証人の義務と権利(出頭・宣誓・証言・証言拒絶権・勾引・刑事免責)とは
しょうにんのぎむとけんり
証人とは、裁判所その他の機関に対して、自分が経験した事実を供述する第三者です。証人には出頭・宣誓・証言の義務があり、その裏返しとして、自己や近親者が刑事訴追を受けるおそれのある証言や業務上の秘密に関する証言を拒む証言拒絶権が認められています。
事件を見ていた人に法廷で話してもらうのが証人尋問です。裁判所は本人が嫌がっても呼び出すことができ、来なければ勾引され、嘘をつけば偽証罪になります。それほど強い義務を課すのは、事件を直接知る人の話が真相を明らかにする一番の手がかりだからです。ただし、話せば自分や家族が罪に問われるという人にまで強制するのは酷ですし、医師や弁護士が預かった秘密まで法廷で明かさせるわけにもいきません。そこで法律は、出頭・宣誓・証言の義務を原則としつつ、拒める場面を限定して列挙しています。
裁判所は何人でも証人として尋問でき、幼児も共同被告人も証人になります
裁判所は、この法律に特別の定めのある場合を除いては、何人でも証人として尋問することができます(刑事訴訟法143条)。証言能力を年齢で区切る規定は無く、幼児であっても、体験した事実を認識し、記憶し、表現する能力があるかを個別に見て判断します。「6歳の幼児は、その年齢だけによって、体験した事実を認識、記憶し、かつ、その事実を表現する能力に欠けているといえるので、証人としてこれを尋問することはできない」という肢は誤りです。共犯者や共同被告人も、弁論を分離して被告人の地位を離れれば、その事件について証人になります。証人である以上は宣誓をしなければならず、「自らも同一の事件で公訴提起されていることを理由に、下線部⑴の宣誓を拒むことはできない」という肢は正しいです。公務員の職務上の秘密については監督官庁の承諾が無ければ尋問できないという制限があります(144条・145条)。証人を呼ぶのに、あらかじめその人の供述調書の証拠調べを請求しておく必要はありません。「あらかじめ供述調書の証拠調べを請求しておかなければ、その供述者の証人尋問を請求することはできない」という肢は誤りです。
証人には宣誓をさせなければなりませんが、宣誓の趣旨を理解できない者には宣誓をさせずに尋問します
証人には、この法律に特別の定めのある場合を除いて、宣誓をさせなければなりません(154条)。他方で、宣誓の趣旨を理解することができない者は、宣誓をさせないで尋問しなければならず、その者が宣誓をしたときでも供述は証言としての効力を妨げられません(155条)。幼い子どもがこれに当たります。したがって、「証人を尋問する場合、必ず宣誓をさせなければならない」という肢は誤りです。証人には、その実験した事実により推測した事項を供述させることができ、その供述は鑑定に属するものでも証言としての効力を妨げられません(156条)。経験した事実と、そこからの推測は実際には切り離しにくく、経験に基づく推測は単なる意見と違って証拠としての値打ちがあるからです。「自己の直接体験した事実だけでなく、その体験した事実により推測した事項を供述させることができる」という肢は正しく、「証人には、その実験した事実により推測した事項を供述させることはできないが、鑑定人には同事項を供述させることができる」という肢は前段が誤りです。
出頭しない証人には過料・罰金・勾引があり、勾引は応じないおそれがあるだけでもできます
召喚を受けた証人が正当な理由がなく出頭しないときは、決定で10万円以下の過料と費用の賠償を命じることができ(150条)、1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金の刑罰もあります(151条)。正当な理由がなく宣誓や証言を拒んだときも同じ制裁があります(160条・161条)。勾引について、現行の152条は、証人が正当な理由がなく召喚に応じないとき、又は応じないおそれがあるときは勾引することができると定めており、応じないおそれだけでも勾引できます。この文言は平成28年改正で加えられたもので、改正前は現に応じなかったときに限られていました。被告人の勾引は、定まった住居が無いとき、正当な理由がなく召喚に応じないとき又は応じないおそれがあるときにできます(58条)。「召喚を受けた証人については、正当な理由がなく出頭しないおそれがあるだけでは勾引することはできない」という肢は、出題当時(平成22年)は改正前の152条のもとで正しい肢でしたが、現行法では証人も被告人と同じく応じないおそれで勾引できるので、誤りになります。第1回公判期日前の証人尋問(226条・227条)でも、裁判官は裁判所と同一の権限を持つので(228条1項)、召喚に応じない証人を勾引できます。「証人は、召喚に応じなくとも、勾引されることがない」という肢は誤りです。
- 出頭義務違反(150条・151条)10万円以下の過料+費用賠償(決定。即時抗告できる)、1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金
- 勾引(152条)正当な理由がなく召喚に応じないとき、又は応じないおそれがあるとき。被告人(58条2号)と同じ要件(平成28年改正)
- 宣誓・証言拒絶(160条・161条)正当な理由がなければ、出頭義務違反と同じ過料と刑罰
- 偽証(刑法169条)宣誓した証人が記憶に反する陳述をしたとき
証言拒絶権は自己負罪・近親者・業務上の秘密の三つで、拒むには事由を示さなければなりません
