保釈の種類と権利保釈の除外事由とは
ほしゃくのしゅるいとけんりほしゃくのじょがいじゆう
保釈とは、勾留されている被告人について、保証金の納付を条件に勾留の執行を解いて釈放する制度です(刑事訴訟法88条以下)。請求があれば除外事由がない限り許さなければならない権利保釈(89条)、裁判所が職権で許す裁量保釈(90条)、勾留が不当に長くなったときに許さなければならない保釈(91条)の3つがあります。
起訴されて勾留されている被告人が、お金を預けて「必ず裁判に出ます」と約束し、判決までの間いったん家に帰るのが保釈です。逃げたり証拠を消したりしたら預けたお金を取り上げられるので、拘束しなくても裁判は進められる、という考え方に立っています。まだ起訴されていない被疑者には保釈はありません。保釈には、請求があれば原則として許さなければならない権利保釈と、裁判所が事情を見て職権で許す裁量保釈と、勾留が不当に長くなったときに許さなければならない保釈の3つがあり、どれに当たるかで裁判所の縛られ方が違います。
保釈は勾留されている被告人だけの制度で、被疑者と鑑定留置中の被告人にはありません
保釈の請求ができるのは勾留されている被告人とその弁護人等です(刑事訴訟法88条1項)。勾留の請求を受けた裁判官は裁判所と同一の権限を持ちますが、保釈は明文で除かれているので(207条1項但書)、被疑者に保釈はありません。「勾留の継続により被疑者が受ける健康上又は社会生活上の不利益がある場合,勾留中の被疑者を保釈することができる」という肢と、「勾留されている被疑者の弁護人は、裁判官に保釈の請求をすることができる」という肢はいずれも誤りで、「被疑者については,保釈の請求をすることはできない」という肢は正しいです。殺人の被疑事実により勾留中の被疑者について保釈を許可することは法律上許されず、起訴前は認められるが起訴後は認められないものを選ぶ問題で「保釈の請求」は逆向きなので当たりません。鑑定留置には勾留に関する規定が準用されますが、保釈に関する規定は除かれているので(167条5項但書)、「鑑定留置中の被告人についても,適当と認めるときは,職権で保釈を許すことができる」という肢は誤りです。
権利保釈は、請求があれば6つの除外事由に当たらない限り許さなければならず、逃亡のおそれは除外事由ではありません
保釈の請求があったときは、裁判所は次の6つの場合を除いて保釈を許さなければなりません(89条)。「第一審の公判審理中に保釈の請求があったときは,刑事訴訟法第89条各号所定の事由がある場合を除いて,保釈を許さなければならない」という肢は正しいです。除外事由は、罪の重さ(1号)、前科(2号)、常習性(3号)、罪証隠滅のおそれ(4号)、被害者等への加害・畏怖のおそれ(5号)、氏名又は住居が分からないこと(6号)の6つで、勾留の理由である逃亡のおそれは入っていません。殺人罪で勾留中の被告人は1号に、殺人罪で有期の実刑判決を受けた前科がある被告人は2号に、被害者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由がある被告人は5号に、定まった住居を有しない被告人は6号に当たるので、裁判所は89条による保釈を許可できません。これに対して「甲に逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある場合,裁判所は,同条による保釈を許可することはできない」という肢は誤りで、逃亡のおそれは裁量保釈の考慮事情や保証金額に反映されるにとどまります。ただし、逃亡のおそれだけを理由に勾留されている被告人でも、罪の重さや前科や常習性といった他の除外事由に当たることはあるので、「逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるということのみを理由に勾留されている場合,…裁判所は保釈を許さなければならない」という肢は誤りです。権利保釈の可否は、法定刑の軽重によって法律上当然に結論が異なる事項です。
- 1号死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき
- 2号前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える拘禁刑に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき
- 3号常習として長期3年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき
- 4号罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
- 5号被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき
- 6号氏名又は住居が分からないとき
- 入っていないもの逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由(60条1項3号の勾留の理由ではあるが、権利保釈の除外事由ではない)
除外事由に当たっても裁判所は職権で裁量保釈ができ、裁判員対象事件や罪証隠滅のおそれがあっても保釈が一切できないわけではありません
裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができます(90条)。この考慮事情は平成28年改正で明文化されました。裁量保釈は職権で行うので、請求がない場合でも、89条各号の事由がある場合でもできます。「保釈の請求がない場合又は刑事訴訟法第89条各号所定の事由がある場合でも,適当と認めるときは職権で保釈を許すことができる」という肢は正しく、殺人の公訴事実により勾留中の被告人、逃亡のおそれがある被告人、保釈の請求がない被告人について保釈を許可することは、いずれも法律上許されます。裁判員裁判対象事件は死刑又は無期の拘禁刑に当たる罪か短期1年以上の拘禁刑に当たる罪のうち故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものなので89条1号に当たりますが、裁量保釈はできます。「裁判員裁判対象事件は,…第89条第1号の…罪に該当するから,保釈は認められない」という肢は誤りです。同じく、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは,保釈は一切許されない」という肢と、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは,保釈を許すことができない」という肢も誤りです。勾留による拘禁が不当に長くなったときは、裁判所は請求により又は職権で、勾留を取り消すか保釈を許さなければなりません(91条1項)。拘禁刑以上の実刑判決の宣告があった後は89条が適用されず、裁量保釈も不利益の程度が著しく高い場合などに限られます(344条)。
