公判の諸原則と公判手続の停止・更新とは
こうはんのしょげんそくとこうはんてつづきのていしこうしん
公判の諸原則とは、公判中心主義、公開主義、口頭主義、直接主義、迅速な裁判という、公判期日の審理を支える原則です。公判手続の停止とは被告人の心神喪失や訴因変更による防御の準備のために審理を一時止めること(刑事訴訟法314条・312条7項)、公判手続の更新とは開廷後に裁判官が代わったときに従前の審理を補正してやり直すことです(315条)。
刑事裁判の心証は、公開の法廷で、当事者が口頭でやり取りし、裁判官が自分の目と耳で証拠に触れて形づくるのが原則です。これが公判中心主義・公開主義・口頭主義・直接主義で、憲法が迅速な裁判を受ける権利と裁判の公開を保障していることと対になっています。だから被告人が心神喪失になれば審理を止め、裁判官が代わればそれまでの審理を補います。十数年止まったままの異常な遅れがあれば免訴で打ち切ることまで判例は認めました。原則を知っていると、公判前整理手続のように公判でない手続の扱いも見分けられます。
判決は口頭弁論に基づいて公開の法廷でしますが、決定・命令は口頭弁論を要せず、公判準備である公判前整理手続は公開しません
判決は、特別の定めのある場合を除いて口頭弁論に基づいてしなければならず、決定又は命令は口頭弁論に基づくことを要しません(刑事訴訟法43条1項・2項)。「裁判所は,決定をもって公訴を棄却する場合,口頭弁論に基づく必要はない」という肢は正しいです。公判期日の取調べは公判廷で行い、公判廷は裁判官及び裁判所書記官が列席し、検察官が出席して開きます(282条)。対審と判決は公開の法廷で行いますが(憲法82条)、公判準備は対審ではないので公開しません。公判前整理手続について「公開の法廷で行わなければならない」という肢は誤りです。逆に、勾留理由開示は公判でなくても公開の法廷ですることが法律で決められています(83条1項)。証人尋問は公判期日に公判廷で行うのが原則ですが、裁判所は158条の事項を考慮し当事者の意見を聴いて必要と認めるときに限り公判期日外に尋問でき(281条)、裁判所外で尋問することもできます(158条)。「証人尋問は公開の法廷で行わなければならないので,裁判所は,公判期日外において,裁判所外で証人を尋問することはできない」という肢は誤りです。
- 公判中心主義心証は公判期日の審理で形成する。捜査記録を先に読ませない起訴状一本主義と対になる
- 公開主義対審と判決は公開の法廷で行う(憲法82条)。公判準備である公判前整理手続は非公開、勾留理由開示は法律で公開
- 口頭主義判決は口頭弁論に基づく(43条1項)。決定・命令は要しない(同条2項)
- 直接主義証拠に直接触れた裁判官が裁判する。裁判官が代われば更新する(315条)
- 迅速な裁判憲法37条1項。著しい遅延で権利が害された異常な事態なら免訴で打ち切る(高田事件)
被告人が心神喪失の状態にあるときは停止しなければならず、訴因変更で防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは被告人側の請求により停止しなければなりません
公判手続の停止には二つの系統があります。一つは被告人の状態による停止です。被告人が心神喪失の状態にあるときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければなりません(314条1項)。病気で出頭できないとき(同条2項)、犯罪事実の存否の証明に欠くことのできない証人が病気で出頭できないとき(同条3項)も同じで、いずれも医師の意見を聴きます(同条4項)。訴訟能力を欠く場合の扱いと回復の見込みがないときの打切りは「訴訟能力と被告人の特定」で扱います。もう一つは訴因変更による停止です。裁判所は、訴因又は罰条の追加又は変更により被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、決定で、被告人に十分な防御の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければなりません(312条7項)。「裁判所は,訴因の追加又は変更により被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあると認めるときは,被告人又は弁護人の請求により,決定で,被告人に十分な防御の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならない」という肢は正しいです。こちらは職権ではなく被告人側の請求が要件で、要件を満たせば義務です。
開廷後に裁判官が代わったときは公判手続を更新しなければなりませんが、判決の宣告をするだけなら更新は要りません
開廷後に裁判官が代わったときは、公判手続を更新しなければなりません(315条本文)。代わった裁判官はそれまでの審理に立ち会っていないので、直接主義・口頭主義の要請から、従前の審理の効力は保ちつつ、裁判官が証拠に直接触れる形で補正するのが更新です。更新の具体的な手続は裁判所の規則が定めています。ただし、判決の宣告をする場合は更新を要しません(同条ただし書)。弁論が終結して判決の内容が内部的に成立した後は、新しい裁判官は既に成立した裁判を告知するだけなので、直接主義の問題が生じないからです。裁判員が加わる裁判では裁判員が代わったときも同じ考え方で手続を更新します。
著しい遅延で迅速な裁判を受ける権利が害された異常な事態では、免訴の判決で審理を打ち切ります
憲法37条1項は迅速な裁判を受ける権利を保障しています。十五年余り公判期日が開かれなかった事件で、判例は、この規定は立法上・司法行政上の措置を求めるにとどまらず、個々の事件について現実にその保障に明らかに反し、審理の著しい遅延の結果、被告人の権利が害されたと認められる異常な事態が生じた場合には、これに対処すべき具体的規定がなくても審理を打ち切るという非常救済手段がとられるべきことをも認めた趣旨であるとし、遅延が保障に反するかは期間だけで一律に決めず、遅延の原因と理由、害された利益の程度などを総合的に判断するとして、免訴により手続を打ち切りました(最大判昭和47年12月20日、高田事件)。被告人が期日指定を申し立てなかったことから権利の放棄を推定することは許されないともしています。免訴の事由は337条に列挙されていますが、この判例は明文のない免訴を認めたものです。
刑事訴訟法43条1項
判決は、この法律に特別の定のある場合を除いては、口頭弁論に基いてこれをしなければならない。
刑事訴訟法43条2項
決定又は命令は、口頭弁論に基いてこれをすることを要しない。
刑事訴訟法312条7項
裁判所は、訴因又は罰条の追加又は変更により被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、決定で、被告人に十分な防御の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならない。
刑事訴訟法315条
開廷後裁判官がかわつたときは、公判手続を更新しなければならない。但し、判決の宣告をする場合は、この限りでない。
論文ではこう使う
論文で審理の長期化や手続の瑕疵が問われたら、公判の諸原則は結論を導く道具ではなく、条文の趣旨を説明する土台として使います。迅速な裁判違反なら、高田事件の「審理の著しい遅延の結果、被告人の権利が害されたと認められる異常な事態」という規範を書き、遅延の原因と理由、被告人側の態度、害された利益の程度を事実から拾って総合判断し、満たせば明文のない免訴で打ち切ると結びます。裁判官の交代なら315条の更新義務と判決宣告の例外を、訴因変更なら312条7項の停止が被告人側の請求を要件とする義務であることを、それぞれ直接主義・防御権の要請から説明します。
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