裁判員裁判の手続(選任・公判前整理・質問・区分審理・控訴審)とは
さいばんいんさいばんのてつづき
裁判員裁判の手続とは、対象事件を必ず公判前整理手続に付し、非公開の選任手続で裁判員を選び、裁判員が裁判長に告げて証人や被告人に質問しながら審理し、必要に応じて区分審理をして判決に至る、裁判員法が定める公判の進め方です。控訴は通常の事件と同じくでき、控訴審は事後審として第一審の判断を論理則・経験則に照らして審査します。
裁判員は法律の専門家ではなく、仕事を休んで何日も法廷に来ます。だから裁判員裁判では、始まる前に争点と証拠を整理しておいて、法廷では分かりやすく集中して審理することが法律で求められています。裁判員はくじで選ばれ、選任の手続は候補者のプライバシーを守るために非公開で行われます。法廷では裁判員も裁判長に告げて証人や被告人に質問できますし、長い事件は事件ごとに区切って別々の裁判員で審理することもできます。判決への控訴は通常どおりできます。
対象事件は第1回公判期日前に必ず公判前整理手続に付し、審理は迅速で分かりやすくしなければなりません
裁判所は、対象事件については、第1回の公判期日前に、これを公判前整理手続に付さなければなりません(裁判員法49条)。「裁判所は,裁判員裁判の対象事件については,必ず当該事件を公判前整理手続に付さなければならない」という肢と、「裁判所は、裁判員裁判の対象事件については、第1回の公判期日前に、これを公判前整理手続に付さなければならない」という肢は正しいです。対象事件でない事件についても、充実した公判の審理を継続的・計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、裁判所は検察官・被告人・弁護人の請求により又は職権で公判前整理手続に付することができます(刑事訴訟法316条の2第1項)。「裁判所は,裁判員裁判の対象事件ではない事件についても,必要があると認めるときは,公判前整理手続に付することができる」という肢と、「被告人は、裁判員裁判の対象事件ではない事件について、事件を公判前整理手続に付することを求めることができる」という肢は正しいです。ただし、当事者双方が求めても付す義務はないので、「裁判所は、裁判員裁判の対象事件ではない事件について、検察官と弁護人の双方が公判前整理手続に付することを求めている場合には、事件を公判前整理手続に付さなければならない」という肢は誤りです。公判前整理手続に付された事件では、被告人又は弁護人は、証拠により証明すべき事実その他の事実上及び法律上の主張があるときは、検察官の冒頭陳述に引き続いて冒頭陳述をしなければなりません(316条の30)。「裁判員裁判において,被告人又は弁護人は,…検察官の立証が終了した後被告人側の立証を始めるに当たり,冒頭陳述によりその主張を明らかにしなければならない」という肢は、時期を取り違えている点で誤りです。冒頭陳述では、公判前整理手続における争点及び証拠の整理の結果に基づき、証拠との関係を具体的に明示しなければなりません(裁判員法55条)。公判前整理手続で鑑定を行うことを決定した場合に、結果の報告までに相当の期間を要すると認めるときは、公判前整理手続において鑑定の手続(経過及び結果の報告を除く)を行う旨の決定ができます(50条1項)。「裁判所は,裁判員裁判対象事件につき,公判前整理手続において被告人の精神状態の鑑定を行うことを決定した場合,当該鑑定の結果の報告がなされるまでに相当の期間を要すると認めるときは,公判前整理手続において鑑定の手続(鑑定の経過及び結果の報告を除く。)を行う旨の決定をすることができる」という肢は正しいです。被害者参加人やその委託を受けた弁護士は公判期日に出席できますが(316条の34第1項)、公判前整理手続期日に出席できる規定はありません。「裁判員裁判の対象事件において,公判前整理手続期日に出席することができる」という肢は誤りです。
選任手続は非公開で、検察官と被告人は理由を示さずに不選任を請求でき、補充裁判員も書類・証拠物を閲覧できます
裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者の中からくじで選ばれた候補者について、裁判所が選任手続を行って選びます。裁判員等選任手続は公開しません(33条1項)。候補者のプライバシーを保護するためです。「裁判員の選任手続は,公開の法廷で行われる」という肢は誤りです。検察官及び被告人は、裁判員候補者について、それぞれ4人(裁判官1人・裁判員4人の合議体のときは3人)を限度として、理由を示さずに不選任の決定の請求をすることができます(36条1項)。「検察官が,裁判員候補者につき不選任の請求をする場合,必ず理由を示さなければならない」という肢は誤りです。審理の途中で裁判員が不足したときに備えて補充裁判員を置くことができ、補充裁判員は審理に立ち会い、訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧することができます(10条3項)。「補充裁判員は,…選任されるまでは,訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧することはできない」という肢は誤りです。裁判員が交代したときは、交代前の審理に参加していない裁判員のために公判手続を更新します(61条)。
