証拠調べ手続の流れ(冒頭陳述・請求・閲覧・意見・決定・取調べの方法)とは
しょうこしらべてつづきのながれ
証拠調べ手続の流れとは、冒頭手続の後に、検察官の冒頭陳述、当事者による証拠調べの請求と相手方への閲覧の機会の付与、相手方の意見の聴取、裁判所の証拠決定、朗読・展示による取調べの順で進む公判の証拠調べの段取りです(刑事訴訟法292条〜310条)。
冒頭手続が終わると証拠調べに入ります。検察官がまず「この証拠でこういう事実を証明します」と全体の見取図を話し(冒頭陳述)、証拠を一つずつ請求し、相手方に事前に見せ、相手方の意見を聴いて裁判所が採るか決め、採った証拠を朗読や展示で法廷に出します。当事者が証拠を出し合い、裁判所は両方の言い分を聴いてから決める、という当事者主義の段取りです。肢は「必ず〜しなければならない」「意見を聴かなくてよい」のように、各段階の義務と裁量を入れ替えて作られます。
証拠調べは検察官の冒頭陳述から始まり、弁護側の冒頭陳述は通常の事件では許可制で、公判前整理手続を経た事件では義務です
証拠調べのはじめに、検察官は証拠により証明すべき事実を明らかにしなければなりません(刑事訴訟法296条本文)。これが検察官の冒頭陳述で、必要的な手続です。「検察官は,証拠調べのはじめに,証拠により証明すべき事実を明らかにしなければならない」という肢は正しいです。ただし、証拠とすることができず、又は取調べを請求する意思のない資料に基づいて、裁判所に偏見又は予断を生じさせるおそれのある事項を述べることはできません(同条但書)。被告人側の冒頭陳述は、公判前整理手続に付されていない事件では、検察官の冒頭陳述の後に裁判所が許すことができるにとどまります(刑事訴訟規則198条1項)。「裁判所の許可がなくとも,検察官が冒頭陳述をした後,冒頭陳述をすることができる」という肢は誤りです。公判前整理手続に付された事件では、被告人又は弁護人は、事実上及び法律上の主張があるときは、検察官の冒頭陳述に引き続いてこれを明らかにしなければなりません(316条の30)。「検察官の冒頭陳述に引き続き,必ず冒頭陳述をしなければならない」という肢は正しく、「検察官請求証拠が取り調べられた後に,これを明らかにしなければならない」という肢と、裁判員裁判で「検察官の立証が終了した後被告人側の立証を始めるに当たり」冒頭陳述をするという肢は、時期が違うので誤りです。
証拠調べの請求は立証趣旨を具体的に明示して行い、相手方にあらかじめ閲覧する機会を与えなければなりません
検察官、被告人又は弁護人は証拠調べを請求でき、裁判所は必要と認めるときは職権で証拠調べができます(298条)。請求は、証拠と証明すべき事実との関係、すなわち立証趣旨を具体的に明示して行い、明示されていないときは裁判所は請求を却下することができます(規則189条)。「証拠と証明すべき事実との関係を具体的に明示して行わなければならず,…その関係が明らかにされていないときは,証拠調べの請求を却下することができる」という肢は正しいです。証人等の尋問を請求するときはあらかじめ相手方にその氏名及び住居を知る機会を、証拠書類又は証拠物の取調べを請求するときはあらかじめ相手方に閲覧する機会を与えなければならず、相手方に異議がないときは別です(299条1項)。検察官が請求するときは被告人・弁護人に、弁護人が請求するときは検察官に与えます。「検察官が…請求する場合には,あらかじめ被告人又は弁護人に閲覧する機会を与えなければならず,弁護人が…請求する場合には,あらかじめ検察官に閲覧する機会を与えなければならない」という肢は正しいです。公判前整理手続に付された事件では、検察官は請求証拠を開示し、弁護人には閲覧と謄写の機会を与えます(316条の14第1項)。
- ①冒頭陳述検察官は必要的(296条)。被告人側は通常事件では許可(規則198条)、公判前整理手続を経た事件では義務(316条の30)
- ②証拠調べの請求当事者が請求(298条1項)。立証趣旨を具体的に明示(規則189条)。職権証拠調べも可(298条2項)
- ③相手方への閲覧の機会証拠書類・証拠物はあらかじめ相手方に閲覧の機会を与える(299条1項)。公判前整理手続では弁護人に閲覧・謄写(316条の14第1項)
- ④意見の聴取請求に基づく決定は相手方又はその弁護人の意見を、職権の決定は検察官と被告人又は弁護人の意見を聴く(299条2項・規則190条2項)。採用するときも却下するときも聴く
- ⑤証拠決定裁判所が決定(規則190条1項)。同意があっても必要性がなければ却下できる。意見に拘束されない
