自白の任意性が争われる類型と派生証拠とは
じはくのにんいせいがあらそわれるるいけいとはせいしょうこ
自白の任意性が争われる類型とは、起訴猶予の約束、偽計(切違え尋問)、手錠をかけたままの取調べ、接見の制限、黙秘権の不告知、違法な身体拘束や取調べの下での自白など、取調べの態様から任意性に疑いが生じるかが問題になる場面をいいます。派生証拠とは、不任意自白を手がかりに発見された証拠物や、不任意自白の後に繰り返された自白(反復自白)のように、不任意自白から生じた証拠をいいます。
殴られたわけでも脅されたわけでもないのに、任意性が問題になる自白があります。「素直に認めれば起訴猶予にする」と検察官に言われて期待して話した自白、「奥さんはもう認めているよ」と嘘を言われて観念した自白、両手に手錠をかけられたまま受けた取調べでの自白です。どれも本人が口を開いた形にはなっていますが、口を開かせたのは処分の約束や嘘や拘束の圧迫です。判例は、場面ごとにどこまでなら任意性に疑いが生じるかを積み重ねてきました。そうした自白をもとに見つかった凶器や、後に繰り返された自白の扱いもここで問題になります。
起訴猶予を期待してした自白と、偽計によって心理的強制を受けた自白は、任意性に疑いがあります
最判昭和41年7月1日は、起訴不起訴の決定権を持つ検察官が自白をすれば起訴猶予にする旨を述べ、被疑者がその言葉を信じ、起訴猶予になることを期待してした自白は、任意性に疑いがあるものとして証拠能力を欠くとしました。約束が検察官から直接ではなく弁護人を介して伝えられた場合でも結論は変わりません。処分の約束は、真実かどうかにかかわらず認める方向へ供述を誘導するからです。最大判昭和45年11月25日(切違え尋問事件)は、妻が共謀を認めていないのに「妻は自供している」と虚偽を告げて被疑者に共謀を認めさせた事案で、捜査官が偽計を用いて被疑者を錯誤に陥れ自白を獲得するような尋問方法は厳に避けるべきだとしたうえで、偽計によって被疑者が心理的強制を受け、その結果虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合には、その自白は任意性に疑いがあるものとして証拠能力を否定すべきであり、これを証拠に採用することは319条1項に違反し、ひいては憲法38条2項にも違反するとしました。偽計がすべて直ちに排除につながるのではなく、心理的強制と虚偽誘発のおそれが基準です。この事案では、共謀を認めれば妻が処罰を免れるかもしれないという暗示も疑われ、虚偽の自白が誘発されるおそれの疑いが濃厚だとされました。違法排除説からは、偽計による供述は手段の違法性で判断するので、「供述者の主観的な心理状態に影響を及ぼした疑いがある場合に限り,証拠能力が否定される」という記述はこの見解の帰結ではありません。
手錠をかけたままの取調べでの自白は、反証のない限り任意性に疑いがあると推定されます
最判昭和38年9月13日は、すでに勾留されている被疑者が取り調べられる際にさらに手錠を施されたままであるときは、その心身に何らかの圧迫を受け、任意の供述は期待できないものと推定され、反証のない限りその供述の任意性につき一応の疑いを差し挟むべきだとしました。原則として任意性に疑いがあるという推定を置き、取調べが終始おだやかな雰囲気の中で進められ供述がすべて任意にされたという反証があれば覆るという構造です。この事件では反証が立証されているとして任意性が肯定されました。手錠という物理的な拘束の圧迫を重く見つつ、一律に排除はしない扱いです。
接見の制限や黙秘権の不告知は、それだけで直ちに任意性を否定する事情ではなく、他の事情と合わせて判断します
最決平成1年1月23日は、弁護人との接見について接見指定の措置に問題があったとしても、それが直ちに自白の証拠能力を失わせるのではなく、接見交通権の制限を含めて検討しても任意性に疑いはないとした原審の判断を相当としました。自白が弁護人との接見の直後にされ、それ以前にも複数の弁護人が接見していたという、弁護人との接見の機会が現に確保されていたことが重視されています。黙秘権の不告知について、浦和地判平成3年3月25日は、黙秘権の告知がなかったからといって直ちにその後の供述の全ての任意性が否定されることにはならないとしつつ、黙秘権は憲法38条1項に由来する基本的で重要な権利であり告知は取調べの機会ごとに必要だとして、取調べ期間中一度も告知がなかったと疑われる事案では、不告知は取調官に黙秘権を尊重する基本的態度がなかったことを象徴し、心理的圧迫からの解放がなかったことを推認させる事情として任意性判断に重大な影響を及ぼすとし、自白調書の証拠能力を否定しました。接見の制限も黙秘権の不告知も、それ自体が排除事由なのではなく、供述時の状況を総合する中で重い事情として働きます。
違法な身体拘束や任意捜査の限界を超えた取調べの下での自白は、任意性とは別に違法収集証拠排除法則で排除されることがあります
