通信傍受(通信傍受法:対象犯罪・補充性・該当性判断のための傍受・他の犯罪・事後通知・不服申立て)とは
つうしんぼうじゅ
通信傍受とは、現に行われている他人間の電話などの通信について、その内容を知るため、通信の当事者のいずれの同意も得ないでこれを受けることです(犯罪捜査のための通信傍受に関する法律2条2項)。通信の秘密を侵害する強制処分なので、刑事訴訟法とは別に通信傍受法が定められ(刑事訴訟法222条の3)、限られた対象犯罪について裁判官の発する傍受令状により行います。
覚醒剤の密売グループが電話だけで取引の連絡をしているとき、通話を聞かなければ組織の全体は分かりません。しかし人の電話を本人に知られずに聞くことは、通信の秘密を侵し、事件と関係のない会話まで耳に入れてしまいます。そこで通信傍受法は、対象となる犯罪を限り、他の方法では著しく困難なときに限り、裁判官の傍受令状で行い、終わったら相手に知らせるという仕組みを整えました。令状の記載や事後の手続が捜索差押許可状より厳しいのは、処分が相手に知られないまま進むからです。
対象犯罪は薬物・銃器・集団密航・組織的殺人などに限定され、他の方法では著しく困難なときに限って傍受令状で行います
通信傍受は、通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分で、刑事訴訟法は別に法律で定めるとしています(222条の3。出題当時は222条の2)。その法律が通信傍受法です。対象犯罪は、薬物関連犯罪、銃器関連犯罪、集団密航に関する犯罪、組織的な殺人などの別表に掲げる犯罪類型に限られ、平成28年改正で、組織性を担保する要件の下で放火、殺人、傷害、逮捕監禁、誘拐、窃盗、詐欺、爆発物使用、児童ポルノの類型が加わりました(3条1項・別表)。限定の仕方は犯罪類型の列挙であって法定刑ではありません。「対象犯罪を死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役に当たる刑法上の犯罪に限定している」という肢は誤りで、「組織的な賭博場開張等図利の罪は,この対象犯罪に含まれている」という肢も誤りです。要件として、刑事訴訟法の捜索差押えが「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」(218条1項)で足りるのに対し、通信傍受は「他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」という補充性が要ります(3条1項柱書)。この対比を述べる肢は正しいです。令状は裁判官の発する傍受令状で、被疑者の氏名、被疑事実の要旨、罪名、罰条、傍受すべき通信、傍受の実施の対象とすべき通信手段、期間などを記載します(6条1項)。捜索差押許可状には犯罪事実の要旨も罰条も要らないのと違い、「通信傍受法の傍受令状には,被疑事実の要旨及び罰条を記載しなければならない」という肢は正しいです。
- 対象犯罪別表の犯罪類型に限定(薬物・銃器・集団密航・組織的殺人など+平成28年改正の類型)。法定刑による限定ではない。組織的な賭博場開張等図利は含まれない
- 要件他の方法では犯人の特定や犯行の状況・内容の解明が著しく困難(補充性)
- 令状傍受令状。被疑事実の要旨と罰条を記載する(捜索差押許可状と違う)
- 該当性が明らかでない通信該当性判断のため必要最小限度の範囲で傍受できる(14条1項)
- 他の犯罪の通信別表の犯罪か死刑・無期・短期1年以上の拘禁刑に当たる犯罪の実行を内容とするものと明らかに認められれば傍受できる(15条)
- 事後通知当事者に書面で通知する義務。省略はできず、捜査に支障があれば期間の延長のみ(30条)
- 不服申立て傍受に関する裁判官の裁判の取消し・変更を請求できる(33条1項)
該当するか明らかでない通信は必要最小限度の範囲で傍受でき、他の重大犯罪の実行を内容とする通信も傍受できます
傍受を始めてみなければ、その通信が令状に記載された傍受すべき通信に当たるかは分かりません。そこで、傍受の実施をしている間に行われた通信で、傍受すべき通信に該当するかどうか明らかでないものについては、該当するかどうかを判断するため、これに必要な最小限度の範囲に限り傍受することができます(14条1項)。「該当するかどうか明らかでない場合には,直ちに当該通信の傍受を停止しなければならない」という肢は誤りです。また、傍受の実施をしている間に、令状に被疑事実として記載されている犯罪以外の犯罪であって、別表に掲げるもの又は死刑若しくは無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たるものを実行したこと、実行していること又は実行することを内容とするものと明らかに認められる通信が行われたときは、その通信を傍受することができます(15条)。覚醒剤取締法違反の傍受令状で傍受中に、無関係の殺人の計画を話し合っていると明らかに認められる通信があれば、殺人は死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に当たる罪なので傍受できます。この肢は正しいです。
終了後は当事者への通知を省略できず、傍受の裁判には不服申立てができ、一方当事者の同意がある録音は傍受ではありません
傍受は相手に知られずに行われるので、事後の手続で適正を担保します。検察官又は司法警察員は、傍受記録に記録された通信の当事者に対し、傍受をした旨、期間、記録の聴取・閲覧ができる旨などを書面で通知しなければなりません(30条1項)。捜査が妨げられるおそれがあるときは裁判官の許可で通知の期間を延長できますが、通知をしないことはできません。「この通知により捜査が妨げられるおそれがあると認めるときはこの通知をしないことができる」という肢は誤りです。裁判官がした通信の傍受に関する裁判に不服がある者は、その裁判官が所属する裁判所にその裁判の取消し又は変更を請求することができます(33条1項)。刑事訴訟法では裁判官がした検証に関する裁判は準抗告の対象になっていない(429条1項)ので、この対比を述べる肢は正しいです。他方、通信の当事者の一方の同意を得てその通話を録音することは、「いずれの同意も得ないで」受ける傍受に当たりません。恐喝の被害者の同意を得て被疑者との通話を録音する場合に「裁判官の発する傍受令状を得る必要はない」という肢は正しく、誘拐された被害者の親の同意を得て親と被疑者との通話を録音するのに裁判官の令状は要りません。一方当事者の同意ある録音の相当性は秘密録音の語で扱います。通信傍受法の制定前に検証許可状で行われた電話傍受について、判例は、電話傍受は通信の秘密を侵害する強制処分だが、重大な犯罪について十分な嫌疑と通話の蓋然性があり他の方法では著しく困難なときに真にやむを得ないと認められる場合には法律の定める手続に従って行うことが憲法上許され、検証としての性質を持ち条件を付した検証許可状により当時も法律上許されていたとしました(最決平成11年12月16日)。
刑事訴訟法222条の3
通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分については、別に法律で定めるところによる。
論文ではこう使う
論文で通信傍受を書くことは稀で、強制処分法定主義の例として触れます。通信傍受は通信の秘密とプライバシーを侵害する強制処分なので法律の根拠が要り、通信傍受法が対象犯罪の限定、補充性、令状主義、事後通知で統制していることを一文ずつ示します。通信傍受法の制定前の事案や、法の対象外の手法が問題になる事案では、検証としての性質を認めて条件付きの検証許可状で足りるとした判例の筋と、GPS捜査について立法を求めた判例の筋を対比して、新しい手法が既存の令状で捉えきれるかを論じます。一方当事者の同意がある録音は傍受ではなく任意処分の相当性の問題として別に書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。