証拠の分類(直接・間接、供述・非供述、実質・補助、証拠能力と証明力)とは
しょうこのぶんるい
証拠の分類とは、集まった証拠を裁判で果たす役割の違いで分けることです。直接証拠とは犯罪事実を直接に証明する証拠をいい、間接証拠(情況証拠)とは間接事実を証明しそこからの推認を介して犯罪事実を証明する証拠をいい、このほか人の供述を内容とするか(供述証拠・非供述証拠)、犯罪事実の証明に使うか他の証拠の証明力に向けるか(実質証拠・補助証拠)、法廷で使える資格があるか(証拠能力)とどれだけ信じられるか(証明力)という軸で分けます。
マンションの一室で人が刺された事件で、警察は防犯カメラの映像、隣人の話、血の付いた包丁、犯行を見ていた人の話を集めます。どれも「証拠」ですが、裁判で果たす役割は同じではありません。目撃者の「甲がVを刺した」という話は、信じられれば犯罪事実がそのまま決まります。防犯カメラに映った「包丁を持って部屋に向かう甲」は、犯人らしいという推認を生むだけです。この違いが直接証拠と間接証拠の分け方で、裁判所がどの証拠をどう使って事実を認定するかという証拠構造の読み方の出発点になります。
直接証拠は犯罪事実をそのまま述べる証拠で、間接証拠は間接事実からの推認を挟みます
直接証拠とは、犯罪事実(殺人なら、刺した行為・死亡・因果関係・殺意)を他の事実を介さずに直接証明する証拠です。犯行を見ていた目撃者の供述と、被告人自身の自白がその典型です。間接証拠(情況証拠とも呼びます)とは、動機・現場への出入り・凶器の所持といった間接事実を証明し、その間接事実から経験則で犯罪事実を推認させる証拠です。間接証拠は一つ一つの証明力が弱くても、積み重ねれば有罪の認定に十分なことがあります。甲がV方でVを包丁で刺殺した事例で、「甲は,Vを包丁で刺して殺しました。」という目撃者Aの供述を録取した検察官調書は、犯罪事実そのものを述べているので直接証拠に当たります。これに対し、犯行の2分前に「包丁を持った甲がHマンション1階でエレベーターに乗り,4階で降りた後,401号室方向に向かう状況」を撮影した防犯カメラ映像、隣室のBが聞いた「おい,甲,包丁で何するんだ。やめろ。」というVの声、「Vの血液及び甲の指紋が付着した包丁」は、いずれも甲が凶器を持って現場にいたという間接事実を示すだけで、刺す行為そのものは写しても述べてもいないので、直接証拠には当たりません。知人Cの「甲がVを殺したことに間違いないと思う。」という供述は、見聞に基づかない推測や意見であって、証人は自ら経験した事実から推測した事項しか供述できません(156条1項)から、そもそも犯罪事実の証拠になりません。「Vのことを恨んでいた」という部分も動機という間接事実を示すだけです。被告人甲が作成した「V宅でVを包丁で突き刺した旨」の供述書は自白なので直接証拠であり、被害者の妻が叫び声を聞いて倒れているVを見つけたという供述、検証の結果を記載した書面、遺留された包丁、血液のDNA型がVと一致するという鑑定書、前日の口論を記した日記は、どれも間接証拠です。「直接証拠とは,犯罪事実の存在を直接証明する証拠であるから,aからfの中で,直接証拠は,aのみである。」という肢は正しいです。
- 犯行を見ていた目撃者の「甲がVを刺して殺した」という供述直接証拠です
- 被告人自身の「V宅でVを包丁で突き刺した」という供述書(自白)直接証拠です
- 包丁を持って現場の部屋に向かう甲を写した防犯カメラ映像間接証拠です(現場に凶器を持って臨んだという間接事実)
- 隣室の住人が聞いた「おい,甲,包丁で何するんだ。やめろ。」というVの声間接証拠です(犯行直前の現場の状況という間接事実)
- Vの血液と甲の指紋が付いた包丁、血液のDNA型がVと一致する鑑定書間接証拠です(凶器と被害者・被告人の結び付き)
- 被告人の日記の「Vと口論となった挙句,拳で顔面を殴られた。許せない。」という記載間接証拠です(動機)
- 知人の「甲がVを殺したことに間違いないと思う」という供述経験した事実に基づかない意見なので、犯罪事実の証拠になりません(156条1項)
