公判前整理手続の構造(付す決定・当事者請求権・必要的弁護・被告人の出頭・期日間整理)とは
こうはんぜんせいりてつづきのこうぞう
公判前整理手続とは、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため、裁判所が第1回公判期日前に決定で事件を付し、事件の争点及び証拠を整理する公判準備です(刑事訴訟法316条の2第1項)。第1回公判期日の後に同じ目的で付す手続が期日間整理手続です(316条の28)。
争いのある事件をいきなり公判で始めると、何が争点でどの証拠が要るのかが途中で分かり、期日が間延びします。そこで裁判所は、第1回公判期日の前に検察官と弁護人を集め、何を争いどの証拠を調べるかを先に決める手続を置きました。これが公判前整理手続です。裁判員が参加する裁判を連日開廷で終えられるように作られたので、裁判員の対象事件では必ず行い、それ以外の事件では裁判所が必要と認めたときに行います。公判準備であって公判ではないので、公開の法廷ではなく、受訴裁判所が自ら主宰します。
裁判所は職権でも当事者の請求でも付すことができますが、請求されても付す義務はなく、却下に即時抗告はできません
裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第1回公判期日前に、決定で、事件を公判前整理手続に付することができます(刑事訴訟法316条の2第1項)。当事者の請求権は平成28年改正で加わりました。「裁判所は,充実した公判の審理を継続的,計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いて,第一回公判期日前に,決定で,事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として,事件を公判前整理手続に付することができる」という肢は正しく、「検察官又は弁護人は、裁判所に対し、公判前整理手続に付すことを請求できない」という肢は誤りです。被告人も請求権者なので、「被告人は、裁判員裁判の対象事件ではない事件について、事件を公判前整理手続に付することを求めることができる」という肢は正しいです。付す決定も却下決定も、あらかじめ検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いてしますが(同条2項)、聴けば足り、異議があっても付せます。「検察官又は被告人若しくは弁護人に異議があるときは,第一回公判期日前に,決定で,同手続に付することができない」という肢と、「被疑者に同手続によることについて異議がないことを書面で明らかにした上で,公訴の提起と同時に,同手続の申立てをしなければならない」という肢は誤りです。付すかどうかは裁判所の裁量なので、「検察官と弁護人の双方が公判前整理手続に付することを求めている場合には、事件を公判前整理手続に付さなければならない」という肢は誤りです。却下決定に即時抗告を認める規定はないので(419条)、「却下決定に対して即時抗告をすることができる」という肢も誤りです。これに対し、裁判員の参加する合議体で取り扱うべき事件は、第1回公判期日前に必ず公判前整理手続に付さなければなりません(裁判員法49条)。「裁判員裁判の対象事件については,必ず当該事件を公判前整理手続に付さなければならない」という肢は正しいです。対象事件でなくても必要があれば付せるので、「裁判員裁判の対象事件ではない事件についても,必要があると認めるときは,公判前整理手続に付することができる」という肢は正しく、「公判前整理手続に関する規定は,死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件にのみ適用される」という肢は誤りです。付す決定の可否は法定刑によって当然に結論が異なる事項ではありません。主宰するのは受訴裁判所自身であり、争点と証拠を整理するだけで心証を形成する手続ではないので予断排除に反しません。「受訴裁判所が主宰して行うこととされている」という肢は正しく、「事件の審判に関与すべき裁判官以外の裁判官が主宰することとされている」という肢は誤りです。合議体の構成員に命じて行わせることはできますが(316条の11)、別の裁判官が主宰するのではありません。公判準備であって対審ではないので、「公開の法廷で行わなければならない」という肢は誤りです。
- 付す決定(316条の2第1項)職権又は検察官・被告人・弁護人の請求。第1回公判期日前に決定で付す。あらかじめ意見を聴くが、異議があっても付せる。付す義務はなく、却下に即時抗告はない
- 必ず付す事件裁判員の参加する合議体で取り扱うべき事件(裁判員法49条)。法定刑で決まるのではなく、裁判員の対象事件かどうかで決まる
- 主宰と公開受訴裁判所が主宰する。合議体の構成員に命じることができる(316条の11)。公判準備なので公開法廷ではない。裁判所書記官が立ち会い調書を作る(316条の12)
弁護人がなければ行えず、被告人は出頭する権利はあっても出頭する義務はありません
公判前整理手続は、被告人に弁護人がなければ行うことができず、弁護人がないときは裁判長が職権で弁護人を付さなければなりません(316条の4)。「裁判所は,被告人に弁護人がなければ公判前整理手続を行うことができない」という肢と、「被告人に弁護人がないときは,裁判長は,職権で弁護人を付さなければならない」という肢は正しいです。期日に検察官又は弁護人が出頭しないときはその期日の手続を行うことができず(316条の7)、弁護人が出頭しないとき又は在席しなくなったときは裁判長が職権で弁護人を付さなければならず、出頭しないおそれがあるときは裁判所が職権で付することができます(316条の8)。被告人については扱いが違います。被告人は公判前整理手続期日に出頭することができ(316条の9第1項)、裁判所は必要と認めるときは被告人に出頭を求めることができますが(同条2項)、出頭は義務ではなく、裁判所の許可も要りません。「被告人は,公判前整理手続期日への出頭が義務付けられている」という肢、「被告人が出頭しないときは,その手続を行うことができない」という肢、「公判前整理手続期日には,被告人は,裁判所の許可がなければ出頭することができない」という肢はいずれも誤りです。「裁判所が被告人に対し、公判前整理手続期日に出頭することを求めることもできない」という肢も、同条2項に反して誤りです。被告人を出頭させて手続をする場合、裁判長は被告人が出頭する最初の期日に、まず終始沈黙し又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨を告知しなければなりません(同条3項)。この告知と主張明示義務の関係は「主張明示義務と黙秘権」で扱います。公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件は、法定刑を問わず弁護人がなければ開廷できません(316条の29)。
