一罪一逮捕一勾留の原則と再逮捕・再勾留とは
いちざいいちたいほいちこうりゅうのげんそくとさいたいほさいこうりゅう
一罪一逮捕一勾留の原則とは、同一の被疑事実についての逮捕・勾留は原則として1回限りで、実体法上一罪の関係にある事実を分割して逮捕・勾留を繰り返すことも許されないという原則です。再逮捕・再勾留は、新たな事情が生じ、身体拘束の不当な蒸し返しに当たらない場合に例外として認められます。
同じ事件で逮捕と勾留を何度も繰り返せたら、逮捕は72時間まで、勾留は20日までという期限に意味がなくなります。そこで、同一の被疑事実についての逮捕・勾留は原則として1回限りとされ、実体法上一つの罪になる事実を細切れにして、その一部ずつで逮捕・勾留を繰り返すことも許されません。これが一罪一逮捕一勾留の原則です。ただし、いったん釈放した後に新しい証拠が見つかったような場合には、例外として再逮捕・再勾留が認められることがあります。
同一の被疑事実についての逮捕・勾留は原則として1回限りで、一罪を分割して繰り返すこともできません
刑事訴訟法は逮捕について203条から205条までで最長72時間、勾留について208条で原則10日・延長を含めて最長20日という期間の制限を設けています。同一の被疑事実について逮捕・勾留を繰り返すことを認めると、この制限は容易に潜脱されるので、原則として許されません。実体法上一罪の関係にある事実についても、捜査機関が一部ずつに分けて身体拘束を重ねることは、一罪を分割した二重の拘束に当たるので許されません。見解問題では「実体法上一罪の関係にある被疑事実を理由とする身体拘束は、一回に限り認められる」という見解Ⅱとして示され、この見解からは、強盗の被疑事実を暴行と窃盗に分割して、「甲が暴行の被疑事実で逮捕、勾留された後に、改めて、窃盗の被疑事実で逮捕状を請求することはできない」という帰結になります。実体法上一罪には単純一罪や包括一罪だけでなく、観念的競合や牽連犯という科刑上一罪も含まれるので、強盗で逮捕された後に勾留請求が却下された場合でも、その強盗の手段である住居侵入(牽連犯)を理由として「甲の逮捕状を請求することができる」という帰結にはなりません。勾留請求の却下によって身体拘束の機会が復活するわけではないからです。
傷害で勾留中に強盗目的の供述が出ても、同一の事実なので強盗致傷で重ねて逮捕することはできません
傷害罪で勾留された被疑者が強盗目的で事件を起こした旨供述した場合、強盗致傷罪の被疑事実は同一の日時・場所の同一の暴行を内容とし、傷害罪の被疑事実と同一の事実です。法的評価が変わっただけで新たな事実が生じたわけではなく、被疑者の身体はすでに勾留で拘束されているので、重ねて逮捕する必要もありません。「傷害罪による勾留中に強盗致傷罪で逮捕しても適法である」という肢は誤りです。必要なのは、同一事実の範囲内での取調べや勾留期間の延長です。
釈放後に新たな事情が生じた場合など、同一事実での再逮捕・再勾留が許される場合はあります
刑事訴訟法は再逮捕を全面的に禁止してはいません。199条3項は、同一の犯罪事実について前に逮捕状の請求又は発付があったときはその旨を裁判所に通知しなければならないと定め、同一事実について複数回の逮捕状発付があり得ることを前提にして、裁判官に慎重な審査をさせています。逮捕後に釈放された被疑者について、新証拠の発見などの新たな事情が生じ、事案の重大性と再度の拘束の必要性・相当性が認められ、先行する拘束の不当な蒸し返しといえない場合には、再逮捕が許されます。「窃盗の事実で逮捕した後に釈放した被疑者を同一の窃盗の事実で再び逮捕することが許される場合もある」という肢は正しいです。再勾留について裁判例は、先行の勾留期間の長短、その期間中の捜査経過、釈放後の事情変更の内容、事案の軽重、検察官の意図その他諸般の事情を考慮し、社会通念上捜査機関に強制捜査を断念させることが首肯し難く、身体拘束の不当な蒸し返しでないと認められる場合に限って許されるとしています(東京地決昭和47年4月4日)。常習一罪の一部で逮捕・勾留して起訴した後に、先の逮捕前から捜査機関が存在を把握していた別の日の賭博で改めて逮捕・勾留した事案では、先行する逮捕・勾留中に同時に捜査を遂げる可能性があったとして一罪一勾留の原則が適用され、同一の犯罪事実についての再度の逮捕・勾留として適否が検討されました(仙台地決昭和49年5月16日)。これに対し、勾留中の被疑者を同一事件で再逮捕することはできません。
一罪の一部についての勾留の効力が他の部分に及ぶかで、権利保釈の除外事由の判断が変わります
実体法上一罪の関係にある数個の可罰的行為について、一部の行為についての勾留の効力が他の部分に及ぶかには見解の対立があります。見解Ⅰは、一罪の一部を構成する可罰的行為についての勾留の効力は、起訴の有無にかかわらず当然に他の部分に及ぶとし、見解Ⅱは及ばないとします。a事件(業務上横領)で起訴され勾留されている被告人に、a事件と包括一罪のb事件と、併合罪のc事件の余罪がある事例で、見解Ⅰからは、a事件についての勾留の効力は包括一罪のb事件に及ぶので、「a事件に関して,甲が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がなくても,b事件に関して,それがある場合には,権利保釈は認められない」という帰結になります。併合罪のc事件には見解Ⅰでも効力は及ばないので、c事件に罪証隠滅のおそれがあっても権利保釈は否定されません。見解Ⅱからは、b事件・c事件のいずれに罪証隠滅のおそれがあっても、a事件についてなければ、この点を理由に権利保釈が否定されることはありません。常習として犯したかどうかの判断に他の事件の存在を考慮できるかは、勾留の効力の範囲とは別の事実認定の問題なので、どちらの見解でも考慮は許されます。権利保釈の除外事由そのものは保釈の種類と権利保釈の除外事由の語で扱います。
刑事訴訟法199条3項
検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。
論文ではこう使う
論文では、再逮捕・再勾留や一罪の一部での繰り返しの逮捕・勾留が問題になる事案で、まず逮捕・勾留の期間制限の趣旨から一罪一逮捕一勾留の原則を導き、次に199条3項が再逮捕を予定していることを根拠に例外を認めます。例外の要件は、新たな事情の発生、事案の重大性、再度の身体拘束の必要性と相当性、先行する拘束の不当な蒸し返しでないことに分けて当てはめ、再勾留では先行の勾留期間の長短や捜査経過、釈放後の事情変更を具体的に書きます。常習一罪の一部での逮捕・勾留が問題になる事案では、先行する拘束の時点で同時処理の可能性があったかを検討し、可能性がなかった部分には原則が及ばないという構成にします。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。