- ⑥取調べの方法証拠書類は朗読(305条)、相当なら要旨の告知(規則203条の2)。証拠物は展示(306条)。証拠物たる書面は展示と朗読(307条)
- ⑦自白調書の順序被告人の自白を内容とする書面・供述は、犯罪事実に関する他の証拠の後でなければ請求できない(301条)
- ⑧不服証拠決定には異議(309条1項。法令違反を理由とするものに限る)。抗告はできない(420条1項)
証拠決定の前には相手方の意見を聴かなければならず、却下する場合も証拠物の場合も同じで、同意があっても採用義務はありません
証拠調べの請求に対しては裁判所が決定をし、その決定をするには、請求に基づく場合は相手方又はその弁護人の意見を、職権による場合は検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければなりません(299条2項・規則190条2項)。採用する場合だけでなく却下する場合も聴くので、「仮に検察官からの証拠調べ請求を却下する場合であっても,弁護人の意見を聴く必要がある」という肢は正しいです。証拠物に伝聞法則は適用されませんが意見は聴くので、「弁護人の意見を聴かずに,ハンマーを証拠として採用するか否かを決定することができる」という肢は誤りです。職権による証拠調べの決定も意見を聴くので、「検察官の意見を聴かずに,証拠調べの決定をすることができる」という肢は誤りです。ここで聴く意見は証拠能力や必要性についての意見で、326条の同意とは別物です。鑑定の請求について「検察官に,刑事訴訟法第326条の同意をするかどうか聴かなければならない」という肢は誤りです。共同被告人の一方のためだけに請求された証拠について、他方の被告人と弁護人は意見を述べる権利を持ちません。「甲及び甲の弁護人は,これに対して意見を述べる権利がある」という肢は誤りです。同意は伝聞証拠に証拠能力を与えるだけで、取り調べるかどうかは裁判所の判断なので、立証趣旨が同一で内容が重複する供述調書2通について「いずれの供述調書も証拠として採用する決定をしなければならない」という肢は誤りです。裁判所は意見に拘束されず、一方の弁護人が「関連性なし」と述べても、関連性があると判断すればその被告人との関係でも採用して取り調べることができます。不同意の意見に理由を付ける義務はありませんが、裁判長が訴訟指揮として釈明を求めたときは釈明する義務を負います(294条・規則208条1項)。裁判所は、検察官面前調書の特信情況など証拠能力を判断するために、採用決定の前にその書面を見ることができます。
証拠書類は朗読か要旨の告知、証拠物は展示で取り調べ、原本の後に写しを出すことも原本がなくても写しを採用することもできます
証拠書類の取調べは、請求した者に朗読させるのが原則ですが(305条1項)、裁判長は訴訟関係人の意見を聴き相当と認めるときは、朗読に代えて要旨を告げさせることができます(規則203条の2)。「必ず朗読の方法で行わなければならない」という肢は誤りです。証拠物の取調べは展示で、請求した者に示させます(306条1項)。展示とは、証拠物の存在や状態を裁判所と訴訟関係人が認識できる状態にすることで、「ハンマーを裁判所と訴訟関係人が認識できる状態にすることである」という肢は正しいです。展示の際に事件との関連性を被告人に質問する定めはなく、「事件との関連性を被告人に質問しなければならない」という肢は誤りです。証拠物中書面の意義が証拠となるものは、展示と朗読の両方で取り調べます(307条)。証拠調べを終えた証拠書類や証拠物は遅滞なく裁判所に提出しますが、裁判所の許可を得て原本に代えて謄本を提出できるので(310条)、「示談書の原本が取り調べられた後,弁護人は,裁判所の許可を得て,示談書の写しを提出することができる」という肢は正しいです。原本を取り調べることができない場合でも、相手方が同意し又は異議がないときは写しを証拠として採用でき、「原本を取り調べることができない以上,その写しを証拠として採用する決定をすることはできない」という肢は誤りです。証拠調べを終わっていない書面や物でも、成立や同一性について証人に示して尋問することはでき、「ハンマーを示しての尋問が許されることはない」という肢は誤りです。被告人の自白を内容とする書面や供述は、犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければ請求できません(301条)。証拠決定に対する不服は証拠調べに関する異議によるのであって、判決前の決定なので抗告はできず(420条1項)、「審理の終結を待たず,高等裁判所に対して不服申立てをすることができる」という肢と、「直ちに抗告する必要がある」という肢はいずれも誤りです。