手続の中では訴因変更の許可や証拠決定までできますが、証拠能力の判断を終結までに終える義務はありません
公判前整理手続でできる事項は316条の5に列挙されています。訴因又は罰条を明確にさせ、その追加・撤回・変更を許すこと、予定している主張を明らかにさせて争点を整理すること、証拠調べを請求させて立証趣旨や尋問事項を明らかにさせること、326条の同意を含む証拠意見を確かめること、証拠調べをする決定又は請求を却下する決定をすること、取調べの順序と方法を定めること、証拠調べに関する異議に決定すること、証拠開示に関する裁定をすること、公判期日を定めることなどです。「検察官は,公判前整理手続においては,訴因の変更を請求することはできない」という肢は誤りで、「第1回公判期日前であるにもかかわらず,検察官及び弁護人は,証拠調べの請求を行うことができ,裁判所も証拠調べをする決定又は証拠調べの請求を却下する決定をすることができる」という肢と、「証拠調べの請求をさせるだけでなく,証拠調べをする決定又は証拠調べの請求を却下する決定をすることができる」という肢は正しいです。できる事項を並べた規定なので、請求された証拠の採否を手続の終結までにすべて決める義務はなく、採否を留保したまま終えてもかまいません。同じ理由で、弁護人が自白調書の任意性を争う意見を述べても、裁判所が手続の終結までにその証拠能力を判断しなければならない規定はありません。終結に当たって裁判所に義務づけられているのは、争点及び証拠の整理の結果を当事者との間で確認することです(316条の24)。「弁護人から,被告人の自白調書につきその自白の任意性を争う旨の意見が述べられた場合には,公判前整理手続の終結までに当該自白調書の証拠能力を判断しなければならない」という肢は誤りです。裁判員の対象事件では、公判前整理手続で鑑定を行うことを決定した場合に、結果の報告までに相当の期間を要すると認めるときは、鑑定の経過及び結果の報告を除く鑑定の手続を公判前整理手続の中で行う旨の決定ができます(裁判員法50条1項)。裁判員が加わってから鑑定のために長く審理が中断する事態を避けるためです。「公判前整理手続において鑑定を行うことを決定した場合、鑑定の結果の報告がなされるまでに相当の期間を要すると認めるときには、公判前整理手続内において、鑑定人に鑑定の手続の一部を行わせることができる」という肢と、裁判員裁判対象事件について「公判前整理手続において鑑定の手続(鑑定の経過及び結果の報告を除く。)を行う旨の決定をすることができる」という肢は正しいです。
第1回公判期日の後は期日間整理手続に付すことができ、公判前整理手続を終えた事件でも改めて付せます
公判が始まった後に争点や証拠を整理し直す必要が生じたときは、裁判所は審理の経過に鑑み必要と認めるときに、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第1回公判期日後に、決定で、事件を期日間整理手続に付することができます(316条の28第1項)。期日間整理手続には公判前整理手続の規定が準用され、決定前に請求されていた証拠は期日間整理手続で請求した証拠とみなされます(同条2項)。公判前整理手続を終結させて公判を開始した事件を期日間整理手続に付せないとする規定はないので、「公判前整理手続に付した場合,同手続を終結させて公判を開始した後には,期日間整理手続に付することができない」という肢は誤りです。どちらの手続に付された事件も、終了後の証拠調べ請求が制限され(316条の32)、弁護人がなければ開廷できません(316条の29)。
刑事訴訟法316条の2第1項
裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第一回公判期日前に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を公判前整理手続に付することができる。
刑事訴訟法316条の2第2項
前項の決定又は同項の請求を却下する決定をするには、裁判所の規則の定めるところにより、あらかじめ、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。
刑事訴訟法316条の4第1項
公判前整理手続においては、被告人に弁護人がなければその手続を行うことができない。
刑事訴訟法316条の9第1項
被告人は、公判前整理手続期日に出頭することができる。
刑事訴訟法316条の9第2項
裁判所は、必要と認めるときは、被告人に対し、公判前整理手続期日に出頭することを求めることができる。
刑事訴訟法316条の28第1項
裁判所は、審理の経過に鑑み必要と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第一回公判期日後に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を期日間整理手続に付することができる。
論文ではこう使う
論文で公判前整理手続を経た事件が出たら、まず事件が公判前整理手続に付されていることを事実から確認し、その制度趣旨を「充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため、争点及び証拠を整理する公判準備である」と316条の2第1項の文言で書きます。そのうえで、問題になっている行為が整理手続の中の行為(証拠開示・主張明示・証拠決定)なのか、整理手続を終えた後の公判での行為(証拠調べ請求・新主張・訴因変更)なのかを分けます。後者は316条の32と判例の規範に進み、前者は316条の13以下の各条文の要件に当てはめます。被告人の防御権との緊張は、整理手続が被告人に出頭義務を課さず黙秘権告知を要求していること、弁護人なしには行えないことを押さえてから論じると、制度の側の配慮と限界を対にして書けます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。