択一的認定・概括的認定とは
たくいつてきにんていがいかつてきにんてい
択一的認定とは、審理を尽くしても事実がAかBかを確定できないときに、「A又はB」という形で罪となるべき事実を認定することをいいます。概括的認定とは、犯行の手段や方法などの細部を特定せず、構成要件に該当すると判定できる程度に幅を持たせて認定することをいいます。
二人が共謀して人を殺したことは証拠から間違いないのに、どちらが手を下したのかだけが最後まで分からないことがあります。手を下した人を決められないからといって二人とも無罪にするのは、共謀が認められる以上おかしな結論です。そこで裁判所は「甲又は乙あるいはその両名が実行した」と幅を持たせて認定します。これが択一的認定で、同じ殺人罪の中で誰が実行したかを決めかねているだけなら罪も刑も変わらないので許されます。問題は、生きていたか死んでいたかが分からず、成立する罪が二つの候補にまたがるときです。
同じ構成要件の中での択一的認定や概括的認定は、罪となるべき事実の特定を欠きません
有罪判決には罪となるべき事実を示さなければなりません(335条1項)が、要求されるのは、その事実が他の犯罪事実と区別でき、適用する罰条との対応が分かる程度の特定です。被告人とAの間に殺人の共謀が認められるなら、実行したのが被告人でもAでも両名でも、二人とも殺人罪の共同正犯であることに変わりなく、罪名も法定刑も同じです。最決平成13年4月11日は、実行行為者につき「A又は被告人あるいはその両名」と認定して罪となるべき事実として判示した第一審の判断を是認しました。「審理を尽くしても実行行為者を特定するに至らなかった場合には,裁判所は,実行行為者につき,『被告人若しくはA又はその両名』と認定し,その旨を罪となるべき事実として判示することが,許されることがある。」という肢は正しいです。許されるのは審理を尽くしてもなお特定できない場合であって、最初から特定を怠ってよいわけではありません。手段や方法の細部についても同じで、最決昭和58年5月6日は、殺人未遂の罪となるべき事実として手段を「有形力を行使して」と判示するにとどめた第一審判決について、殺人未遂罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにしているとして、理由不備の違法を否定しました。このような概括的認定は、構成要件該当性を判定できる程度の具体性があれば足ります。
訴因で実行行為者を特定した後に択一的に認定するには、原則として訴因変更を要しますが、例外があります
択一的認定が罪となるべき事実の特定として許されることと、訴因との関係でそのまま認定してよいことは別の問題です。最決平成13年4月11日は、殺人罪の共同正犯の訴因では実行行為者が明示されていなくても罪となるべき事実の特定に欠けないので、審判対象の画定の見地からは訴因変更を要しないとしつつ、実行行為者は一般的に被告人の防御にとって重要な事項なので、検察官が訴因で実行行為者を明示した以上、判決で実質的に異なる認定をするには原則として訴因変更手続を要するとしました。そのうえで、被告人に不意打ちを与えるものではなく、かつ判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に訴因変更手続を経ずに認定しても違法ではないとしました。検察官が「殺害の実行行為者を甲と特定する旨の訴因変更をした後」に、裁判所が「被告人甲又は乙あるいはその両名において」と択一的に認定した事案では、実行行為者が主要な争点として審理されていたので不意打ちはなく、甲単独の実行より甲又は乙の実行という認定の方が被告人に不利益とはいえないため、訴因変更なしの認定も違法ではありません。「必ず訴因変更の手続を経なければならず,その手続を経ないで認定した場合には訴訟手続の法令違反がある」という肢は誤りです。訴因変更の要否の一般的な枠組みは、訴因変更の要否の語で扱います。
異なる構成要件にまたがる択一的認定は、無罪説・択一的認定説・軽い罪の認定説が対立します
