証拠とすることの同意(326条)とは
しょうことすることのどうい
証拠とすることの同意とは、検察官及び被告人が書面又は供述を証拠とすることに同意することで、裁判所が作成・供述時の情況を考慮して相当と認めるときに、伝聞例外の要件を満たさなくても証拠にできます(326条1項)。被告人が出頭しないでも証拠調べができる場合の不出頭は同意とみなされます(326条2項)。
検察官が目撃者の供述調書を証拠として出したとき、弁護人が「同意します」と言えば、目撃者を法廷に呼ばなくても調書がそのまま証拠になります。伝聞法則は被告人を守るための決まりなので、守られる側が「反対尋問をしなくてよい」と言うなら、それを尊重してよいからです。実務では証拠書類の多くがこの同意で取り調べられます。ただし同意は被告人の権利に関わる重い行為なので、誰ができるか、一部だけできるか、後から取り消せるかが決まっています。
同意権者は検察官と被告人で、弁護人は包括代理権で同意できますが被告人の明示の意思に反する同意は無効です
326条1項は、検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、321条から325条までの規定にかかわらず証拠にできるとします。同意権者は検察官と被告人です。弁護人は41条により法律に特別の定めがある場合に限って独立して訴訟行為ができますが、326条には弁護人を同意権者とする特別の定めがありません。したがって弁護人は被告人の包括代理権に基づいて同意の意見を述べることができるにとどまり、被告人の明示の意思に反して同意することはできません。「弁護人は,独立して訴訟行為をすることができるので,被告人の明示の意思に反しても,書面又は供述を証拠とすることに同意することができる。」という肢は誤りです。被告人が公訴事実を否認している事案で弁護人が検察官請求証拠の全部に同意した場合について、裁判例は、被告人の否認の陳述の趣旨を無意味に帰せしめるような内容の証拠については、弁護人の同意の意見のみによって被告人が同意したことにはならないとし、被告人の意思を確かめないまま取り調べた原判決を破棄しました(大阪高判平成8年11月27日)。否認しているというだけで弁護人の同意が全部無効になるわけではなく、否認の趣旨と矛盾する証拠かどうかで分けます。
一部同意はでき、撤回は証拠調べの前までで、同意の効力は控訴審にも及びます
書面や供述が意味内容において分割できるなら、その一部に同意し他の部分を不同意とすることができます。「書面又は供述が意味内容において分割可能な場合には,その一部を同意し,その他の部分を不同意とすることができる。」という肢は正しいです。同意の撤回は、同意に基づいて証拠調べが始まる前なら認められますが、取調べが終わった後は、同意によって生じた訴訟上の効果を覆すことになるので原則として認められません。最も緩やかに考えても当該証拠の取調べの終了までで、「第一審の判決が宣告されるまでは,いつでも撤回することができる。」という肢は誤りです。同意は手続形成行為の一つで、その効果はその後の手続の進行によって覆らないので、第一審でした同意の効力は控訴審にも及びます。「その効果は,第一審にしか及ばないので,控訴審では,その書面又は供述を不同意とすることができる。」という肢は誤りです。同意があっても裁判所は作成・供述時の情況を考慮して相当と認めるときに限って証拠にでき、また同意があるからといって、立証趣旨が同じで内容が重複する供述調書の両方を採用しなければならないわけではありません。被告人が出頭しないでも証拠調べができる場合に被告人が出頭しないときは同意があったものとみなされますが、代理人又は弁護人が出頭したときは別です(326条2項)。
同意の性質は反対尋問権の放棄・証拠能力付与行為・責問権の放棄の三つの見解で説明され、批判の向きが見解ごとに決まっています
見解Ⅰ(反対尋問権の放棄)は、伝聞証拠が排除されるのは反対尋問権を保障するためで、その権利は放棄できるから、同意は反対尋問権の放棄だと考えます。この見解に対しては、検察官が請求した被告人以外の者の供述調書について、被告人側が同意したうえでその証明力を争うために供述者の証人尋問を請求することができないことになるという批判と、被告人は自分に反対尋問できないので326条1項が被告人の供述調書も対象にしていることを説明できないという批判、伝聞法則を反対尋問権の保障の観点からしか理解しておらず裁判所による供述態度の観察という直接主義の観点が欠落しているという批判が向けられます。見解Ⅱ(証拠能力を付与する訴訟行為)は、同意を証拠に証拠能力を与える訴訟行為だと考え、被告人の供述調書にも同意で証拠能力が付与されることや、同意後に証明力を争うため原供述者を証人尋問できることを説明できます。