写真・ビデオ撮影(容ぼうの撮影・防犯カメラとの照合)とは
しゃしんびでおさつえい
写真・ビデオ撮影とは、捜査機関が被疑者などの容ぼう・姿態や現場の状況を、本人の承諾を得ずにカメラで記録する捜査手法です。公道など他人から容ぼうを観察されること自体は受忍せざるを得ない場所での撮影は、犯人の特定のために必要な範囲で相当な方法により行われる限り、令状なしの任意捜査として許されます。
銀行の防犯カメラに写った人物が被疑者に似ているとき、警察は被疑者が街を歩いているところを本人に知られずに撮影し、映像と見比べます。誰でも自分の顔をみだりに撮られない自由を持っていますが、公道を歩く姿は周りの人に見られているのが普通で、撮られることで失われる利益はそれほど大きくありません。だから判例は、犯人を特定するために必要で、方法が相当であれば、令状なしの撮影を任意捜査として認めています。一方、留置場で被疑者を裸にして撮るような場面は別で、身体検査令状が要ります。どこで、誰を、どこまで撮るかで結論が分かれます。
京都府学連事件は、みだりに容ぼうを撮影されない自由を認めたうえで、現行犯性・緊急性・相当性があれば令状なしの撮影を許しました
最大判昭和44年12月24日は、デモ行進が許可条件に反して行われたので警察官が先頭集団の状況を写真撮影した事案で、憲法13条により「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由」を有するとしました。そのうえで、「現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるとき」は、本人の同意も令状もなく撮影でき、第三者の容ぼうが写り込んでも許されるとしました。この三つは、その事案で撮影が許される事情を示したものであって、それ以外の撮影を一切禁じたものではありません。
犯人の特定に必要な限度で、受忍せざるを得ない場所で行う撮影は、現行犯的な状況がなくても検証許可状なしでできます
最決平成20年4月15日は、強盗殺人等の事件で、防犯ビデオに写った人物と被告人の同一性を確かめるため、公道上を歩く被告人や不特定多数の客が集まるパチンコ店内の被告人をビデオ撮影した事案です。最高裁は、捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在し、犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため、これに必要な限度において、通常、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所で撮影したものだから、捜査目的を達成するため必要な範囲において、かつ相当な方法によって行われた適法な捜査活動だとしました。そして京都府学連事件の判決は、現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは撮影が許されないという趣旨まで判示したものではないと明言しています。「現に犯罪が行われ若しくは行われた後間がないと認められる場合であって、証拠保全の必要性及び緊急性があり、その撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行われるとき以外は許されない」という肢は誤りです。「被疑者の同意がある場合か、裁判官の令状がある場合以外には許容されない」という肢も誤りです。「被疑者が犯人である疑いを持つ合理的理由が存在する場合、検証許可状がなくても、犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手する手段として、これに必要な限度において、公道上を歩いている被疑者の容貌等を撮影することができる」という肢は正しいです。「あらかじめ令状の発付を受けていなければ適法と評価される余地のないもの」を数える問題では、「Aに知られずに、公道上を歩行中のAの容貌を写真撮影した」ことは令状なしでも適法と評価される余地があるので、数に入れません。撮影の適法性は、強制処分の意義の語で見た任意捜査の相当性の枠組みで判断します。
- デモ行進の違法な状況を現場で撮影した現行犯性・証拠保全の必要性と緊急性・相当な方法があり、令状なしで適法です(最大判昭和44年12月24日)
- 防犯ビデオの人物との同一性を確かめるため、公道上やパチンコ店内の被疑者をビデオ撮影した犯人である疑いを持つ合理的な理由があり、犯人特定に必要な限度で、受忍せざるを得ない場所での撮影なので、検証許可状なしで適法です(最決平成20年4月15日)
- 公道上を歩行中の被疑者の容貌を本人に知られずに写真撮影したあらかじめ令状がなくても適法と評価される余地があります
身体を拘束されている被疑者の顔写真は令状なしで撮影できますが、裸にして撮影するには身体検査令状が要ります
218条4項は、「身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない」と定めます(出題当時は同条3項でした)。逮捕・勾留という身体拘束が既に令状審査を経ており、着衣のままの顔写真や指紋の採取で新たに失われる利益は小さいので、身体の同一性を確認するために必要なこれらの処分は令状なしで認められています。「捜査機関が身体の拘束を受けている被疑者の顔写真を撮影するには、身体検査令状による必要はない」という肢は正しいです。「Xが甲の指紋を採取し、甲の顔写真を撮影するには、身体検査令状の発付を受ける必要がある」という肢と、「身体の拘束を受けている被疑者を写真撮影する場合、必ず身体検査令状によらなければならない」という肢は誤りです。他方、条文は「被疑者を裸にしない限り」と限定しています。裸にして身体を撮影することは身体の検査そのものなので、身体検査令状が要ります。「身体検査令状の発付を受けることなく、被疑者を全裸にしてその身体を写真撮影することができる」という肢は誤りです。身体の拘束を受けていない被疑者の指紋や写真を強制的に採ることも、この規定の外なので令状が要ります。
捜索差押えの現場の状況の撮影は付随処分として許され、対象外の物の撮影は検証の性質を持つので準抗告の対象になりません
捜索差押許可状を執行する現場では、令状を立会人に示している状況や、差し押さえるべき物が発見された場所と状態を写真に記録します。これは新たに証拠を探す行為ではなく、手続が適法に行われたことと押収物の同一性を後から示すための記録なので、令状の執行に「必要な処分」(222条1項が準用する111条1項)ないし捜索差押えに付随する処分として、別の令状なしに行えます。「捜索差押えに付随する処分として、捜索差押許可状を立会人に示している状況や、捜索の現場で差し押さえるべき物が発見された状況を写真撮影することができる」という肢は正しいです。これに対し、令状に記載された差し押さえるべき物に当たらない印鑑やティッシュペーパーなどを撮影することは、付随処分の範囲を超えます。最決平成2年6月27日は、こうした撮影は「それ自体としては検証としての性質を有する」ので、430条2項の準抗告の対象となる「押収に関する処分」には当たらず、撮影で得られたネガと写真の廃棄又は引渡しを求める準抗告は不適法だとしました。「これにより得られたネガ及び写真の廃棄又は引渡しを求める準抗告をすることができない」という肢は正しいです。撮影自体が違法でないという意味ではなく、違法を争う手段が準抗告ではないという判断です。
刑事訴訟法218条4項
身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。
最大判昭和44年12月24日
現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるとき
論文ではこう使う
写真・ビデオ撮影の適法性は、まず強制処分に当たるかを検討し、公道など受忍せざるを得ない場所での容ぼうの撮影は意思を制圧して重要な権利利益を侵害するものではないので任意捜査だと位置づけます。次に、みだりに容ぼうを撮影されない自由(憲法13条)への制約があることを認めたうえで、被疑者が犯人である疑いを持つ合理的な理由、犯人の特定という捜査目的のための必要性、撮影の場所・時間・方法の相当性を問題文の事実から拾って当てはめます。京都府学連事件の三要件は、現行犯的な状況がある事案で使い、ない事案では最決平成20年4月15日の枠組みで書きます。住居内を望遠レンズで撮影するような事案では、受忍せざるを得ない場所ではないので強制処分該当性から論じ直します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。