公判前整理手続後の証拠調べ請求の制限と職権証拠調べ(316条の32)とは
こうはんぜんせいりてつづきごのしょうこしらべせいきゅうのせいげんとしょっけんしょうこしらべ
公判前整理手続後の証拠調べ請求の制限とは、公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件では、検察官及び被告人又は弁護人は、やむを得ない事由によって整理手続の中で請求することができなかったものを除き、手続が終わった後には証拠調べを請求することができないという失権の効果です(刑事訴訟法316条の32第1項)。裁判所が必要と認めて職権で証拠調べをすることは妨げられません(同条2項)。
公判前整理手続で争点と証拠を決めて審理の計画を組んだのに、公判が始まってから当事者が次々と新しい証拠を出してきたら、計画は崩れます。そこで法律は、整理手続に付された事件では、手続が終わった後は原則として証拠調べを請求できないと決めました。ただし、整理手続の時点では知らなかった証拠のように、やむを得ない事由で請求できなかったものは請求できます。縛られるのは当事者であって裁判所ではないので、裁判所が必要と認めれば職権で取り調べることはできます。失権は、整理の結果に実効性を持たせるための裏付けです。
整理手続が終わった後は、やむを得ない事由で請求できなかったものを除いて証拠調べを請求できず、情状証拠に限る制限ではありません
公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件については、検察官及び被告人又は弁護人は、298条1項の規定にかかわらず、やむを得ない事由によって整理手続において請求することができなかったものを除き、整理手続が終わった後には、証拠調べを請求することができません(刑事訴訟法316条の32第1項)。「公判前整理手続に付された事件については,検察官及び被告人又は弁護人は,やむを得ない事由によって公判前整理手続において請求することができなかったものを除き,当該公判前整理手続が終わった後には,証拠調べを請求することができない」という肢は正しいです。例外は「やむを得ない事由によって請求することができなかったもの」であって、情状に関する証拠に限られてはいません。「やむを得ない事由によって当該公判前整理手続において請求することができなかった証拠のうち,情状に関するものに限って,その証拠調べを請求することができる」という肢は誤りです。整理手続の間、被告人も弁護人も存在を知らなかった写真のように、知らなかったことに落ち度がなければやむを得ない事由に当たり、証人尋問の後でも請求する余地があります。「公判前整理手続の中で証拠調べ請求がされることなく同手続が終了した以上、Aが丙の証人尋問終了後にその証拠調べを請求する余地はない」という肢は誤りです。
裁判所の職権証拠調べは妨げられませんが、やむを得ない事由があっても職権で取り調べる義務はありません
316条の32第1項は、裁判所が必要と認めるときに職権で証拠調べをすることを妨げるものではありません(同条2項)。失権するのは当事者の請求権であり、裁判所の職権は残ります。「やむを得ない事由によって請求できなかった場合でなくても,必要と認めるときは,職権で証拠調べをすることができる」という肢は正しく、「裁判所が職権で証拠調べをすることはできない」という肢は誤りです。他方で、やむを得ない事由があると認められる証拠について裁判所に職権での取調べを義務づける規定はありません。やむを得ない事由があるなら当事者が請求できるのであって、裁判所が代わりに職権で調べなければならないのではありません。「やむを得ない事由によって公判前整理手続において請求することができなかったと認められるものについては,職権で証拠調べをしなければならない」という肢は誤りです。
- 当事者の請求(1項)原則できない。例外はやむを得ない事由によって整理手続で請求できなかった証拠。情状証拠に限らない
- 裁判所の職権(2項)妨げられない。「必要と認めるとき」の裁量で、やむを得ない事由があっても義務ではない
- 整理手続で請求済みの証拠採否を留保したまま終えてよく、公判で決定してよい(316条の5は「できる」事項の列挙)
- 訴因変更禁止はされないが、整理の趣旨を没却する請求は許されない(東京高判平成20年11月18日)
整理手続で請求した証拠の採否を決めないまま終えて、公判で決めてもかまいません
316条の32が制限するのは、整理手続が終わった後の新たな証拠調べ請求です。整理手続の中で請求はされたが採否が決まっていない証拠は、この制限の対象ではありません。公判前整理手続で証拠決定ができることは316条の5第8号に書かれていますが、「できる」事項の列挙であって、終結までに全部決めなければならないわけではないからです。アリバイ主張に関連して弁護人が請求した証拠について、「証拠調べをする決定又は証拠調べの請求を却下する決定をしないまま公判前整理手続を終え、丙の証人尋問を実施した後、それらの証拠の取調べをするか否かを決定してもよい」という肢は正しいです。
整理手続を経た後の訴因変更は禁止されませんが、争点整理と審理計画の趣旨を没却する請求は許されません
316条の32は証拠調べ請求を制限する規定で、訴因変更を禁止する規定はありません。公判前整理手続の中でも訴因変更を許せますし(316条の5第2号)、手続後の公判でも検察官は訴因変更を請求できます。しかし、争点整理の結果と審理計画を無にするような請求まで自由だとすると、整理手続の意味がなくなります。裁判例は、公判前整理手続が当事者の予定主張を明らかにして争点と証拠を整理し、充実した公判審理を継続的・計画的かつ迅速に行うための制度であることから、公判前整理手続を経た後の公判においては、充実した争点整理や審理計画の策定がされた趣旨を没却するような訴因変更請求は許されないとしました(東京高判平成20年11月18日)。その事案では、整理手続で争点とされていなかった事項について公判の証人尋問で明らかになった事実に基づく変更で、追加の証拠調べも限られ、審理計画を大幅に変える必要がなかったので、趣旨を没却するものではないとして許可を是認しています。訴因変更の手続と時機的限界の全体は「訴因変更の手続と時期」で扱います。
刑事訴訟法316条の32第1項
公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件については、検察官及び被告人又は弁護人は、第二百九十八条第一項の規定にかかわらず、やむを得ない事由によつて公判前整理手続又は期日間整理手続において請求することができなかつたものを除き、当該公判前整理手続又は期日間整理手続が終わつた後には、証拠調べを請求することができない。
刑事訴訟法316条の32第2項
前項の規定は、裁判所が、必要と認めるときに、職権で証拠調べをすることを妨げるものではない。
論文ではこう使う
論文で整理手続後に当事者が新しい証拠を出した場面が出たら、316条の32第1項の原則を書き、その証拠が「やむを得ない事由によって整理手続において請求することができなかったもの」かを、証拠の存在を知り得た時期、知らなかったことへの落ち度、整理手続中の主張との関係から当てはめます。当たらなければ請求は却下されますが、2項により裁判所が職権で取り調べる余地があることを一文添えます。新しい主張が出た場面なら、主張自体を禁じる規定はないことを確認したうえで、「主張明示義務と黙秘権」の判例の枠組みで被告人質問の制限を論じ、訴因変更が出たら平成20年の高裁判例の「趣旨を没却するような訴因変更請求は許されない」という規範に当てはめます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。