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用語集 / 刑事訴訟法 / 主張明示義務と黙秘権・公判での主張制限

主張明示義務と黙秘権・公判での主張制限とは

しゅちょうめいじぎむともくひけんこうはんでのしゅちょうせいげん

刑事訴訟法 公判手続と公判前整理手続

主張明示義務とは、公判前整理手続に付された事件で、被告人又は弁護人が、公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときに、裁判所及び検察官に対してこれを明らかにしなければならない義務です(刑事訴訟法316条の17第1項)。判例は、この義務が自己に不利益な供述の強要に当たらず憲法38条1項に反しないとし、整理手続で明示しなかった主張に関する被告人質問は、整理手続を行った意味を失わせる場合に限って制限し得るとしています。

被告人には黙秘権があります。ところが公判前整理手続では、弁護側はアリバイや正当防衛のような主張を公判の前に明らかにしなければなりません。黙っていてよいはずの被告人に、先に手の内を出せと迫るのは黙秘権と矛盾しないのかが問われました。判例は、義務づけられているのは公判でするつもりの主張を先に出す時期の前倒しだけで、不利な事実を認めることも、主張すること自体も強制していないから憲法に反しないと答えました。その代わり、明示しなかった主張を公判でいきなり出したときに、どこまで制限できるかが次の問題になります。

裁判所の準備手続室の場面。先生が裁判長役(札「裁判長」)でテーブルの奥に座り、右に男性の弁護人(札「弁護人」)、その隣に被告人の男性(札「被告人」)が腕を組んで黙っている。弁護人の手元に「予定主張記載書面 アリバイ」と書かれた書類。先生の吹

主張明示義務は、不利益な事項を認めるよう義務づけるものでも主張自体を強要するものでもなく、憲法38条1項に反しません

被告人又は弁護人は、証明予定事実記載書面の送付と検察官請求証拠・類型証拠の開示を受けた場合に、公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときは、裁判所及び検察官に対してこれを明らかにしなければなりません(刑事訴訟法316条の17第1項)。判例は、この規定は被告人又は弁護人において公判期日においてする予定の主張がある場合に限り、公判期日に先立ってその主張を公判前整理手続で明らかにし証拠の取調べを請求するよう義務づけるものであって、被告人に対し自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について認めるように義務づけるものではなく、公判期日において主張をするかどうかも被告人の判断に委ねられているから、主張をすること自体を強要するものでもないとして、自己に不利益な供述の強要を禁じた憲法38条1項に違反しないとしました(最決平成25年3月18日)。「刑事訴訟法第316条の17の規定は,被告人に対し,自己が刑事責任を問われるおそれのある事項について認めるように義務付けるものではなく,また,主張すること自体を強要するものでもないから,憲法第38条第1項に違反しない」という肢は正しいです。義務の中身が主張の時期の前倒しにとどまるというのが、合憲の理由の核です。

整理手続で明示しなかった主張に沿う被告人質問は、整理手続を行った意味を失わせる場合に限って制限できます

整理手続後に新たな主張をすることを禁じる規定はなく、316条の32が制限するのは証拠調べ請求です。だから、明示しなかった主張に沿った被告人の供述を当然に制限できるとは解されません。判例は、公判前整理手続が争点と証拠を整理する手続で訴訟関係人に協力義務があり、被告人・弁護人が主張明示義務を負う以上、予定している主張を明示しないことは許されないとしつつ、手続終了後の新たな主張を制限する規定はないので新主張に沿う被告人の供述を当然に制限できるとは解し得ないとしたうえで、予定主張の明示状況、新たな主張がされるに至った経緯、その内容等の諸般の事情を総合考慮し、主張明示義務に違反したものと認められ、かつ、被告人質問等でその主張に関する事項を尋ね又は被告人が供述することを許すことが公判前整理手続を行った意味を失わせるものと認められる場合には、事項の重要性等も踏まえたうえで、295条1項により質問や供述を制限することができるとしました(最決平成27年5月25日)。その事案では、弁護人が自宅ないしその付近にいたというアリバイを整理手続で明示しており、公判での供述はそのアリバイを具体化するものにすぎないとして、制限は許されないとされています。制限の根拠は295条1項の裁判長の訴訟指揮であり、異議の対象になります。

