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任意取調べの限界(高輪グリーンマンション事件・長時間取調べ)とは

にんいとりしらべのげんかい

刑事訴訟法 取調べ・被疑者の防御

任意取調べの限界とは、逮捕・勾留によらずに行う被疑者の取調べが、任意捜査として許される範囲のことです。判例は、強制手段に当たらない取調べであっても、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度においてのみ許容されるとしています。

逮捕していない被疑者を警察署に呼び、朝から晩まで、ときには泊まり込みで取調べを続ける場面を考えてください。本人は帰りたいと言えば帰れる建前ですが、強い容疑をかけられて警察官に囲まれていれば、言い出しにくいものです。意思を制圧していないから強制処分ではないとしても、任意の取調べなら何時間でも何日でも許されるわけではありません。判例は、どこまでが任意捜査として相当かを、事案と容疑の程度と被疑者の態度から総合して判断する枠組みを示しました。

警察署の取調室の深夜の場面。窓の外は暗く、壁の時計は午前4時を指している。机をはさんで、警察官の男性(札「司法警察員」)と、疲れた様子の男性(札「被疑者(逮捕されていない)」)が座り、机の上に湯のみと「上申書」と書いた紙。先生が弁護士役(札

強制手段に当たらない取調べでも、社会通念上相当と認められる方法・態様・限度でなければ許されません

任意捜査では、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を用いることは許されません。それにとどまらず、判例は、任意捜査の一環としての被疑者の取調べは、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において許容されるとしています(最決昭和59年2月29日)。強制処分かどうかの判断と、任意処分としての相当性の判断は二段階になっていて、強制処分でないと言えただけでは適法になりません。他方で、任意捜査だからといって有形力の行使が全く許されないわけでもなく、「任意捜査であるからといって有形力の行使が全く許されないわけではなく,X巡査部長の甲に対する行為が許容される場合もある」という肢は正しいです。強制処分と任意処分の線引きそのものは、強制処分の意義の語で扱います。

4泊5日の宿泊を伴う取調べは、方法として妥当とはいい難いが、違法とまでは断じ難いとされました

殺人事件で自ら警察署に出頭してアリバイを述べた被疑者が、それが虚偽と分かったあと任意同行を求められ、捜査官が手配した宿泊施設に4泊しながら連日取調べを受けて自白した事案で、判例は、この宿泊を伴う取調べは方法として必ずしも妥当なものとはいい難いとしながら、被疑者が宿泊や取調べを拒んで帰宅を申し出た形跡がないことなどから、任意捜査として許容される限度を超えた違法なものとまでは断じ難いとしました(最決昭和59年2月29日)。「違法ではない」と言い切ったのではなく、「違法とまでは断じ難い」という言い回しであることに意味があります。帰宅を申し出ていれば結論が変わり得たということです。

深夜の任意同行から徹夜で続いた長時間の取調べも、事情を総合して適法とされましたが、容易には是認できないと釘を刺されています

被害者と同居していた被疑者を深夜に警察署へ任意同行し、本人が捜査への協力を約したことから夜を徹して取調べを続け、翌朝に自白を得たあとも上申書の作成などで取調べを続け、同日夜に通常逮捕した事案で、判例は昭和59年決定の枠組みを確認したうえで、徹夜で、自白後もほぼ半日続いたこのような長時間の取調べは被疑者の心身に多大の苦痛と疲労を与えるものであるから、特段の事情がない限り容易には是認できず、自白後速やかに逮捕手続をとって取調べを中断する方途もあったとして、適法性の肯認には慎重を期すべきだとしました。それでも、被疑者が当初参考人として自ら取調べを承諾していたこと、逮捕の時間制限を潜脱する意図がなかったこと、取調べの拒否や休息の申出がなかったこと、事案の性質と重大性を総合勘案して、社会通念上許容される限度を逸脱したとまでは断じられず、自白の任意性にも疑いを生じさせないとしました(最決平成元年7月4日)。この判例は、任意同行から逮捕までの20時間を超える取調べの事案として引かれます。

  • 4泊5日の宿泊を伴う取調べ(昭和59年)方法として妥当とはいい難いが、帰宅を申し出た形跡がなく、違法とまでは断じ難い
  • 深夜の任意同行からの徹夜・20時間超の取調べ(平成元年)特段の事情がない限り容易に是認できないが、自ら承諾・潜脱意図なし・拒否や休息申出なし・事案重大を総合して、限度を逸脱したとは断じ難い
  • 考慮される事情事案の性質と重大性/容疑の程度/被疑者の態度(承諾・拒否・帰宅や休息の申出)/時間帯と時間の長さ/宿泊や監視の有無/逮捕手続をとって中断する方途があったか
大学の教室の場面。先生が教師役(札「刑事訴訟法」)で黒板の前に立ち、黒板に二段の図。上段「①任意同行・留め置きは実質的な逮捕か(意思の制圧)」、そこから下向きの矢印に「当たらなくても」と添え、下段「②任意の取調べとして社会通念上相当な限度か

まず任意同行が実質的な逮捕に当たるかを見て、当たらなくても任意取調べの限度を超えていないかを見ます

任意同行から取調べへ続く事例では、検討の順序が決まっています。はじめに、同行や留め置きが被疑者の意思を制圧していて実質的な逮捕に当たるかを見ます。「甲に対する任意同行が適法であるためには,甲の任意の承諾の下,その意思を制圧することなく行われたことを要する」という肢は正しいです。実質的な逮捕に当たれば、令状のない違法な逮捕としてその時点から時間制限が走り、その後の手続の適法性に影響します。実質的な逮捕に当たらない場合でも、取調べの時間、場所、宿泊や監視の有無、被疑者の態度から、任意取調べとして相当な限度を超えていないかを見ます。この二段目がこの語の規範です。限度を超えて違法と評価されても、その取調べで得た供述調書の証拠能力が当然に否定されるわけではなく、自白の任意性と違法収集証拠の排除の問題として別に判断します。「実質的な逮捕があったと認定された場合,そのことのみで甲の供述調書の証拠能力は当然に否定される」という肢は誤りです。任意同行と実質的逮捕の判断は任意同行と実質的逮捕の語で、違法な取調べと自白の証拠能力は自白の任意性と違法収集証拠排除法則の語で扱います。

刑事訴訟法197条1項

捜査については、その目的を達するため必要な取調べをすることができる。ただし、強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない。

最決昭和59年2月29日

任意捜査の一環としての被疑者に対する取調べは、右のような強制手段によることができないというだけでなく、さらに、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において、許容されるものと解すべきである。

論文ではこう使う

任意同行後の取調べの適法性は、①任意同行と留め置きが意思を制圧した実質的な逮捕に当たるか、②当たらないとしても、任意捜査としての取調べが「事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度」にとどまるか、の順で書きます。②の当てはめでは、時間帯と時間の長さ、宿泊や監視、帰宅や休息の申出の有無、自白後に逮捕して中断する方途があったか、事案の重大性を拾い、長時間・徹夜の取調べは特段の事情がない限り容易に是認できないという判例の評価を引きます。違法と評価したときは、自白の任意性と排除法則に進みます。

試験ではこう問われる

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