証人等の保護(付添い・遮へい・ビデオリンク・退廷・特定事項の秘匿)とは
しょうにんとうのほご
証人等の保護とは、証人が法廷で安心して供述できるようにするための措置の総称です。証人への付添い、被告人や傍聴人との間の遮へい措置、別室から映像と音声で尋問するビデオリンク方式、供述中の被告人の退廷、被害者や証人の氏名・住所を公開の法廷で明らかにしない特定事項の秘匿が定められています。
性犯罪の被害者が、自分を襲った被告人の目の前で、傍聴人にも顔を見られながら被害を語るのは、それ自体が二度目の被害になりかねません。怖くて話せなければ真相も明らかになりません。そこで法律は、信頼できる人を隣に座らせる、ついたてで姿を隠す、別室からモニター越しに尋問する、名前や住所を法廷で読み上げないといった措置を用意しました。ただし被告人には証人を問いただす権利があるので、どの措置も被告人が供述を聞いて尋問できることを前提に、要件を決めて認めています。
付添いは被害者に限られず、付き添う人は供述を妨げたり不当な影響を与えたりしてはなりません
裁判所は、証人の年齢、心身の状態その他の事情を考慮し、証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、その不安や緊張を緩和するのに適当で、尋問や供述を妨げたり供述の内容に不当な影響を与えたりするおそれがないと認める者を、供述中証人に付き添わせることができます(刑事訴訟法157条の4第1項)。対象は証人一般で、被害者が証人である場合に限られません。「被害者が証人である場合に限定されている」という肢は誤りです。付き添うこととされた者は、供述中、尋問や供述を妨げ、又は供述の内容に不当な影響を与えるような言動をしてはなりません(同条2項)。この付添いは、被害者等が意見陳述をする場合にも準用されます(292条の2第6項)。「被害者等の意見陳述中、被害者等に付き添わせることができる」という肢は正しいです。
遮へい措置は被告人との間にも傍聴人との間にもでき、被告人から見えなくする措置は弁護人出頭時に限ります
裁判所は、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が被告人の面前で供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合で相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、被告人と証人との間で一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにする措置を採ることができます。ただし、被告人から証人の状態を認識できないようにする措置は、弁護人が出頭している場合に限ります(157条の5第1項)。弁護人がいれば証人の供述態度を観察して反対尋問に生かせるからです。「被告人から証人の状態を認識することができないようにするための遮へい措置については、弁護人が出頭している場合に限り、採ることができる」という肢は正しいです。傍聴人と証人との間でも、犯罪の性質、年齢、心身の状態、名誉に対する影響などを考慮して相当と認めるときは、同じく意見を聴いて遮へい措置を採ることができます(同条2項)。「裁判の公開という憲法上の要請があるので、傍聴人と証人との間で遮へい措置を採ることはできない」という肢は誤りです。遮へいの対象は性犯罪の被害者に限られません。
ビデオリンク方式は性犯罪の被害者に限られず、圧迫を受けるおそれがある証人にも使え、同一構内以外からもできます
裁判所は、不同意わいせつ・不同意性交等などの性犯罪や児童買春等の被害者のほか、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、法廷で供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者を証人として尋問する場合に、相当と認めるときは、意見を聴いて、裁判官と訴訟関係人が在席する場所以外の同一構内の場所に証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話する方法で尋問することができます(157条の6第1項)。「ビデオリンク方式による証人尋問の対象は、強姦罪等の性犯罪の被害者に限定されているので、暴力団員による恐喝事件の被害者は対象とならない」という肢、「ビデオリンク方式による証人尋問が認められるのは、性犯罪の被害者に限定されている」という肢は誤りです。同一構内に出頭すると精神の平穏を著しく害されるおそれがあるとき、出頭の移動に際して加害や畏怖のおそれがあるとき、傷病や遠隔地のため出頭が著しく困難なときなどには、他の裁判所の構内など同一構内以外の場所からも尋問でき(同条2項)、検察官と被告人に異議がなければ必要性と相当性を考慮してこの方法によることもできます(同条3項)。尋問の状況は証人の同意があれば記録媒体に記録でき、調書の一部になります(同条4項・5項)。
遮へいやビデオリンクを採っていても被告人を退廷させることができ、退廷後は要旨を告げて尋問の機会を与えます