何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができます(146条)。憲法38条1項の自己負罪拒否特権を証人について具体化したもので、宣誓した証人にも当然に認められます。「宣誓した証人は、自己が刑事訴追を受けるおそれのある証言を拒むことはできない」という肢は誤りです。近親者についても、自己の配偶者、三親等内の血族若しくは二親等内の姻族又はこれらの親族関係があった者、後見人・後見監督人・保佐人とその相手方が刑事訴追を受け又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができます(147条)。祖父は二親等の直系血族、兄は二親等の傍系血族なので、いずれも三親等内の血族に当たります。「自己の祖父が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができる」という肢、「兄である丙が「刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある」ことを理由に、丙に関する事項についての証言を拒むことができる」という肢は正しく、「自己の配偶者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことはできない」という肢は誤りです。ただし、共犯や共同被告人の一人にこの関係がある者でも、他の共犯や共同被告人のみに関する事項については拒めません(148条)。医師・歯科医師・助産師・看護師・弁護士・弁理士・公証人・宗教の職にある者は、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについて証言を拒むことができますが、本人が承諾した場合などは拒めません(149条)。「医師は、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては証言を拒むことができるが、本人が承諾した場合は、証言を拒絶することはできない」という肢は正しいです。証言を拒む者は、これを拒む事由を示さなければなりません(刑事訴訟規則122条1項)。拒絶が正当かを裁判所が判断するためで、「その事由を示す必要はない」という肢は誤りです。拒絶は尋問全体を一括して拒むのではなく、個々の尋問事項ごとに行います。真実を証言しようとする者に偽証罪の訴追のおそれはありませんから、捜査段階の供述調書と食い違うことになるからといって証言を拒むことはできません。「偽証罪の訴追を受けるおそれがあることを理由に、証言を拒むことができる」という肢は誤りです。
- 自己負罪(146条)自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある証言。宣誓した証人にも認められる
- 近親者(147条)配偶者・三親等内の血族・二親等内の姻族・これらの親族関係があった者、後見人等。祖父・兄も含む。他の共犯・共同被告人のみに関する事項は拒めない(148条)
- 業務上の秘密(149条)医師・弁護士など列挙された職の者。本人が承諾した場合、被告人のためのみにする権利の濫用の場合は拒めない
- 拒絶の仕方事由を示して(規則122条1項)、個々の尋問事項ごとに拒む。偽証罪のおそれは事由にならない
- 公務上の秘密(144条・145条)拒絶権ではなく、監督官庁・議院・内閣の承諾が無ければ尋問できないという尋問の制限
刑事免責の決定があれば、証人は自己負罪を理由に証言を拒むことができません
平成28年改正で刑事免責の制度が設けられました。検察官は、証人が刑事訴追を受け又は有罪判決を受けるおそれのある事項についての尋問を予定している場合に、証言の重要性や関係する犯罪の軽重などを考慮して必要と認めるときは、あらかじめ裁判所に対し、尋問に応じてした供述とこれに基づいて得られた証拠を証人の刑事事件で不利益な証拠とすることができないこと、146条にかかわらず証言を拒むことができないことを条件として証人尋問を行うよう請求できます(157条の2第1項)。裁判所は、自己負罪のおそれのある事項が含まれないと明らかに認められる場合を除き、その条件で尋問する旨の決定をします(同条2項)。尋問が始まった後に証人が証言を拒んだ場合には、それ以後の尋問について同じ請求ができます(157条の3)。この決定があれば、証人は自己負罪のおそれを理由に証言を拒めなくなるので、「答えたくない理由が、「自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある」ことであったとしても、乙が証言を拒むことができない場合もある」という肢は正しいです。免責で失われるのは146条の自己負罪を理由とする拒絶権で、147条の近親者の拒絶権には及びません。制度が無かった時代に、外国で免責を与えて得た嘱託証人尋問調書の証拠能力が争われた事件で、判例は、憲法が刑事免責の制度の導入を否定しているとまでは解されないとしつつ、刑事訴訟法がこの制度を採用していない以上、免責を与えて得た供述を事実認定の証拠とすることは許されないとしました(最大判平成7年2月22日)。否定の理由は憲法違反ではなく法律に規定が無いことです。「刑事免責を付与して供述を強制することは、憲法第38条第1項に違反するから」証拠とすることは許されないという肢は誤りです。
刑事訴訟法143条
裁判所は、この法律に特別の定のある場合を除いては、何人でも証人としてこれを尋問することができる。
刑事訴訟法146条
何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。
刑事訴訟法147条1号
何人も、左に掲げる者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。一 自己の配偶者、三親等内の血族若しくは二親等内の姻族又は自己とこれらの親族関係があつた者
刑事訴訟法152条
裁判所は、証人が、正当な理由がなく、召喚に応じないとき、又は応じないおそれがあるときは、その証人を勾引することができる。
刑事訴訟法156条1項
証人には、その実験した事実により推測した事項を供述させることができる。
論文ではこう使う
論文で証人の証言拒絶が問題になるときは、まず証人適格(143条)と宣誓義務(154条)を確認し、拒絶の根拠を146条・147条・149条のどれに当てるかを条文の要件で示します。共犯者を証人にする事案では、弁論の分離によって被告人の地位を離れ証人になること、自己負罪拒否特権は残るが尋問事項ごとに事由を示して行使すること、刑事免責の決定(157条の2)があれば拒めないことを順に書きます。証言を拒まれて供述不能になった場合の検察官面前調書の扱い(321条1項2号前段)につなげる事案では、証言拒絶権の行使が供述不能に当たるかを伝聞例外の語で論じます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。