保釈の手続(請求権者・意見聴取・保証金・条件・取消し・没取)とは
ほしゃくのてつづき
保釈の手続とは、勾留されている被告人やその弁護人・配偶者などが請求し、裁判所が検察官の意見を聴いたうえで保証金額と条件を定めて許否を決め、保証金の納付後に釈放し、取消事由があれば取り消して保証金を没取する一連の流れです(刑事訴訟法88条〜96条)。
保釈は、請求する人がいて、裁判所が検察官の意見を聴き、保証金の額を決め、そのお金が納められてはじめて被告人が釈放される、という段取りで進みます。釈放されたあとに逃げたり証拠を消したりすれば、裁判所は保釈を取り消して保証金を取り上げることができます。保証金という担保と、取消しという歯止めがあるから、判決前の被告人を外に出せるのです。誰が請求できるか、どの手続を飛ばせないか、取消しは「できる」のか「しなければならない」のかを、条文の文言どおりに押さえます。
請求できるのは勾留されている被告人と弁護人・法定代理人・保佐人・配偶者・直系の親族・兄弟姉妹で、弁護人は被告人の意思に反しても請求できます
保釈の請求権者は、勾留されている被告人のほか、その弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹です(刑事訴訟法88条1項)。「勾留されている被告人やその弁護人のみならず,被告人の配偶者や直系の親族も,保釈の請求をすることができる」という肢は正しく、「保釈の請求をすることができるのは,勾留されている被告人及びその弁護人のみである」という肢は誤りです。配偶者は被告人と独立して請求でき、弁護人は被告人の明示の意思に反しても請求できます。「弁護人は,被告人の明示の意思に反しても保釈の請求をすることができる」という肢は正しいです。公訴の提起前にした弁護人の選任は第一審でも効力を持つので(32条1項)、被疑者国選弁護人は、勾留のまま起訴されれば改めて選任されなくてもそのまま第一審の弁護人として保釈を請求できます。「被疑者の国選弁護人は,公訴の提起後に改めて第一審の弁護人として選任されない限り,保釈の請求をすることができない」という肢は誤りです。
第1回公判期日までは審判に関与しない裁判官が判断し、許すときも却下するときも検察官の意見を聴きます
公訴の提起後第1回公判期日までの保釈に関する裁判は、勾留に関する処分として受訴裁判所ではなく裁判官が行い(280条1項)、事件の審判に関与すべき裁判官はこの処分をすることができません(刑事訴訟規則187条1項但書)。保釈の当否を見るには事件の実体に触れる資料を読まなければならず、公判前の裁判官に予断を生じさせないためです。「第1回公判期日までの保釈に関する裁判は,公訴の提起を受けた裁判所の事件の審判に関与すべき裁判官のみが行う」という肢は、担当する裁判官が逆なので誤りです。裁判所は、保釈を許す決定をするときも、請求を却下する決定をするときも、検察官の意見を聴かなければなりません(92条1項)。「保釈を許す場合だけでなく,保釈の請求を却下する場合にも,検察官の意見を聴かなければならない」という肢は正しく、「却下するときには,検察官の意見を聴かなくてもよい」という肢は誤りで、意見を述べる機会を検察官に与えないまま保釈を許可することは法律上許されません。保釈の許否は決定でするので口頭弁論は要らず、必要があれば事実の取調べができます(43条2項・3項)。したがって公判期日で証拠として取り調べていない資料に基づいて判断でき、「取り調べていない資料に基づいて判断することができない」という肢は誤りです。判例は、裁量保釈が適当かを審査するに当たり、勾留の理由とされた事実の内容や性質、被告人の経歴、行状、性格等を考察する一資料として、勾留状の発せられていない起訴事実を考慮することを禁ずべき理由はないとしました(最決昭和44年7月14日)。前科も同じく考慮でき、「勾留状に記載された事実以外の犯罪事実を考慮してはならず,被告人の前科を考慮することは許されない」という肢は誤りです。
保証金額は必ず定め、納付がなければ釈放されず、住居の制限や被害者との接触禁止などの条件や監督者を付けることができます
保釈を許す場合には、保証金額を定めなければなりません(93条1項)。金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な額とします(同条2項)。「犯罪の性質や情状によっては,保証金額を定めずに保釈を許可することができる」という肢と、「没取という威嚇以外の手段により被告人の出頭を確保することができると考えるときは,保証金額を定めないことができる」という肢はいずれも誤りです。保釈を許す決定は保証金の納付があった後でなければ執行できず(94条1項)、「保証金(又はこれに代えることを許された有価証券,保証書)が納付されなければ,被告人は釈放されない」という肢は正しいです。保証金は請求者以外の者が納めることも、有価証券や保証書で代えることもできます(94条2項・3項)。保釈を許す場合には、被告人の住居を制限し、その他適当と認める条件を付することができ(93条3項)、被害者との接触禁止はその典型なので、「被害者との接触を禁止する旨の条件を付することができない」という肢は誤りです。令和5年改正では、裁判所が被告人に生活上・身分上の事項の報告を命じる制度(95条の4)と、同意を得た監督者を選任して監督保証金を納めさせる制度(98条の4以下)が加わりました。
- 請求権者勾留されている被告人・弁護人・法定代理人・保佐人・配偶者・直系の親族・兄弟姉妹(88条1項)。弁護人は被告人の意思に反しても可
- 判断する機関第1回公判期日までは審判に関与しない裁判官(280条1項・規則187条1項但書)、以後は受訴裁判所
- 意見聴取許す決定も却下する決定も検察官の意見を聴く(92条1項)
- 保証金必ず定める(93条1項)。納付後でなければ釈放されない(94条1項)。第三者の納付・有価証券・保証書で代えられる(94条2項・3項)
