被疑者勾留の要件(60条:相当な理由・住居不定・罪証隠滅・逃亡・必要性・軽微事件の特則)とは
ひぎしゃこうりゅうのようけん
被疑者勾留の要件とは、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ、定まった住居を有しない、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある、逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある、のいずれかに当たり、さらに勾留の必要性があることです(刑事訴訟法60条1項・207条1項)。
逮捕のあと、さらに10日、20日と身体を拘束するのが勾留です。逮捕より長いので、要件も「怪しいから」だけでは足りません。罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由に加えて、定まった住居がない、証拠を隠しそうだ、逃げそうだ、のどれかが要り、さらに本当に拘束しておく必要があるかも見ます。軽い罪なら、住居がない場合にしか勾留できません。勾留は「逃げたり証拠を消したりして裁判ができなくなること」を防ぐための制度であって、罰として閉じ込めるものではないからです。
勾留の要件は、相当な理由と、住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれのいずれかと、勾留の必要性です
裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、①被疑者が定まった住居を有しないとき、②罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、③逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときのいずれかに当たるときに、勾留することができます(刑事訴訟法60条1項・207条1項)。三つの事由は択一で、住居不定だけでも勾留できます。「被疑者が定まった住居を有するときには,…罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり,かつ,…逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときに限り,被疑者を勾留することができる」という肢は、二つを重ねて要求している点で誤りです。これに加えて、勾留の理由があっても拘束の必要がなければ勾留できません。勾留の必要がなくなれば取り消されること(87条1項)から、勾留の必要性も要件とされています。判例は、通勤時間帯の地下鉄内で女子中学生の身体を触ったという条例違反の事案で、前科前歴のない会社員で逃亡のおそれが否定されている以上、勾留の必要性を左右するのは罪証隠滅の現実的可能性の程度であるとし、被害者に接触する可能性が高いことを示す具体的事情がうかがわれないとして勾留請求を却下した判断を不合理とはいえないとしました(最決平成26年11月17日)。被告人の勾留も同じ60条によりますが、裁判所が職権で行い、期間や保釈の有無が違います。その違いは被疑者の勾留と被告人の勾留の違いの語で扱います。
- 相当な理由被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(60条1項柱書)
- 勾留の理由(いずれか一つ)①定まった住居を有しない ②罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由 ③逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由(60条1項各号)
- 勾留の必要性勾留の理由があっても、拘束を続ける必要がなければ勾留できない(87条1項参照)
- 軽微事件の特則30万円以下の罰金・拘留・科料に当たる事件は、定まった住居を有しない場合に限る(60条3項)
「定まった住居」は現実の生活の本拠で判断し、住民票の住所があるだけでは足りません
定まった住居を有しないとは、住居はもちろん居所も定まっていないことをいい、形式ではなく実質で判断します。住居の種類や居住期間、住民登録の有無、職業や家族関係の安定性を合わせて見ます。住民票の記載は一つの要素にすぎません。「現実にどこで起臥寝食しているかにかかわらず,住民票記載の住所が「定まつた住居」に当たる」という肢は誤りです。
罪証隠滅のおそれは客観的な可能性が要り、動機の証拠や第三者にさせる隠滅も含みます
罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるというには、被疑者に隠滅の意図があるだけでは足りず、隠滅行為がされた場合に隠滅の効果が生じ得るという客観的な可能性と実効性が要ります。証拠物がすべて押収済みで、目撃者が警察官だけといった場合は、隠滅の余地がありません。「被疑者において主観的に証拠を隠滅しようという意図があれば足り,…罪証隠滅の効果が生じ得るものであることは必要ではない」という肢は誤りです。隠滅の対象となる罪証は、構成要件に該当する事実だけでなく、違法性や責任に関する事実、犯行に至る経緯や動機などの犯情に関する事実も含みます。「犯罪の動機に関する証拠にのみ隠滅のおそれがある場合には,同号の要件を満たすことはない」という肢は誤りです。隠滅行為は被疑者が自分で行う場合に限らず、第三者に命じたり指示したりしてさせる場合も含みます。「被疑者が第三者に命じたり,指示したりして,その第三者に罪証隠滅行為をさせる場合も含まれる」という肢は正しいです。
