裁判員制度の対象事件と合議体・評決とは
さいばんいんせいどのたいしょうじけんとごうぎたいひょうけつ
裁判員制度の対象事件とは、死刑又は無期拘禁刑に当たる罪に係る事件と、法定合議事件のうち故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係る事件です(裁判員法2条1項)。これらは原則として裁判官3人と裁判員6人の合議体で審理し、事実の認定・法令の適用・刑の量定を裁判官と裁判員の双方の意見を含む過半数で決めます。
殺人や強盗致死のように重い事件では、裁判官だけでなく、くじで選ばれた一般の国民が裁判員として法廷に座り、裁判官と一緒に有罪か無罪か、どのくらいの刑にするかを決めます。これが裁判員制度です。被告人が「裁判官だけに裁いてほしい」と望んでも選べませんし、逆に軽い事件を裁判員に裁いてもらうこともできません。どの事件を裁判員が裁くか、何人で裁くか、何を裁判員が決めて何を裁判官だけが決めるかは、すべて裁判員法が定めています。最高裁判所は、この制度が憲法に反しないと判断しています(最大判平成23年11月16日)。
対象事件は死刑・無期拘禁刑に当たる罪と、法定合議事件のうち故意の犯罪行為で被害者を死亡させた罪の事件で、被告人に選択権はありません
裁判員の参加する合議体で取り扱う対象事件は、死刑又は無期拘禁刑に当たる罪に係る事件と、裁判所法の法定合議事件(死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪の事件)のうち故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係る事件です(裁判員法2条1項)。殺人罪は前者に、傷害致死罪や保護責任者遺棄致死罪は後者に当たります。対象事件に当たれば、被告人の意思にかかわらず裁判員の参加する合議体で審理されます。被告人に裁判官のみの合議体を選ぶ権利はありません。「裁判員裁判の対象事件の被告人が,裁判員の参加する合議体ではなく,裁判官のみの合議体による審理を受けることを申し立てた場合には,地方裁判所は,当該事件を裁判官のみの合議体で取り扱う旨の決定をしなければならない」という肢と、「裁判員裁判の対象事件であっても,被告人の明示の意思に反するときは,裁判員の参加する合議体により審理・裁判をすることはできない」という肢は誤りです。他方で、対象事件であっても、被告人の言動などにより裁判員やその候補者の生命・身体・財産に危害が加えられるおそれがあって裁判員の職務の遂行を確保することが困難と認めるときは、地方裁判所は検察官・被告人・弁護人の請求により又は職権で、裁判官の合議体で取り扱う決定をしなければなりません(3条1項)。審判に著しく長期間を要する見込みで裁判員の選任や職務の確保が困難なときも同様です(3条の2)。したがって、「裁判員裁判の対象事件として法律で定められた殺人罪に係る事件については,裁判官のみの合議体で取り扱うことはできない」という肢は誤りです。裁判員裁判対象事件は89条1号の罪に当たるので権利保釈は認められませんが、裁量保釈(90条)はできます。「裁判員裁判対象事件は,刑事訴訟法第89条第1号の『死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪』に該当するから,保釈は認められない」という肢は誤りです。
対象事件(裁判員法2条1項)
- 1号死刑又は無期拘禁刑に当たる罪に係る事件(殺人、強盗致死、現住建造物等放火など)
- 2号法定合議事件(死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪)のうち、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係る事件(傷害致死、保護責任者遺棄致死、危険運転致死など)
- 被告人の選択権無い。申立てがあっても裁判官だけの合議体にはならない
- 除外決定裁判員等への危害のおそれ(3条)、審判の著しい長期化(3条の2)があれば、裁判官の合議体で取り扱う決定をしなければならない
合議体は裁判官3人と裁判員6人が原則で、公訴事実に争いがなく適当と認めるときは裁判官1人と裁判員4人にできます