裁判所は、証人が被告人の面前では圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めるときは、弁護人が出頭している場合に限り、検察官及び弁護人の意見を聴き、その証人の供述中被告人を退廷させることができます(304条の2)。ここでいう面前には、遮へい措置を採る場合やビデオリンク方式による場合も含むと括弧書きで定められているので、それらの措置を採ったうえでなお充分な供述ができないと認めるときは、重ねて退廷させることができます。「証人と被告人の間の遮へい措置又はビデオリンク方式が採られている場合を除き」退廷させることができるという肢は誤りで、「弁護人が出頭している場合に限り、検察官及び弁護人の意見を聴き、その証人の供述中被告人を退廷させることができる」という肢は正しいです。供述が終わったら被告人を入廷させ、証言の要旨を告知し、その証人を尋問する機会を与えなければなりません。公判期日外の証人尋問に被告人が立ち会った場合も同じです(281条の2)。
被害者特定事項の秘匿は、性犯罪等では申出により、その他は名誉や平穏が著しく害されるおそれがあるときにでき、兄弟姉妹も申し出られます
裁判所は、不同意わいせつ・不同意性交等・児童買春等の事件と、犯行の態様や被害の状況その他の事情により被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされると被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合に、被害者等若しくは被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、氏名及び住所その他の被害者を特定させることとなる事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができます(290条の2第1項)。被害者等には、被害者が死亡した場合やその心身に重大な故障がある場合の配偶者・直系の親族・兄弟姉妹が含まれるので、「強制わいせつ致死事件の被害者の兄弟姉妹は、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしないよう申し出ることはできない」という肢は誤りで、傷害事件の被害者が名誉や平穏の著しい侵害のおそれを理由に申し出られるという肢は正しいです。申出は、あらかじめ検察官にしなければならず、検察官は意見を付して裁判所に通知します(同条2項)。「被害者は、あらかじめ、検察官にこの申出をしなければならない」という肢は正しいです。申出が無くても、被害者やその親族への加害や畏怖のおそれがある事件では、裁判所が意見を聴いて職権で決定できます(同条3項)。決定があると、起訴状の朗読は被害者特定事項を明らかにしない方法で行い、起訴状は被告人に示します(291条2項)。「検察官は、被害者特定事項を明らかにしない方法で起訴状の朗読を行い、起訴状を被告人に示さなければならない」という肢は正しいです。裁判長は、尋問や陳述が被害者特定事項にわたるときは、犯罪の証明に重大な支障が生ずるおそれがある場合や被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除いて、これを制限することができます(295条3項)。制限は裁量で義務ではないので、「当該尋問を必ず制限しなければならない」という肢は誤りです。秘匿の決定と遮へい措置は別の制度で、秘匿決定をしたからといって遮へい措置を採らなければならないわけではなく、「遮へい措置を講じなければならない」という肢は誤りです。この決定は訴訟手続に関し判決前にした決定で、即時抗告を認める規定が無いので抗告できません(420条1項)。「抗告することはできない」という肢は正しいです。検察官が証拠書類の閲覧の機会を与えるときに弁護人に被害者特定事項を被告人に知られないよう求める制度では、起訴状抄本等を提出した場合を除き、起訴状に記載された事項は対象から除かれているので(299条の3ただし書)、「起訴状に記載された被害者特定事項を被告人に知られないようにすることを求めることができる」という肢は誤りです。令和5年改正で、一定の場合に起訴状の抄本を送達して個人特定事項を被告人に知らせない制度が設けられています。
- 付添い(157条の4)証人一般。著しく不安又は緊張を覚えるおそれ。意見を聴く。意見陳述にも準用
- 遮へい(157条の5)被告人との間(被告人から見えなくするのは弁護人出頭時に限る)と傍聴人との間。性犯罪に限らない
- ビデオリンク(157条の6)性犯罪等の被害者と、圧迫を受けるおそれがある証人。同一構内のほか、要件を満たせば他の裁判所の構内など同一構内以外から。合憲(最判平成17年4月14日)
- 被告人の退廷(304条の2)弁護人出頭時に限る。遮へい・ビデオリンクを採っていても可。退廷後に要旨を告知し尋問の機会を与える
- 被害者特定事項の秘匿(290条の2)性犯罪等と名誉・平穏の著しい侵害のおそれがある事件は申出(検察官経由)、加害・畏怖のおそれがある事件は職権。遮へい・尋問制限が義務になるのではない。抗告不可(420条1項)
- 証人等特定事項の秘匿(290条の3)証人・鑑定人・通訳人・翻訳人・供述録取書等の供述者。加害・畏怖のおそれ、名誉・平穏の著しい侵害のおそれ
- 氏名・住居の開示制限(299条の4・5)検察官が弁護人に条件を付し、又は被告人・弁護人に代替の呼称・連絡先を知らせる。裁判所が取消しを裁定。合憲(最決平成30年7月3日)
