判決の宣告と勾留・保釈の効力(343条・345条)とは
はんけつのせんこくとこうりゅうほしゃくのこうりょく
判決の宣告とは、公判廷で判決を告知することです。拘禁刑以上の実刑判決の宣告があると保釈と勾留の執行停止はその効力を失い(刑事訴訟法343条)、無罪・免訴・刑の免除・刑の全部の執行猶予・公訴棄却・罰金・科料の裁判の告知があると勾留状がその効力を失います(345条)。
判決が言い渡された瞬間に被告人の身体拘束がどうなるかは、判決の種類で決まります。無罪や執行猶予の判決なら、確定を待たずにその場で勾留状が効力を失い、被告人は帰れます。逆に、保釈中の被告人に実刑判決が宣告されると、その場で保釈が効力を失い、新たな保釈の決定がない限り刑事施設に収容されます。判決で「拘束しておく必要」の見立てが大きく変わるので、条文は判決の種類ごとに勾留状と保釈の運命を決めています。どの裁判の「告知」で何が失効するかを、確定時ではなく宣告時だと押さえて読みます。
拘禁刑以上の実刑判決の宣告で保釈と勾留の執行停止は効力を失い、新たな決定がなければ刑事施設に収容されます
拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があったときは、保釈又は勾留の執行停止はその効力を失います(刑事訴訟法343条1項)。実刑判決で逃亡の動機が強まるからで、保釈取消しの決定を要せず、法律上当然に失効します。新たに保釈又は勾留の執行停止の決定がないときは、検察官の指揮で被告人を刑事施設に収容します(343条2項・98条)。「保釈中の被告人につき懲役4年の実刑の有罪判決が宣告された場合,その判決が確定するまでは,被告人の保釈は効力を失わない」という肢と、「判決が確定しなければ,被告人を刑事施設に収容することはできない」という肢はいずれも誤りです。失効しても再び保釈を許すことはでき、その場合の保証金額は改めて定めます。令和5年改正では、失効時に被告人が刑事施設に収容されていないときに検察官が出頭を命じることができる規定(343条の2)と、実刑判決の宣告を受けた被告人に裁判所の許可なく出国することを禁じる制度(342条の2以下)が加わりました。
無罪・免訴・刑の免除・刑の全部の執行猶予・公訴棄却・罰金・科料の裁判の告知で勾留状は効力を失い、確定を待ちません
無罪、免訴、刑の免除、刑の全部の執行猶予、公訴棄却(338条4号による場合を除く)、罰金又は科料の裁判の告知があったときは、勾留状はその効力を失います(345条)。失効するのは告知の時点であって確定の時点ではありません。「懲役3年,執行猶予5年の有罪判決が宣告された場合,その判決が確定するまでは,被告人は引き続き勾留される」という肢と、「無罪判決が宣告された場合,その判決が確定するまでは,被告人は引き続き勾留される」という肢はいずれも誤りで、「刑の全部の執行猶予の裁判の告知があったときは,勾留状はその効力を失う」という肢と、「無罪判決が宣告された場合、その判決宣告の時点で、被告人に対する勾留状はその効力を失う」という肢はいずれも正しいです。略式命令は100万円以下の罰金又は科料を科する裁判なので、その告知でも勾留状は失効し、「略式命令の告知があったときは,勾留状は,その効力を失う」という肢は正しいです。刑の一部の執行猶予の判決は345条に挙がっていないので、勾留状は失効しません。公訴提起の手続の違反による公訴棄却(338条4号)が除かれているのは、手続を直した再起訴があり得るからです。
- 343条(失効するのは保釈・勾留の執行停止)拘禁刑以上の刑に処する判決(全部執行猶予でないもの)の宣告。勾留状は生きているので、新たな保釈等の決定がなければ収容される
- 345条(失効するのは勾留状)無罪・免訴・刑の免除・刑の全部の執行猶予・公訴棄却(338条4号を除く)・罰金・科料の裁判の告知。略式命令の告知を含む
- どちらにも当たらないもの刑の一部の執行猶予の判決、拘留の判決(勾留状は失効せず、保釈も失効しない)
実刑判決の宣告後は権利保釈の規定が適用されず、裁量保釈も限られ、勾留の更新回数の制限もなくなります
拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があった後は、60条2項但書と89条は適用されません(344条1項)。権利保釈がなくなるので、「懲役6月の実刑の有罪判決が宣告された場合,被告人には権利保釈(必要的保釈)の規定の適用はない」という肢は正しく、「実刑判決の宣告があった後,保釈の請求があったときは,被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がない以上,保釈を許さなければならない」という肢は誤りです。令和5年改正で、宣告後に90条の裁量保釈を許すには、拘束の継続による不利益の程度が著しく高い場合でなければならず、保釈された場合に逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときだけが例外とされました(344条2項)。60条2項但書が適用されないので、勾留の更新は1回に限られなくなります。宣告後に受訴裁判所がした保釈請求却下の決定への不服は、準抗告ではなく高等裁判所への抗告です(420条2項)。
無罪判決の後でも、控訴審は無罪判決の理由を検討してもなお相当な理由があり必要性があれば、審理の段階を問わず勾留できます
無罪判決の告知で勾留状は失効しますが、検察官が控訴した場合に控訴審が改めて勾留できるかが問題になります。判例は、裁判所は相当な理由と勾留の理由及び必要性があれば職権で被告人を勾留でき、その時期に特段の制約はないとして、第一審が犯罪の証明がないことを理由に無罪判決を言い渡した場合でも、控訴裁判所は、記録等の調査により、無罪判決の理由の検討を経た上でもなお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、勾留の理由があり、控訴審における適正、迅速な審理のためにも勾留の必要性があると認める限り、審理の段階を問わず被告人を勾留でき、新たな証拠の取調べを待つ必要はないとしました(最決平成12年6月27日)。「その審理の段階を問わず,被告人を勾留することができる」という肢は正しいです。その後の判例は、345条が無罪判決の告知で勾留状を失効させた趣旨を踏まえ、無罪判決を受けた被告人の相当な理由の判断は無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重にされなければならず、嫌疑の程度としては第一審段階におけるものよりも強いものが要求されるとしています(最決平成19年12月13日)。
刑事訴訟法343条1項
拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があつたときは、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。
刑事訴訟法344条1項
拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があつた後は、第六十条第二項ただし書及び第八十九条の規定は、これを適用しない。
刑事訴訟法345条
無罪、免訴、刑の免除、刑の全部の執行猶予、公訴棄却(第三百三十八条第四号による場合を除く。)、罰金又は科料の裁判の告知があつたときは、勾留状は、その効力を失う。
論文ではこう使う
論文で無罪判決後の勾留の可否を問われたら、まず345条により無罪判決の告知で勾留状が失効することを示し、次に控訴審が職権で新たに勾留できるかを60条1項の要件で論じます。規範は平成12年決定の「無罪判決の理由の検討を経た上でもなお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」と「控訴審における適正、迅速な審理のための必要性」で、当てはめでは、第一審が無罪とした理由(証拠の信用性の評価など)を控訴審の記録調査がどこまで覆し得るか、嫌疑が第一審段階より強いといえるかを、平成19年決定の趣旨に沿って慎重に書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。