略式手続とは
りゃくしきてつづき
略式手続とは、簡易裁判所が、検察官の請求により、公判を開かずに書面審理で略式命令を発し、100万円以下の罰金又は科料を科す手続です(刑事訴訟法461条)。被疑者に異議がないことを書面で確かめたうえで公訴の提起と同時に請求し、不服があれば告知から14日以内に正式裁判を請求できます。
交通違反や軽い窃盗のように争いがなく罰金で済む事件を、全部法廷で裁判していたら裁判所も本人も大変です。そこで、本人が異議を言わなければ、簡易裁判所が検察官の出した書類だけを見て罰金や科料を言い渡す略式手続があります。法廷で争う権利を本人が手放す手続なので、検察官は手続を説明して異議がないことを書面で確かめ、言い渡された後も14日以内なら正式裁判を請求してやり直せるようにしてあります。
略式命令を出せるのは簡易裁判所だけで、科せる刑は100万円以下の罰金又は科料ですが、執行猶予はできます
簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で100万円以下の罰金又は科料を科することができ、この場合には刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができます(461条)。地方裁判所には略式命令を発する権限がありません。「地方裁判所は,検察官の請求により,その管轄に属する事件について,公判前,略式命令で,100万円以下の罰金又は科料を科することができる」という肢は誤りです。拘禁刑を科すこともできません。「簡易裁判所は,検察官の請求により,その管轄に属する事件について,略式命令で,1年以下の懲役若しくは禁錮,罰金又は科料を科することができる」という肢は誤りです。罰金の執行猶予は461条後段が明文で認めているので、「簡易裁判所は,略式命令の請求を受けた事件について罰金又は科料を科する場合,その刑の執行を猶予することはできない」という肢は誤りです。略式命令は罰金又は科料の裁判なので、その告知があったときは勾留状は効力を失います(345条)。「略式命令の告知があったときは,勾留状は,その効力を失う」という肢は正しいです。
検察官は被疑者に手続を説明して異議がないことを書面で確かめ、公訴の提起と同時に書面で請求します
検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確かめなければなりません(461条の2第1項)。被疑者は、異議がないときは書面でその旨を明らかにしなければなりません(同条2項)。「検察官は,略式命令の請求に際し,被疑者に対し,あらかじめ,略式手続を理解させるために必要な事項を説明し,通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上,略式手続によることについて異議がないかどうかを確かめなければならない」という肢と、「被疑者が略式手続によることについて異議がないことは書面で明らかにされなければならない」という肢は正しいです。軽犯罪法違反で現行犯逮捕された被疑者について、逮捕されている事実のみで略式命令を請求する事例でも、この説明と確認は必要です。略式命令の請求は、公訴の提起と同時に、書面でしなければなりません(462条1項)。「検察官が略式命令を請求する場合は,公訴の提起と同時に,書面でこれをしなければならない」という肢は正しいです。窃盗罪は罰金刑を選択できるので略式手続の対象になり得て、「検察官は,略式命令の請求に際し,窃盗事件の被疑者に対し,あらかじめ,略式手続を理解させるために必要な事項を説明し,通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上,被疑者に略式手続によることについて異議がないことを書面で明らかにすれば,公訴の提起と同時に,書面で略式命令を請求することができる」という肢は正しいです。検察官がこの手続をせずに請求したときや、事件が略式命令をすることができないもの又は相当でないものであるときは、裁判所は通常の規定に従って審判します(463条)。請求の日から4か月以内に略式命令が被告人に告知されないときは、公訴の提起はさかのぼって効力を失います(463条の2)。
請求と同時に書類と証拠物を差し出すことは、起訴状一本主義に反しません
