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用語集 / 刑事訴訟法 / 強制処分法定主義と令状主義

強制処分法定主義と令状主義(197条1項但書・憲法33条・35条)とは

きょうせいしょぶんほうていしゅぎとれいじょうしゅぎ

刑事訴訟法 刑訴の基礎と捜査総論

強制処分法定主義とは、強制の処分は刑事訴訟法に特別の定めのある場合でなければすることができないという原則です(197条1項但書)。令状主義とは、強制処分を行うには原則として裁判官があらかじめ発する令状によらなければならないという原則で、憲法33条・35条に根拠があります。

警察官が人を逮捕したり家の中を捜索したりすることは、本人の意思を押さえつけて自由や財産を奪う行為です。こうした強制処分には二つの関門があります。一つは、国会が作った法律に「この場合にはできる」と書いてあることで、これが強制処分法定主義です(197条1項但書)。もう一つは、行う前に裁判官がその事件で必要かを審査して令状を出すことで、これが令状主義です(憲法33条・35条)。目の前の事件で本当に必要かは、捜査機関自身ではなく中立の裁判官が判断するという仕組みです。

裁判所の裁判官室の場面。先生が裁判官役(札「裁判官」)で机に向かい、机の上の「捜索差押許可状請求書」と開いた六法を見比べながら、令状用紙に印を押そうとしている。机の前に制服の男性警察官(札「司法警察員」)が直立して待っている。先生の吹き出し

強制処分法定主義は法律による事前の授権を求め、令状主義は裁判官による事前の司法審査を求めます

197条1項は、本文で捜査の目的を達するため必要な取調べができると定め、但書で「強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない」と定めます。任意捜査は必要性と相当性の範囲で広く許されますが、強制処分は刑事訴訟法に個別の規定がなければ、どれほど必要でも行えません。新しい捜査手法が強制処分に当たると判断されれば、立法がない限り許されないという帰結になるのはこのためです。これに対して令状主義は、法律が認めた強制処分であっても、その事件でそれを行う理由があるかを、捜査機関から独立した裁判官が事前に審査するという要請です。憲法33条は、現行犯の場合を除いて「権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状」によらなければ逮捕されないと定め、35条は住居・書類・所持品について「正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状」がなければ侵されないと定めます。令状に犯罪・場所・物の明示を求めるのは、何でも捜索できる一般令状を禁止し、裁判官の審査を個別の処分に及ぼすためです。法律の定めがあることと、令状があることは別の要件で、両方そろって初めて強制処分は適法になります。

教室の場面。先生が教師役(札「先生」)で黒板の前に立ち、指し棒で板書を指している。黒板には左から右へ三つの箱が矢印でつながれ、左の箱「強制処分」、真ん中の箱「第1の関門:法律の定め(197条1項但書)=強制処分法定主義」、右の箱「第2の関門

令状の種類は処分ごとに決まっていて、法律が令状を要らないとする場面も条文で決まっています

令状と一口に言っても、処分ごとに種類が違います。逮捕には逮捕状(199条1項)、勾留には勾留状(207条5項・62条)、捜索・差押え・検証には捜索差押許可状・検証許可状、身体の検査には身体検査令状(218条1項)、鑑定受託者が行う解剖などには鑑定処分許可状(225条)、鑑定のために留置するには鑑定留置状(224条・167条)、通信の傍受には傍受令状(通信傍受法)が要ります。令状を請求できる者も処分ごとに条文で決まっており、捜索差押許可状の請求は検察官・検察事務官・司法警察員ができますが(218条5項)、通常逮捕状は検察官と指定を受けた司法警察員に限られます(199条2項)。他方で、法律自身が令状なしで行うことを認めている処分もあります。現行犯逮捕は憲法33条自身が例外とし、何人でも逮捕状なくしてできます(213条)。緊急逮捕は逮捕の後に直ちに逮捕状を求めます(210条1項)。逮捕する場合の被疑者の捜索と逮捕の現場での捜索・差押え・検証(220条)、遺留物や任意提出物の領置(221条)、身体を拘束されている被疑者の指紋採取・身長体重の測定・写真撮影(218条4項)、検視(229条)、公務所等への照会(197条2項)には令状が要りません。どの処分にどの令状が要るか、令状なしでできる処分はどれかの一覧は「令状の要否の一覧」の語にまとめています。

  • 逮捕状(199条1項)通常逮捕。請求は検察官と指定司法警察員だけです(199条2項)
  • 勾留状(207条5項・62条)被疑者勾留は検察官の請求を受けた裁判官が発します
  • 捜索差押許可状・検証許可状・身体検査令状(218条1項)請求は検察官・検察事務官・司法警察員です(218条5項)。身体の検査は身体検査令状によります
  • 鑑定処分許可状(225条)・鑑定留置状(224条・167条)鑑定受託者の解剖・身体検査、鑑定のための留置に要ります
  • 傍受令状(通信傍受法)通信の傍受は刑事訴訟法ではなく通信傍受法が定めます(222条の3)
  • 令状が要らない処分現行犯逮捕(213条)、緊急逮捕の着手(210条1項。事後に逮捕状)、逮捕に伴う被疑者の捜索と逮捕の現場の捜索・差押え・検証(220条)、領置(221条)、拘束中の被疑者の指紋・写真(218条4項)、検視(229条)、照会(197条2項)です