- 条件住居の制限その他適当と認める条件を付することができる(93条3項)。報告命令(95条の4)・監督者(98条の4)
- 取消し検察官の請求又は職権で「取り消すことができる」(96条1項)。取消しの際は保証金の全部又は一部を「没取することができる」(同条2項)
- 不服申立て裁判官の裁判には準抗告(429条1項2号)、受訴裁判所の決定には抗告(420条2項)。検察官も申し立てられる
取消しは検察官の請求又は職権で「できる」で、他の罪を犯しただけでは必ず取り消すのではなく、取り消すときに保証金を没取できます
裁判所は、被告人が召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき、逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき、罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、被害者等に害を加え若しくは加えようとし又は畏怖させる行為をしたとき、報告命令に正当な理由なく従わず又は虚偽の報告をしたとき、住居の制限その他の条件に違反したときに、検察官の請求により又は職権で、決定で保釈を取り消すことができます(96条1項)。職権でできるので、「検察官の請求がなくとも,職権で保釈を取り消すことができる」という肢と、「検察官の請求がなくても,…逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときには,保釈を取り消すことができる」という肢はいずれも正しいです。保釈中に他の罪を犯したことは取消事由として掲げられておらず、取消事由に当たる場合でも取り消すかは裁量なので、「保釈中に被告人が他の罪を犯した場合,保釈を取り消さなければならない」という肢は誤りです。保釈を取り消す場合には、決定で保証金の全部又は一部を没取することができます(96条2項)。令和5年改正で、拘禁刑以上の実刑判決の宣告を受けた後に保釈中の被告人が逃亡したときは取り消さなければならず、保証金も没取しなければならないことになりました(96条4項・5項)。保証金の没取ができるかどうかは、宣告された刑や被告人の行動で決まるのであって、法定刑の軽重によって法律上当然に結論が異なる事項ではありません。
不服申立ては、裁判官の裁判には準抗告、受訴裁判所の決定には抗告で、検察官も申し立てることができます
第1回公判期日前の裁判官がした保釈の裁判には、その裁判官が所属する裁判所に準抗告をします(429条1項2号)。第1回公判期日後に受訴裁判所がした保釈に関する決定は、判決前の決定ですが抗告が許されており(420条2項)、準抗告の対象ではありません(最大決昭和31年6月13日)。「第1回公判期日後の保釈請求を却下する裁判に対して準抗告をすることができる」という肢は誤りで、受訴裁判所がした保釈請求を却下する裁判は準抗告の対象になりません。地方裁判所の決定への抗告は高等裁判所にするので、判決宣告後に宣告した裁判所がした却下決定に対して「被告人は高等裁判所に抗告をすることができる」という肢は正しいです。検察官も保釈を許す決定に抗告でき、「検察官は,保釈を許可する裁判所の決定に対し,適法に抗告をすることができる」という肢は正しいです。判例は、裁量保釈の判断は現に審理を担当する裁判所に委ねられているので、抗告審は受訴裁判所の判断が委ねられた裁量の範囲を逸脱していないか、すなわち不合理でないかを審査すべきで、覆すにはその判断が不合理であることを具体的に示す必要があるとしました(最決平成26年11月18日)。
刑事訴訟法88条1項
勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる。
刑事訴訟法92条1項
裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。
刑事訴訟法93条1項
保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。
刑事訴訟法94条1項
保釈を許す決定は、保証金の納付があつた後でなければ、これを執行することができない。
刑事訴訟法96条1項
裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定で、保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。一 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。二 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。三 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。四 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。五 被告人が、正当な理由がなく前条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。六 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
論文ではこう使う
論文で保釈の判断を書くときは、権利保釈の除外事由の検討のあとに、裁量保釈の当否を90条の考慮事情で論じます。余罪がある事案では、勾留状の発せられていない事実は保釈の判断の対象そのものではないが、被告人の行状や性格、罪証隠滅や逃亡のおそれの程度を推認する一資料として考慮できる、という昭和44年決定の枠組みを規範に置き、余罪を独立の理由にしていないかを当てはめで確かめます。保釈を許す場合は、保証金額と住居制限や接触禁止などの条件で逃亡と罪証隠滅のおそれをどこまで抑えられるかまで書くと、裁量判断の中身が示せます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。