必要的弁護事件と弁護人不出頭の開廷とは
ひつようてきべんごじけんとべんごにんふしゅっとうのかいてい
必要的弁護事件とは、死刑又は無期若しくは長期3年を超える拘禁刑に当たる事件のように、弁護人がなければ開廷することができない事件です(刑事訴訟法289条1項)。弁護人がいないときは裁判長が職権で付さなければならず、公判前整理手続に付された事件も法定刑を問わず弁護人がなければ開廷できません(316条の29)。
重い罪の裁判を弁護人なしで進めてよいかという問いに、法律は答えを出しています。法律は、死刑・無期・長期3年を超える拘禁刑に当たる事件では、被告人が弁護人を頼まなくても、弁護人がいなければ開廷できないと決めています。これが必要的弁護事件です。弁護人の助けなしに重い刑を言い渡す危険を避け、公判の審理そのものを適正に保つためで、被告人の利益だけの制度ではありません。だから、被告人が弁護人を追い出して審理を止めようとしたときにどうなるかが、判例で問われました。
死刑・無期・長期3年を超える拘禁刑に当たる事件は弁護人がなければ開廷できず、弁護人がいないときは裁判長が職権で付さなければなりません
死刑又は無期若しくは長期3年を超える拘禁刑に当たる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできません(刑事訴訟法289条1項)。必要的弁護事件であるかどうかは、法定刑によって法律上当然に結論が異なる事項です。弁護人がなければ開廷できない場合に、弁護人が出頭しないとき、在廷しなくなったとき、又は弁護人がないときは、裁判長は職権で弁護人を付さなければなりません(同条2項)。さらに、弁護人が出頭しないおそれがあるときも、裁判所は職権で弁護人を付することができます(同条3項)。「弁護人が出頭しないおそれがあるにとどまるときは,職権で弁護人を付することはできない」という肢は誤りです。法定刑にかかわらず弁護人が要る手続もあります。公判前整理手続は弁護人がなければ行うことができず、弁護人がないときは裁判長が職権で付さなければなりません(316条の4)。「裁判所は,被告人に弁護人がなければ公判前整理手続を行うことができない」という肢と、「被告人に弁護人がないときは,裁判長は,職権で弁護人を付さなければならない」という肢は正しいです。公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件は、289条1項の事件に当たらなくても弁護人がなければ開廷できないので(316条の29)、脅迫被告事件でも「弁護人なくして開廷しても適法である」という肢は誤りです。即決裁判手続の公判期日も弁護人がないときは開くことができず(350条の23)、裁判員の参加する裁判は対象事件がすべて289条1項の事件です。
- 法定刑で決まる必要的弁護(289条1項)死刑又は無期若しくは長期3年を超える拘禁刑に当たる事件。弁護人がないとき・出頭しないときは職権で「付さなければならない」(2項)、出頭しないおそれがあるときは「付することができる」(3項)
- 法定刑を問わず弁護人が要る手続公判前整理手続・期日間整理手続(316条の4・316条の29)/即決裁判手続の公判期日(350条の23)/裁判員裁判(対象事件はすべて289条1項の事件)
- 弁護人が要らない期日判決の宣告だけを行う公判期日(必要的弁護事件でも弁護人の立会いは要らない)
判決の宣告だけを行う期日は、必要的弁護事件でも弁護人の立会いを要しません
必要的弁護事件であっても、判決の宣告のみを行う公判期日には弁護人の立会いを要しないとするのが判例です(最判昭和30年1月11日)。判決宣告の期日は攻撃防御の方法が尽くされ弁論が終結した後の期日なので、弁護人に期日を通知して出頭の機会を与える限り、立ち会わなくても被告人の権利保護に欠けるところはないからです。「判決宣告を行うための公判期日に弁護人が出頭しなければ,裁判所は,判決を宣告することができない」という肢は誤りです。289条1項が「審理する場合」と書いているのも、この区別と合っています。
被告人が弁護人の出頭を妨げて審理できない状態を自ら作り出し、解消が極めて困難なときは、弁護人不出頭でも開廷できます
必要的弁護事件で、被告人が国選弁護人やその家族に暴行・脅迫を加えて出廷を妨げ、私選弁護人も退廷や不出頭を重ねたため、弁護人不在のまま審理が行われた事案があります。判例は、必要的弁護制度は被告人の防御の利益を擁護するとともに、公判審理の適正を期し、ひいては国家刑罰権の公正な行使を確保するための制度であるとしたうえで、裁判所が弁護人出頭確保のための方策を尽くしたにもかかわらず、被告人が弁護人の公判期日への出頭を妨げるなどして弁護人が在廷しての公判審理ができない事態を生じさせ、かつ、その事態を解消することが極めて困難な場合には、当該公判期日については289条1項の適用がないとしました(最決平成7年3月27日)。被告人はもはや必要的弁護制度による保護を受け得ず、実効ある弁護活動も期待できないからです。「公判期日に弁護人が出頭しなくとも,開廷することができる」という肢は正しいです。裁判所が方策を尽くしたことと、被告人が自ら事態を作り出したことと、解消が極めて困難なことの三つがそろってはじめて例外になります。
刑事訴訟法289条1項
死刑又は無期若しくは長期三年を超える拘禁刑に当たる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない。
刑事訴訟法289条2項
弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないとき若しくは在廷しなくなつたとき、又は弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければならない。
刑事訴訟法289条3項
弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないおそれがあるときは、裁判所は、職権で弁護人を付することができる。
刑事訴訟法316条の29
公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件を審理する場合には、第二百八十九条第一項に規定する事件に該当しないときであつても、弁護人がなければ開廷することはできない。
論文ではこう使う
論文で弁護人不在のまま進められた公判の適法性を問われたら、まず事件が289条1項の必要的弁護事件か、公判前整理手続に付された事件(316条の29)かを確定し、次に問題の期日が審理の期日か判決宣告の期日かを分けます。審理の期日であれば原則として違法ですが、平成7年決定の規範を書き、裁判所が出頭確保の方策を尽くしたか、被告人が自ら弁護人の在廷できない事態を作り出したか、その事態の解消が極めて困難かを事実から拾って当てはめます。制度の趣旨が被告人の防御の利益と公判審理の適正の二つにあることを規範の前に置くと、被告人が保護を受け得ないという結論の筋が通ります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。