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余罪と量刑・量刑判断の方法とは

よざいとりょうけいりょうけいはんだんのほうほう

刑事訴訟法 証拠法総論と自白

余罪と量刑とは、起訴されていない犯罪事実(余罪)を、起訴された事件の量刑でどこまで考慮してよいかという問題です。判例は、余罪を認定して実質上これを処罰する趣旨で量刑資料として考慮し重く処罰することは許されないが、量刑のための一情状として考慮することは必ずしも禁じられないとしています。

窃盗一件で起訴された被告人が、取調べでは他に十件やったと話していたとします。裁判所がその十件も裁いたつもりで刑を重くすれば、起訴されていない事件を裁判なしで処罰したのと同じです。かといって、同種の犯行を繰り返している人と初めての人を同じ刑にするのも、量刑が被告人のすべての事情を見て決めるものである以上、不自然です。判例は、余罪を実質上処罰する趣旨で重くすることは許さないが、被告人の性格や犯罪傾向を知るための一つの情状として見ることは禁じない、という線を引きました。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、手元に「起訴状 窃盗1件」と書かれた薄い書類を置いている。男性の検察官(札「検察官」)が「余罪10件(被告人の自白のみ)」と書かれた分厚い束を差し出し、吹き出し「余罪も踏まえて重く処罰

余罪を実質上処罰する趣旨で量刑資料にして重く処罰することは、憲法31条・38条3項に反して許されません

最大判昭和41年7月13日は、起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨の下に重い刑を科すことは許されないとしました。理由は三つあります。第一に、審判の対象は検察官が起訴した訴因に限られるので、起訴されていない事実を処罰すれば不告不理の原則に反し、適正手続(憲法31条)に反します。第二に、余罪は一般情状として自由な証明で立証されるのに、それを実質的に処罰すれば厳格な証明によらずに犯罪事実を認定して処罰することになり、証拠裁判主義(317条)に反します。第三に、余罪は被告人の自白だけで認められることが多く、補強証拠なしに自白だけで処罰するのと同じ結果になるので、補強法則(憲法38条3項・319条2項)の趣旨に反します。他方で最大判昭和42年7月5日は、量刑は被告人の性格、経歴及び犯罪の動機、目的、方法等すべての事情を考慮して裁判所が処断刑の範囲内で適当に決定すべきものであるから、その量刑のための一情状として余罪を考慮することは必ずしも禁じられないとしました。前者が禁じるのは余罪そのものを罰する趣旨の考慮で、後者が許すのは起訴された事件の情状を推知するための考慮です。

一情状として考慮する見解には、実質的処罰との区別の困難、手続の未分離、厳格な証明の欠落という批判が向けられます

「量刑のための一情状として,いわゆる余罪をも考慮することは,必ずしも禁じられるところではない。」という見解に対する批判になり得るものを選ばせる形で出題されます。「起訴されていない犯罪事実を余罪として認定し,実質上これを処罰する趣旨で量刑資料として考慮し,被告人を重く処罰することとの区別が実際には困難な場合がある。」という記述は、この見解が許される考慮と許されない考慮を区別できることを前提にしているのに、その区別は裁判所がどの趣旨で斟酌したかという内心にかかり外からは同じ刑の加重にしか見えないという指摘なので、批判になり得ます。「刑事裁判手続において犯罪事実の認定手続と量刑手続とは区分されていないため,量刑資料である余罪が犯罪事実の認定に不当な影響を及ぼすおそれがある。」という記述は、同じ公判で罪体の証拠と情状の証拠が併せて取り調べられる構造の下では、情状の名目で顕出された余罪が起訴事実の犯人性の心証にも作用し、悪性格からの推認を招くという指摘なので、批判になり得ます。「余罪も犯罪事実であるため,その認定に当たっては,起訴された犯罪事実に準じた手続保障を求めるべきであるが,量刑のための一情状だとすると厳格な証明を要しないことになる。」という記述は、一情状とすると自由な証明で足りることになり、本来は犯罪事実である余罪について訴因による特定も伝聞法則も補強法則も及ばないまま不利益な認定がされ得るという指摘なので、批判になり得ます。これに対し、「余罪が考慮できないと,犯罪に至らない不当な行状などが情状事実に含まれることと均衡を失する。」という記述は、余罪の考慮を認めない見解への批判であって、この見解を支える論拠なので、批判になり得ません。「余罪は被告人が犯した別の犯罪事実であるから,情状事実である犯罪傾向の有力な間接事実となる。」という記述も、余罪が一情状として意味を持つ実質的な根拠を述べたものなので、批判になり得ません。

