弁護人の選任(私選・国選・審級・独立選任権・選任届)とは
べんごにんのせんにん
弁護人の選任とは、被告人・被疑者本人やその配偶者等が弁護士を弁護人に選ぶこと(私選弁護人。刑事訴訟法30条)と、貧困その他の事由で選任できない被告人・被疑者のために裁判所・裁判官が弁護人を付すること(国選弁護人。36条・37条・37条の2)です。起訴前の選任は第一審まで効力があり、起訴後の選任は審級ごとに行います(32条)。
弁護人は、被疑者や被告人が自分で頼む私選弁護人と、頼めない人のために裁判所や裁判官が付ける国選弁護人に分かれます。本人だけでなく配偶者や親兄弟も、本人の意思にかかわらず弁護人を頼めます。いったん選任しても、起訴のあとは第一審・控訴審・上告審の審級ごとに選任し直すのが原則で、起訴前の選任だけは第一審まで効力が続きます。どの段階で、誰が、どの手続で選任したのかによって、弁護人がいつまで弁護人でいられるかが決まるので、私選・国選・審級の三つの軸で整理します。
本人はいつでも私選弁護人を選任でき、配偶者や親族も独立して選任でき、どちらが選任しても他方の弁護人は失われません
被告人又は被疑者はいつでも弁護人を選任でき(刑事訴訟法30条1項)、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、本人の意思にかかわらず独立して弁護人を選任できます(同条2項)。「被告人又は被疑者の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、独立して私選弁護人を選任することができる」という肢は正しいです。独立しているのは選任する権利なので、配偶者が選任しても本人は自分で別の弁護人を選任でき、「自己の配偶者が弁護人を選任した場合には,自ら弁護人を選任することはできない」という肢は誤りです。逆に、妻が選任したA弁護士がいるところへ本人がB弁護士を選任しても、Aが解任されない限りAは弁護人のままなので、「A弁護士は直ちに甲の私選弁護人の地位を失う」という肢は誤りです。弁護人は弁護士の中から選任しますが、簡易裁判所と地方裁判所では裁判所の許可を得て弁護士でない者を弁護人にでき、地方裁判所では他に弁護士の弁護人がいる場合に限られます(31条)。裁判所は規則の定めにより弁護人の数を制限でき、被告人の弁護人は特別の事情があるときに限って3人までに制限できます(35条)。「被告人の私選弁護人の数を制限することはできない」という肢は誤りです。数人の弁護人があるときは主任弁護人を定めます(33条)。私選弁護人の選任は弁護人と連署した書面で行い、合理的な理由なく被告人の署名を欠く選任届による選任は無効で、氏名を黙秘して居室番号で表示した選任届は却下されます。この点の詳しい扱いは弁護人選任権の語で扱います。
被告人の国選弁護は、貧困その他の事由で選任できない被告人の請求により裁判所が付し、未成年者や70歳以上などでは職権でも付せます
被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所はその請求により弁護人を付さなければなりません(36条本文)。被告人以外の者が選任した弁護人がいる場合は付しません(同条但書)。必要的弁護事件以外では、請求に資力申告書を提出し(36条の2)、資力が基準額以上の被告人は先に弁護士会へ私選弁護人の選任の申出をしていなければなりません(36条の3)。この資力申告書と私選申出前置の仕組みは、被疑者国選(37条の3)と同じ作りです。請求がなくても、被告人が未成年者、70歳以上、耳が聞こえない者又は口がきけない者、心神喪失者又は心神耗弱者の疑いがあるときや、その他必要と認めるときは、裁判所は職権で弁護人を付することができます(37条)。この場合に弁護人が出頭しないときも職権で付せます(290条)。これに対して必要的弁護事件では、弁護人がないときは裁判長が職権で付さなければならず(289条2項)、公判前整理手続は弁護人がなければ行えないので、弁護人がないときは裁判長が職権で付さなければなりません(316条の4)。「裁判所は,被告人に弁護人が選任されていなければ,公判前整理手続を行うことができない」という肢は正しいです。国選弁護人は弁護士の中から選任し、旅費・日当・宿泊料・報酬を請求できます(38条)。裁判所は、私選弁護人が選任されるなどして付する必要がなくなったとき、被告人と利益が相反するとき、心身の故障で職務を行えないとき、任務に著しく反したとき、被告人の責めに帰すべき事由で職務を続けさせるのが相当でないときに、弁護人の意見を聴いて国選弁護人を解任できます(38条の3)。国選弁護人は辞任を申し出ただけでは地位を失わず、解任されるまで弁護人です。