東京高判平成14年9月4日は、任意同行以来、連日長時間の取調べを受け、夜間も警察官の監視下で宿泊させられて事実上の身柄拘束に近い状況に置かれた末にされた自白について、捜査方法は任意捜査として許容される限界を超えて違法であるとしたうえで、自白を内容とする供述証拠についても証拠物と同様に違法収集証拠排除法則を採用できない理由はなく、手続の違法が重大で証拠とすることが違法捜査抑制の見地から相当でない場合には証拠能力を否定すべきだとして、自白の証拠能力を否定しました。手続過程の違法が問題となる場合には、取調方法自体の強制等の有無を個別に判断する任意性判断に先行して排除法則の適用を検討する方が基準として明確だとも述べています。別件逮捕・勾留中の取調べで得られた自白についても、身体拘束が違法と評価されれば、その拘束下の自白は任意性の問題とは別に違法収集証拠として排除され得ます。別件逮捕・勾留が適法かどうかの判断枠組みは別件逮捕・勾留の語で、排除法則の要件は違法収集証拠排除法則の語で扱います。
不任意自白に基づいて発見された証拠物と反復自白は、先行する自白との結び付きの強さで排除の範囲が決まります
不任意自白を手がかりに凶器が発見された場合、その凶器を証拠にできるかが派生証拠の問題です。大阪高判昭和52年6月28日は、不任意自白がなければ派生証拠もなかったという条件関係があれば足りるとする考え方は広きに失するとし、自白採取の違法が派生証拠まで排除させるほど重大かを問うべきで、拷問等の直接的な人権侵害を伴う場合と異なり、虚偽自白のおそれや適正手続違反にとどまる場合は、犯罪解明という公共の利益との比較衡量により排除の範囲を定めるとし、重大な犯罪の解明に不可欠な証拠には排除の効果は及ばないとしました。虚偽排除説に立っても、不任意自白に基づき発見された物は、その物と犯罪事実との関連性が不任意自白によらなければ証明されない場合には証拠として許容されません。物自体に虚偽混入のおそれがなくても、関連性の立証に不任意自白を使うことは不任意自白を証拠にするのと同じだからです。「Ⅱの見解によったとしても,不任意自白に基づき発見された物は,関連性が不任意自白によらなければ証明されない場合,証拠として許容されない。」という記述は、虚偽排除説の帰結として正しいです。先行する不任意自白の後に繰り返された自白(反復自白)は、先行自白の影響が遮断されたかで判断します。取調官が代わっても、先に自白してしまったという心理状態が続いていれば影響は遮断されず、弁護人との接見を経て、別の機関の前で改めて黙秘権を告げられたうえでされたといった事情があれば遮断されたと評価しやすくなります。
- 検察官の起訴猶予の内意を信じ、起訴猶予を期待してした自白任意性に疑いがあり証拠能力を欠きます。弁護人を介して伝えられても同じです(最判昭和41年7月1日)
- 共犯者が自供したと偽って自白させた(切違え尋問)偽計により心理的強制を受け虚偽の自白が誘発されるおそれがあれば任意性に疑いがあり、319条1項・憲法38条2項に違反します(最大判昭和45年11月25日)
- 勾留中に手錠を施されたままの取調べでの自白反証のない限り任意性に疑いがあると推定されます。穏やかな取調べの反証があれば覆ります(最判昭和38年9月13日)
- 接見指定に問題があった状況での自白接見の制限を含めて総合判断し、接見の機会が確保されていれば任意性は否定されません(最決平成1年1月23日)
- 取調べ期間中一度も黙秘権を告知されなかった直ちに全ての任意性が否定されるわけではありませんが、任意性判断に重大な影響を及ぼす事情になります(浦和地判平成3年3月25日)
- 事実上の身柄拘束に近い状況での連日の取調べの末の自白任意捜査の限界を超えた違法な手続として、違法収集証拠排除法則により証拠能力が否定されます(東京高判平成14年9月4日)
- 不任意自白に基づいて発見された証拠物自白採取の違法の重大性と公共の利益との比較衡量で排除の範囲を決めます(大阪高判昭和52年6月28日)
最大判昭和45年11月25日
偽計によって被疑者が心理的強制を受け、その結果虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合には、右の自白はその任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を否定すべきであり、このような自白を証拠に採用することは、刑訴法三一九条一項の規定に違反し、ひいては憲法三八条二項にも違反するものといわなければならない
論文ではこう使う
任意性の当てはめでは、取調べの態様を事実ごとに拾い、それぞれが判例のどの類型に近いかを示します。処分の約束や偽計があれば、認める方向への誘導と虚偽誘発のおそれを、身体拘束の長さや手錠・接見制限・黙秘権不告知があれば、心理的圧迫の有無とそれを和らげる事情(接見の機会、休憩、告知)の有無を書き、最後に供述時の状況を総合して任意性に疑いがあるかを結論づけます。身体拘束そのものが違法な事案では、任意性とは別に違法収集証拠排除法則の検討を立て、派生証拠については先行する違法との関連性の程度と違法の重大性で排除の範囲を論じます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。