裁判員は裁判長に告げて証人や被告人に質問でき、長い事件は区分審理ができますが、常に証人尋問を要する規定はありません
裁判員は、裁判員の関与する判断に必要な事項について、裁判長に告げて証人を尋問することができ(56条)、被告人が任意に供述する場合には裁判長に告げていつでも供述を求めることができます(59条)。「裁判員は,犯罪事実の認定に関する事項につき,裁判長に告げて,被告人に対し,直接質問することができる」という肢は正しいです。犯罪事実の認定は裁判員が関与する判断(6条1項1号)だからです。実務では裁判員が直接見聞きして心証を得られるように、できる限り証人尋問を活用する運用がされていますが、被告人以外の者の供述を証拠とするときに供述不能の場合を除いて常に証人尋問をしなければならないという規定はなく、伝聞例外の規定(321条1項など)が排除されてもいません。「裁判員裁判の公判において,被告人以外の者の供述を証拠とする場合,その者が供述不能である場合を除き,常にその者を証人として尋問しなければならない」という肢は誤りです。1人の被告人について対象事件を含む複数の事件が併合されたときは、裁判所は裁判員の負担を考慮して、一部の事件を区分して順次審理する旨の決定をすることができます(71条1項)。区分審理では裁判官は変わらず、裁判員は区分された事件ごとに選任され、事件ごとに有罪・無罪などの部分判決を言い渡し、最後の合議体が全体の量刑を含む終局判決をします。裁判員裁判対象事件について逮捕又は勾留されている被疑者を取り調べるときは、検察官・検察事務官・司法警察職員は原則として取調べの全過程を録音・録画しなければなりませんが、機器の故障などやむを得ない事情があるときや、被疑者が記録を拒んだときなど、記録をしなくてよい例外があります(刑事訴訟法301条の2第4項)。「…裁判員の参加する合議体で取り扱うべき事件について逮捕又は勾留されている被疑者を取り調べるときは,…必ず記録しておかなければならない」という肢は、例外を無視している点で誤りです。
判決への控訴は通常どおりでき、検察官は量刑不当を理由に控訴できます
裁判員法には控訴を制限する規定がありません。検察官も被告人も、刑事訴訟法の定める控訴理由(法令違反・量刑不当・事実誤認など)によって第一審判決に控訴できます。「裁判員裁判により言い渡された判決につき,検察官は,刑の量定が不当であることを理由として控訴の申立てをすることはできない」という肢は誤りで、刑の量定が不当であることは控訴理由です(381条)。控訴審は裁判官だけで構成される事後審です。最高裁判所は、控訴審における事実誤認の審査は、第一審判決の証拠の信用性評価や総合判断が論理則・経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきで、裁判員裁判の第一審の無罪判決を事実誤認で破棄するには、その判断が論理則・経験則等に照らして不合理であることを具体的に示さなければならないとしました(チョコレート缶事件、最判平成24年2月13日)。控訴審の構造と事実誤認の意義は、控訴審の構造の語で扱います。
裁判員裁判の手続の骨格
- 公判前整理手続対象事件は必ず付す(49条)。対象外の事件は必要があれば付せる(刑訴316条の2)。弁護側も冒頭陳述義務(316条の30)
- 選任手続非公開(33条1項)。理由を示さない不選任請求は各4人(1人・4人の合議体は3人)まで(36条1項)
- 補充裁判員審理に立ち会い、書類・証拠物を閲覧できる(10条3項)
- 裁判員の質問裁判長に告げて証人尋問(56条)・被告人への質問(59条)ができる
- 区分審理併合事件の一部を区分して順次審理し、部分判決を言い渡す(71条1項)
- 裁判員の交代公判手続を更新する(61条)
- 控訴通常どおりできる。検察官の量刑不当控訴も可。控訴審は論理則・経験則違反を具体的に示して審査(最判平成24年2月13日)
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律49条
裁判所は、対象事件については、第一回の公判期日前に、これを公判前整理手続に付さなければならない。
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律33条1項
裁判員等選任手続は、公開しない。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。