証拠保全請求(179条)とは
しょうこほぜんせいきゅう
証拠保全請求とは、被告人、被疑者又は弁護人が、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときに、第1回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求する制度です(刑事訴訟法179条1項)。
被疑者のアリバイを知っている人が、来月には海外へ赴任してしまうとします。捜査機関には捜索や差押えの権限がありますが、被疑者や弁護人には証拠を強制的に集める手段がありません。放っておけば裁判のときに使えなくなる証拠を、裁判官の手を借りて先に確保しておくのが証拠保全請求です。公判で検察官と対等に争うための、防御側だけに認められた裁判官への請求です。
請求できるのは被告人・被疑者・弁護人で、保全しなければ使用が困難な事情があるときに裁判官に請求します
被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第1回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができます(刑事訴訟法179条1項)。請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限をもちます(同条2項)。この条文をそのまま書いた肢は正しく、「裁判官に押収の処分を請求することができる」「裁判官に証人の尋問を請求することができる」という弁護人の権限の肢も正しいです。アリバイ証人に海外赴任の予定があることは「証拠を使用することが困難な事情」の典型なので、「海外赴任の予定があるなど…困難な事情があるときでも,第1回の公判期日前に,裁判官に証人の尋問を請求することはできない」という肢は誤りです。請求権者は防御側に限られ、検察官や司法警察員にはありません。検察官が参考人の供述を裁判官の面前で確保したいときに使うのは226条・227条の第1回公判期日前の証人尋問で、こちらは検察官だけが請求できます。
時期は「公訴の提起前」ではなく「第1回の公判期日前」なので、起訴前でも起訴後でも請求できます
179条1項の時期の限定は「第一回の公判期日前に限り」です。したがって、まだ起訴されていない被疑者の段階でも請求でき、「起訴前であっても、裁判官に証人の尋問を請求することができる」という肢は正しいです。逆に、起訴された後でも第1回公判期日より前であれば請求できるので、「公訴の提起前に限り,裁判官に押収,捜索,検証,証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる」という肢は誤りです。第1回公判期日の後は、受訴裁判所に証拠調べを請求すれば足りるので、裁判官への保全請求は要らなくなります。請求先は受訴裁判所ではなく裁判官である点も、226条・227条と同じです。
- 179条 証拠保全被告人・被疑者・弁護人が/保全しなければ使用が困難な事情があるとき/第1回公判期日前に限り/裁判官に押収・捜索・検証・証人尋問・鑑定を請求
- 226条・227条 証人尋問検察官だけが/参考人が出頭・供述を拒んだとき、又は供述を翻すおそれがあり不可欠なとき/第1回公判期日前に限り/裁判官に証人尋問を請求
保全された書類と証拠物は検察官と弁護人が閲覧・謄写でき、保全の証人尋問の調書は裁判官面前調書になります
証拠保全の処分に関する書類と証拠物は、検察官及び弁護人が裁判所で閲覧し謄写することができます。弁護人が証拠物を謄写するには裁判官の許可が要ります(180条1項)。被告人又は被疑者も裁判官の許可を受けて閲覧できますが、弁護人があるときは弁護人を通じて行います(同条3項)。防御側の請求で保全した証拠でも検察官が閲覧できるのは、証拠保全が裁判官の処分として行われるからです。証拠保全として行われた証人尋問の調書は、裁判官の面前における供述を録取した書面として321条1項1号の要件で証拠にできます。この点は裁判官面前調書の語で扱います。証拠保全の請求を却下する裁判は、押収・証人尋問などの処分に関する裁判官の裁判として準抗告の対象になるかが問題になりますが、ここでは立ち入りません。弁護人が立ち会える手続を数える問題では、証拠保全の処分は立会いができるものに入ります。
刑事訴訟法179条1項
被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第一回の公判期日前に限り、裁判官に押収(電磁的記録提供命令(第百二条の二第一項第一号イに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)を含む。)、捜索、電磁的記録提供命令(同号ロに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる。
刑事訴訟法180条1項
検察官及び弁護人は、裁判所において、前条第一項の処分に関する書類及び証拠物を閲覧し、及び謄写することができる。ただし、弁護人が証拠物の謄写をするについては、裁判官の許可を受けなければならない。
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