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用語集 / 刑事訴訟法 / 別件逮捕・勾留と余罪取調べ

別件逮捕・勾留と余罪取調べ(本件基準説・別件基準説・実体喪失説)とは

べっけんたいほこうりゅうとよざいとりしらべ

刑事訴訟法 逮捕・勾留

別件逮捕・勾留とは、逮捕・勾留の要件が備わらないA事実(本件)の取調べに利用する目的で、要件の備わっているB事実(別件)を理由に逮捕・勾留することです。その適法性は、別件基準説・本件基準説・実体喪失説で判断の基準と時点が分かれます。

殺人(A事実)を自白させたいのに証拠が足りず逮捕できないので、証拠のそろっている軽い窃盗(B事実)で逮捕・勾留し、その身体拘束を使って殺人を取り調べることがあります。これが別件逮捕・勾留と呼ばれる捜査です。B事実だけを見れば令状の要件はそろっているのに、本当の狙いはA事実の取調べにあるので、裁判官の審査を経ないままA事実で身体を拘束しているのと変わらないのではないか、という疑いが生じます。どの時点で、何を基準に違法とするかで、三つの見解が立てられています。

警察署の取調室の場面。先生が警察官役(札「司法警察員」)で机に座り、向かいに男性(札「被疑者」)が座っている。机の上に薄いファイル「B事実:窃盗(令状の理由)」と、分厚いファイル「A事実:殺人(証拠不足・未逮捕)」があり、先生の手は分厚い方

別件基準説は、B事実に逮捕・勾留の要件が備わっているかだけで適法性を判断します

別件基準説は、身体拘束の適法性は令状の請求と発付の対象とされたB事実について逮捕・勾留の理由と必要性が備わっているかを基準に判断し、捜査機関がB事実の拘束中に主としてA事実を取り調べる意図であるかどうかは、B事実による逮捕・勾留の適法性に直接は影響しないとする見解です。この見解からは、B事実について要件が備わっている限り、裁判官はB事実での逮捕状請求や勾留請求を認容すべきことになります。この見解に対しては、捜査機関による身体拘束の濫用という問題の本質を無視する考え方であるという批判が向けられます。「IIの見解に対しては、捜査機関による身体拘束の濫用という問題の本質を無視する考え方であるとの批判がある」という記述は、別件基準説を見解Ⅱとして置いた問題では正しい記述です。もっとも、この見解が判断しているのは身体拘束の適法性であって、拘束中の取調べの適法性ではありません。別件基準説も、拘束期間が専らA事実の取調べに費やされB事実の取調べが全く行われていないような場合には、余罪取調べの限界としてA事実の取調べを違法と評価する余地を残します。「仮にその身体拘束期間中に専らA事実の取調べが行われており、B事実の取調べが全く行われていないような場合でも、A事実の取調べが違法となることはない」という記述は、別件基準説からの帰結として誤りです。

本件基準説は、A事実の取調べを行う意図があれば令状請求を却下すべきとし、事前防止を重視します

本件基準説は、B事実の背後にあるA事実に着目し、捜査機関がB事実に名を借りて実質的にはA事実の取調べを行う意図、あるいはB事実による逮捕・勾留を専ら又は主としてA事実の捜査に利用する意図である場合には、B事実について逮捕・勾留の要件が備わっていても、実質的にはA事実による令状のない身体拘束として違法であり、裁判官はB事実での逮捕状請求や勾留請求を却下すべきだとする見解です。厳格な身体拘束期間の潜脱行為を事前に防止することを重視する立場です。この見解からは、仮にA事実について逮捕・勾留の理由と必要性が備わっている場合には、A事実の取調べを行う意図でB事実により逮捕・勾留しても違法とはなりません。また、判断の決め手は「専ら又は主として」という意図の比重なので、B事実の取調べが相応に行われA事実の取調べがそれと並行して行われたにとどまる場合には、身体拘束が違法にならないことがあります。「Iの見解でも、B事実による身体拘束期間にB事実の取調べと並行してA事実の取調べを行った場合、その身体拘束が違法にならないことがある」という記述は、本件基準説を見解Ⅰとして置いた問題では正しい記述です。この見解に対しては、令状審査は疎明資料に基づく書面審査であり、裁判官が逮捕状請求や勾留請求の審査に当たってまず捜査機関の意図・目的を調べなければならないことは現実的でないという批判が向けられます。この批判は本件基準説に向けられたもので、実体喪失説に向けられたものではありません。