保護責任者遺棄致死罪で起訴された被告人について、遺棄した当時に被害者が生きていたか死んでいたかが判明せず、保護責任者遺棄致死罪か死体遺棄罪かのどちらかが成立することは疑いがないが、どちらかは確定できないという場面が典型です。生きていれば保護責任者遺棄致死罪(刑法219条)、死んでいれば死体遺棄罪(刑法190条)で、構成要件が異なり法定刑も違います。ここでは三つの見解が対立します。見解Ⅰは無罪判決を言い渡すべきだとする見解です。特定の犯罪に当たる事実がどちらも合理的な疑いを超えて証明されていない以上、有罪にはできないという考え方です。見解Ⅱは、保護責任者遺棄致死罪又は死体遺棄罪のいずれかの事実が認定できるという択一的認定をして有罪とし、量刑は軽い死体遺棄罪の刑によるべきだとする見解です。どちらかであることは疑いがない以上、軽い罪の刑で処罰するなら「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反しないというのがこの見解の説明です。見解Ⅲは、軽い死体遺棄罪の事実を認定して有罪とすべきだとする見解です。どちらかが成立することは疑いがない状況で重い保護責任者遺棄致死罪の事実が認定できないなら、死体遺棄罪が疑いなく証明されたと考えるべきだという論理で、重い罪の構成要件事実が認定できないことを軽い罪の構成要件事実の認定に振り向けます。
- 見解Ⅰ(無罪説)特定の罪の事実が証明されていないので無罪とします。国民の法感情に反するという批判が向けられます。刑事訴訟で重要なのは特定の犯罪に当たる事実の証明がされたかどうかだという指摘は、この見解の論拠であって批判ではありません
- 見解Ⅱ(択一的認定説)「A又はB」の事実を認定して有罪とし、軽い罪の刑で処罰します。軽い罪の刑によるなら「疑わしきは被告人の利益に」に反しないと説明しますが、法律にない合成的な構成要件を設定して処罰することになり罪刑法定主義に反するという批判が向けられます
- 見解Ⅲ(軽い罪の認定説)重い罪の事実が認定できないなら軽い罪の事実が証明されたとみて、軽い罪で有罪とします。生存か死亡かという論理的に両立しない二者の一方が確定できないことを、他方の認定に用います。札幌高判昭和61年3月24日がこの考え方で死体遺棄罪の成立を認めました
裁判例は、重い罪に当たる生存事実が確定できないなら死亡事実があるものとみて軽い罪を認定することを許しました
札幌高判昭和61年3月24日は、遺棄の時点で被害者が生きていたか死亡していたかが争われた事案で、刑事裁判の事実認定は厳密な法医学的判断にとどまらず、行為時の具体的な状況を総合し、社会通念と、被告人に死体遺棄罪の刑事責任を問い得るかという法的観点を踏まえて行うべきだとしたうえで、生死のいずれかしかない本件では、重い罪に当たる生存事実が確定できないのだから、軽い罪である死体遺棄罪の成否を判断するに際し死亡事実が存在するものとみることも合理的な事実認定として許されてよいとしました。これは見解Ⅲの考え方で、合成的な構成要件を作らずに、「疑わしきは被告人の利益に」を軽い罪の構成要件事実の認定に働かせたものです。この裁判例に対しては、死亡という事実そのものが証明されていないのに認定することになるという批判もあります。論文では、同一構成要件内か異なる構成要件間かをまず分け、後者について三つの見解の論拠と批判を示したうえで、どの見解を採るかを「疑わしきは被告人の利益に」の使い方から理由づけます。
刑事訴訟法335条1項
有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない。
論文ではこう使う
択一的認定の可否を問われたら、まず認定しようとする二つの事実が同一の構成要件の中にあるか、異なる構成要件にまたがるかを分けます。前者なら、罪となるべき事実は構成要件該当性を判定できる程度に特定されていれば足りるので、審理を尽くしてもなお確定できない限り「A又はB」の認定は許されると書き、訴因で特定されていた場合は最決平成13年4月11日の枠組みで訴因変更の要否を別に検討します。後者なら、無罪説・択一的認定説・軽い罪の認定説の論拠と批判を示し、合成的構成要件を作ることになる択一的認定説を退けたうえで、論理的に両立しない二者の一方が確定できない場面に限って「疑わしきは被告人の利益に」を軽い罪の認定に働かせる、というように自説の射程を限定して書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。