被疑者の勾留と被告人の勾留の違いとは
ひぎしゃのこうりゅうとひこくにんのこうりゅうのちがい
被疑者の勾留とは、検察官の請求を受けた裁判官が、公訴の提起前の被疑者を拘束する勾留で、被告人の勾留とは、裁判所(第1回公判期日までは裁判官)が職権で、公訴の提起後の被告人を拘束する勾留です(刑事訴訟法60条・207条・280条)。要件は同じ60条1項によりますが、期間と保釈の有無が違います。
逮捕された人が起訴されるまでの間に拘束されるのが被疑者の勾留で、起訴されたあと判決までの間に拘束されるのが被告人の勾留です。どちらも「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」と、住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれのどれかが要る点は同じ条文で決まっています。しかし、起訴前は検察官が捜査のために短く拘束を求める場面で、起訴後は裁判所が自分の裁判を進めるために拘束する場面なので、誰が決めるか、どれだけ続くか、保釈でいったん出られるかが違います。
勾留するかを決めるのは、被疑者の勾留では検察官の請求を受けた裁判官で、被告人の勾留では裁判所が職権で決めます
被疑者の勾留は、検察官が裁判官に請求し、請求を受けた裁判官が勾留状を発するかを判断します(刑事訴訟法204条〜207条)。請求できるのは検察官だけで、司法警察員にはできません。被告人の勾留は、公訴の提起を受けた裁判所が職権で行い、検察官の請求は要件になっていません(60条1項)。したがって「裁判所は,検察官の請求がなければ,被告人を勾留することができない」という肢は誤りで、個数問題で「検察官による勾留請求」は被疑者の勾留にだけ認められる手続に数えます。公訴の提起があった後も第1回公判期日までは、予断排除のため受訴裁判所ではなく裁判官が勾留に関する処分を行い、その裁判官は裁判所又は裁判長と同一の権限を持ちます(280条1項・3項)。「被告人の勾留の場合は第1回公判期日までの間を除き受訴裁判所である」という肢は正しいです。逮捕も勾留もされていない被疑者を在宅のまま起訴する場合に、検察官が勾留請求権に基づいて裁判官に勾留を請求することはできず、裁判官の職権発動を促すことができるだけです。「勾留請求権に基づいて,裁判官にその勾留を請求することができる」という肢は誤りです。
- 誰が決めるか被疑者: 検察官の請求を受けた裁判官(207条1項)/被告人: 裁判所の職権。第1回公判期日までは裁判官(280条1項)
- 要件どちらも60条1項(相当な理由+住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれのいずれか)と勾留の必要性。軽微事件の特則(60条3項)も共通
- 期間被疑者: 請求した日から10日、延長は通じて10日まで(208条)/被告人: 公訴の提起があった日から2か月、1か月ごとに更新(60条2項)
- 勾留質問どちらも要る(61条・207条1項)。勾留のまま起訴された場合・延長・更新には改めて要らない
- 保釈被告人だけ(207条1項但書・88条以下)
- 接見指定被疑者だけ(39条3項「公訴の提起前に限り」)
- 取消し・執行停止・理由開示・接見等禁止どちらにもある(87条・95条・82条・81条。207条1項で準用)
- 不服申立て裁判官の裁判には準抗告(429条1項2号)/受訴裁判所の決定には抗告(420条2項)。嫌疑がないことは理由にできない(420条3項・429条2項)
被疑者の勾留は請求した日から10日ですが、被告人の勾留は公訴の提起があった日から2か月で、1か月ごとに更新します
被疑者の勾留は、検察官が勾留を請求した日から10日で満了し、やむを得ない事由があるときに通じて10日まで延長できます(208条)。被告人の勾留の期間は公訴の提起があった日から2か月で、特に継続の必要がある場合には、具体的にその理由を付した決定で1か月ごとに更新できます(60条2項)。更新は原則として1回に限られますが、89条1号(死刑・無期・短期1年以上の拘禁刑に当たる罪)、3号(常習として長期3年以上の拘禁刑に当たる罪)、4号(罪証隠滅のおそれ)、6号(氏名又は住居が分からない)に当たる場合は回数の制限がありません(同項但書)。「被告人の勾留の期間は,延長されない限り,公訴の提起があった日から1か月である」という肢と、「その被告人の勾留の期間は,公訴の提起があった日から1か月である」という肢はいずれも誤りで、1か月は更新の単位です。条文の要旨を選ばせる問題でも「公訴の提起があった日から2箇月」が正しい方です。勾留されている被疑者がその事実で起訴されると、新たな勾留状を発することなく被告人の勾留に切り替わり、期間は起訴の日から数え直して2か月になります。
勾留質問は被告人の勾留でも要りますが、勾留のまま起訴された場合や更新の裁判では改めて要りません