大学の教室の場面。先生が教師役(札「刑事訴訟法」)で黒板の前に立つ。黒板に三列の表。一列目の見出し「別件基準説」、本文「B事実の要件だけで判断」、下に小さく「批判:濫用の本質を無視」。二列目の見出し「本件基準説」、本文「A事実を調べる意図が

実体喪失説は、拘束期間が主としてA事実の捜査に利用されるに至った時点以降を違法とします

実体喪失説は、B事実による逮捕・勾留の開始は適法でも、その後の身体拘束期間が主としてA事実の捜査のために利用されるに至った場合には、それ以降の身体拘束はB事実による逮捕・勾留としての実体を失い、A事実による身体拘束となっていると評価され、A事実による逮捕・勾留の要件を欠くため違法になるとする見解です。この見解の前提にあるのは、逮捕・勾留の期間は、その理由とされた被疑事実について被疑者の逃亡や罪証隠滅を防止した状態で起訴・不起訴の決定に向けた捜査を行うために法が認めた期間であるという理解です。「IIIの見解は、逮捕・勾留期間につき、その理由とされた被疑事実について…起訴・不起訴の決定に向けた捜査を行う期間であると捉える考えと整合しない」という記述は誤りで、むしろ整合します。また、この見解からは、B事実の拘束中にB事実の取調べと並行してA事実の取調べを行っただけで常に違法になるわけではありません。

  • 別件基準説B事実の要件で判断し、意図は問わない。批判:身体拘束の濫用という本質を無視する。取調べの違法は余罪取調べの限界として別に判断する
  • 本件基準説(意図・目的説)A事実の取調べの意図があれば却下。事前防止を重視。批判:裁判官が捜査機関の意図を審査するのは現実的でない。並行取調べにとどまれば違法にならないことがある
  • 実体喪失説主としてA事実の捜査に利用されるに至った時点以降が違法。並行して取り調べただけでは常に違法とはならない

判例は別件の拘束中に本件を取り調べたことだけで違法とはせず、違法な逮捕を糊塗した事案では証拠を排除しました

判例は、別件についての逮捕・勾留中に本件の取調べが行われたからといって、当然にその身体拘束が違法となるものではないとしています(最決昭和52年8月9日)。他方、逮捕状を示さず緊急執行の手続もとらずに逮捕し、その違法を糊塗するために逮捕状に虚偽を記入し、内容虚偽の捜査報告書を作成し、公判でも事実に反する証言をした事案では、逮捕後の行為も令状主義に関する諸規定を潜脱しようとの意図をうかがわせるとして違法の程度を重大と評価し、その逮捕当日に拘束下で任意提出された尿の鑑定書は、窃盗という逮捕の被疑事実と異なる覚醒剤使用の立証に用いるものであっても、逮捕と密接な関連を有するとして証拠能力を否定しました(最判平成15年2月14日)。この排除の枠組みは違法収集証拠排除法則の語で扱います。身体拘束中の被疑者を勾留事実以外の余罪について取り調べることは、事件単位の原則との関係で、勾留事実の取調べと並行して行う限り一般に許されますが、取調受忍義務が余罪にも及ぶかは争いがあり、被疑者の取調べの語と取調受忍義務と黙秘権の語で扱います。

論文ではこう使う

論文では、別件逮捕・勾留の事案で、まず身体拘束の適法性と余罪取調べの適法性を分けて検討する枠組みを示します。身体拘束については、採る見解を明示し、本件基準説なら逮捕・勾留時の捜査機関の意図を、取調べ時間の配分、A事実の証拠の収集状況、B事実の処分の見通しなどの客観的事情から認定し、実体喪失説なら拘束期間がいつから主としてA事実の捜査に使われたかを時系列で特定します。余罪取調べについては、事件単位の原則と取調受忍義務の関係を整理し、B事実の取調べが実質的に行われていたか、A事実の取調べの時間と態様が令状主義を潜脱するものかを当てはめます。違法と評価した場合は、その間に得られた自白や証拠の証拠能力に進みます。

試験ではこう問われる

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