この見解に対しては、同意の性質が伝聞証拠が排除される趣旨と関連しなくなり、326条が320条1項で排除される伝聞証拠について証拠能力を認める規定となっていることとそぐわないという批判と、捜索差押手続が違法であっても同意をすれば捜索差押調書が証拠能力を有することになるという批判が向けられます。見解Ⅲ(責問権の放棄)は、伝聞証拠の証拠能力の欠如という瑕疵について当事者が異議を述べないことで治癒させるものと考え、反対尋問権自体は放棄されていないので同意後の証人尋問も可能です。「Ⅰの見解に対しては,捜索差押手続が違法であっても,同意をすれば,同手続の捜索差押調書は証拠能力を有することになるという批判がある。」という記述は見解Ⅱに向けられる批判であり、「Ⅱの見解に対しては,伝聞法則を反対尋問権の保障の観点からしか理解しておらず…直接主義の観点が欠落しているという批判がある。」という記述と「Ⅲの見解に対しては,刑事訴訟法第326条第1項が被告人の供述調書についても規定していることを説明できないという批判がある。」という記述は、いずれも見解Ⅰに向けられる批判です。違法収集証拠を同意で救えるかは別の語で扱います。
証拠物には伝聞法則が適用されず同意は要りませんが、相手方の意見は聴かなければならず、鑑定の請求に同意を聴く必要もありません
326条の同意が問題になるのは伝聞証拠である書面と供述です。凶器のハンマーのような証拠物は供述証拠ではないので伝聞法則が適用されず、同意も要りません。しかし証拠調べの請求に対する決定をするには相手方又はその弁護人の意見を聴かなければならないので、同意が要らないことと意見を聴かずに採用できることとは別です。「ハンマーには伝聞法則は適用されないから,裁判所は,弁護人の意見を聴かずに,ハンマーを証拠として採用するか否かを決定することができる。」という肢は誤りです。また鑑定の請求は人証の請求であり、伝聞証拠の書面を証拠にする場面ではないので、裁判所が採否を決めるために検察官に326条の同意をするかどうかを聴かなければならないわけではありません。「弁護人から鑑定の請求があった場合,裁判所は,これを採用するか却下するかについて参考にするため,検察官に,刑事訴訟法第326条の同意をするかどうか聴かなければならない。」という肢は誤りです。鑑定書については、検察官と被告人の双方の同意がなければ321条4項の要件が要り、被告人の同意だけで直ちに証拠にはなりません。
326条の整理
- 同意権者は検察官と被告人です。弁護人は包括代理権で同意の意見を述べられますが、被告人の明示の意思に反する同意は無効です
- 否認事件で弁護人が全部同意しても、否認の趣旨を無意味にする内容の証拠には被告人の同意があったことになりません(大阪高判平成8年11月27日)
- 意味内容が分割できれば一部同意ができます
- 撤回は証拠調べの前まで(最も緩やかでも取調べ終了まで)で、同意の効力は控訴審にも及びます
- 同意があっても相当性の判断が要り、重複証拠の採用義務はありません
- 被告人不出頭で証拠調べができる場合の不出頭は同意とみなされます。代理人又は弁護人が出頭したときは別です(2項)
- 証拠物に同意は要りませんが意見は聴きます。鑑定の請求に326条の同意を聴く必要はありません
刑事訴訟法326条1項
検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第三百二十一条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
刑事訴訟法326条2項
被告人が出頭しないでも証拠調を行うことができる場合において、被告人が出頭しないときは、前項の同意があつたものとみなす。但し、代理人又は弁護人が出頭したときは、この限りでない。
論文ではこう使う
同意の論点では、まず同意の性質について自説(証拠能力付与行為説か反対尋問権放棄説か)を示し、そこから同意後の証人尋問の可否、被告人の供述調書への適用、違法収集証拠への同意の効力といった帰結を導きます。弁護人の同意の有効性を問う事案では、326条1項の同意権者が検察官と被告人であることと41条を根拠に、弁護人の同意は包括代理権に基づくもので被告人の明示の意思に反しては無効であることを述べ、否認事件では大阪高判平成8年11月27日の「否認の陳述の趣旨を無意味に帰せしめるような内容の証拠」かどうかで分ける枠組みを使います。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。