  • 実質的処罰のための考慮と一情状としての考慮の区別が実際には困難である批判になり得ます(区別できることが見解の前提だからです)
  • 認定手続と量刑手続が区分されていないため、量刑資料の余罪が犯罪事実の認定に不当な影響を及ぼすおそれがある批判になり得ます
  • 一情状だとすると厳格な証明を要しないことになり、起訴事実に準じた手続保障を欠く批判になり得ます
  • 余罪を考慮できないと、犯罪に至らない不当な行状を考慮できることと均衡を失する批判になり得ません(この見解の論拠です)
  • 余罪は犯罪傾向の有力な間接事実となる批判になり得ません(この見解の論拠です)
教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立ち、指し棒で板書を指している。黒板の上部に「見解:余罪を量刑の一情状として考慮できる」と書かれ、その下が左右二列に分かれている。左列の見出し「批判になる」の下に「実質的処罰との区別が困難/

余罪の立証は情状を推知する限度にとどまり、起訴された事実と同等の証拠調べをすれば実質的処罰の疑いが生じます

東京高判平成27年2月6日は、起訴されていない犯罪事実であっても起訴された犯罪の動機や方法等の情状を推知するための資料として考慮することは許されるとしつつ、起訴された犯罪との関係で違法性や責任非難を高める事情であれば犯情として、そうでなければ再犯可能性等の一般情状として斟酌できるにとどまり、処罰の対象となっていない事情についてはその点に関する証拠調べも自ずと限定され、起訴された事実と同等の証拠調べをすることは許されないとしました。そのうえで、争点整理で余罪がどの量刑要素をどの程度推知させるかが検討されず、証人による積極的で詳細な立証が許され、量刑理由の説示内容も併せると、第一審は余罪を実質上処罰する趣旨で量刑した疑いがあるとして破棄しました。殺害行為と密接に関連することと、実質的に余罪として処罰する趣旨で量刑することは別の事柄だとも述べています。余罪の考慮が許されるかは、考慮した趣旨だけでなく、証拠調べの範囲と量刑理由の書きぶりから事後的に判断されるということです。

量刑は行為責任を基礎に先例の集積を目安として判断し、大きく踏み出すには具体的で説得的な根拠が要ります

最判平成26年7月24日は、我が国の刑法が幅広い法定刑を定めていることを前提に、裁判では行為責任の原則を基礎としつつ当該犯罪行為にふさわしい刑が言い渡されるとし、裁判例の集積による量刑傾向はそれ自体法規範性を帯びないが量刑の目安としての意義を持ち、これを視野に入れて判断することが量刑判断の過程の適切さを担保する重要な要素になるとしました。裁判員裁判でも、従来の傾向を厳密に調査してこれに従うことまでは求められないが、公平性は保持されなければならず、おおまかな量刑の傾向を裁判体の共通認識としたうえで評議を深めることが求められ、傾向から踏み出した量刑をするには具体的で説得的な根拠を示す必要があるとして、検察官の求刑を大きく超える刑を言い渡した第一審とこれを維持した控訴審の判決を破棄しました。余罪の考慮も、この行為責任を基礎とする枠の中で、起訴された行為の責任を超えて刑を重くする方向には働かせないという理解につながります。

余罪は未決勾留日数の算入や保釈の判断でも問題になります

余罪が関わる場面は量刑だけではありません。不起訴となった事実による勾留の未決勾留日数を、起訴された罪の本刑に算入できるかについて、最判昭和55年12月23日は、不起訴となった窃盗目的の住居侵入による勾留の日数の一部を、起訴された常習累犯窃盗の本刑に算入した原判断を、両罪が一罪の関係にあることに照らして正当としました。両事実が併合罪の関係にある場合には、その勾留が有罪となった事件の捜査に事実上利用されていても算入できないとするのが従来の判例です。保釈の判断では、裁量保釈が適当かを審査するに当たり、勾留状の発せられていない公訴事実をも一資料として考慮することは禁じられません(最決昭和44年7月14日)。「勾留状に記載された事実以外の犯罪事実を考慮してはならず」という肢は誤りです。保釈の要件と除外事由は保釈の種類の語で扱います。

憲法38条3項

何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

論文ではこう使う

量刑事情としての余罪を論じる答案では、まず最大判昭和41年7月13日と最大判昭和42年7月5日を並べ、禁じられるのは余罪を実質上処罰する趣旨の考慮で、許されるのは起訴事実の情状を推知するための考慮だという判例の線を示します。次に、その理由を不告不理・適正手続、証拠裁判主義、補強法則の三つから書きます。当てはめでは、余罪についてどの程度の証拠調べがされたか、量刑理由で余罪がどう位置づけられたか、起訴事実の行為責任の枠を超えて刑が重くなっていないかを、東京高判平成27年2月6日の視点で検討します。

試験ではこう問われる

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