科学的証拠(DNA型鑑定・臭気選別・ポリグラフ)とは
かがくてきしょうこ
科学的証拠とは、DNA型鑑定・警察犬による臭気選別・ポリグラフ検査のように、科学的な原理や技術を用いて得られた検査結果を内容とする証拠をいいます。その証拠能力は、科学的原理が理論的正確性を持ち、具体的な実施方法がその技術を習得した者により科学的に信頼される方法で行われたかで判断し、どれだけ信じられるかという証明力とは分けて考えます。
現場に残された体液のDNA型が被告人と一致した、警察犬が被告人の臭いを選び出した、うそ発見器の反応が出たという結果は、一般の人には中身を検証できないぶん、法廷で強い説得力を持ちます。だからこそ、原理そのものが怪しい検査や、腕の確かでない人がいい加減に行った検査まで証拠にしてしまうと、誤判の危険が大きくなります。判例は、科学的証拠を一律に受け入れるのでも拒むのでもなく、原理が正しいか、方法が信頼できるかという入口の審査を通ったものだけを証拠にし、どれだけ重く見るかはその先の問題として分けて扱います。
DNA型鑑定は、科学的原理が理論的正確性を持ち、実施方法が科学的に信頼される方法であれば証拠能力があります
最決平成12年7月17日(足利事件)は、MCT118型のDNA型鑑定について、その科学的原理が理論的正確性を有し、具体的な実施の方法も、その技術を習得した者により、科学的に信頼される方法で行われたと認められるとして、証拠として用いることを許した原判断を相当としました。原理の理論的正確性と、技術を習得した者による科学的に信頼される実施方法という二つの視点が、科学的証拠の証拠能力の枠組みです。同じ決定は、その証拠価値については、その後の科学技術の発展により新たに解明された事項等も加味して慎重に検討されるべきだという留保を付けました。証拠能力があることと、その結果をどれだけ信じてよいかは別の問題で、後者は自由心証の下で慎重に評価されます。この事件は後に再審が開始され、新たな検査法によるDNA型鑑定で当時の鑑定の信頼性が否定されて無罪が確定しました。証拠能力の入口を通っても証明力の評価を誤れば誤判に至るという教訓になっています。
警察犬の臭気選別は、専門的な指導手が優れた犬を使って適正に実施すれば証拠能力があり、報告書は321条3項の書面として扱います
最決昭和62年3月3日は、犬の臭気選別の仕組みが科学的に解明されていないことを理由に一律に証拠能力を否定せず、専門的な知識と経験を有する指導手が、臭気選別能力に優れ選別時の体調等も良好な警察犬を使用して実施したものであり、かつ臭気の採取、保管の過程や臭気選別の方法に不適切な点のないことが認められる以上、その選別結果を犯人と被告人との同一性の認定に用いることは許されるとしました。そのうえで、選別の経過及び結果を記載した報告書については、選別に立ち会った司法警察員がこれを正確に記載したものであることをその証言によって明らかにしたときは、321条3項により証拠能力が付与されるとしました。報告書は、立会人が犬の挙動という外界の事象を五官で観察して記録した書面なので、実質は検証の結果を記載した書面と同じだからです。「警察犬による臭気選別の経過及び結果を記載した報告書は,選別に立ち会った司法警察員が臭気選別の経過と結果を正確に記載したものであることを証言によって明らかにすれば,同条第3項により証拠能力を付与される。」という肢は正しいです。この決定も、犬の資質や指導手の能力、選別の手順を検討して信用性を肯定しており、証拠能力の枠組みと証明力の評価を分けています。
ポリグラフ検査結果回答書は、被検者の同意の下で適正に行われ、同意があれば証拠能力が認められます
ポリグラフ検査は、質問に対する呼吸・脈拍・皮膚電気反射などの生理的反応を測定して供述の信用性等を判断する資料を得る手法です。最決昭和43年2月8日は、被検者の同意の下に行われたポリグラフ検査の結果を記載した回答書について、検査者の技術・経験、使用した器具の性能、検査の経過と結果が忠実に記載されていることなど信用性の情況的保障があることを前提に、326条1項の同意があれば証拠能力を認め得るとしました。検査結果の記載は人の判断を含むので、現場写真のような非供述証拠としてではなく、同意書面として証拠能力の有無を考えます。検査の実施自体は、本人の協力なしにはできず身体への実質的な侵襲も伴わないので、同意を得て行う限り強制処分ではなく、令状なしに行えます。DNA型検査のための口腔内細胞の採取も、相手の意思に反して行えば身体検査令状と鑑定処分許可状を要する強制処分ですが、同意に基づいて採取すれば強制処分ではなく、領置と鑑定の嘱託で処理できます。「Aの同意に基づいて採取した口腔内細胞を試料として,AのDNA型を検査した。」という捜査と、「Aに対し,Aの同意に基づいてポリグラフ検査を実施した。」という捜査は、いずれもあらかじめ令状の発付を受けていなくても適法と評価される余地があります。同意は真意に基づくものであることを要し、長時間の取調べの中で事実上応じざるを得ない状況で実施すれば任意捜査としての相当性を欠きます。
- DNA型鑑定科学的原理の理論的正確性と、技術を習得した者による科学的に信頼される実施方法があれば証拠能力があります。証拠価値は科学技術の発展も加味して慎重に検討します(最決平成12年7月17日)
- 警察犬による臭気選別専門的な知識と経験を有する指導手が、能力に優れ体調の良好な犬を使い、臭気の採取・保管・選別の方法に不適切な点がなければ、同一性の認定に用いることができます。報告書は立会いの司法警察員の証言により321条3項で証拠能力が付与されます(最決昭和62年3月3日)
- ポリグラフ検査結果回答書被検者の同意の下で検査者の技術・器具・経過と結果の正確な記載があれば、326条1項の同意により証拠能力が認められます(最決昭和43年2月8日)
- 同意に基づく口腔内細胞の採取とDNA型検査・同意に基づくポリグラフ検査強制処分に当たらず、令状なしで行えます。意思に反して採取するなら身体検査令状と鑑定処分許可状を要します
証拠能力の入口の審査と、どれだけ信じるかという証明力の評価は分けて考えます
科学的証拠に共通するのは、証拠能力の判断を原理と方法の信頼性という入口に限り、個々の検査結果の重みは自由心証(318条)の下で評価するという構造です。入口を通った鑑定の結果であっても、試料の汚染や採取・保管の過程の不備、検査者の判断の誤りがあれば証明力は下がりますし、他の証拠との整合も見なければなりません。逆に、原理が確立していない手法や、技術を持たない者が行った検査は、結果がどれほど被告人に不利でも証拠能力の段階で排除されます。鑑定人の鑑定書の証拠能力(321条4項)や、裁判所が命じる鑑定の手続、捜査機関の鑑定嘱託と鑑定処分許可状はそれぞれの語で扱います。
刑事訴訟法321条3項
検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
論文ではこう使う
科学的証拠の許容性を論じるときは、まず問題の証拠が人の供述を含むか(鑑定書・検査回答書は供述証拠、現場写真は非供述証拠)を見て伝聞法則との関係を整理し、次に科学的証拠としての証拠能力を、原理の理論的正確性と、技術を習得した者による科学的に信頼される実施方法という最決平成12年7月17日の二つの視点で検討します。臭気選別なら指導手の専門性・犬の能力と体調・採取保管選別の方法の適切さを事案の事実で当てはめます。証拠能力を肯定した後に、証明力の評価は別途慎重に行うべきことを一言添えると、判例の構造どおりの答案になります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。