捜査段階の準抗告(429条・430条の対象)とは
そうさだんかいのじゅんこうこく
捜査段階の準抗告とは、裁判官がした勾留・保釈・押収・押収物の還付・鑑定留置などの裁判(刑事訴訟法429条)と、検察官・検察事務官・司法警察職員がした接見指定・押収・押収物の還付などに関する処分(430条)について、不服がある者がその取消し又は変更を裁判所に請求する手続です。
勾留を決めた裁判官に「この勾留はおかしい」と言いたいとき、あるいは警察に差し押さえられた物を返してほしいとき、どこに申し立てればよいかが問題になります。捜査段階では、まだ事件を審理する裁判所がありません。そこで、裁判官や捜査機関の個々の裁判・処分について、裁判所にその取消しや変更を求める準抗告という手続が置かれています。ただし何でも申し立てられるわけではなく、条文に並んだ裁判と処分だけが対象です。
裁判官の裁判に対する準抗告の対象は勾留・保釈・押収・押収物の還付・鑑定留置などで、逮捕状の発付は対象外です
裁判官が、忌避の申立てを却下する裁判、勾留・保釈・押収・押収物の還付に関する裁判、鑑定のため留置を命ずる裁判、証人等や身体検査を受ける者に過料・費用賠償を命ずる裁判をした場合に、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官の裁判なら管轄地方裁判所に、その他の裁判官の裁判ならその裁判官所属の裁判所に、取消し又は変更を請求することができます(刑事訴訟法429条1項)。請求を受けた地方裁判所は合議体で決定します(同条4項)。逮捕はこの一覧に入っておらず、判例も、逮捕に関する裁判とこれに基づく処分は429条1項各号の準抗告の対象となる裁判に含まれないとしています(最決昭和57年8月27日)。「逮捕状を発付した裁判に対して準抗告をすることができる」という肢は誤りで、準抗告の対象を選ぶ問題で「裁判官がした,逮捕状を発付する裁判」は当たらず、弁護人の活動で「逮捕状発付の裁判に対する準抗告」は法令上の根拠がないものに入ります。これに対し、裁判官がした検証に関する裁判も一覧に無いので準抗告できませんが、通信傍受法は裁判官がした通信の傍受に関する裁判の取消し・変更の請求を認めています。「刑事訴訟法では,裁判官がした検証に関する裁判の取消し又は変更を請求することはできないが,通信傍受法では…請求することができる」という肢は正しいです。
勾留に関する裁判には検察官も弁護人も準抗告でき、請求先は高等裁判所ではなく裁判官が所属する裁判所です
勾留に関する裁判には、勾留状を発する裁判だけでなく、勾留請求を却下する裁判、勾留期間を延長する裁判、勾留場所の指定も含まれます。検察官は勾留請求却下の裁判に準抗告できますが、請求先は地方裁判所の裁判官の裁判ならその地方裁判所であって、上級の裁判所ではありません。「地方裁判所の裁判官がした勾留請求を却下する裁判に対して高等裁判所に準抗告をすることができる」という肢は誤りです。弁護人は「不服がある者」に含まれ、勾留期間を延長する裁判に対して、やむを得ない事由(208条2項)がないことを理由に準抗告できます。「勾留されている被疑者の勾留の期間を延長する裁判に対して,準抗告をすることができる」という肢と、「「やむを得ない事由」がないことを理由として,準抗告をすることができる」という肢は正しいです。勾留場所の指定も勾留の裁判の内容なので、「被疑者の勾留場所を警察署の留置施設から拘置所に変更することを求めて裁判所に準抗告をすることができる」という肢は正しいです。なお、勾留に対しては犯罪の嫌疑がないことを理由とする抗告はできません(420条3項)。
捜査機関の処分に対する準抗告の対象は接見指定・押収・押収物の還付などの列挙された処分で、写真撮影や調書への署名は対象外です
検察官又は検察事務官のした39条3項の接見指定、押収、押収物の還付に関する処分に不服がある者は、その検察官等が所属する検察庁の対応する裁判所に、司法警察職員のした同じ処分に不服がある者は、職務執行地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に、取消し又は変更を請求できます(430条1項・2項)。令和7年改正で、電磁的記録提供命令、秘密保持命令(218条3項)と電磁的記録の複写に関する処分も対象に加わりました。出題当時の対象は接見指定・押収・押収物の還付の三つでした。「検察官がした,被疑者とその弁護人との接見の日時の指定」と「司法警察員がした差押え」は対象に当たり、「検察官の接見指定に対する準抗告」は弁護人の活動として法令上の根拠があります。対象は押収に関する処分なので、捜索は含まれず、「司法巡査がした捜索」は対象に当たりません。判例は、捜索差押えの際に「差し押さえるべき物」に当たらない印鑑などを写真撮影した行為は、それ自体としては検証としての性質を有するから430条2項の「押収に関する処分」に当たらないとして、ネガと写真の廃棄又は引渡しを求める準抗告を不適法としました(最決平成2年6月27日)。「ネガ及び写真の廃棄又は引渡しを求める準抗告をすることができない」という肢は正しいです。供述録取書への署名も押収ではないので、「被疑者が署名したことの取消しを求める準抗告をすることができる」という肢は誤りです。
- 429条 裁判官の裁判(対象)忌避却下/勾留(却下・延長・場所を含む)・保釈・押収・押収物の還付(令和7年改正で電磁的記録提供命令・複写に関する裁判を含む)/鑑定留置/証人等への過料・費用賠償/身体検査を受ける者への過料・費用賠償
- 429条 対象外逮捕状の発付(最決昭和57年8月27日)/裁判官の検証に関する裁判(通信傍受の裁判は通信傍受法で可)
- 430条 捜査機関の処分(対象)検察官・検察事務官・司法警察職員の接見指定・押収・押収物の還付。令和7年改正で電磁的記録提供命令・秘密保持命令・複写に関する処分が加わった
- 430条 対象外捜索/差し押さえるべき物に当たらない物の写真撮影(最決平成2年6月27日)/供述録取書への署名
第1回公判期日後に受訴裁判所がした裁判は準抗告ではなく抗告で争います
準抗告は「裁判官」の裁判に対するものです。公訴提起後第1回公判期日までは勾留に関する処分を裁判官が行うので(280条1項)、その間の保釈却下は準抗告の対象ですが、第1回公判期日後に保釈請求を却下するのは受訴裁判所なので、その決定には準抗告ではなく抗告で不服を申し立てます(420条2項)。「第1回公判期日後の保釈請求を却下する裁判に対して準抗告をすることができる」という肢は誤りで、準抗告の対象を選ぶ問題で「受訴裁判所がした,被告人の保釈請求を却下する裁判」は当たりません。抗告・即時抗告・準抗告の全体の仕組みは抗告・即時抗告・準抗告の語で扱います。
刑事訴訟法429条1項
裁判官が次に掲げる裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消し又は変更を請求することができる。
刑事訴訟法430条2項
司法警察職員のした前項の処分に不服がある者は、司法警察職員の職務執行地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所にその処分の取消し又は変更を請求することができる。
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