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用語集 / 刑事訴訟法 / 控訴審の構造と控訴理由

控訴審の構造と控訴理由(事後審・事実誤認の意義・事実の取調べ・破棄自判)とは

こうそしんのこうぞうとこうそりゆう

刑事訴訟法 裁判・既判力・上訴

控訴審の構造とは、控訴審が第一審をやり直す続審ではなく、当事者の訴訟活動を基礎に形成された第一審判決を対象にその当否を事後的に審査する事後審であることをいいます。控訴理由とは、控訴申立ての理由として法が限定した事由で、絶対的控訴理由、訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り、量刑不当、事実誤認、再審事由などがあります。

控訴審は、第一審をもう一度最初からやり直す場ではありません。証人の表情まで見て判断した第一審の判決を、記録をもとに後から点検するのが控訴審の役目です。ですから「私ならこう認定する」というだけでは第一審を覆せず、第一審の認定が論理や経験則に照らして不合理だと具体的に示す必要があります。控訴できる理由も法律で決まっていて、手続の重大な違反、法令の誤り、刑の重さ、事実の誤りなどに限られます。

高等裁判所の裁判官室の場面。先生が裁判官役(札「控訴審裁判官」)で机に向かい、分厚い記録(札「第一審の記録」)と第一審判決書を読んでいる。机の上に小さな札「事後審」。先生の吹き出し「第一審をやり直すのではない。第一審の証拠の評価が論理則・経

控訴審は事後審で、控訴理由は絶対的控訴理由から再審事由まで法定されています

控訴の申立ては、法が定める事由があることを理由とするときに限りすることができます(刑事訴訟法384条)。判決裁判所の構成の違法、除斥裁判官の関与、公開規定違反(377条)、不法な管轄・管轄違いの認定、不法な公訴受理・棄却、審判の請求を受けた事件について判決をせず又は受けない事件について判決をしたこと、判決に理由を付せず又は理由に食い違いがあること(378条)は、それだけで控訴理由になる絶対的控訴理由です。これに対し、訴訟手続の法令違反(379条)と法令適用の誤り(380条)は、その違反や誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるときに限って控訴理由になります。刑の量定の不当(381条)、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認(382条)、再審事由や判決後の刑の廃止・変更・大赦(383条)も控訴理由です。判決の主文と理由の食い違いは378条4号の絶対的控訴理由なので、「それが判決に影響を及ぼすことが明らかであるときに限り、控訴を申し立てることができる」という肢は誤りです。裁判員裁判の判決も第一審判決として同じ規定が適用され、検察官が量刑不当を理由に控訴することもできます。「検察官は、刑の量定が不当であることを理由として控訴の申立てをすることはできない」という肢は誤りです。簡易裁判所の刑事の第一審判決に対する控訴は、地方裁判所ではなく高等裁判所が裁判権を持ちます(裁判所法16条1号)。

  • 絶対的控訴理由(377条・378条)裁判所の構成の違法・除斥裁判官の関与・公開違反/不法な管轄の認定・不法な公訴受理や棄却・審判の請求を受けない事件についての判決・理由不備や理由の食い違い。判決への影響を問わない
  • 相対的控訴理由(379条・380条)訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り。判決に影響を及ぼすことが明らかなときに限る
  • 量刑不当(381条)・事実誤認(382条)事実誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかなもの。第一審の認定が論理則・経験則等に照らして不合理であること
  • その他(383条)再審事由、判決後の刑の廃止・変更・大赦
  • 即決裁判手続の判決(403条の2)罪となるべき事実についての事実誤認を理由とする控訴はできない

事実誤認とは第一審の事実認定が論理則・経験則等に照らして不合理であることで、控訴審はその不合理さを具体的に示さなければなりません

判例は、刑事訴訟法が控訴審の性格を原則として事後審としており、控訴審は第一審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく、当事者の訴訟活動を基礎として形成された第一審判決を対象としてこれに事後的な審査を加えるべきものであること、第一審では直接主義・口頭主義の下で証人を直接調べ証言態度等も踏まえて供述の信用性が判断され総合して事実認定が行われることから、控訴審における事実誤認の審査は、第一審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則、経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきであり、382条の事実誤認とは第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいうとしました。そして、事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要であるとして、裁判員裁判の無罪判決を破棄して有罪とした控訴審判決を破棄しました(最判平成24年2月13日)。「控訴審における事実誤認の審査は、第一審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則、経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきである」という肢は正しいです。

