事件単位の原則(併せ勾留・余罪を理由とする勾留継続の禁止)とは
じけんたんいのげんそく
事件単位の原則とは、逮捕・勾留の効力はその理由とされた被疑事実ごとに及び、身体拘束に関する処分は令状に明示された被疑事実について行い、それ以外の事実のみに基づいて行ってはならないという原則です。
逮捕状や勾留状には「どの事件で身体を拘束するのか」が書いてあります。身体拘束の効力はその事件にだけ及び、書かれていない別の事件のために拘束を続けたり延ばしたりすることはできません。これが事件単位の原則です。人を拘束しているのだから他の事件も一緒に調べてよいだろう、という発想を認めると、拘束の理由も期限もあいまいになってしまうからです。勾留の理由がなくなったのに「余罪を調べたいから」と留め続けることは許されません。
逮捕・勾留の効力は、令状に明示された被疑事実ごとに及びます
逮捕状には被疑事実の要旨が、勾留状には公訴事実(被疑事実)の要旨が記載され(刑事訴訟法200条1項・64条1項)、被疑者にはその事実が告げられて弁解の機会が与えられます(203条1項・61条)。身体拘束に関する処分は、このように明示された被疑事実について行われるもので、それ以外の事実のみに基づいて行ってはならないというのが事件単位の原則です。拘束の理由を明確にし、事実ごとに定められた時間制限を実効化し、被疑者の防御を保障するためです。見解問題では「身体拘束に関する処分は、明示的に身体拘束の理由とされている被疑事実について行われるもので、それ以外の事実のみに基づいて行われてはならない」という見解Ⅲとして示されます。被告人の勾留でも同じで、勾留状に記載された公訴事実ごとに効力を考えます。
逮捕した事実に逮捕していない余罪を併せて勾留請求でき、裁判官は両方の事実で勾留状を発せられます
事件単位で考えるので、勾留の効力をどの事実に及ぼすかは勾留請求の時に決まります。軽犯罪法違反の現行犯で逮捕した被疑者について窃盗の事実も併せて勾留請求することや、窃盗で現行犯逮捕した被疑者について詐欺の事実を併せて勾留請求することはでき、裁判官は、いずれの事実についても勾留の理由と必要が認められると判断すれば、両罪について勾留状を発することができます。「詐欺及び窃盗のいずれについても勾留の理由及び必要性が認められると判断したとき、両罪について勾留状を発付することができる」という肢は正しいです。こうして両方の事実が勾留の基礎になれば、どちらか一方の事実についてだけ勾留の理由が残っていても勾留を続けられます。逮捕を経ていない事実を併せられる根拠は逮捕前置主義の語で扱います。
勾留事実について理由や必要がなくなれば、余罪の捜査の必要を理由に勾留を続けることはできません
勾留状の効力は記載された事実にしか及ばないので、その事実について勾留の理由又は必要がなくなったときは、裁判官は勾留を取り消さなければならず(87条1項・207条1項)、逮捕も勾留もしていない別の事実の捜査の必要を理由に勾留を維持することはできません。窃盗罪で勾留状が発せられ執行された後に窃盗罪について勾留の理由又は必要がなくなった場合に「詐欺罪について捜査の必要があることを理由として甲の勾留を継続することは許されない」という肢は正しく、詐欺罪で勾留した後に「窃盗罪の事実について捜査の必要があることを理由として甲の勾留を継続することは許されない」という肢も正しいです。余罪について身体拘束が必要なら、その事実について改めて逮捕の手続を経て勾留を請求しなければなりません。同様に、勾留事実と無関係な余罪の捜査のために勾留期間を延長することもできません。ただし、勾留事実と同一性のある事実(傷害で勾留中に強盗目的の疑いが生じた場合の強盗致傷)の解明は勾留事実の捜査なので、延長の理由にできます。この点は勾留期間と延長の語で扱います。
別の事実の捜査で判明した事情でも、勾留事実に関連する限り延長請求の疎明に使えます
事件単位の原則が禁じるのは、明示された事実以外の事実のみを根拠に身体拘束の処分をすることです。勾留事実の捜査の必要性を裏付ける資料として、並行して行っている別の事実の捜査で判明した事情を使うことまで禁じるものではありません。見解Ⅲの下でも、強盗の被疑事実を理由とする勾留の延長を請求するに当たり、並行して実施している別の被疑事実の捜査から判明した事情が強盗の被疑事実に関連するなら、これを示すことができます。「前記強盗の被疑事実に関連するとしても、これを示すことはできない」という帰結にはなりません。身体拘束中の被疑者を勾留事実以外の余罪について取り調べることの可否と限界は、別件逮捕・勾留と余罪取調べの語で扱います。被告人が同時に余罪の被疑者として勾留されている場合の接見指定は、接見指定の語で扱います。
刑事訴訟法87条1項
勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。
刑事訴訟法64条1項
勾引状又は勾留状には、被告人の氏名及び住居、罪名、公訴事実の要旨、引致すべき場所又は勾留すべき刑事施設、有効期間及びその期間経過後は執行に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判長又は受命裁判官が、これに記名押印しなければならない。
論文ではこう使う
論文では、身体拘束の適法性を論じる最初に、逮捕・勾留の効力は令状に記載された被疑事実ごとに及ぶという事件単位の原則を一文で立て、その理由を、令状に被疑事実の要旨を記載させて告知する条文の構造と、事実ごとの時間制限の実効化に求めます。そのうえで、余罪を理由とする勾留の継続や延長は許されないこと、併せて勾留請求した事実には効力が及ぶことを当てはめます。別件逮捕・勾留の事案では、事件単位の原則を前提にしつつ、どの見解で違法を判断するかに進み、余罪取調べの限界では、事件単位の原則と取調受忍義務の関係を整理して書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。