鑑定(鑑定人の義務・鑑定留置・鑑定処分・鑑定受託者との比較)とは
かんてい
鑑定とは、裁判所が学識経験のある者に命じて、特別の知識経験に基づく判断や意見を報告させる証拠調べです。裁判所が命じた者を鑑定人、捜査機関が嘱託した者を鑑定受託者といい、宣誓・勾引・虚偽鑑定罪・鑑定処分の許可・直接強制の請求の各点で扱いが異なります。
死因が窒息か病死か、被告人に責任能力があるかは、裁判官が自分の知識だけで決められることではありません。そこで裁判所は医師や科学者に鑑定を命じ、専門家としての判断を報告してもらいます。鑑定人は証人と似た立場ですが、自分で見た事実を話す証人と違って専門知識を貸す人なので、代わりの人がいます。だから嫌がる人を引っ張ってくる勾引はできず、その代わり嘘をつけば虚偽鑑定罪で罰せられる宣誓が必要になります。捜査機関が頼む鑑定受託者とは、宣誓や強制の権限の点で差があります。
鑑定人には鑑定の前に宣誓をさせ、報告は鑑定書でも口頭でもよく、鑑定の請求には相手方の意見を聴きます
裁判所は、学識経験のある者に鑑定を命ずることができます(刑事訴訟法165条)。鑑定人には宣誓をさせなければならず(166条)、宣誓は鑑定をする前にさせます(刑事訴訟規則128条1項)。「鑑定人には、鑑定をする前に、宣誓をさせなければならない」という肢は正しいです。鑑定の経過及び結果は、鑑定人に鑑定書により又は口頭で報告させなければなりません(規則129条1項)。「鑑定書により報告させる方法のほか、口頭で報告させる方法も認められている」という肢、「鑑定の経過及び結果を口頭で報告させることができる」という肢は正しいです。鑑定書は321条4項の要件で証拠になりますが、鑑定書を取り調べた後に鑑定の過程について説明を求めるため鑑定人を証人として尋問することもできます。「当該鑑定人を証人として尋問することができる」という肢は正しいです。当事者の一方が鑑定を請求したときは証拠調べの請求ですから、裁判所が鑑定を決定するには相手方又はその弁護人の意見を聴かなければなりません(規則190条2項)。「相手方又はその弁護人に意見を述べる機会を与えなければならない」という肢は正しく、意見を聴けば足り同意は要りません。検察官及び弁護人は鑑定に立ち会うことができます(170条)。特別の知識によって知り得た過去の事実に関する尋問は鑑定ではなく証人尋問の規定によります(174条)。治療に当たった医師に患者の症状を尋ねるのがその例です。
鑑定人は勾引できず、虚偽鑑定罪の主体は宣誓した鑑定人に限られ、鑑定受託者とは扱いが違います
証人尋問の章の規定は、勾引に関する規定を除いて鑑定について準用されます(171条)。鑑定人には代わりがあり、無理に連れてきてまで鑑定させる必要が無いからです。「尋問を行うための召喚に当該鑑定人が応じないときは勾引することができる」という肢、「鑑定人が正当な理由がなく召喚に応じないときは、その鑑定人を勾引することができる」という肢は誤りです。捜査機関から鑑定の嘱託を受けた鑑定受託者(223条1項)には宣誓の規定が無く、虚偽鑑定罪(刑法171条)は法律により宣誓した鑑定人が主体なので、鑑定受託者は虚偽鑑定罪では処罰されません。「鑑定受託者も、故意に虚偽の鑑定をしたときは、虚偽鑑定罪(刑法第171条)で処罰されることがある」という肢は誤りです。鑑定受託者は嘱託を受けるかどうかが任意なので自らの意思で辞任できますが、鑑定人は裁判所の命令で選ばれるので自らの意思では辞任できません。「鑑定人も鑑定受託者も、自らの意思により辞任することができる」という肢は誤りです。証人には実験した事実により推測した事項を供述させることができ(156条1項)、それが鑑定に属するものでも証言としての効力を妨げられないので、推測事項は鑑定人にしか供述させられないわけではありません。
- 選任鑑定人=裁判所が命じる(165条)/鑑定受託者=捜査機関が嘱託する(223条1項)
- 宣誓・虚偽鑑定罪鑑定人=宣誓が必要(166条)、虚偽鑑定罪の主体/鑑定受託者=宣誓なし、虚偽鑑定罪の主体にならない
- 辞任鑑定人=自らの意思では辞任できない/鑑定受託者=辞任できる
- 勾引どちらもできない(171条が勾引を除外)
- 鑑定処分(住居立入り・身体検査・死体解剖・墳墓発掘・物の破壊)鑑定人=裁判所の許可状(168条)/鑑定受託者=裁判官の鑑定処分許可状(225条)。どちらも許可状が要る
- 身体検査を拒まれたとき鑑定人=裁判官に身体検査を請求できる(172条)/鑑定受託者=請求できない(225条は172条を準用しない)
- 鑑定留置鑑定人の鑑定=裁判所が鑑定留置状で(167条)/鑑定受託者の鑑定=検察官等が裁判官に請求し鑑定留置状で(224条)。どちらもできる
- 報告鑑定書又は口頭(規則129条1項)。鑑定書は321条4項(鑑定受託者の鑑定書にも準用)
死体解剖や物の破壊には裁判所の許可状が要り、身体検査を拒まれたら鑑定人は裁判官に請求できます
