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用語集 / 刑事訴訟法 / 弁護人の権限

弁護人の権限(独立代理権・包括代理権・被告人の明示の意思)とは

べんごにんのけんげん

刑事訴訟法 公判手続と公判前整理手続

弁護人の権限とは、弁護人が被告人・被疑者のために行うことができる訴訟行為の範囲のことで、弁護人自身の権利である固有権、被告人の明示の意思に反してもできる独立代理権、被告人の意思に従ってのみ行える代理権に分かれます(刑事訴訟法41条)。保釈請求や証拠調べ請求は独立してでき、証拠の同意と上訴は被告人の明示の意思に反してできません。

弁護人は被告人の味方ですが、被告人の言いなりに動く使者でもなければ、被告人を無視して勝手に動ける代理人でもありません。接見や記録の閲覧のように弁護人自身の権利として行うもの、保釈請求や証拠調べ請求のように被告人の意思に反してもできるもの、証拠の同意や上訴のように被告人がはっきり反対したらできないものに分かれます。被告人の利益を守るために独立して動ける場面と、被告人自身が決めるべき場面を条文が仕分けているからです。肢は「弁護人は〜できる」の形で、この仕分けと、立会権の有無を入れ替えて作られます。

法廷の弁護人席の場面。先生が弁護人役(札「弁護人」)で立ち、隣に男性の被告人(札「被告人」)が座って腕を組み「その調書には同意しないでくれ」と小さな吹き出し。弁護人席の机の上に三つの書類の束があり、札は左から「保釈請求書(独立してできる)」

弁護人は法律に特別の定めがある場合に限って独立して訴訟行為ができ、権限は固有権・独立代理権・被告人の意思に従う代理権に分かれます

弁護人は、法律に特別の定めがある場合に限り、独立して訴訟行為をすることができます(刑事訴訟法41条)。弁護人の権限は三つに分けて読みます。第一は弁護人自身の権利として法律が与えた固有権で、身体を拘束された被告人・被疑者との立会人なしの接見(39条1項)、公訴提起後の訴訟書類と証拠物の閲覧・謄写(40条)、証人尋問や検証への立会い(157条・142条)、控訴審の弁論(388条)がこれに当たります。第二は被告人の明示の意思に反してもできる独立代理権で、保釈の請求(88条)、勾留の取消しの請求(87条)、勾留理由開示の請求(82条2項)、証拠調べの請求(298条1項)、証拠保全の請求(179条)、準抗告(429条)がこれに当たり、法律が「弁護人」を請求権者に並べています。第三は被告人本人の権利を代わりに行うだけの代理権で、証拠とすることの同意(326条1項)と上訴(355条・356条)がその例です。この場合は被告人の明示の意思に反することができません。

  • 固有権(弁護人自身の権利)接見交通(39条1項)/書類・証拠物の閲覧謄写(40条)/証人尋問・鑑定・裁判所の検証や捜索差押えへの立会い(157条・170条・142条・113条)/控訴審の弁論(388条)
  • 独立代理権(被告人の明示の意思に反してもできる)保釈の請求(88条)/勾留の取消しの請求(87条)/勾留理由開示の請求(82条2項)/証拠調べの請求(298条1項)/証拠保全の請求(179条)/勾留・接見指定などに対する準抗告(429条・430条)/勾留状謄本の交付請求
  • 被告人の明示の意思に反してできないもの証拠とすることの同意(326条1項。同意権者は検察官と被告人)/上訴(355条・356条)
  • 弁護人だけの権利ではないもの証拠意見・証拠の同意(被告人自身の権利)/共同被告人への質問(311条3項。共同被告人本人もできる)/証拠保全の請求(被告人・被疑者もできる)