証人等特定事項の秘匿と氏名・住居の開示制限は平成28年改正で設けられ、いずれも合憲とされています
裁判所は、証人、鑑定人、通訳人、翻訳人又は供述録取書等の供述者から申出があるときは、その者やその親族に加害や畏怖・困惑の行為がなされるおそれがあると認めるとき、又はその者の名誉や社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認めるときは、意見を聴いて相当と認めるときに、証人等特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができます(290条の3)。「証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人に係る特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることはできない」という肢は誤りです。検察官は、証人等の氏名及び住居を知る機会を与えるべき場合に加害等のおそれがあると認めるときは、弁護人に氏名・住居を知らせたうえで被告人に知らせてはならない旨の条件を付し、又は知らせる時期・方法を指定することができ、それでは防止できないおそれがあるときは、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除き、氏名・住居を知る機会を与えずに代わりの呼称・連絡先を知らせることができます(299条の4)。被告人・弁護人は裁判所に取消しを請求でき(299条の5)、判例は、代替開示によっても供述の証明力を事前に検討できる場合があり、防御に実質的な不利益のおそれがあるときは措置をとれず、裁判所の裁定で取り消され即時抗告もできるという担保に照らして、憲法37条2項前段に反しないとしました(最決平成30年7月3日)。遮へい措置とビデオリンク方式について判例は、傍聴人との遮へいは審理が公開されていることに変わりがなく、被告人との遮へいも被告人は供述を聞いて自ら尋問でき弁護人が証人の状態を観察できるので証人審問権を侵害せず、ビデオリンク方式も映像と音声の送受信を通じて供述を聞き尋問できるので、公開原則にも証人審問権にも反しないとしました(最判平成17年4月14日)。「被告人が証人に面と向かって反対尋問をする権利を奪うもので、憲法第37条第2項に違反し、許されない」という肢は誤りで、「被告人の証人審問権は侵害されていない」という肢は正しいです。被害者特定事項の秘匿決定も、裁判を非公開で行うものではないので公開裁判を受ける権利を侵害しません(最決平成20年3月5日)。
刑事訴訟法157条の5第1項
裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が被告人の面前(次条第一項及び第二項に規定する方法による場合を含む。)において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であつて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、被告人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。ただし、被告人から証人の状態を認識することができないようにするための措置については、弁護人が出頭している場合に限り、採ることができる。
刑事訴訟法304条の2
裁判所は、証人を尋問する場合において、証人が被告人の面前(第百五十七条の五第一項に規定する措置を採る場合並びに第百五十七条の六第一項及び第二項に規定する方法による場合を含む。)においては圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めるときは、弁護人が出頭している場合に限り、検察官及び弁護人の意見を聴き、その証人の供述中被告人を退廷させることができる。この場合には、供述終了後被告人を入廷させ、これに証言の要旨を告知し、その証人を尋問する機会を与えなければならない。
刑事訴訟法290条の2第2項
前項の申出は、あらかじめ、検察官にしなければならない。この場合において、検察官は、意見を付して、これを裁判所に通知するものとする。
刑事訴訟法420条1項
裁判所の管轄又は訴訟手続に関し判決前にした決定に対しては、この法律に特に即時抗告をすることができる旨の規定がある場合を除いては、抗告をすることはできない。
論文ではこう使う
論文で証人保護措置と証人審問権の関係を書くときは、憲法37条2項の証人審問権の保障内容を、被告人が証人の供述を聞き、自ら尋問し、供述態度を観察する機会と捉えたうえで、問題の措置(遮へい・ビデオリンク・退廷・氏名住居の秘匿)がそのどれをどこまで制約するかを分けて当てはめます。判例の筋に沿って、供述を聞いて尋問できること、弁護人による観察が確保されていること、措置の要件が限定され裁判所の判断を経ることを挙げて合憲性を論じ、退廷であれば要旨の告知と尋問の機会が与えられることを付け加えます。公開原則との関係は、審理そのものが非公開になるわけではないことを軸に書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。