裁判員の参加する合議体は、裁判官3人・裁判員6人で構成し、裁判官のうち1人が裁判長になります(2条2項本文)。「裁判員の参加する合議体の構成は,原則として,裁判官3人,裁判員6人である」という肢は正しいです。対象事件のうち、公判前整理手続による争点及び証拠の整理において公訴事実について争いがないと認められ、事件の内容その他の事情を考慮して適当と認められるものについては、裁判所は、裁判官1人と裁判員4人から成る合議体を構成して審理及び裁判をする旨の決定をすることができます(2条2項ただし書・3項)。「裁判員の参加する合議体の裁判官の員数は3人,裁判員の員数は6人とされているが,公判前整理手続による争点及び証拠の整理において公訴事実について争いがないと認められ,事件の内容その他の事情を考慮して適当と認められるものについては,裁判所は,裁判官1人及び裁判員4人から成る合議体を構成して審理及び裁判をする旨の決定をすることができる」という肢は正しいです。
裁判員が加わるのは事実の認定・法令の適用・刑の量定で、法令の解釈と訴訟手続の判断は裁判官だけで行います
裁判官と裁判員の合議で判断するのは、事実の認定、法令の適用、刑の量定です(6条1項)。これに対して、法令の解釈に係る判断、訴訟手続に関する判断、その他裁判員の関与する判断以外の判断は、裁判官のみの合議によります(6条2項)。法令の解釈には専門性と法的安定性が求められ、訴訟手続の判断には迅速性が求められるからです。「裁判員裁判においては,裁判官及び裁判員の合議により,事実の認定,法令の解釈,法令の適用及び刑の量定を行う」という肢は、法令の解釈を合議の対象に入れている点で誤りです。裁判員の関与する判断に関しては、証拠の証明力はそれぞれの裁判官及び裁判員の自由な判断にゆだねられ(62条)、裁判員にも自由心証主義が及びます。「裁判員の関与する判断に関しては,証拠の証明力は,それぞれの裁判官及び裁判員の自由な判断に委ねる」という肢は正しいです。
評決は裁判官と裁判員の双方の意見を含む過半数によるので、裁判員だけが有罪の意見なら無罪になります
裁判員の関与する判断のための評議における判断は、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見によります(67条1項)。裁判官3人・裁判員6人の合議体で、裁判員6人全員が有罪で裁判官3人全員が無罪という意見なら、過半数ではあっても裁判官の意見を含まないので有罪の判断はできず、被告人は無罪になります。「裁判員の関与する判断のための評議において,その判断は,構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見によるので,裁判員のみが被告人を有罪とする意見である場合には,被告人は無罪となる」という肢は正しいです。裁判官だけの多数でも、裁判員だけの多数でも、被告人に不利益な判断はできないという仕組みで、裁判官と裁判員が協働して裁判の内容を決める制度の趣旨を表しています。最高裁判所は、裁判員制度について、憲法は一般に国民の司法参加を許容しており、裁判官が構成員として関与し評決にも裁判官の関与が要件とされているから刑事裁判の諸原則は確保されているとして、憲法に違反しないと判断しました(最大判平成23年11月16日)。
裁判員が関与する判断と評決
- 合議の対象事実の認定・法令の適用・刑の量定(6条1項)
- 裁判官だけ法令の解釈・訴訟手続に関する判断など(6条2項)
- 証明力各裁判官・裁判員の自由な判断(62条)
- 評決裁判官と裁判員の双方の意見を含む過半数(67条1項)。裁判員だけの有罪意見では有罪にできない
- 合憲性憲法は国民の司法参加を許容し、裁判官の関与が確保されているので合憲(最大判平成23年11月16日)
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律67条1項
前条第一項の評議における裁判員の関与する判断は、裁判所法第七十七条の規定にかかわらず、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による。
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律62条
裁判員の関与する判断に関しては、証拠の証明力は、それぞれの裁判官及び裁判員の自由な判断にゆだねる。
論文ではこう使う
論文で裁判員制度と憲法の関係を問われたら、憲法に国民の司法参加を禁じる規定も明示的に許す規定もないことから出発し、憲法が刑事裁判の基本的な担い手として裁判官を想定していることを前提に、裁判官が構成員として関与し評決にも裁判官の意見が要件とされている(裁判員法67条1項)ので公平な裁判所による裁判(憲法32条・37条1項)と裁判官の独立(76条3項)は害されないという最高裁大法廷の判断の筋道で書きます。手続法の答案で裁判員裁判が前提になるときは、対象事件(2条1項)に当たるか、公判前整理手続に必ず付されること、法令の解釈は裁判官だけが判断することを一文ずつ確認してから本論に入ります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。