保釈請求・証拠調べ請求・証拠保全請求・準抗告・勾留理由開示請求は被告人の意思にかかわらずでき、勾留延長や接見指定の裁判や処分にも準抗告できます

弁護人は、被告人の明示の意思に反しても保釈の請求ができます(88条1項)。「弁護人は,被告人の明示の意思に反しても保釈の請求をすることができる」という肢は正しいです。証拠調べの請求も弁護人が独立してできるので、「被告人が証拠調べを請求する意思がない証拠についても,その証拠調べを請求することができる」という肢は正しく、「被告人の明示の同意がなければ,証拠調べを請求することができない」という肢は誤りです。証拠保全は、被告人・被疑者・弁護人が、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときに、第1回公判期日前に限り裁判官に押収・捜索・検証・証人の尋問・鑑定の処分を請求する制度です(179条1項)。「第一回の公判期日前に限り,裁判官に押収の処分を請求することができる」という肢は正しく、「公訴の提起前に限り」とする肢は、起訴後も第1回公判期日前なら請求できるので誤りです。裁判官がした勾留に関する裁判には準抗告ができ(429条1項2号)、勾留期間を延長する裁判に「やむを得ない事由」がないことを理由とする準抗告も、勾留場所を警察署の留置施設から拘置所に変更することを求める準抗告もできます。「勾留の期間を延長する裁判に対して,準抗告をすることができる」という肢は正しいです。検察官がした接見の日時の指定に不服があるときは、裁判所にその取消し又は変更を請求できます(430条1項)。勾留されている被疑者の弁護人は勾留理由開示を請求できますが(82条2項・207条1項)、釈放された後は請求できず、「釈放された後であっても,…勾留の理由の開示を請求して,…開示を受けることができる」という肢は誤りです(82条3項)。弁護人は起訴前でも勾留状の謄本の交付を請求でき、「起訴前に,被疑者の勾留状の謄本の交付を請求することはできない」という肢は誤りです。公判前整理手続に付された事件では、検察官請求証拠の開示を受けた後に、検察官が保管する証拠の一覧表の交付を請求する権利があります(316条の14第2項)。

大学の教室で先生が教師役(札「刑事訴訟法」)が黒板の前に立つ場面。黒板を縦線で二分し、左の見出し「弁護人の立会権 あり」の下に札「裁判所の捜索・差押え(113条)」「裁判所の検証(142条)」「証人尋問(157条)」「鑑定(170条)」「勾

証拠の同意と上訴は被告人の明示の意思に反してできず、証拠意見や共同被告人への質問は弁護人だけの権利ではありません

書面又は供述を証拠とすることの同意の主体は検察官と被告人で(326条1項)、弁護人は被告人の代理人として同意するにとどまります。したがって弁護人は被告人の明示の意思に反して同意することができず、判例も、被告人の明示の意思に反する弁護人の同意は無効としています。「弁護人は,独立して訴訟行為をすることができるので,被告人の明示の意思に反しても,書面又は供述を証拠とすることに同意することができる」という肢と、「被告人の明示した意思に反して、それを証拠とすることに同意することができる」という肢はいずれも誤りです。同意や不同意の意見を述べるのは被告人自身の権利でもあるので、「同意又は不同意の意見を述べるのは,弁護人のみが有する権利である」という肢と、「これを証拠とすることに同意するのは、弁護人のみが有する権利である」という肢はいずれも誤りです。共同被告人の供述を求めることも、弁護人だけでなく共同被告人本人が裁判長に告げてできます(311条3項)。「甲が乙の供述を求めることはできない」という肢は誤りです。上訴は、原審における弁護人が被告人のためにできますが(355条)、被告人の明示した意思に反してはできません(356条)。「原審における弁護人は、被告人の明示した意思に反して、被告人のため上訴をすることができない」という肢は正しく、「被告人の明示した意思に反しても,被告人のために上訴をすることができる」という肢は誤りです。被告人が控訴しないという意思を明示していなければ、弁護人は被告人からの手紙を待たずに控訴でき、「手紙を受領する以前に,控訴することができない」という肢は誤りです。第一審の弁護人は改めて選任されなくても控訴でき、「改めて弁護人に選任されなければ控訴をすることができない」という肢は誤りです。控訴審では、被告人のためにする弁論は弁護人でなければできず(388条)、「控訴趣意書を被告人が差し出した場合でも,それに基づく弁論は弁護人が行う」という肢は正しいです。