- 私選弁護人本人はいつでも(30条1項)。法定代理人・保佐人・配偶者・直系の親族・兄弟姉妹は独立して(30条2項)。弁護士から(31条1項)。数の制限は被告人では特別の事情があるときに限る(35条)
- 被告人の国選(請求)貧困その他の事由で選任できない被告人の請求により裁判所が「付さなければならない」(36条)。資力申告書(36条の2)と資力が基準額以上なら私選申出前置(36条の3)
- 被告人の国選(職権)未成年者・70歳以上・耳が聞こえない者又は口がきけない者・心神喪失者又は心神耗弱者の疑い・その他必要と認めるときに「付することができる」(37条)。必要的弁護事件と公判前整理手続では「付さなければならない」(289条2項・316条の4)
- 被疑者の国選勾留状が発せられた被疑者(勾留を請求された被疑者を含む)の請求により裁判官が付す(37条の2)。在宅・逮捕中は請求できない。釈放で失効するが勾留の執行停止による釈放では失効しない(38条の2)
- 解任裁判所・裁判官が38条の3の事由で解任。辞任の申出だけでは地位を失わない
起訴前の選任は第一審まで効力があり、起訴後の選任は私選も国選も審級ごとに行いますが、原審の弁護人は改めて選任されなくても上訴できます
公訴の提起前にした弁護人の選任は第一審においてもその効力を有し(32条1項)、公訴の提起後における弁護人の選任は審級ごとにしなければなりません(同条2項)。「公訴の提起前にした弁護人の選任は,第一審においてその効力を有しないので,公訴の提起後,改めて弁護人の選任をしなければならない」という肢は誤りで、「公訴の提起後における弁護人の選任は,審級ごとにこれをしなければならない」という肢と、「被告人の国選弁護人の選任は,審級ごとにしなければならない」という肢は正しいです。被疑者国選弁護人も32条1項の適用を受けるので、勾留のまま起訴されれば改めて選任されなくても第一審の弁護人のままで、保釈の請求もできます。「起訴後もAが国選弁護人の地位にあるためには、改めて第一審の国選弁護人として選任される必要がある」という肢は誤りです。審級ごとの選任といっても、第一審の弁護人の選任の効力は判決の宣告によって当然に失われるものではなく(最決平成4年12月14日)、原審における弁護人は被告人のため上訴をすることができます(355条)。「第一審における弁護人は,判決の宣告により弁護人の選任の効力が失われるので,被告人のため控訴をすることができず,控訴をするには改めて弁護人として選任される必要がある」という肢は誤りで、「原審において適法に選任された弁護人は,被告人の明示した意思に反しなければ,被告人のため上訴をすることができる」という肢は正しいです(356条)。上訴審で弁護活動を続けるには、その審級で改めて選任を受けます。
刑事訴訟法32条1項
公訴の提起前にした弁護人の選任は、第一審においてもその効力を有する。
刑事訴訟法32条2項
公訴の提起後における弁護人の選任は、審級ごとにこれをしなければならない。
刑事訴訟法36条
被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない。但し、被告人以外の者が選任した弁護人がある場合は、この限りでない。
刑事訴訟法37条
左の場合に被告人に弁護人がないときは、裁判所は、職権で弁護人を附することができる。一 被告人が未成年者であるとき。二 被告人が年齢七十年以上の者であるとき。三 被告人が耳の聞えない者又は口のきけない者であるとき。四 被告人が心神喪失者又は心神耗弱者である疑があるとき。五 その他必要と認めるとき。
刑事訴訟法35条
裁判所は、裁判所の規則の定めるところにより、被告人又は被疑者の弁護人の数を制限することができる。但し、被告人の弁護人については、特別の事情のあるときに限る。
論文ではこう使う
論文で弁護人選任権の侵害が問題になる事案では、まず誰がどの根拠で選任した弁護人かを確定します。配偶者が独立選任権で選任した弁護人、起訴前に選任され32条1項で第一審に引き継がれた弁護人、審級ごとに改めて選任が要る上訴審の弁護人を区別し、弁護人の地位が続いているかを先に書いてから、接見交通や立会いなど個々の権利の侵害を論じます。国選弁護人については、36条の請求による選任か37条の職権選任か、必要的弁護事件の289条2項かで「付さなければならない」か「付することができる」かが変わるので、条文を特定して書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。