供述証拠か非供述証拠かで伝聞法則がかかるかが決まり、被告人が自分で書いた供述書も伝聞証拠です
人が知覚し、記憶し、表現した内容を証拠にするものが供述証拠で、物の形状や映像そのもののように人の供述を介さないものが非供述証拠です。供述証拠には知覚・記憶・表現の各過程に誤りが入り込む危険があるので、公判期日外の供述を内容とする証拠は、反対尋問による吟味を経ないまま使うことができず、321条以下の例外に当たるときだけ証拠にできます(320条1項)。この危険は供述者が被告人本人でも変わりません。「aは,甲が体験した事実を,甲自ら記載した書面であるから,伝聞証拠には当たらない。」という肢は誤りです。被告人の供述書は322条1項の要件で証拠能力が認められる余地があるだけで、伝聞証拠であることは否定されません。防犯カメラ映像や凶器の包丁は非供述証拠なので伝聞法則の適用はなく、事件との関連性があれば証拠能力があります。実質証拠と補助証拠の区別は、犯罪事実の存否の証明に向けられた証拠か、他の証拠の証明力を高めたり弾劾したりするための証拠(328条の証明力を争う証拠など)かの区別です。
証拠書類は朗読で、証拠物は展示で取り調べ、記載内容が証拠になる物は両方を要します
証拠の形による分類は取調べの方法を決めます。供述録取書や鑑定書のように書面の記載内容が証拠になるものが証拠書類で、その取調べは朗読によります(305条1項。実務では要旨の告知で代えることが規則で認められています)。凶器のように物の存在や形状が証拠になるものが証拠物で、その取調べは展示(示すこと)によります(306条1項)。一つの物が両方の性質を持つことがあります。被告人宅から押収した日記は、押収場所や筆跡を問題にする限りは証拠物ですが、「Vと口論となった挙句,拳で顔面を殴られた。許せない。」という記載内容から動機を立証するなら、書面の意義が証拠になる証拠物なので、展示に加えて朗読も要ります(307条)。「fの記載内容を立証する場合であっても,これを朗読する必要はない」という肢は誤りです。
証拠能力は法廷で使える資格、証明力はどれだけ信じられるかで、別々に判断します
証拠能力とは、証拠として公判で取り調べ、事実認定に使うことができる法律上の資格です。伝聞法則・自白法則・違法収集証拠排除法則は、この証拠能力を奪う規律です。証明力とは、証拠能力のある証拠が要証事実をどの程度確からしくするかという実質的な価値で、その評価は裁判官の自由な判断に委ねられます(318条)。事実の認定は証拠によらなければなりません(317条)が、ここでいう証拠は証拠能力があり適式な証拠調べを経たものを指します。直接証拠か間接証拠かは証明の構造に着目した分類で、証拠能力の有無とは別の問題です。直接証拠である目撃者の検察官調書も、伝聞証拠として321条1項2号の要件を満たさなければ証拠能力がありませんし、証拠能力があっても信用できなければ証明力はありません。この二つを分けて考えることが、科学的証拠や自白の問題を読むときの前提になります。
刑事訴訟法317条
事実の認定は、証拠による。
刑事訴訟法318条
証拠の証明力は、裁判官の自由な判断に委ねる。
刑事訴訟法307条
証拠物中書面の意義が証拠となるものの取調をするについては、前条の規定による外、第三百五条の規定による。
論文ではこう使う
事実認定を論じる答案では、まず与えられた証拠を直接証拠と間接証拠に分け、直接証拠があればその証拠能力(伝聞・自白法則)と信用性を、無ければ間接事実をいくつ認定でき、そこから犯罪事実をどこまで推認できるかを書きます。「包丁に甲の指紋が付いていた」という間接事実は、犯行以前に触れた可能性を排除しない限り犯人性を決めないというように、推認の強さを経験則で評価するのが答案の中身です。証拠能力の問題と証明力の問題を混ぜず、証拠能力を先に片付けてから証明力を論じます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。