被告人の出頭義務と不出頭審理・勾引とは
ひこくにんのしゅっとうぎむとふしゅっとうしんりこういん
被告人の出頭義務とは、被告人が公判期日に出頭しなければ開廷することができないという定めです(刑事訴訟法286条)。50万円以下の罰金・科料の事件などの軽微事件では出頭を要せず(284条・285条)、勾留中の被告人が出頭を拒んで引致を著しく困難にしたときは不出頭のまま審理でき(286条の2)、召喚に応じないおそれがある被告人は勾引できます(58条)。
被告人が法廷に来なければ、原則として裁判は開けません。被告人には自分の裁判に出て言い分を述べる権利があると同時に、出頭する義務もあるからです。ただし、罰金だけで済むような軽い事件では来なくてもよく、逆に勾留中の被告人がわざと出廷を拒んで引致を妨げたときは、いないまま進めることができます。控訴審では出頭は要りません。どの事件で出頭が要るかは法定刑で変わり、来ない被告人を連れてくる勾引の要件は証人の勾引とは違います。
被告人が公判期日に出頭しなければ開廷できないのが原則で、罰金・科料の軽微な事件では出頭を要しません
284条・285条・286条の2に当たる場合のほかは、被告人が公判期日に出頭しないときは開廷することができません(刑事訴訟法286条)。50万円以下の罰金又は科料に当たる事件では、被告人は公判期日に出頭することを要せず、代理人を出頭させることができます(284条)。拘留に当たる事件の被告人は、判決の宣告をする場合には出頭しなければならず、その他の場合には、裁判所が出頭が権利の保護のため重要でないと認めるときに出頭しないことを許すことができます(285条1項)。長期3年以下の拘禁刑又は50万円を超える罰金に当たる事件の被告人は、冒頭手続(291条の手続)をする場合と判決の宣告をする場合には出頭しなければならず、その他の場合は同じく許可により出頭しないことができます(285条2項)。したがって第一審の公判期日における被告人の出頭義務の有無は、法定刑によって法律上当然に結論が異なる事項です。被告人が陳述をせず、許可を受けないで退廷し、又は秩序維持のため裁判長から退廷を命ぜられたときは、その陳述を聴かないで判決をすることができます(341条)。
- 50万円以下の罰金・科料の事件出頭を要しない。代理人を出頭させることができる(284条)
- 拘留の事件判決宣告のときは出頭義務。その他は裁判所の許可で不出頭可(285条1項)
- 長期3年以下の拘禁刑・50万円を超える罰金の事件冒頭手続と判決宣告のときは出頭義務。その他は裁判所の許可で不出頭可(285条2項)
- それ以外の事件出頭しなければ開廷できない(286条)。例外は286条の2と341条
- 控訴審出頭を要しない(390条)。保釈・執行停止中の被告人には判決宣告期日への出頭命令(390条の2。令和5年改正)
- 公判前整理手続期日出頭する権利はあるが義務はない(316条の9)
勾留中の被告人が正当な理由なく出頭を拒み引致を著しく困難にしたときは、出頭しないまま公判手続を行えます
被告人が出頭しなければ開廷できない場合でも、勾留されている被告人が公判期日に召喚を受け、正当な理由がなく出頭を拒否し、刑事施設職員による引致を著しく困難にしたときは、裁判所は被告人が出頭しないでもその期日の公判手続を行うことができます(286条の2)。出頭義務をわざと免れて審理を止める事態に対処する規定です。召喚を受けた勾留中の被告人が出頭を拒み、引致しようとする刑事施設職員に暴力を振るって出頭しない場合は、この要件を満たすので、「被告人が出頭しないまま,その公判期日において証人尋問を行うことができる」という肢は正しいです。
被告人は召喚に応じないおそれがあるだけで勾引できますが、証人も同じ要件で勾引でき、控訴審と公判前整理手続期日には出頭義務がありません
裁判所は、被告人が定まった住居を有しないとき、又は正当な理由がなく召喚に応じないとき若しくは応じないおそれがあるときは、被告人を勾引することができます(58条)。勾引した被告人は裁判所に引致した時から24時間以内に釈放しなければならず、その間に勾留状が発せられたときは別です(59条)。証人についても、正当な理由がなく召喚に応じないとき又は応じないおそれがあるときに勾引できます(152条)。「召喚を受けた証人については,正当な理由がなく出頭しないおそれがあるだけでは勾引することはできない」という肢は、出題当時の152条が証人については現に出頭しない場合に限っていたため正しいとされましたが、平成28年改正後の152条は「応じないおそれがあるとき」も勾引できると定めており、現行法では被告人と証人で差はありません。証人は召喚に応じなければ勾引されることがあるので、「証人は,召喚に応じなくとも,勾引されることがない」という肢は誤りです。控訴審では被告人は公判期日に出頭することを要しません(390条本文)。「控訴審において,裁判所は,公判期日に被告人が出頭しなければ開廷することができない」という肢は誤りです。令和5年改正で、控訴裁判所は、拘禁刑以上の刑に当たる罪で起訴され保釈又は勾留の執行停止をされている被告人には判決を宣告する公判期日への出頭を命じなければならないことになりました(390条の2)。公判前整理手続期日には、被告人は出頭することができ、裁判所が出頭を求めることもできますが、出頭義務はありません(316条の9)。「被告人は,公判前整理手続期日への出頭が義務付けられている」という肢と、「被告人が出頭しないときは,その手続を行うことができない」という肢と、「裁判所の許可がなければ出頭することができない」という肢はいずれも誤りです。
刑事訴訟法286条
前三条に規定する場合の外、被告人が公判期日に出頭しないときは、開廷することはできない。
刑事訴訟法286条の2
被告人が出頭しなければ開廷することができない場合において、勾留されている被告人が、公判期日に召喚を受け、正当な理由がなく出頭を拒否し、刑事施設職員による引致を著しく困難にしたときは、裁判所は、被告人が出頭しないでも、その期日の公判手続を行うことができる。
刑事訴訟法58条
裁判所は、次の場合には、被告人を勾引することができる。一 被告人が定まつた住居を有しないとき。二 被告人が、正当な理由がなく、召喚に応じないとき、又は応じないおそれがあるとき。
刑事訴訟法390条
控訴審においては、被告人は、公判期日に出頭することを要しない。ただし、裁判所は、五十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、五万円)以下の罰金又は科料に当たる事件以外の事件について、被告人の出頭がその権利の保護のため重要であると認めるときは、被告人の出頭を命ずることができる。
論文ではこう使う
論文で被告人不在のまま行われた手続の適法性を問われたら、286条の原則から入り、284条・285条の軽微事件か、286条の2の要件(勾留中・召喚・正当な理由のない出頭拒否・引致を著しく困難にしたこと)を満たすか、341条の退廷の場面かを順に検討します。被告人の在廷は直接主義と防御権の保障に根ざすことを一言添えると、例外を狭く読む姿勢が示せます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。