逃亡のおそれは、生活の安定性や罪責の重さや前科も考慮して判断します
逃亡とは、刑事訴追や刑の執行を免れる目的で所在不明になることをいいます。そのおそれは、生活が不安定で所在不明になりやすいか、処罰を免れるために姿を消しそうかという観点から判断します。相当年数同じ会社に勤めている人と、日雇いで勤務先を転々としている人とでは、後者の方が逃亡のおそれがあると判断されやすく、「判断に差異は生じない」という肢は誤りです。罪責が重大で重い刑が予想されることや、同種前科があること、余罪があること、執行猶予中であることは、逃亡のおそれを肯定する方向の事情です。「被疑者に同種前科があることを…肯定する方向に考慮することは許されない」という肢は誤りです。
30万円以下の罰金・拘留・科料の事件は、住居不定の場合に限って勾留でき、少年は「やむを得ない場合」に限ります
30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については当分の間2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、定まった住居を有しない場合に限って60条1項を適用します(60条3項)。軽微事件では、罪証隠滅のおそれと逃亡のおそれがそろっていても、住居が定まっていれば勾留できません。「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり,かつ,逃亡すると疑うに足りる相当な理由があったとしても,住居不定でなければ勾留することはできない」という肢は正しいです。したがって勾留の要件には法定刑の軽重による差異が設けられています。同じ線引きは通常逮捕(199条1項但書)と現行犯逮捕(217条)にもあります。少年の被疑者も勾留できますが、検察官はやむを得ない場合でなければ勾留を請求できず、裁判官もやむを得ない場合でなければ少年に勾留状を発することができません(少年法43条3項・48条1項)。「少年の被疑者については,勾留することができない」という肢と、「定まった住居を有する少年の被疑者を勾留することはできない」という肢はいずれも誤りです。
第一審で無罪となった被告人でも、控訴審は相当な理由と必要性があれば勾留できます
無罪の判決が告知されると勾留状は失効します(345条)。しかし判例は、裁判所は相当な理由と勾留の理由と必要性があれば職権で被告人を勾留でき、その時期に特段の制約はないとして、第一審が無罪判決を言い渡した場合でも、控訴裁判所は記録等の調査により無罪判決の理由の検討を経た上でもなお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、勾留の理由があり、控訴審における適正、迅速な審理のためにも勾留の必要性があると認める限り、審理の段階を問わず被告人を勾留できるとしました(最決平成12年6月27日)。その後の判例は、無罪判決を受けた被告人の相当な理由の判断は無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重にされなければならず、嫌疑の程度としては第一審段階におけるものよりも強いものが要求されるとしています(最決平成19年12月13日)。「その審理の段階を問わず,被告人を勾留することができる」という肢は正しいです。
刑事訴訟法60条1項
裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。一 被告人が定まつた住居を有しないとき。二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
刑事訴訟法60条3項
三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。
刑事訴訟法207条1項
前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
論文ではこう使う
論文では、勾留の適法性を問われたときに、60条1項の要件を、相当な理由、勾留の理由、勾留の必要性の順に当てはめます。相当な理由は逮捕の相当な理由と同程度の嫌疑で足りることを一言述べ、勾留の理由は問題文の事情を号ごとに振り分けます。罪証隠滅のおそれでは、隠滅の対象(共犯者や被害者への働きかけ、証拠物)と客観的な可能性と実効性を具体的に書き、主観的な意図だけで認定しません。逃亡のおそれでは、住居や職業や家族関係の安定性と、予想される刑の重さを拾います。勾留の必要性では、平成26年決定のように、罪証隠滅の現実的可能性の程度と被疑者が受ける不利益を比べます。軽微事件や少年の事案では、60条3項と少年法48条1項の加重要件を落とさないようにします。
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