即決裁判手続とは
そっけつさいばんてつづき
即決裁判手続とは、事案が明白で軽微な事件について、検察官が被疑者の同意を得て公訴の提起と同時に申し立て、公判を開いたうえで簡略な証拠調べにより原則として即日判決を言い渡す手続です(刑事訴訟法350条の16以下)。拘禁刑を言い渡すときは必ず全部の執行猶予を付け、判決に対する控訴は事実誤認を理由にはできません。
本人が罪を認めていて争いのない軽い事件なら、何回も公判を重ねずに、1回の公判でその日のうちに判決まで出してしまう方が本人にも裁判所にも負担が少なくて済みます。これが即決裁判手続です。ただし、本人が納得して同意していることと、弁護人が付いていることを条件にし、刑務所に入る実刑は言い渡せないようにして、簡略な手続で不利益を受けないようにしています。その代わり、認めた事実について後から事実誤認だと控訴することはできません。
検察官は、死刑・無期・短期1年以上の拘禁刑に当たる事件を除き、被疑者の書面による同意を得て公訴の提起と同時に書面で申し立てます
検察官は、公訴を提起しようとする事件について、事案が明白であり、かつ、軽微であること、証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮し、相当と認めるときは、公訴の提起と同時に、書面により即決裁判手続の申立てをすることができます。ただし、死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる事件については申し立てられません(350条の16第1項)。強盗罪の法定刑は5年以上の有期拘禁刑なので、「検察官は,公訴を提起しようとする強盗事件について,事案が明白であること,証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮し,相当と認めるときは,公訴の提起と同時に,書面により即決裁判手続の申立てをすることができる」という肢は誤りです。即決裁判手続の申立ての可否は、刑事訴訟法の規定上、法定刑の軽重により異なる事項です。申立てには、即決裁判手続によることについての被疑者の同意が必要で(同条2項)、検察官は同意の確認を書面で求め、手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げなければなりません(同条3項)。被疑者に弁護人があるときは、弁護人が同意するか意見を留保していることも必要で、同意は書面で明らかにします(同条4項・5項)。「検察官は,即決裁判手続によることについての被疑者の同意がなくても,即決裁判手続の申立てをすることができる」という肢は誤りで、「検察官が公訴の提起と同時にする即決裁判手続の申立ては,即決裁判手続によることについての被疑者の同意がなければ,これをすることができない」という肢は正しいです。申立ての段階で被疑者が訴因について有罪である旨の陳述をしていることは要件ではありません。「検察官は,公訴を提起しようとする窃盗事件について,被疑者が起訴状に記載された訴因について有罪である旨の陳述をしたときは,被疑者及び弁護人の意見を聴き,有罪である旨の陳述をした訴因に限り,即決裁判手続によって審判する旨の申立てをすることができる」という肢は誤りで、これは簡易公判手続の決定(291条の2)の要件と即決裁判手続の申立てを混ぜたものです。
即決裁判手続の申立て
- 対象事件死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる事件以外(350条の16第1項ただし書)
- 申立ての要件事案が明白かつ軽微、証拠調べが速やかに終わる見込みなどを考慮して相当と認めるとき。公訴の提起と同時に書面で
- 被疑者の同意必要。検察官は書面で確認を求め、手続の説明と通常の審判を受けられる旨の告知をする(同条2項・3項)
- 弁護人の同意被疑者に弁護人があるときは、弁護人の同意又は意見の留保が必要(同条4項)
- 被疑者国選同意するかを明らかにしようとする被疑者が貧困等で弁護人を選任できないときは、請求により裁判官が付す(350条の17)
弁護人がなければ公判期日を開けず、被告人が有罪である旨を陳述すれば裁判所は即決裁判手続によって審判する旨の決定をします
即決裁判手続の申立てがあった事件で被告人に弁護人がないときは、裁判長はできる限り速やかに職権で弁護人を付さなければなりません(350条の18)。即決裁判手続によるかを決める公判期日と即決裁判手続による公判期日は、弁護人がないときは開くことができません(350条の23)。「即決裁判手続による公判期日については,被告人に弁護人がないときは,これを開くことができない」という肢は正しいです。裁判所は、冒頭手続で被告人が起訴状に記載された訴因について有罪である旨の陳述をしたときは、同意が撤回されたときや手続によることができない又は相当でないと認めるときを除き、即決裁判手続によって審判をする旨の決定をしなければなりません(350条の22)。判決の言渡し前に同意や有罪の陳述が撤回されたときなどは、決定を取り消さなければならず、取り消したときは原則として公判手続を更新します(350条の25)。