緊急逮捕は、逮捕の後に直ちに裁判官の逮捕状を求めることを条件に、憲法33条に反しないとされています

緊急逮捕(210条1項)は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の拘禁刑に当たる罪について、罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由があり、急速を要して裁判官の逮捕状を求めることができないときに、理由を告げて令状なしに逮捕する制度です。逮捕の時点では令状がないので、憲法33条の令状主義に反しないかが争われました。最大判昭和30年12月14日は、罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急やむを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発付を求めることを条件として逮捕を認めることは、憲法33条の趣旨に反しないとしました。逮捕状が発せられないときは直ちに釈放しなければなりません(210条1項)。つまり緊急逮捕は令状主義の例外ではなく、事後の司法審査と一体の手続として令状主義の中に位置づけられています。この事後の逮捕状の請求には、通常逮捕状と違って請求権者を絞る規定がなく、緊急逮捕をした司法巡査や検察事務官自身が請求できます。

警察署の廊下の場面。制服の男性警察官(札「司法警察員」)が、たった今緊急逮捕した男性(札「被疑者」)を留置担当に引き渡した直後で、腕時計を見ながら「逮捕状請求書」と書かれた書類を手に裁判所へ急いで出て行こうとしている。先生が隣に立つ上司役(

裁判官の裁判が要るかどうかは、新たに身体の拘束を始めるか、既にある司法審査で足りるかで決まります

「裁判官の裁判が必要となるもの」を数える問題は、その処分が新たに自由を制約するものか、既に裁判官の審査を経た拘束の続きかで分けます。「私人が、窃盗行為に及んだ者を現行犯逮捕する場合」には裁判官の裁判は要りません。現行犯逮捕は憲法33条自身が令状主義の例外とし、事後の逮捕状も要らないからです。「司法警察員が、殺人を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある者を緊急逮捕する場合」には裁判官の裁判が必要です。逮捕の着手に令状は要りませんが、直ちに逮捕状を求めなければならず、逮捕状が発せられなければ釈放しなければならないからです。「検察官が、逮捕状に基づき逮捕された者を司法警察員から受け取った後、勾留請求せずに釈放する場合」には裁判官の裁判は要りません。釈放は身体の拘束を解く処分であって、検察官自身の判断で直ちに行うものだからです(205条1項・4項)。「殺人の事実で勾留中に起訴された者につき、同じ事実で引き続き勾留する場合」にも裁判官の裁判は要りません。被疑者勾留は起訴によってそのまま被告人勾留に切り替わり、勾留の期間が公訴の提起があった日から2か月と定められているのはそれを前提にしています(60条2項)。改めて勾留状を発する必要も勾留質問をし直す必要もありません。これに対し、「窃盗の事実で逮捕中に起訴された者につき、同じ事実で勾留する場合」には裁判官の裁判が必要です。逮捕中に起訴されたときは勾留状がまだ無いので、裁判官が速やかに被告事件を告げて陳述を聴き、勾留状を発しないときは直ちに釈放を命じなければなりません(280条2項)。勾留中に起訴された場合、逮捕中に起訴された場合、在宅で起訴された場合の違いは、「被疑者の勾留と被告人の勾留の違い」の語で対比しています。

  • 裁判官の裁判が要る緊急逮捕後の逮捕状(210条1項)、逮捕中に起訴された者の勾留(280条2項)、被疑者勾留(207条5項)、令状による捜索・差押え・検証・身体検査(218条1項)、鑑定処分許可・鑑定留置(224条・225条)
  • 裁判官の裁判が要らない私人を含む現行犯逮捕(213条)、検察官・司法警察員による釈放(203条・205条)、勾留中に起訴された者の勾留の継続(60条2項)、検視(229条)、領置(221条)、逮捕のための住居への立入りと逮捕の現場の捜索・差押え(220条)

身体検査の条件の規定は処分を減縮する方向に働くので、強制採尿の令状や検証許可状にも準用されます

218条9項は「裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を付することができる」と定めます。文言上は身体検査令状についての規定ですが、条件を付けることは令状で許される強制処分の範囲や程度を狭める方向にしか働かないので、明文の準用規定がなくても被処分者の不利益にはなりません。最決昭和55年10月23日は、強制採尿は体内の尿を証拠物として採取する行為なので捜索差押許可状によるべきだとしたうえで、人権の侵害にわたるおそれがある点では検証の方法としての身体検査と共通の性質を有するとして、この条件の規定を捜索差押許可状に準用し、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件を記載することを求めました。「「裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる」旨の規定が前記捜索差押令状に準用される」という肢は正しいです。さらに最決平成11年12月16日は、通信傍受法の制定前に電話の傍受を検証許可状で行った事案で、この規定は条件の付加が強制処分の範囲・程度を減縮させる方向に作用する点において、身体検査令状以外の検証許可状にも準用を肯定し得るとしました。「身体検査令状以外の検証許可状にもその準用を肯定することができる」という肢は正しいです。なお、この規定は出題当時は218条5項、その後6項と呼ばれていましたが、現行法では9項です。

刑事訴訟法197条1項

捜査については、その目的を達するため必要な取調べをすることができる。ただし、強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない。

憲法33条

何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

憲法35条1項

何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

論文ではこう使う

捜査の適法性を論じる答案では、まず問題の捜査が強制処分に当たるかを判例の定義で検討し、当たるなら「強制処分は法律に特別の定めがなければ行えず(197条1項但書)、原則として裁判官の令状を要する(憲法33条・35条)」と二つの関門を一文で示して、根拠条文と令状の有無を当てはめます。令状主義の趣旨は、捜査機関から独立した裁判官が事前に必要性を審査すること、令状に対象を明示させて一般令状を禁止することの二点を書けば足ります。強制処分に当たらないなら、任意捜査として必要性・緊急性・相当性を検討する流れに進みます。

試験ではこう問われる

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