準抗告はできません(最決平成2年6月27日)。この点は写真・ビデオ撮影の語で扱います。
執行中は何人に対しても許可なく出入りすることを禁止でき、居住者や同居の親族も例外ではありません
差押状又は捜索状の執行中は、何人に対しても、許可を得ないでその場所に出入りすることを禁止することができ、従わない者は退去させ、又は執行が終わるまで看守者を付することができます(112条、222条1項)。執行中に人が出入りして証拠が持ち出され、現場が混乱することを防ぐためです。「何人に対しても」なので、立会人でない居住者や同居の親族も対象です。「甲の同居の親族に対しても,許可を得ないで甲の自宅に出入りすることを禁止することができる」という肢と「被疑者の家族に対し,許可なく被疑者方に出入りすることを禁止することができる」という肢は正しく、同居する母親について「Aは甲宅の居住者であるため、Aが許可なく甲宅に立ち入るのを禁止することは違法である」という肢は誤りです。居住者が許可を得ずに立ち入ろうとした場合には制止することができます。
立会人は公務所ならその長、住居なら住居主かこれに代わる者で、いなければ隣人か地方公共団体の職員とし、立会人なしの捜索は違法です
公務所内で執行するときはその長又はこれに代わるべき者に通知して立ち会わせ、人の住居や人の看守する邸宅・建造物・船舶内で執行するときは、住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者を立ち会わせなければなりません。これらの者を立ち会わせることができないときは、隣人又は地方公共団体の職員を立ち会わせなければなりません(114条、222条1項)。立会いは執行が令状の範囲内で公正に行われることを担保する強行規定なので、「甲宅に誰も在宅していなかった場合でも,立会人なくして捜索することは違法である」という肢は正しく、「甲宅の隣人を立会人として捜索することができる」という肢も正しいです。一人暮らしの被疑者以外の者の居室でその者を立ち会わせることができなければ、アパートの管理人を立ち会わせて捜索できます。被疑者本人の立会いは要件ではありません。同居の妻が立ち会えば足り、「被疑者をこれに立ち会わせなければならない」という肢は誤りです。捜査機関は必要があるときに被疑者を立ち会わせることができるだけで(222条6項)、被疑者に立会権はありません。裁判所の令状執行について定める113条(検察官・被告人・弁護人の立会権と執行の日時・場所の事前通知)は222条1項が準用していません。したがって被疑者以外の者の住居を捜索するときに「あらかじめ,その者に執行の日時を通知しなければならない」という肢は誤りで、捜査機関の捜索差押えに弁護人が「立ち会う権利がある」という肢はいずれも誤りです。公訴提起後の捜索差押えでも、捜査機関が令状の発付を受けて行うものなら「必ず弁護人を立ち会わせなければならない」という肢は誤りです。これに対し、起訴後に裁判所が行う捜索差押えには検察官・被告人・弁護人が立ち会うことができ(113条1項)、「弁護人は,起訴後,裁判所が行う捜索差押えに立ち会うことができる」という肢は正しいです。弁護人が立ち会えるものの一覧は弁護人の権限の語にあります。女子の身体について捜索状を執行するときは、急速を要する場合を除き成年の女子を立ち会わせます(115条)。
- 公務所その長又はこれに代わるべき者(通知して立ち会わせる)
- 人の住居・看守する邸宅・建造物・船舶住居主・看守者又はこれらに代わるべき者。いなければ隣人又は地方公共団体の職員
- 被疑者本人立ち会わせることができる(222条6項)。立会権も要件でもない
- 弁護人捜査機関の捜索差押えには立会権なし(113条の不準用)。起訴後に裁判所が行う捜索差押えには立ち会える(113条1項)
- 被疑者以外の者への事前通知不要(113条2項の不準用)
- 女子の身体の捜索成年の女子を立ち会わせる。急速を要する場合を除く(115条)
日出前・日没後は令状に夜間執行の記載がなければ住居に入れず、急速を要しても同じですが、日没前に着手すれば日没後も続けられます
日出前、日没後には、令状に夜間でも執行することができる旨の記載がなければ、差押状又は捜索状の執行のため、人の住居又は人の看守する邸宅・建造物・船舶内に入ることはできません(116条1項、222条3項)。夜間の私生活の平穏を厚く守るための制限で、記載があるかどうかは裁判官が令状審査の際に判断します。したがって、捜査機関の側で急速を要すると考えても、記載がなければ夜間に立ち入ることはできません。「急速を要するときは,令状に夜間でも捜索することができる旨の記載がなくても,日没後にその住居に入り捜索をすることができる」という肢は誤りです。もっとも、日没前に執行に着手したときは、日没後でもその処分を継続することができます(116条2項)。適法に始めた執行を日没で打ち切らせると証拠が隠滅されるからです。「日没前に同許可状の執行に着手したときは,日没後でも,その処分を継続することができる」という肢は正しく、記載がないことから「日没後に捜索を継続することは違法である」という肢は誤りです。賭博や風俗を害する行為に常用される場所、旅館・飲食店など夜間でも公衆が出入りできる場所(公開した時間内)にはこの制限がありません(117条)。検証については222条4項・5項に同じ定めがあります。
刑事訴訟法110条
差押状又は捜索状は、処分を受ける者にこれを示さなければならない。
刑事訴訟法111条1項
差押状又は捜索状の執行については、錠を外し、封を開き、その他必要な処分をすることができる。公判廷で差押え又は捜索をする場合も、同様とする。
刑事訴訟法112条1項
差押状又は捜索状の執行中は、何人に対しても、許可を得ないでその場所に出入りすることを禁止することができる。
刑事訴訟法114条2項
前項の規定による場合を除き、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内で差押状又は捜索状の執行をするときは、住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者をこれに立ち会わせなければならない。これらの者を立ち会わせることができないときは、隣人又は地方公共団体の職員を立ち会わせなければならない。
刑事訴訟法116条1項
日出前、日没後には、令状に夜間でも執行することができる旨の記載がなければ、差押状又は捜索状の執行のため、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入ることはできない。
刑事訴訟法116条2項
日没前に差押状又は捜索状の執行に着手したときは、日没後でも、その処分を継続することができる。
論文ではこう使う
論文では、令状を呈示する前に部屋に入った、立会人を置かなかったといった執行方法の適法性を事例から拾います。呈示前の立入りは、110条の呈示の趣旨(手続の公正の担保と処分を受ける者の人権への配慮)から着手前の呈示が原則だと述べたうえで、111条1項の必要な処分として、実効性を確保するための必要性と、手段の相当性(社会通念上相当な態様か)を事案の事情で当てはめ、入室直後に呈示したことまで書きます。立会いを欠く執行は114条2項に反する違法で、その後に得た証拠の証拠能力は違法収集証拠排除法則の語につなげます。捜査機関の捜索差押えに弁護人の立会権がないこと(113条の不準用)は一文で触れれば足ります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。