主尋問後に反対尋問を経なかった証言の証拠能力とは
しゅじんもんごにはんたいじんもんをへなかったしょうげんのしょうこのうりょく
主尋問後に反対尋問を経なかった証言の証拠能力とは、証人が主尋問に答えた後に所在不明になるなどして反対尋問が実施できなかった場合に、その証言を証拠にできるかという問題です。伝聞法則の根拠を反対尋問の保障に求めるか、宣誓・偽証罪の制裁や裁判官の供述態度の観察にも求めるかで結論が分かれます。
証人が法廷で検察官の主尋問に答えたあと、弁護人の反対尋問を受ける前に行方が分からなくなることがあります。この証言は法廷で宣誓してされたもので書面でも又聞きでもないので、320条1項の文言には当たりそうにありません。しかし反対尋問で吟味されていない点では伝聞証拠と変わりません。伝聞法則の根拠を反対尋問に置くか、宣誓や裁判官の観察にも置くかで、この証言を証拠にできるかの結論が分かれます。見解の結び付きそのものが問われる論点です。
伝聞証拠を反対尋問を経ていない供述証拠と捉える見解からは、この証言も伝聞証拠として証拠能力が否定されます
伝聞法則の根拠を憲法37条2項の反対尋問権の保障に求め、伝聞証拠とは反対尋問を経ていない供述証拠であると定義することを強調すると、主尋問だけで終わった証言は反対尋問を受けていないので伝聞証拠に当たり、321条以下の例外に当たらない限り320条1項で証拠能力が否定されます。「伝聞証拠とは,反対尋問を経ていない供述証拠であることを強調すると,反対尋問を受けておらず,伝聞証拠に当たることになるから,前記証言の証拠能力を否定する見解に結び付く。」という記述は、そのとおりの結び付きです。供述証拠の知覚・記憶・表現叙述の誤りを検証する手段として反対尋問が決定的だと考える以上、宣誓があっても吟味を欠く供述は証拠から外すという帰結になります。
320条1項の文言どおりに読む見解や、宣誓・偽証罪の制裁や裁判官の供述態度の観察を重視する見解からは、証拠能力が肯定されます
320条1項は、公判期日における供述に代えて書面を証拠とすることと、公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることの二つを禁じています。主尋問の証言は公判期日において裁判所の面前で口頭でされた供述そのものであり、書面でも公判廷外の供述の再現でもありません。文言を言葉どおりに解釈すると、この証言は320条1項の対象に入らず、証拠能力を否定する根拠規定がないので、むしろ証拠能力を肯定する見解に結び付きます。「刑事訴訟法第320条第1項の文言を言葉どおりに解釈すると,前記証言の証拠能力を否定する見解に結び付く。」という記述は、結び付きが逆です。供述の信用性を担保する仕組みは反対尋問だけでなく、宣誓と偽証罪の制裁による威嚇、裁判官による供述態度の直接観察もあります。証人は宣誓をしており偽証罪の制裁の威嚇の下で供述していることを重視すれば、虚偽の混入する危険は類型的に低いので証拠能力を肯定する見解に結び付きます。「証人は,宣誓をしており,偽証罪による制裁という威嚇がある下での供述であることを重視すると,前記証言の証拠能力を肯定する見解に結び付く。」という記述はそのとおりです。裁判官が証人の証言態度を直接観察していることを重視することも、反対尋問以外の吟味手段が現に働いていたことを強調するものなので、証拠能力を肯定する方向に働きます。「裁判官が証人の証言態度等を直接観察していることを重視すると,前記証言の証拠能力を否定する見解に結び付く。」という記述は、結び付きが逆です。これらの見解では、反対尋問を経ていないことは証明力を減殺する事情として考慮します。
伝聞証拠に当たらないとする見解でも、反対尋問ができなくなった事情が証人申請者の責めに帰すべきときは、手続的正義から排除する余地があります
証拠能力を肯定する見解に立っても、反対尋問の機会が失われた経緯によっては被告人の証人審問権が実質的に奪われたのと同じ結果になります。そこで、反対尋問が実施できなくなった事情について証人を申請した当事者の責めに帰すべき理由がある場合には、手続的正義に反するとして証拠能力を否定することも可能です。「前記証言が伝聞証拠に当たらないとの見解に立っても,反対尋問が実施できなくなった事情について証人申請をした当事者の責めに帰すべき理由がある場合には,手続的正義に反し,証拠能力が否定されると考えることも可能である。」という記述はそのとおりです。この発想は、退去強制で国外にいる者の検察官面前調書について、検察官が送還を認識しながら殊更利用した場合などには手続的正義の観点から公正さを欠くとして証拠能力を否定することがあり得るとした判例(最判平成7年6月20日)と同じ筋です。
見解と結び付きの整理
- 伝聞証拠=反対尋問を経ていない供述証拠と捉える(反対尋問権の保障を強調する)→ 否定説に結び付きます
- 320条1項の文言(供述に代えた書面・公判期日外の供述を内容とする供述)を言葉どおりに読む → 肯定説に結び付きます
- 宣誓と偽証罪の制裁の威嚇を重視する → 肯定説に結び付きます
- 裁判官が供述態度を直接観察していることを重視する → 肯定説に結び付きます
- 肯定説でも、反対尋問不能が証人申請者の責めに帰すべき事由によるときは手続的正義から排除する余地があります
刑事訴訟法320条1項
第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
論文ではこう使う
この論点は伝聞法則の根拠論を試す素材です。答案では、伝聞法則の趣旨を反対尋問による吟味の欠如だけに求めるのか、宣誓・偽証罪の制裁と供述態度の観察も含めた信用性の担保手段の欠如に求めるのかを示し、そこから主尋問のみの証言の扱いを導きます。320条1項の文言との整合も一言書きます。肯定説を採る場合は、反対尋問を経ていないことを証明力の問題として位置づけたうえで、反対尋問不能の原因が証人申請者側にあるときの手続的正義による排除の可能性に触れると、最判平成7年6月20日の発想と結び付いて厚みが出ます。
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