差押えの対象と関連性(差し押さえるべき物の該当性・包括的差押え)とは
さしおさえのたいしょうとかんれんせい
差押えの対象とは、令状に記載された差し押さえるべき物に当たる物のことで、当たるかどうかは被疑事実との関連性で判断します。関連性とは、その物が被疑事実の証拠となり得る関係にあることをいい、差押えの必要性とともに令状審査と執行の限界を画します。
覚醒剤密売の令状で部屋を捜索していて、顧客リストが入っていそうなパソコンを見つけたとします。中身を一つずつ開いて確かめている間に、遠隔操作でデータを消されるかもしれません。かといって、部屋にある物を手当たり次第に持ち帰ってよいなら、令状に差し押さえるべき物を書かせた意味がなくなります。そこで、差し押さえてよいのは被疑事実と関連する物に限るという原則を保ちながら、電磁的記録のように確認している間に失われる物については、記録されている蓋然性があれば内容を確認せずに差し押さえることが認められています。
差し押さえるべき物に当たるかは、令状の記載と被疑事実との関連性で判断します
捜査機関が差し押さえられるのは、令状に差し押さえるべき物として記載された物(219条1項)で、かつ被疑事実の証拠となり得る物です。令状に明示されない物の差押えは禁じられますが、記載された物に当たるかどうかは、被疑事実との関係で判断します。判例は、暴力団組員の恐喝の被疑事実について「本件に関係のある暴力団を標章する腕章、バッチ、メモ等」を差し押さえるべき物とする令状で組事務所を捜索し、賭博場の開帳状況や寺銭の計算を記載したメモを差し押さえた事案で、恐喝事件が暴力団の存在を背景として行われたことからすれば、組の性格や被疑者と組との関係、事件の組織的背景を解明するために必要な証拠として掲げられたものと認められ、このメモはそれを知り得る資料だから許可状記載の差押えの目的物に当たるとしました(最判昭和51年11月18日)。別の罪のメモに見えても、被疑事実の背景を明らかにする関連性があれば差し押さえることができ、関連性がなければ記載された物に形の上で当たっても差し押さえられません。
パソコンやフロッピーディスクは、情報が記録されている蓋然性があり、その場で確認していては損壊される危険があるときは、内容を確認せずに差し押さえられます
差し押さえるべき物に当たるかは、原則として執行の現場で内容を確認して判断します。しかし電磁的記録は外形から中身が分からず、一度の操作で瞬時に消去や改変ができます。判例は、宗教団体の施設の捜索で、データを瞬時に消去するソフトを開発しているとの情報があった事案について、令状により差し押さえようとするパソコン、フロッピーディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、そのような情報が実際に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるときは、内容を確認することなしにこれらを差し押さえることが許されるとしました(最決平成10年5月1日)。「内容を確認することなしにパソコン自体を差し押さえることができる」という肢と「内容を確認することなく当該パソコンを差し押さえることも許される」という肢は正しく、「電磁的記録の内容を必ず確認しなければならない」という肢は誤りです。要件は二つで、記録されている蓋然性と、確認していては損壊される危険です。どちらかを欠けば、内容を確認して関連する部分だけを差し押さえるか、複写などの差押えに代わる処分(電磁的記録の差押えの語)によります。
差押えの必要性も令状審査の対象で、準抗告を受けた裁判所は必要性の有無も審査できます
捜査機関が差押えをできるのは「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」(218条1項)です。判例は、大学の映画研究会が騒乱事件の模様を撮影した映画フィルムを差し押さえた処分に対する準抗告の事案で、差押えに関する処分について430条の不服申立てを受けた裁判所は差押えの必要性の有無についても審査することができるとし、差押物が証拠物に当たるとしても、犯罪の態様や軽重、差押物の証拠としての価値や重要性、隠滅毀損のおそれの有無、被差押者が受ける不利益の程度その他の事情に照らして、明らかに差押えの必要がないと認められるときは差押えは違法になるとしました(最決昭和44年3月18日)。したがって、関連性のある物でも必要性を欠けば差し押さえられず、裁判官は令状審査でも必要性を見ます。差し押さえるべき物に当たらない物を写真撮影した場合の準抗告の可否は写真・ビデオ撮影の語で扱います。
刑事訴訟法218条1項
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索、電磁的記録提供命令又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
刑事訴訟法99条1項
裁判所は、必要があるときは、証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押えることができる。ただし、特別の定めのある場合は、この限りでない。
論文ではこう使う
論文では、捜索中に別罪の証拠らしい物を見つけて差し押さえた事案と、パソコンや記録媒体を中身を見ずに一括して差し押さえた事案が出ます。前者は、令状に記載された差し押さえるべき物の記載を確かめ、その物が被疑事実との関連性を持つか、つまり被疑事実の立証や背景の解明に役立つ証拠といえるかを、記載の文言と事件の性質から当てはめます。関連性がなければ別の令状か、現行犯逮捕に伴う差押えか、任意提出による領置によることを示します。後者は、原則として現場で関連性を確認すべきことを述べたうえで、記録されている蓋然性と確認していては損壊される危険の二要件を立て、消去ソフトの存在や記録媒体の量などの事情を当てはめ、差押えに代わる処分で足りなかったかにも触れます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。