被告人の勾留は、被告人に被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければできず、被告人が逃亡した場合だけが例外です(61条)。この手続は被疑者の勾留にも準用されます(207条1項)。ただし、勾留質問は身体拘束を始めるときに本人の言い分を聴くための手続なので、すでに勾留されている被疑者がその被疑事実と同一の事実で起訴された場合には、勾留は当然に被告人の勾留に切り替わり、改めて被告事件を告げて陳述を聴く必要はありません。「被疑者の勾留から被告人の勾留に切り替わるので,裁判官は,改めて,被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴かなければならない」という肢と、「その勾留を継続する必要があると認めるときは,被告人が逃亡した場合を除き,被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴く手続を行わなければならない」という肢はいずれも誤りです。勾留期間の延長や更新の裁判でも、改めて勾留質問をする定めはなく、「勾留期間の更新の裁判をするに当たり,…陳述を聴く手続を行わなければならない」という肢は誤りです。逮捕中に起訴された被疑者については、裁判官が速やかに被告事件を告げて陳述を聴き、勾留状を発しないときは直ちに釈放を命じます(280条2項)。在宅の被告人を公判の途中で勾留する場合、判例は、勾留をする裁判所がすでに被告事件の審理の際に被告事件に関する陳述を聴いているときは、改めて61条の勾留質問をしなければならないものではないとしました(最決昭和41年10月19日)。「既に被告事件の審理の際に被告人から被告事件に関する陳述を聴いている場合には,改めて…陳述を聴く手続を行う必要はない」という肢は正しいです。
保釈は被告人の勾留にしかありませんが、取消し・執行停止・理由開示・接見等禁止はどちらの勾留にもあります
勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を持ちますが、保釈は除かれています(207条1項但書)。被疑者の勾留は長くても20日程度で、捜査中は罪証隠滅を防ぐ要請も強いので、保釈金を積んで釈放する制度は被告人だけに置かれています。「保釈の制度は,被疑者の勾留には存しないが,被告人の勾留には存する」という肢は正しく、逮捕状による逮捕と起訴前の勾留の「どちらも,保釈は認められない」という肢も正しいです。これに対して、勾留の理由又は必要がなくなったときの取消し(87条)、職権による執行停止(95条)、公開の法廷で理由を告げる勾留理由開示(82条〜86条)、弁護人等以外の者との接見や物の授受を禁じる接見等禁止(81条)は、被告人の勾留の規定が207条1項で被疑者の勾留に準用されるので、どちらにもあります。「勾留理由の開示は,勾留期間が長期に及ぶ可能性がある被告人の勾留に限って認められている」という肢と、「被告人の勾留については,勾留の理由の開示を請求することはできない」という肢はいずれも誤りです。個数問題では、保釈と検察官による勾留請求を除いた、勾留の取消し・勾留理由開示・弁護人等以外の者との接見等の制限・勾留の執行停止の四つが双方に認められる手続です。接見等禁止は弁護人又は弁護人になろうとする者との接見には及ばないので、「勾留されている被告人と弁護人との接見を禁じることができる」という肢は誤りです。逆に、捜査機関による接見指定(39条3項)は公訴の提起前に限られ、被告人の勾留にはありません。
不服申立ては、裁判官の勾留の裁判には準抗告、受訴裁判所の決定には抗告で、嫌疑がないことは理由にできません
被疑者の勾留や第1回公判期日前の勾留のように裁判官がした勾留に関する裁判には、その裁判官が所属する裁判所に取消し又は変更を請求する準抗告ができます(429条1項2号)。第1回公判期日後に受訴裁判所がした勾留や更新の決定には、判決前の決定であっても抗告ができます(420条2項)。ただし、どちらの場合も、犯罪の嫌疑がないことを理由にすることはできません(420条3項・429条2項)。嫌疑の有無は本案の裁判で争うべき事柄だからです。「勾留の期間を更新した裁判所の決定に対して,被告人に犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告をすることができる」という肢は誤りです。
刑事訴訟法60条2項
勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
刑事訴訟法61条
被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない。但し、被告人が逃亡した場合は、この限りでない。
刑事訴訟法207条1項
前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
刑事訴訟法280条1項
公訴の提起があつた後第一回の公判期日までは、勾留に関する処分は、裁判官がこれを行う。
刑事訴訟法420条3項
勾留に対しては、前項の規定にかかわらず、犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告をすることはできない。
論文ではこう使う
論文で身体拘束の継続の当否を論じるときは、まず問題の場面が起訴前か起訴後かを確定し、主語を「被疑者」「被告人」で書き分けます。起訴前なら検察官の請求と裁判官の判断、208条の期間と延長の可否を、起訴後なら裁判所の職権と60条2項の期間と更新、保釈の可否を枠組みにします。勾留のまま起訴された事案では、勾留が当然に被告人の勾留へ切り替わり期間が起訴の日から2か月になることを一文で押さえ、そこから保釈や勾留の取消しの検討に進みます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。