立会権は、裁判所の捜索・差押え・検証・証人尋問・鑑定と勾留理由開示にはあり、捜査機関の捜索差押えと勾留質問と第1回公判期日前の証人尋問にはありません

検察官、被告人又は弁護人は、裁判所が行う差押状・捜索状の執行に立ち会うことができ(113条1項)、この規定は裁判所の検証にも準用されます(142条)。「弁護人は,起訴後,裁判所が行う捜索差押えに立ち会うことができる」という肢は正しく、裁判所が起訴された被告事件の犯行現場を検証する場合は弁護人が立会いを求めることができる場合に当たります。証人尋問にも立ち会うことができ(157条1項)、裁判所外の病院で行う証人尋問でも裁判所の許可は要らないので、「いずれも裁判所の許可を得なければ,Wの証人尋問に立ち会うことができない」という肢は誤りです。鑑定にも立ち会えます(170条)。勾留理由開示の法廷では弁護人が意見を述べることができ(84条2項)、立会いを求めることができる場合に当たります。これに対して、捜査機関が令状により行う捜索差押えには113条が準用されておらず(222条1項)、捜査機関は必要があるときに被疑者を立ち会わせることができるだけです(222条6項)。「弁護人は,当該捜索許可状の執行に立ち会う権利がある」という肢と、「捜査機関が令状の発付を受けて行う捜索差押えに立ち会う権利を有する」という肢と、記録命令付差押え(出題当時の制度で、現在は電磁的記録提供命令です)の実施に「立ち会う権利を有する」という肢はいずれも誤りです。裁判官が勾留質問をする場合も弁護人の立会権はありません。第1回公判期日前の証人尋問(226条・227条)では、裁判官は捜査に支障を生ずるおそれがないと認めるときに被告人・被疑者・弁護人を立ち会わせることができるだけで(228条2項)、「第1回公判期日前の証人尋問に立ち会う権利を有しない」という肢は正しく、「必ず証人尋問に立ち会う権利を有する」という肢と「当該弁護人を証人尋問に立ち会わせなければならない」という肢は誤りです。接見については、弁護人だけでなく、弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者も立会人なしに接見できるので(39条1項)、「被疑者の弁護人に選任されない限り,逮捕又は勾留された被疑者と立会人なくして接見することはできない」という肢は誤りです。接見等禁止の決定が出ても弁護人との接見は禁じられず、立会人も付かないので、「裁判官からその接見を禁じられたときには,被疑者と接見することができない」という肢と、「接見禁止の裁判を受けた被告人に対する接見であるので,立会人が付いた接見である」という肢はいずれも誤りです。

刑事訴訟法41条

弁護人は、この法律に特別の定のある場合に限り、独立して訴訟行為をすることができる。

刑事訴訟法326条1項

検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第三百二十一条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。

刑事訴訟法356条

前三条の上訴は、被告人の明示した意思に反してこれをすることができない。

刑事訴訟法113条1項

検察官、被告人又は弁護人は、差押状又は捜索状の執行に立ち会うことができる。ただし、身体の拘束を受けている被告人は、この限りでない。

刑事訴訟法228条2項

裁判官は、捜査に支障を生ずる虞がないと認めるときは、被告人、被疑者又は弁護人を前項の尋問に立ち会わせることができる。

論文ではこう使う

論文で弁護人の訴訟行為の効力が問われたら、その行為が固有権か、独立代理権か、被告人の意思に従う代理権かを41条から仕分けします。被告人の明示の意思に反する同意や上訴は、同意権者・上訴権者が被告人であることを条文で示して無効とし、保釈請求や証拠調べ請求は、弁護人が請求権者に並んでいることを示して有効とします。被告人の意思と弁護方針が食い違う事案では、弁護人は被告人の正当な利益を守る誠実義務を負うが真実に反する主張を積極的にする義務はない、という枠組みを一言置いてから、個々の行為の効力に戻ると書きやすくなります。

試験ではこう問われる

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