- 権利保釈(89条)請求があれば、6つの除外事由に当たらない限り「許さなければならない」
- 裁量保釈(90条)職権で「許すことができる」。請求がなくても、除外事由に当たっても可能。逃亡・罪証隠滅のおそれの程度と拘束による不利益の程度を比べる
- 義務的保釈(91条)勾留による拘禁が不当に長くなったとき、請求又は職権で勾留の取消し又は保釈を「許さなければならない」
- 実刑判決の宣告後(344条)89条は適用されず、90条の保釈は不利益の程度が著しく高い場合か逃亡のおそれの程度が高くないと認める相当な理由がある場合に限る
事例では、公判請求された公訴事実と前科と住居を、1人ずつ除外事由に当てはめます
住居侵入・窃盗の事実で5人が勾留のまま公判請求され、いずれも逃亡のおそれはあるが罪証隠滅のおそれと加害・畏怖のおそれはないという事例では、残る除外事由は1号から3号と6号です。住居侵入罪は3年以下、窃盗罪は10年以下の拘禁刑なので、公訴事実そのものは1号に当たりません。詐欺罪(10年以下の拘禁刑)で8年の実刑を受けた前科は、「長期10年を超える」罪の前科ではないので2号に当たらず、余罪も住居もある甲は、権利保釈が明らかに認められないとはいえません。強盗致傷罪(無期又は6年以上の拘禁刑)の前科がある乙は2号に当たります。常習として器物損壊を繰り返した暴力行為等処罰に関する法律違反(長期5年の拘禁刑)の事実でも勾留され公判請求された丙は3号に当たります。住居不定の丁は6号に当たります。戊は、殺人未遂の事実で勾留されましたが公判請求された公訴事実は傷害罪(15年以下の拘禁刑)で、前科がなく、1号は公判請求された公訴事実の罪で判断するので、勾留の被疑事実が殺人未遂であったことは除外事由になりません。戊も権利保釈が明らかに認められないとはいえません。宣告刑の重さではなく、公訴事実と前科の罪の法定刑で見ることが決め手です。
余罪の罪証隠滅のおそれを除外事由に数えられるかは、勾留の効力が一罪の他の部分に及ぶかの見解で結論が変わります
包括一罪の関係にあるa事件とb事件、これらと併合罪の関係にあるc事件のうち、a事件だけで勾留され起訴された被告人が保釈を請求した事例があります。一罪の一部についての勾留の効力は当然に他の部分に及ぶとする見解Ⅰからは、b事件について罪証隠滅のおそれがあれば、a事件についてそれがなくても権利保釈は認められないことになります。ただし見解Ⅰでも、併合罪であるc事件には勾留の効力が及ばないので、c事件の罪証隠滅のおそれを理由に権利保釈を否定することはできません。勾留の効力は他の部分に及ばないとする見解Ⅱからは、b事件についてもc事件についても、そこに罪証隠滅のおそれがあることを理由に権利保釈が否定されることはありません。他方で、3号の「常習として」犯したかどうかは、被告人の行状から認定する事柄なので、勾留の効力が及ぶかにかかわらず、b事件やc事件の存在を考慮して判断できます。この点はどちらの見解からも同じで、「c事件の存在を考慮することは許されない」「b事件の存在を考慮することは許されない」という帰結はどちらの見解からも導かれません。見解の対立そのものは一罪一逮捕一勾留の語で扱います。なお判例は、裁量保釈の当否を判断する一資料として勾留状の発せられていない事実を考慮することを認めており、この点は保釈の手続の語で扱います。
刑事訴訟法89条
保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき。二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える拘禁刑に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。三 被告人が常習として長期三年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき。四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
刑事訴訟法90条
裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
刑事訴訟法91条1項
勾留による拘禁が不当に長くなつたときは、裁判所は、第八十八条に規定する者の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消し、又は保釈を許さなければならない。
刑事訴訟法167条5項
勾留に関する規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、第一項の留置についてこれを準用する。但し、保釈に関する規定は、この限りでない。
論文ではこう使う
論文で保釈の可否を論じるときは、まず被告人であること(被疑者には保釈がないこと)を確認し、次に権利保釈と裁量保釈を分けて書きます。権利保釈では89条各号を順に当てはめ、とくに4号の罪証隠滅のおそれは、隠滅の対象と手段と客観的可能性を具体的に書き、逃亡のおそれを除外事由に混ぜないようにします。除外事由に当たる場合は、90条の考慮事情である逃亡・罪証隠滅のおそれの程度と、拘束の継続による健康上・経済上・社会生活上・防御の準備上の不利益の程度を比較して裁量保釈の当否を論じます。余罪がある事案では、勾留の効力が及ぶ範囲(一罪一勾留)を先に決めてから、権利保釈の除外事由として数えるか、裁量保釈の一資料として考慮するかを書き分けます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。