裁判所が命じた鑑定の鑑定書を当事者の請求なしに取り調べられるかは、職権で取り調べるべきとする見解と当事者の請求を要するとする見解に分かれます
裁判所が公判廷で鑑定を命じた鑑定人が作成した鑑定書を、どの手続で取り調べるかについては見解が分かれます。見解Ⅰは、裁判所が鑑定書による報告を命じた以上、当然にその取調べを予定しているとして、当事者の請求を待たずに公判廷で取り調べる必要があるとします。この見解からは、鑑定書が公判準備における鑑定人の尋問の結果を記載した書面と実質的に変わらないので、公判準備の尋問結果の書面を裁判所が取り調べなければならない303条と同様に扱うべきだという理由づけも導かれます。したがって「Ⅱ説は,…公判準備における証人尋問等の結果を記載した書面の取調べ手続と同様にすべきと考えるものである」という記述は、見解Ⅰの理由づけを見解Ⅱに結び付けている点で見解の対応を誤っています。見解Ⅰからは、当事者のいずれもが取調べ請求をしない旨の意見を述べても、裁判所は職権で321条4項の手続として鑑定人を証人として尋問する決定をすることになります。見解Ⅱは、鑑定書も証拠である以上、その取調べを当事者の意思にかからしめるのが証拠調べの当事者主義から当然だとして、原則として当事者の取調べ請求を要するとします。この見解からは、鑑定を請求した弁護人が取調べ請求をしない旨の意見を述べ、検察官が取調べ請求をする旨の意見を述べた場合、検察官は証拠能力を基礎づけるために321条4項の手続として鑑定人の証人尋問を請求する必要があります。弁護人が取調べ請求をする旨の意見を述べたときは、それは298条1項の証拠調べ請求そのものであって、326条の同意に読み替えるものではありません。
刑事訴訟法296条
証拠調のはじめに、検察官は、証拠により証明すべき事実を明らかにしなければならない。但し、証拠とすることができず、又は証拠としてその取調を請求する意思のない資料に基いて、裁判所に事件について偏見又は予断を生ぜしめる虞のある事項を述べることはできない。
刑事訴訟法299条1項
検察官、被告人又は弁護人が証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては、あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない。証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。但し、相手方に異議のないときは、この限りでない。
刑事訴訟法299条2項
裁判所が職権で証拠調の決定をするについては、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。
刑事訴訟法301条
第三百二十二条及び第三百二十四条第一項の規定により証拠とすることができる被告人の供述が自白である場合には、犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければ、その取調を請求することはできない。
刑事訴訟法305条1項
検察官、被告人又は弁護人の請求により、証拠書類の取調べをするについては、裁判長は、その取調べを請求した者にこれを朗読させなければならない。ただし、裁判長は、自らこれを朗読し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記官にこれを朗読させることができる。
刑事訴訟法316条の30
公判前整理手続に付された事件については、被告人又は弁護人は、証拠により証明すべき事実その他の事実上及び法律上の主張があるときは、裁判所及び訴訟関係人に対し、第二百九十六条の手続に引き続き、これを明らかにしなければならない。この場合においては、同条ただし書の規定を準用する。
論文ではこう使う
論文で証拠調べ手続の違法を指摘するときは、請求(立証趣旨の明示)、閲覧の機会、意見の聴取、決定、取調べの方法のどの段階の、どの条文・規則に反したかを特定し、その違反が判決に影響を及ぼすかを続けて書きます。証拠意見と326条の同意を混同しないこと、同意は証拠能力の問題で採否は裁判所の判断であることを一言添えると、伝聞の論点から手続の論点へ無理なくつなげられます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。