教室の板書の場面。先生が黒板の前に立ち、黒板に二段の表が書かれている。上段の見出し「それだけで控訴理由(絶対的控訴理由)」、その下に「裁判所の構成の違法/審判の請求を受けない事件の判決/理由不備・理由の食い違い」。下段の見出し「判決に影響す

事後審でも控訴審は事実の取調べができ、第一審判決後の情状も職権で取り調べられます

控訴裁判所は、控訴趣意書に包含された事項を調査しなければならず(392条1項)、包含されない事項でも控訴理由に当たる事由については職権で調査できます(同条2項)。調査に必要があるときは、請求により又は職権で事実の取調べをすることができます(393条1項本文)。控訴趣意書に援用できる事実は原則として訴訟記録と第一審で取り調べた証拠に現れた事実に限られますが、やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調べを請求できなかった証拠によって証明できる事実と、弁論終結後判決前に生じた事実は援用でき(382条の2)、その疎明があったものは量刑不当や事実誤認の証明に欠くことのできない場合に限り取り調べなければなりません(393条1項ただし書)。第一審では述べなかった自己に有利な供述を控訴審で初めてしたという事情は、このやむを得ない事由に当たりません(最決昭和62年10月30日)。他方、やむを得ない事由の疎明が無くても、第一審判決以前に存在した事実に関する新証拠を、第一審判決の当否の判断に必要と認めるときに裁量で取り調べることはできます(最決昭和59年9月20日)。控訴裁判所は、必要があると認めるときは、職権で第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状について取り調べることができます(393条2項)。事後審であることはこれを妨げません。「事後審なので、原判決の言渡し後に生じた刑の量定に影響を及ぼすべき情状について取り調べることはできない」という肢は誤りで、「必要と認めるときは、原判決の言渡し後に生じた刑の量定に影響を及ぼすべき情状について取り調べることができる」という肢は正しいです。第一審で証拠とすることができた証拠は控訴審でも証拠にできます(394条)。職権調査にも限度があり、第一審が本位的訴因を排斥して予備的訴因で有罪とし被告人だけが控訴した事件で、検察官が控訴しなかった以上本位的訴因は当事者間で攻防の対象から外されていたとして、控訴審が職権で本位的訴因を認定して自判したことは職権の発動として許される限度を超えて違法とされました(最決平成25年3月5日)。

控訴理由があれば原判決を破棄し、無罪判決を破棄して有罪を自判するには自ら事実の取調べをする必要があります

控訴理由に当たる事由が無いときは判決で控訴を棄却し(396条)、あるときは判決で原判決を破棄しなければなりません(397条1項)。393条2項の取調べの結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときも破棄できます(397条2項)。破棄したときは事件を原裁判所に差し戻し又は同等の他の裁判所に移送するのが原則で、訴訟記録と原裁判所・控訴裁判所で取り調べた証拠によって直ちに判決をすることができると認めるときは自判できます(400条)。判例は、無罪の第一審判決を破棄して、控訴審が自ら事実の取調べをすることなく有罪の自判をすることは400条ただし書の許さないところであるとした大法廷判例を、裁判員制度の導入後も維持しています(最判令和2年1月23日)。被告人のみが控訴した事件でも、控訴審が原判決より被告人に不利益な事実を認定することはでき、禁止されるのは原判決の刑より重い刑を言い渡すことだけです(402条)。「被告人のみが控訴をした事件について、原判決の認定した事実に誤認があると認める場合には、それより被告人に不利益な事実を認定することができる場合もある」という肢は正しいです。

刑事訴訟法382条

事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。

刑事訴訟法393条2項

控訴裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状につき取調をすることができる。

刑事訴訟法400条

前二条に規定する理由以外の理由によつて原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所に差し戻し、又は原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、控訴裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。

論文ではこう使う

論文で控訴審の判断の当否を問われたときは、まず控訴審が事後審であることと、第一審が直接主義・口頭主義の下で事実認定を行うことから、事実誤認の審査は第一審の証拠評価が論理則・経験則等に照らして不合理かという観点で行い、不合理さを具体的に示す必要があるという判例の規範を立てます。次に、控訴審が示した理由が第一審の認定の不合理さを具体的に示しているか、別の見方が可能だというにとどまっていないかを事実で当てはめます。破棄自判の場面では、無罪を有罪に変えるには自ら事実の取調べが要ること、被告人のみの控訴では刑を重くできないが不利益な事実認定はできることを添えます。

試験ではこう問われる

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