法廷の被告人質問の場面。先生が裁判長役(札「裁判長」)で法壇に座り、証言台に立つ被告人の男性(札「被告人」)が「あの日は自宅の近くの公園にいました」と小さな吹き出しで述べている。検察官席の男性(札「検察官」)が手を挙げて小さな吹き出し「異議
  • 義務の中身公判でする予定の主張を整理手続で先に明らかにし、証拠調べを請求すること。不利益な事実の自認も、主張すること自体も強制しない
  • 合憲の理由主張するかどうかは被告人の判断に委ねられており、義務は時期の前倒しにとどまる(最決平成25年3月18日)
  • 新主張の扱い新主張を禁じる規定はない。明示義務違反があり、質問・供述を許すと整理手続を行った意味を失わせる場合に限り、重要性も踏まえて295条1項で制限できる(最決平成27年5月25日)
  • 黙秘権の告知被告人を出頭させる最初の整理手続期日に裁判長が告知する(316条の9第3項)。公判の冒頭手続の告知(291条5項)とは別

被告人を出頭させて整理手続をするときは、最初の期日に裁判長が黙秘権を告知しなければならず、公判の冒頭手続の告知とは別です

裁判長は、被告人を出頭させて公判前整理手続をする場合には、被告人が出頭する最初の公判前整理手続期日において、まず、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨を告知しなければなりません(316条の9第3項)。整理手続は争点を整理する場で被告人質問は予定されていませんが、弁護人の陳述について被告人の意思を確かめるために質問を発することがあり(316条の10)、被告人が述べたことが後に不利に働き得るので、先に権利を告げておく必要があります。「①については,裁判所は,刑事訴訟法上,被告人を出頭させて公判前整理手続をする場合に,被告人に対し告知しなければならない」という肢と、「被告人が出頭する最初の公判前整理手続期日において,まず,被告人に対し,終始沈黙し,又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨を告知しなければならない」という肢は正しいです。公判の冒頭手続では起訴状朗読の後に改めて黙秘権等を告知するので(291条5項)、整理手続で告知したからといって公判の告知を省くことはできず、公判で告知するからといって整理手続の告知を省くこともできません。「第1回公判期日の冒頭手続において黙秘権の告知が行われるが、下線部②の甲が出頭した最初の公判前整理手続期日においても、裁判長は甲に対し、黙秘権の告知をしなければならない」という肢は正しいです。期日間整理手続には316条の9第3項は準用されません(316条の28第2項)。

刑事訴訟法316条の17第1項

被告人又は弁護人は、第三百十六条の十三第一項の書面の送付を受け、かつ、第三百十六条の十四第一項並びに第三百十六条の十五第一項及び第二項の規定による開示をすべき証拠の開示を受けた場合において、その証明予定事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときは、裁判所及び検察官に対し、これを明らかにしなければならない。

刑事訴訟法316条の9第3項

裁判長は、被告人を出頭させて公判前整理手続をする場合には、被告人が出頭する最初の公判前整理手続期日において、まず、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨を告知しなければならない。

論文ではこう使う

論文で主張明示義務と黙秘権の関係が問われたら、まず316条の17第1項の文言から、義務が「予定している主張がある場合」に限られ、主張の有無も内容も被告人側が決めることを示します。次に平成25年決定の二つの理由(不利益な事項の自認を義務づけるものではない、主張すること自体を強要するものではない)を書き、義務の実質が時期の前倒しであることにまとめます。整理手続で出さなかった主張を公判の被告人質問で述べようとした場面なら、新主張を禁じる規定が無いことを確認したうえで、平成27年決定の総合考慮(明示状況・経緯・内容)と「公判前整理手続を行った意味を失わせる」という基準に当てはめ、既に明示した主張の具体化にすぎなければ制限できないと結びます。

試験ではこう問われる

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