証拠調べは簡略で伝聞法則は適用されませんが、起訴状一本主義は適用され、証明の程度も通常と同じです
即決裁判手続による証拠調べは、公判期日において適当と認める方法で行うことができ、証拠調べの方式に関する規定の多くは適用されません(350条の24)。決定があった事件の証拠については、伝聞証拠を排除する320条1項は適用されません。ただし、検察官・被告人・弁護人が証拠とすることに異議を述べたものは除きます(350条の27)。他方で、起訴状一本主義(256条6項)の適用を外す規定はないので、起訴状に予断を生じさせるおそれのある書類を添付することはできません。「即決裁判手続においては,刑事訴訟法第256条第6項の適用はない」という肢は誤りです。証明の程度を軽くする規定もないので、罪となるべき事実の認定には通常と同じ合理的な疑いを超える証明が必要です。「即決裁判手続において『罪となるべき事実』を認定する場合には,同事実の存在を肯定する証拠の証明力がそれを否定する証拠の証明力を上回る程度の証明,いわゆる証拠の優越で足りる」という肢は誤りです。裁判所は、できる限り即日判決の言渡しをしなければなりません(350条の28)。
拘禁刑を言い渡すときは必ず全部の執行猶予を付け、控訴はできますが事実誤認を理由にはできません
即決裁判手続において拘禁刑の言渡しをする場合には、その刑の全部の執行猶予の言渡しをしなければなりません(350条の29)。「裁判所が即決裁判手続において懲役又は禁錮の言渡しをする場合には,その刑の執行猶予の言渡しをしなければならない」という肢は正しいです。出題当時の懲役・禁錮は現在は拘禁刑になっています。即決裁判手続でされた判決に対する控訴の申立ては、判決で示された罪となるべき事実について事実誤認(382条)があることを理由としてはすることができず、控訴裁判所もその理由では原判決を破棄できません(403条の2)。控訴そのものができないわけではなく、法令適用の誤りや量刑不当を理由とする控訴はできます。「即決裁判手続においてされた判決に対しては,控訴の申立てをすることができない」という肢は誤りです。被告人が同意して有罪を認めたうえで簡略な証拠調べをした以上、認めた事実について後から争わせないことで、手続の迅速さを保つ趣旨です。
申立て後の流れ
- 弁護人申立て後に弁護人がなければ職権で付す(350条の18)。弁護人がなければ公判期日を開けない(350条の23)
- 決定有罪である旨の陳述があれば、除外事由がない限り即決裁判手続によって審判する旨の決定をしなければならない(350条の22)
- 証拠調べ適当と認める方法で(350条の24)。伝聞法則の適用なし、異議があるものは除く(350条の27)。起訴状一本主義は適用あり
- 判決できる限り即日(350条の28)。拘禁刑なら全部の執行猶予を必ず付ける(350条の29)
- 控訴できる。ただし罪となるべき事実の事実誤認を理由にはできない(403条の2)
- 略式手続との違い略式は簡易裁判所が公判を開かず罰金・科料のみ。即決は公判を開き、執行猶予付きの拘禁刑も言い渡せる
刑事訴訟法350条の16第1項・2項
検察官は、公訴を提起しようとする事件について、事案が明白であり、かつ、軽微であること、証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮し、相当と認めるときは、公訴の提起と同時に、書面により即決裁判手続の申立てをすることができる。ただし、死刑又は無期若しくは短期一年以上の拘禁刑に当たる事件については、この限りでない。2 前項の申立ては、即決裁判手続によることについての被疑者の同意がなければ、これをすることができない。
刑事訴訟法350条の23
前条の手続を行う公判期日及び即決裁判手続による公判期日については、弁護人がないときは、これを開くことができない。
刑事訴訟法350条の29
即決裁判手続において拘禁刑の言渡しをする場合には、その刑の全部の執行猶予の言渡しをしなければならない。
刑事訴訟法403条の2第1項
即決裁判手続においてされた判決に対する控訴の申立ては、第三百八十四条の規定にかかわらず、当該判決の言渡しにおいて示された罪となるべき事実について第三百八十二条に規定する事由があることを理由としては、これをすることができない。
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