鑑定人は、鑑定について必要がある場合には、裁判所の許可を受けて、人の住居や看守する建造物等に入り、身体を検査し、死体を解剖し、墳墓を発掘し、又は物を破壊することができます(168条1項)。裁判所は許可状を発してこの許可をし(同条2項)、鑑定人は処分を受ける者に許可状を示さなければなりません(同条4項)。公判廷でする処分には許可状は要りません(同条5項)。「裁判所の許可を受けずに死体を解剖することができる」という肢は誤りで、「鑑定人は、特別の許可状なく、墳墓の発掘又は物の破壊等の処分を行うことができる」という肢も誤りです。鑑定受託者が同じ処分をするには裁判官の鑑定処分許可状が要ります(225条)。身体の検査を受ける者が鑑定人の身体検査を拒んだ場合、鑑定人は裁判官にその者の身体の検査を請求でき、裁判官が検証の規定に準じて身体検査をします(172条)。鑑定受託者にはこの請求権が無く、鑑定処分許可状があっても直接強制はできません。「鑑定人は、裁判所から許可を受けて行う身体検査を被検査者が拒んだ場合には、裁判官に対し、被検査者の身体検査を請求することができるが、鑑定受託者は、そのような請求をなし得ない」という肢は正しく、鑑定受託者が「裁判官の許可がなくても」血液採取などの身体検査を「強制的に実施することができる」という肢は誤りです。嘱託の要件と鑑定処分許可状の詳細は、前半の鑑定嘱託の語で整理します。
鑑定留置の期間は延長でき、留置中は勾留の執行が停止され保釈はできません
裁判所は、被告人の心神又は身体に関する鑑定をさせるについて必要があるときは、期間を定め、病院その他の相当な場所に被告人を留置することができ、鑑定留置状を発してします(167条1項・2項)。必要があるときは期間を延長し又は短縮できるので、「その期間を延長することはできない」という肢は誤りです。勾留に関する規定は留置に準用されますが、保釈に関する規定は準用されません(同条5項)。したがって、「精神鑑定のため鑑定留置中の被告人についても、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる」という肢は誤りです。勾留中の被告人に鑑定留置状が執行されたときは、留置されている間、勾留の執行は停止されたものとされ(167条の2第1項)、留置は未決勾留日数の算入については勾留とみなされます(167条6項)。被疑者についても、検察官・検察事務官・司法警察員は、鑑定を嘱託する場合に鑑定留置を必要とするときは裁判官にその処分を請求しなければならず、必要としなければ請求しないので(224条1項)、嘱託したら「裁判官に被疑者の鑑定留置を請求しなければならない」という肢は誤りで、鑑定受託者による鑑定でも「被疑者を鑑定留置することができる」という肢は正しいです。留置の要件と接見などは前半の鑑定留置の語で整理します。
裁判員対象事件では、公判前整理手続の中で鑑定の手続を先に行う決定ができます
裁判員の参加する刑事裁判では、裁判員が加わって審理を始めた後に鑑定の結果を待って長く中断することを避けるため、裁判所は、裁判員裁判対象事件につき公判前整理手続において鑑定を行うことを決定した場合に、鑑定の結果の報告がされるまでに相当の期間を要すると認めるときは、公判前整理手続において鑑定の手続(鑑定の経過及び結果の報告を除く)を行う旨の決定をすることができます(裁判員法50条1項)。「公判前整理手続内において、鑑定人に鑑定の手続の一部を行わせることができる」という肢、「公判前整理手続において鑑定の手続(鑑定の経過及び結果の報告を除く。)を行う旨の決定をすることができる」という肢は正しいです。鑑定の経過と結果の報告そのものは、裁判員が加わる公判期日で行います。鑑定書を証拠にするには鑑定人が作成の真正を供述する必要があり(321条4項)、検察官が同意しなければ被告人の同意だけで直ちに証拠にはできません。鑑定書の証拠能力は鑑定書の語で整理します。
刑事訴訟法166条
鑑定人には、宣誓をさせなければならない。
刑事訴訟法171条1項
前章の規定は、勾引に関する規定を除き、鑑定について準用する。
刑事訴訟法168条1項
鑑定人は、鑑定について必要がある場合には、裁判所の許可を受けて、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り、身体を検査し、死体を解剖し、墳墓を発掘し、又は物を破壊することができる。
刑事訴訟法172条1項
身体の検査を受ける者が、鑑定人の第百六十八条第一項の規定によつてする身体の検査を拒んだ場合には、鑑定人は、裁判官にその者の身体の検査を請求することができる。
刑事訴訟法167条5項
勾留に関する規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、第一項の留置についてこれを準用する。但し、保釈に関する規定は、この限りでない。
論文ではこう使う
論文で鑑定に関わる処分の適法性を書くときは、まず裁判所が命じた鑑定人か捜査機関が嘱託した鑑定受託者かを確かめ、問題の処分(身体検査・解剖・採血)が鑑定処分に当たるかを性質決定したうえで、必要な令状(裁判所の許可状か鑑定処分許可状か)と、拒まれたときに直接強制ができるか(鑑定人は172条の請求、鑑定受託者は不可で身体検査令状との併用が要る)を条文で示します。被疑者の身体拘束が絡む事案では、鑑定留置の要件と、勾留との関係(執行停止・保釈不可・未決勾留日数の算入)を分けて書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。