略式手続は書面審理なので、検察官は略式命令の請求と同時に、略式命令をするために必要があると思料する書類及び証拠物を裁判所に差し出さなければなりません(刑事訴訟規則289条1項)。裁判官に予断を生じさせるおそれのある書類その他の物の添付を禁じる起訴状一本主義(256条6項)は、公判を開いて審理する手続を前提にした規律なので、公判を開かない略式手続には及びません。「略式命令を請求する場合において、その請求と同時に検察官が立証に必要があると思料する書類及び証拠物を裁判所に差し出しても、刑事訴訟法第256条第6項に反しない」という肢は正しく、「起訴状には,裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある書類その他の物を添付してはならないとされているので,略式命令を請求する場合に,その請求と同時に検察官が立証に必要があると思料する書類を裁判所に差し出すことは許されない」という肢と、「公訴の提起と同時に略式命令の請求をする場合であっても,起訴状一本主義の適用があるので,検察官は,略式命令の請求と同時に,略式命令をするために必要があると思料する書類及び証拠物を裁判所に差し出すことはできない」という肢は誤りです。正式裁判の請求があって通常の審判に移ったときは、略式命令の請求に際して差し出された書類は返還されて、公判は起訴状だけで始まります。
書面審理でも有罪の認定には合理的な疑いを超える証明が要り、証拠の優越では足りません
略式手続は手続を簡略にしただけで、略式命令に示す「罪となるべき事実」(464条)は通常の有罪判決の罪となるべき事実と同じものです。証明の程度を軽くする規定はないので、通常の公判と同じく合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の証明が必要です。「略式手続においては,書面審理による迅速な判断が要求されることから,犯罪の証明は証拠の優越で足りる」という肢、「略式手続においては,犯罪の証明の程度は,証拠の優越で足りる」という肢、「略式手続は、公判を開くことなく書面審理によって行われる簡易な手続であるから、犯罪の証明の程度は、証拠の優越で足りる」という肢はいずれも誤りです。即決裁判手続でも同じです。
正式裁判の請求は、告知から14日以内に、略式命令をした簡易裁判所へ書面でします
略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から14日以内に正式裁判の請求をすることができます(465条1項)。請求は略式命令をした裁判所に書面でします(同条2項)。上級審である地方裁判所に対してするのではありません。「略式命令を受けた者又は検察官は,その告知を受けた日から14日以内に正式裁判の請求をすることができる」という肢は正しく、「略式命令を受けた者又は検察官は,その内容に不服のある場合は,その告知を受けた日から14日以内に,略式命令をした簡易裁判所の上級審である地方裁判所に対して正式裁判の請求をすることができる」という肢は誤りです。正式裁判の請求は第一審の判決があるまで取り下げることができ(466条)、適法な請求があれば裁判所は通常の規定に従って審判し、略式命令に拘束されません(468条2項・3項)。正式裁判の請求により判決をしたときは略式命令は効力を失い(469条1項)、請求期間の経過又は請求の取下げにより、略式命令は確定判決と同一の効力を生じます(470条)。
略式手続の骨格
- 略式命令を出す裁判所簡易裁判所だけ(461条)。地方裁判所は出せない
- 科せる刑100万円以下の罰金又は科料。拘禁刑は不可。執行猶予・没収・付随の処分はできる(461条)
- 請求の前提被疑者に手続を説明し、通常の審判を受けられる旨を告げ、異議がないかを確かめる(461条の2第1項)。異議がないことは書面で(同条2項)
- 請求の方式公訴の提起と同時に書面で(462条1項)。請求と同時に書類・証拠物を差し出す(規則289条1項)。256条6項には反しない
- 略式不相当など通常の規定に従い審判(463条)。4か月以内に告知がなければ公訴提起は失効(463条の2)
- 告知の効果勾留状は失効(345条)
- 正式裁判の請求告知から14日以内に、略式命令をした裁判所へ書面で(465条)。判決があれば略式命令は失効(469条1項)。期間経過・取下げで確定判決と同一の効力(470条)
- 証明の程度合理的な疑いを超える証明。証拠の優越では足りない
刑事訴訟法461条
簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。
刑事訴訟法461条の2
検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。2 被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。
刑事訴訟法462条1項
略式命令の請求は、公訴の提起と同時に、書面でこれをしなければならない。
刑事訴訟法465条1項・2項
略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる。2 正式裁判の請求は、略式命令をした裁判所に、書面でこれをしなければならない。
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